一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.056

Issued: 2016.08.22

弘前大学理工学研究科・野尻幸宏教授に聞く、地球温暖化における海の役割

野尻幸宏(のじり・ゆきひろ)さん

実施日時:平成28年7月8日(金)10:00〜
ゲスト:野尻幸宏(のじり ゆきひろ)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 弘前大学理工学研究科地球環境学科教授 兼 国立環境研究所地球環境研究センター/エミッションインベントリ連携研究グループ長、温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)マネージャ。
  • 1956年福井県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。理学博士。
  • 1981年国立公害研究所入所。2004-2006年内閣府参事官(総合科学技術会議事務局、環境・エネルギー担当)を併任。2015年から現職。
  • 専門とする学問分野は、地球化学。専門とする環境分野は、地球温暖化、海洋炭素循環、温室効果ガス計測。
目次
大気−海洋間で交換した二酸化炭素が深層を含む海洋全層に及ぶには、1000年あるいは2000年もかかる
もし人間が二酸化炭素排出量を現在の10分の1くらいまで減少させれば、ほぼ全部を海が吸収する
海の温度が上がることは、海の物理システム・化学システム・生物システムに大きく影響する
野外で海洋酸性化の影響を確認するのは非常にむずかしい
現実に起こりそうな600〜700ppmという二酸化炭素レベルで特定の生物群に影響が出て、1000〜1200ppmになると多くの生物に影響が出る
現在のところ、地球全体での海水面上昇に影響が大きいのは、陸の氷の溶解より海水の膨張
大気中の温室効果ガスの安定化を達成するには二酸化炭素を吸収する海の機能が不可欠

大気−海洋間で交換した二酸化炭素が深層を含む海洋全層に及ぶには、1000年あるいは2000年もかかる

大塚理事長(以下、大塚)― エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。本日は、地球化学の研究者でIPCCの活動にも深くかかわっておられる野尻さんに、地球温暖化における海の役割に焦点をあて、現在までの研究の到達点や今後の研究の方向性などについて伺いたいと思います。
最初に、大気中や海洋中の二酸化炭素濃度の話になると「産業革命前」の状態がよく取上げられますが、その理由を含め、二酸化炭素の大気−海洋間の出入りについて教えてください。

野尻さん― 地球上の二酸化炭素濃度を、過去の地球の状況あるいは現在までの変化と関連づけ科学的に把握するには、信頼性の高い証拠が必要です。大気中濃度の把握に重要なのが、氷床コア【1】の中に気泡として閉じ込められた空気です。グリーンランドや南極で採取された氷床コア中の空気の分析から、産業革命前の二酸化炭素濃度が約280ppmと推定されているのです。
一方、海洋中の二酸化炭素濃度についてはもう少し複雑で、深層の海水の放射性炭素と表層の海水の放射性炭素の測定値から、二酸化炭素の大気−海洋間の交換を勘案して推定されます。
現在の大気中二酸化炭素濃度は約400ppmですが、これは産業革命前の約280ppmに比べ約7対10になります。しかし、現在の海洋中の二酸化炭素濃度は産業革命前の濃度の7対10には増えていません。というのは、海というシステムが冷たい水の上に温かい蓋をした構造をしているからです。海洋中の二酸化炭素が増える、すなわち大気−海洋間で交換した二酸化炭素が深層を含む海洋全層に及ぶには、1000年あるいは2000年もかかるのです。

大塚― 今言われた海洋の表層と深層とは、水深何メートルくらいを指しているのですか。

野尻さん― 表層から100〜200メートルまでが海水がよく混ざる混合層で、その下の1000メートルくらいまでが温度躍層(水温躍層、サーモクライン)と呼ばれ、高温から低温へ移行するゾーンにあたります。人間の二酸化炭素排出による影響は、このゾーンの途中まで及んでいるのです。
もう1つ、表層と深層との関係で大事なのは、2つの層をつなぐチャンネルが南極海と北大西洋北部に存在することです。最も大きなチャンネルが南極の周辺に、次いで大きなチャンネルが北大西洋北部のグリーンランドやアイスランドの周辺にあり、海水が鉛直に混ざり合い冷たい水が深層まで沈むのです。大気中の二酸化炭素についてまとめると、まず海の表層に吸収されてから、この2つのルートをとおり深層に移送されるのです。

冷たい海水の上に温かい蓋をした構造のため、大気−海洋間で交換した二酸化炭素が深層を含む海洋全層に及ぶには、1000年あるいは2000年もかかる。

冷たい海水の上に温かい蓋をした構造のため、大気−海洋間で交換した二酸化炭素が深層を含む海洋全層に及ぶには、1000年あるいは2000年もかかる。

もし人間が二酸化炭素排出量を現在の10分の1くらいまで減少させれば、ほぼ全部を海が吸収する

大塚― 大気中および海洋中に存在する二酸化炭素の量は、どのくらいなのですか。

野尻さん― 二酸化炭素の炭素換算【2】した総量は、大気中に存在するのが約830Gt(Gt-C)、海洋中に存在するのが約39000Gtです。比にすると、約1:50になります。海は二酸化炭素の大きな貯蔵庫なのです。
近年の二酸化炭素排出量の増加による影響ですが、大気−海洋間での二酸化炭素の交換に時間がかかるため、排出された量の約4分の1しか海洋に吸収されていません。もし大気−海洋間での交換が迅速ならば、二酸化炭素を50倍も貯蔵できる海洋に大量に移行し地球温暖化は起きないのですよ。

大塚― 海のもつ貯蔵のキャパシティはすごいですね。

野尻さん― もし人間が二酸化炭素排出量を現在の10分の1くらいまで減少させれば、ほぼ全部を海が吸収するので、大気中の二酸化炭素は増えずにすむわけです。

大塚― 排出量を10分の1くらいまで減らすのがポイントということですか。

野尻さん― そうです。もし排出量を0にすれば、大気中濃度は現在のレベルから低下するはずです。一方で、現在の程度の気温を許容し、大気中の二酸化炭素濃度を現在の400ppmくらいに留めるという考え方もあると思うのです。あえて言えば、大気中濃度を昔に戻すことに固執し排出量を下げる、たとえばIPCCによる将来の気候変動シナリオで最も排出量の少ない「低位安定化シナリオ」と呼ばれるRCP2.6【3】の実現だけに固執する必要はないとも思うのです。

海の温度が上がることは、海の物理システム・化学システム・生物システムに大きく影響する

大塚― IPCCの話が出ましたが、IPCCは「自然科学的根拠」を扱う第1作業部会、「影響・適応・脆弱性」を扱う第2作業部会、「気候変動の緩和」を扱う第3作業部会に分かれて作業されています。野尻さんは主に第1作業部会で活動されていたのですか。

野尻さん― 私は、第5次評価報告書では第1作業部会と第2作業部会に参加しましたが、まず第4次報告書のときにも参加した第1作業部会に関して述べますと、どちらの報告書でも、科学者の立場で分かったことを淡々と書いたと思っています。ただし、記述内容の確実性は第5次で大きく高まっています。

大塚― 第5次報告書における第2作業部会の内容についてもご紹介ください。

野尻さん― この第2部会の作業で、海が初めて本格的に扱われたといえます。それまでは、沿岸域への影響が海面上昇や関連する沿岸.防災の観点から取上げられていたのですが、第5次報告書では海洋システムと題する第6章が新たにつくられ海そのものが取り上げられました。また、第30章が外洋に充てられています。
第4次報告書でもアジアや北アメリカという地域の章で沿岸部は扱われていたのですが、新たに海に関連の深い小島嶼が第28章、極域が第29章、そして外洋が第30章として独立に扱われたのです。なお、第2部会の報告書は全体が第1部「地球規模/事項別」と第2部「地域別」に分かれ、第6章は前者に第30章は後者に含まれていますが、2つの章は補完的な内容になっています。

大塚― 野尻さんは、どちらの章を主に担当されたのですか。

野尻さん― 第6章です。第6章を読んでいただくと、地球気候変動と海洋システムの関係という箇所で、最大のストレッサーは温度であると明白に書かれています。海の温度が上がることは、海の物理システム・化学システム・生物システムに大きく影響します。影響が既に現れているのがサンゴで、白化現象【4】は明らかに気温上昇・水温上昇で引き起こされています。温度以外のストレッサーとしては、海洋の酸性化、海洋の無酸素化、富栄養化、汚染などが考えられ、それらの複合影響が重要であると結論されました。
第6章で扱ったもう1つの重要な点が、食糧生産への影響です。私たちの中でかなり議論したのですが、いかんせん研究蓄積が少ないです。

大塚― 食糧生産の主な対象は魚類でしょうが、魚類については温暖化の影響にかかわらず、そもそも個体数の変動などに関する知見が少ないのですね。

野尻さん― そのとおりです。我々は、2030年と2100年時点での影響について議論したのですが、2030年という近未来の場合は、当然のことですが、漁獲圧が大きく影響します。しかし、2100年になると海の温度は良くて2℃、悪ければ4℃も上がるわけですから、さまざまな影響が避けられないのです。少ない研究成果に基づく議論の結果、生産性が下がるのは亜熱帯と熱帯で、亜寒帯と温帯では生産性はそれほど下がらないと予測されました。水温が高い熱帯や亜熱帯で、とくに現地住民が行う零細な漁業が影響を受けそうなのです。

大塚― 温度以外の要因はいかがでしょう。

野尻さん― 温度以外の要因としてよく取り上げられるのが海洋酸性化で、酸性度はpH(水素イオン濃度指数)で表わされます。たとえば、日本列島の南の赤道から黒潮域にかけての海域における冬季の海水のpHは、最近の10年間に約0.02も低下し酸性化が進んでいることを示しています。酸性化の影響は、海生生物の中で脆弱性が高い石灰化生物【5】には避けられないものと考えられています。

野外で海洋酸性化の影響を確認するのは非常にむずかしい

大塚― 具体的な研究成果があるのですか。

野尻さん― 私たちのグループが、ウニの幼生を対象に実験しました。二酸化炭素濃度を、300ppm、400ppm、500ppm、600ppmで飼育すると、300ppmと400ppmの間で石灰化に差が出たのです。ということは、飼育実験からは現在の400ppmの大気レベルで影響が出てもおかしくないのです。しかし、野外で海洋酸性化の影響を確認するのは非常にむずかしい。海洋酸性化だけでなく、温度も上がっていますし、さまざまな人為的な影響も受けているからです。
ただし、アメリカのグループなどは、オレゴン州やワシントン州での養殖カキで稚貝が大量に死ぬ現象を、海洋酸性化の影響と主張しています。

大塚― カキが養殖されているのは内湾ですか。

野尻さん― 内湾ではなくて、湧昇【6】がみられる沿岸部です。日本の沿岸とは違い、アメリカの西海岸ではカリフォルニア海流が流れており、時おり強い湧昇により海水が水深数百メートルから表層近くにまでくるのです。そのような水の酸素濃度は低く、それに応じて二酸化炭素濃度が高いのです。数十年前に比べると、湧昇が起きる頻度が増え、二酸化炭素濃度が上がっているのは確かなようです。ただし、この現象は海洋酸性化というより、海洋の表層と中層の混合が妨げられることによる「海洋無酸素化」の影響ともいえそうです。

大塚― 大きな湧昇というのは大陸の西側で起きるのですね。

野尻さん― そうです。北米のカリフォルニア周辺だけでなく、南米のペルーからチリでもみられます。アフリカとヨーロッパでは、ナミビアとモーリタアニアの海域で顕著で、フランスからスペインにかけての海域でもわずかにみられます。ただし、最初にお話ししたように、深海の二酸化炭素濃度はそれほど高くなっていないので、顕著な酸性化が起きているとはいえないでしょう。

大塚― 海洋生物への温暖化の影響として、サンゴのほかにも貝類がよく取上げられるように思いますが、いかがでしょうか。

野尻さん― 影響が最も出やすい巻貝類を対象に、二酸化炭素濃度が1000〜1500ppmの環境で貝殻の形成が阻害されるかを検討した結果、水中の炭酸カルシウム【7】の飽和溶解度が1つの決定要因になっているようです。ただし、この影響を検出するため、二酸化炭素濃度のレベルを現実より高く設定しているので、実際にどのような影響が出るかはさらに研究が必要です。

現実に起こりそうな600〜700ppmという二酸化炭素レベルで特定の生物群に影響が出て、1000〜1200ppmになると多くの生物に影響が出る

大塚― ほかの研究成果もご紹介ください。

野尻さん― 最近データが出はじめたのは、北極海からベーリング海のような寒い海に棲む、プテロポッドという浮遊性の巻貝についてです。この貝の殻がアラゴナイト【8】という溶解し易い炭酸カルシウムの結晶でできていること、そして水温が1〜2℃という低い海域で炭酸カルシウムの溶解度が最大化することから、プテロポッドは極域の海のpHが7.8程度に低下するだけでも炭酸カルシウムをつくれなくなるのです。pHを7.8程度にする大気中二酸化炭素濃度は約600〜700ppmです。このように、北極海や北太平洋北部に棲むプテロポッドの生存の危機は、今世紀後半に現実化する可能性が高まってきたのです。
今までに明らかになった影響についてまとめると、近い将来に起こるであろう600〜700ppmというさほど高くない二酸化炭素レベルでも、プテロポッドのような特定の生物群には影響が出る可能性があること、それより高い、例えば1000〜1200ppmならば、より多くの種類の生物に影響が出てもおかしくないということです。

大塚― 地球温暖化の影響という視点からは、どう捉えたらいいのでしょうか。

野尻さん― 残念なことに、海洋の研究者は大気中の二酸化炭素濃度が上がったとき、陸上の環境や生物と生態系、さらには経済や社会に現れる影響と十分に比較することなく、海洋への影響だけを過大に表明する傾向があります。私は長い間、国立環境研究所で社会科学を含む多分野の専門家と過ごしてきましたので、海洋中の二酸化炭素濃度が、たとえば600ppm、800ppmあるいは1000ppmになったときに起こるであろう全体的な影響についてある程度理解しているつもりです。たとえば、600ppmくらいに上昇した場合を想定すると、陸上の環境変化や社会への影響のほうがより重大だろうと考えています。
しかし、海を専門とする環境研究者としては、二酸化炭素濃度がたとえば800ppmとか1000ppmに上がってしまうと、陸だけではなく海にも影響が出るのだと強く主張したいのです。過大に危険をあおるつもりはありませんが、海でも脆弱な部分から影響が出るのは確かだからです。

現在のところ、地球全体での海水面上昇に影響が大きいのは、陸の氷の溶解より海水の膨張

大塚― 話題を少し変えさせてください。昨年のCOP21でも、海水面の上昇が島嶼国の消滅の可能性とも関連し大きなインパクトをもちました。

野尻さん― 海水面上昇で最初に確認しておきたいのは、海の表面の氷が溶けても海水面は上がらず、グリーンランドや南極のような陸上の氷が溶けると海水面が上がることです。

大塚― 南極は、現在どうなっているのですか。

野尻さん― 南極では気温は上がっています。しかし、水蒸気量が増えるために降雪量も.増えているので、南極大陸に氷として保持されている水の量は顕著には減っていないのです。
現在のところ、地球全体での海水面上昇に影響が大きいのは海水の膨張なのです。問題は、海水の膨張と陸上の氷の溶解は同時に進みますので、もし二酸化炭素の排出を止めたとしても海水面の上昇は数世紀に.わたって続くことです。既に申し上げたように、海洋が二酸化炭素を吸収しつくすには数千年かかるからです。言い換えると、海水面の上昇は21世紀以上に、22世紀さらには23世紀の環境問題になる可能性が非常に高いのです。ツバルやパラオのような標高の低い島嶼国の住民が移住を余儀なくされることは、環境問題というより倫理的な問題といえるかもしれません。

大塚― 野尻さんからみて、海洋を対象とした環境化学の研究は、今後どのように展開すべきとお考えですか。

野尻さん― 世界の気候学者や海洋学者が一生懸命研究したので、ずいぶん多くのことが分かってきました。地球温暖化について端的に言うと、海洋に限るわけではありませんが、大気中の温室効果ガスを減らしさえすれば問題が解決することを明らかにしたのです。その結果、皮肉なことに、基礎研究、とくに長期にわたる観測などへの研究資金が減少するようになったのです。観測によって得られる素過程【9】と呼ばれる基本的な情報が、研究のさらなる前進にも将来予測モデルの改善にも不可欠なのですが、資金難に直面しています。
具体例をあげると、海洋物理学者が中心になってアルゴフロート【10】という「飛び道具」をつくり、世界の海に現在4000個近い数が投入されています。この装置は、表層から水深約1500メートルまで沈みその深さの流れに乗って2週間ほど漂流した後に、浮き上がる際に水温と塩分のデータを取って衛星にデータを送ったらまた沈むことを繰り返すのです。アルゴフロートのような飛び道具で観測の資金や人材の合理化がなされるとしても、たとえば二酸化炭素濃度を正確に測るには大幅な技術革新が必要でまだまだ時間がかかります。環境問題の真の解決のためにも、現場の観測をはじめとする基礎研究を続けることが最重要と考えています。

大塚― 環境研究における観測の重要性はよく分かります。

大気中の温室効果ガスの安定化を達成するには二酸化炭素を吸収する海の機能が不可欠

大塚― 最後になりますが、EICネットをご覧の皆さまに、本日のお話を踏まえメッセージをお願いいたします。

野尻さん― 地球温暖化問題の解決のために、大気中の温室効果ガスの安定化が第1の目標にされています。これは当然ですが、たとえば現在より2℃高い条件、あるいは3℃高い条件にしても、安定化を達成するには二酸化炭素を吸収する海の機能が不可欠です。そのためには、海の機能を維持することが大事で、海の機能を損なわせてはいけないと思っています。たとえば日本では、瀬戸内海が富栄養化を脱しきれいになると海苔の養殖がしにくくなったため、再び富栄養化させようというリスクの高い議論もされています。国際的には、北極海の氷の減少に合わせ北極航路の開発が議論されていますが、地球全体の環境劣化を促進するリスクが高いことを確認する必要があります。
もう1つの視点は、地球環境問題が実に多様なことで、その対応は「これかあれか」ではなく「これもあれも」しなければならない状況にあることです。二酸化炭素の排出量に関しても、現在の10分の1くらいであれば海洋が吸収してくれることを念頭に合理的な方針を立てるべきです。現在の排出量の10分の1まで減少させるには、きわめて多くの努力が必要なことをまず確認した上で、私たちの日常生活や産業活動、そして途上国の人びとの暮らしなどをも考慮して、合理的で広範に認められる方針が樹立されることを期待しています。

大塚― 本日は、海に焦点をあてながら、地球温暖化問題に対する最近の研究成果とともに、将来展望にも触れていただきました。ありがとうございました。

弘前大学理工学研究科教授の野尻幸宏さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。

弘前大学理工学研究科教授の野尻幸宏さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。


注釈

【1】氷床コア(Ice Core)
 南極やグリーンランドなどの氷床・氷河から、深層に向かって筒状に掘り出した試料。氷が降り積もり保存された雪は下に向かうほど古くなることから、樹木の年輪のように、内包された気候条件などの多くの環境情報が得られる。
【2】炭素換算(Carbon Equivalent)
 二酸化炭素の量は、二酸化炭素の質量で表わすほか、大気と海洋との間での循環などを扱う場合には二酸化炭素の構造要素である炭素の量として示すほうが適しており、炭素換算と呼ばれる。なお、1Gt(ギガトン)は109トンであり、二酸化炭素1Gtは炭素換算量(Gt-C)で約0.27Gtに相当する。
【3】RCPシナリオ(Representative Concentration Pathways Scenario)
 RCPシナリオは、IPCCの第5次評価報告書が採用した将来の気候変動シナリオで、国立環境研究所や京都大学をはじめとする日本の研究機関も参加して作られた。このうちRCP2.6シナリオは「低位安定化シナリオ」と呼ばれるように、21世紀末までに放射強制力が2.6W/m2に低下することを想定している。このシナリオでは、2100年の世界平均の地上温度が現在(1986〜2005年)を基準とし、+0.3〜1.7℃(平均:+1.0℃)になる。
【4】白化現象(Coral Bleaching)
 サンゴは共生している藻類(褐虫藻)により色づいて見えるが、藻類が放出されると白く見えることを指す。白化現象の最大の原因は海水温の上昇であり、ほかにも細菌やウイルスなどの病原体による影響や水質汚染の影響なども指摘されている。
【5】石灰化生物(Calcifying OrganismあるいはMarine Calcifier)
 石灰殻をつくる海洋生物で、サンゴ、有孔虫、ウニ、貝などが含まれる。
【6】湧昇(Upwelling)
 海水が中深層から表層に湧き上がる現象。
【7】炭酸カルシウム(Calcium Carbonate)
 炭酸カルシウムには、アラゴナイト(あられ石)とカルサイト(方解石)という2つの結晶形があり、アラゴナイトは酸性化された水中でカルサイトより溶解しやすい。
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