一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.012

Issued: 2012.12.17

ジャーナリスト・環境カウンセラーの崎田裕子さんに聞く、持続可能な社会の実現に向けた市民の力とパートナーシップの大切さ

崎田裕子(さきた ゆうこ)さん

実施日時:平成24年11月27日(火)11:00〜11:45
ゲスト:崎田裕子(さきた ゆうこ)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • ジャーナリスト・環境カウンセラー、NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長、NPO法人新宿環境活動ネット代表理事、一般社団法人 環境ビジネスウィメン代表理事。
  • 生活者の視点で、環境・エネルギー問題、特に持続可能な社会づくりに取り組み、地域に根ざす環境学習、環境まちづくり、環境と経済の好循環に向けた環境ビジネス推進にも携わる。著書『だれでもできるごみダイエット』、共著『循環型社会をつくる』『電気のごみ』など。環境省・中央環境審議会、経済産業省・総合資源エネルギー調査会、国土交通省・国土審議会などの委員を歴任。
  • 著書:『だれでもできるごみダイエット―わが家のごみ徹底減量法』(合同出版、1999年11月発行)
    ごみを測ってどれくらい出しているかを知って、買い物から変える必要があると気づいて、書いた本。
目次
ボトムアップ型の試みが、政府間会合を応援し、本音で議論できる場になる
パートナーシップの不足に市民社会の目線から貢献したいと考えました
皆で情報を交流し共有すれば元気になる
暮らしに根ざす場面が多い女性ならではの視点を活かして
エネルギーや原子力の分野では市民参加や連携・協働がまだ成り立っていない
国内の活動が多かったのですが、最近はアジアの国々に行く機会が増えてきました

ボトムアップ型の試みが、政府間会合を応援し、本音で議論できる場になる

大塚理事長(以下、大塚)―  本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただき、ありがとうございます。崎田さんはジャーナリスト・環境カウンセラーとして活躍され、「NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット」の理事長、「NPO法人新宿環境活動ネット」の代表理事のほか、政府の環境・エネルギー分野の多くの審議会の委員などを歴任されておられます。今年6月に開催された国連の「リオ+20(持続可能な開発会議)」では、国内準備委員会の共同議長を務められました。本日は、市民の立場から活動されてこられた経験談や、今後の展望などを伺いたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、「リオ+20」における途上国と先進国との議論、あるいは政府とNGOとの協調など、全体の印象についてご紹介ください。

崎田さん― 私は10年前のヨハネスブルグのサミット(「持続可能な開発に関する世界首脳会議」)にNGOとして参加し、今回初めて政府代表団に顧問として加わり交渉過程も見ることができました。「リオ+20」では、先進国と途上国の対立構造が明確に残っているのに驚きました。途上国と言っても、人口も多く急速に発展を遂げている国も多いですから、そろそろ本音の議論が聴かれるかと思っていたからです。すべての国が同じ立場で国際貢献する場になるには時間がかかるなと思いました。

大塚― 「リオ+20」の全体の流れは、どのようなものだったのでしょうか。

崎田さん― 参加者は全部で約4万人、大臣級の首脳を派遣した国が191でした。政府間会合とそれらをまとめるため多くの分科会が開かれ、ほかの場所では、世界から集まったNGOをはじめ、多くのステークホルダーによるシンポジウムや展示の催しがあり交流の場になっていました。私が感じたのは、企業、NGO、専門家などができることをどんどん進めるというボトムアップ型の試みこそが、政府間会合を応援し、本音で議論できる場になることに貢献するという期待です。

大塚― 10年前のヨハネスブルグ・サミットのことも考えると、国際会議でボトムアップ的な発想が育ちつつあるということでしょうか。

崎田さん― そう思いました。今回、主催国のブラジルの政府が正式会合として、世界から集まった方々が参加する10テーマのシンポジウムを企画しました。すべてのステークホルダーがかかわるボトムアップ型の社会を、皆で創っていこうという世界の動きを感じました。

大塚― 先ほど、先進国と途上国の対立、あるいは意見の違いが明確だったとのことでしたが、少しずつ話ができる状況でもあるということでしょうか。

崎田さん― 正式な政府間会合、すなわち国と国の話し合いとなると、「先進国がどれだけ拠出できるか、支援できるか」という話になっていきます。それ以外のところでは、市民、産業界、専門家など、いろいろな立場の人びとの話し合いや交流がされているので、それらを大事にして実践につなげていくことが、これからの国際社会に大事だと感じたのです。

大塚― 崎田さんがずっと取り組んでおられるNGOの活動が、影響力を強めているということですね。

崎田さん― そう思いました。

6月に開催された「リオ+20(持続可能な開発会議)」にて

パートナーシップの不足に市民社会の目線から貢献したいと考えました

大塚― 今のお話しとも関係しますが、具体的な環境問題のテーマとも関連づけ、国際的な活動におけるNGOの役割について、崎田さんの展望をお伺いしたいと思います。

崎田さん― 具体的に取り組むべきテーマという点で、今回の会合で話題になったグリーン経済については具体的な成果は限られたものでした。しかし、日本政府が力を入れた提案で、途上国に環境に優しい都市を創ることと、自然資源を活かす産業などで相手国に敬意を払いながら生物多様性を重視して協力すること、この2点を強調していました。このような具体的な提案が非常に大事だと感じました。
国際的な活動におけるNGOの役割としても、環境に優しい都市つくりに貢献したいと思います。たとえば、アジアの首都都市はどんどん大きくなって、資源の消費量も増えており、ごみの量も2010年から2050年までに倍増するといわれます。NGOとして、政策への提案ももちろん大事ですが、日本のNGOがアジア諸国のNGOと実践に根ざした交流を進めたいと思います。

大塚― 今までのお話しからも、実践することの大事さが伝わってきます。
崎田さんは日本の環境NGOの草分けのお1人ですが、どのようなきっかけで活動をはじめられたのでしょうか。

だれでもできるごみダイエット―わが家のごみ徹底減量法

ごみを測ってどれくらい出しているかを知って、買い物から変える必要があると気づいて、書いた本。
『だれでもできるごみダイエット―わが家のごみ徹底減量法』(合同出版、1999年11月発行)

崎田さん― 私は20年くらい前、1992年にリオ・デ・ジャネイロで地球サミットが開かれたころ、生活者の視点で社会の出来事を取材し発信していましたが、その少し前から、自分の関心が環境やエネルギーに向かっていると気づきました。強く思ったのは、産業界の技術力、政府や自治体の法律や制度設計、それに市民社会が実践する暮らしや仕事、これらをつなぐパートナーシップが不足しているということです。私は市民社会の目線から貢献したいと考えました。その実践として、「こどもエコクラブ」をはじめたり、地域で活動したり、環境カウンセラーの資格をとったりしました。

大塚― いろいろとご苦労もあったと思います。

崎田さん― それまでの仕事では、主に温暖化やエネルギーの取材をしていましたが、私がとくに気になっていたのがごみ問題でした。家族のために買い物して自分の家で料理をつくると、山のようなごみが残ることから考えはじはじめようと思いました。ごみを測ってどれくらい出しているかを知って、リサイクルを徹底させるだけでは駄目で、買い物から変える必要があると気づきました。それが分かると、今度はものづくりのメーカーの配慮が必要なことに気づきました。自分でできることと、皆が一緒になってできることが見えてきて、視野を広げていく必要を強く感じたのです。

大塚― 今は多くの方に受け入られていることも、20年前は大変だったでしょう。

崎田さん― NGOの先輩世代にとっては、強い批判精神が必要だったと思います。批判精神は大事なのですが、私は「共に動いて共に創る」という協働の精神も大事と考えたのです。

皆で情報を交流し共有すれば元気になる

大塚― 崎田さんが理事長を務めておられます「持続可能な社会をつくる元気ネット」(通称、「元気ネット」)は、「元気なごみ仲間の会」から名前を変えられたとのことですが、その経緯も含め、これまでの取り組みをご紹介いただけますか。

崎田さん― 最初に、ごみ問題に関心ある人びとに出会い、「元気なごみ仲間の会」に参加して活動をはじめたころは、「容器包装」「家電」「食品」などのリサイクル法や循環基本計画が検討されていたときでもありました。皆で議論し実現したのですから、今度は課題を見直すためにも地域で実践しようと考えたのです。環境を中心にしたまちづくりが多くの地域ではじまり、ごみ問題、生ごみのリサイクル、生活排水の問題、川の水質の問題、近隣の森の活用など多様な問題がつながっていきました。
2001年に、「市民が創る環境のまち“元気大賞”」という表彰制度を創りました。これを機に、団体をNPO法人化し「持続可能な社会をつくる元気ネット」に名称変更しました。

大塚― 地元の新宿で、「新宿環境活動ネット」の代表理事もされておられますね。

崎田さん― 「元気大賞」の表彰をはじめると、全国から素晴らしい地域環境活動の応募がありました。全国各地の活動を応援するのにも、自分の身近なところで活動すれば課題や解決策も見えてくると思っていたところ、私がずっと過ごしてきた新宿区から区民の環境活動発表会のコーディネーターを依頼されたのです。そのとき、同じ街に住んでいるのに、ごみ、エネルギー、自転車通行など、関心が違うグループ間で相互理解がしにくいとか、市民と企業と行政の間で情報が伝わらないという声があがったのです。皆で情報を交流し共有すれば元気になるだろうと、最初は3ヶ月に1回の情報交換をはじめたのです。すると、300人、400人、500人もが登録されるようになりました。多くの人が議論を重ね、環境教育や環境学習で次世代に伝えることなら、皆が一緒になってできるという結論になったのです。地域に根ざしたNPOとして、「まちの先生見本市」という体験学習を小学校で行い、環境教育を広める活動をつづけ、現在では指定管理者として新宿区立環境学習情報センターを運営しています。

大塚― 「元気ネット」の新宿版というところでしょうか。

崎田さん― そうですね。新宿での活動をとおして、パートナーシップ、市民参加、連携・協働などが重要なことをものすごく感じますし、いろいろな動きが見えてくることもあり、ちょっと忙しいです。

NPO新宿環境活動ネットが指定管理者として運営する新宿区立環境学習情報センター

まちの先生見本市(2012年1月28日(土)、落合第四小学校にて)

暮らしに根ざす場面が多い女性ならではの視点を活かして

小池百合子環境大臣(当時)を囲む、環境ビジネスウィメンのメンバー

大塚― 活動が多岐にわたり、本当に大変だと思います。
ところで、小池百合子環境大臣のときに「環境ビジネスウィメン」という刺激的な企画があり、崎田さんは最初から参画され、現在は代表理事を務めておられます。今までの話しと重複するかもしれませんが、“女性”ならではの視点などについて、お話しいただければと思います。

崎田さん― 環境まちづくりでも、ボランティ精神は本当に大事なのですが、いつまでも助成金に頼るだけではつづかないのです。環境ビジネスを起こすことが必要と思い、そういう視点の人たちとの出会いを大事にしてきました。小池百合子さんが環境大臣になられた時に、女性の声を環境政策にもっと活かすために、環境を視点に仕事をしている女性たちを集めたのです。そのコーディネーター役を務めたのですが、皆の話しを聞いて思ったのは、女性は暮らしに根ざす場面が男性より多いことですね。
企業の環境行動と植林を結びつけて企業のCSRの具体的なプログラムを制作して提供する会社をつくった人、環境報告書を編集する会社をつくった人、環境専門の人材派遣会社を運営する人、環境共生住宅の設計士など、どの方も暮らしに基づいて発想し共感を呼ぶ環境ビジネスを展開しておられました。もう一つの特徴は、仕事として行っているので、お金にかんするマインドがはっきりしていたことです。たとえば、銀行から資金融資を受けるにも、女性社長では信用が低いと思われてしまうなど、苦労しているのです。最初の会議で、金融機関が環境をもっと大事に評価しないと環境ビジネスが定着しないと強く主張しました。 大臣会合というのは、多くは3回か4回の会合を開き報告書を出して終わりになります。「環境ビジネスウィメン」は、それではせっかく出会ったのにもったいないということで、自主会合としてつづけています。次世代を応援する「エコジャパンカップ」を運営したり、環境省のクールビズをスーパークールビズに「昇格」させて広めたり、環境政策の応援団をつづけています。


エネルギーや原子力の分野では市民参加や連携・協働がまだ成り立っていない

原子力規制庁発足に向けた市民会議

大塚― ボランティアは大事だけれども、ビジネスという視点は不可欠というご指摘は本当に重要で、社会で広く共有してほしいと思っています。
話が少し変わりますが、エコチャレンジャーのコーナーでは、東日本大震災にかかわる話題を数多く取り上げてきました。崎田さんたちの「元気ネット」は「電気のごみ」への対応とか、「原子力規制庁発足に向けた市民会議」の開催など、エネルギーや環境・健康の問題にも深くかかわってこられました。振り返って、どのように感じておられますか。

崎田さん― 「元気ネット」は以前から、高レベルの放射性廃棄物に関心をもっていました。というのは、事故の前から原子力に対しては賛否両論がありましたが、原子力発電所から出るごみには関心が高いとは言えませんでした。その一方で、日本はエネルギーの4%しか自給できないため、エネルギーを分散化させるという政策をとり、3割ほどを原子力発電に頼るなかで私たちが生活してきたという現実があるわけです。ごみ問題を考えてきた私たちにとって、原発から出るごみについても勉強しなければいけないと考えました。今から5年ほど前に資源エネルギー庁に提案し、地域で学ぶワークショップを行っています。
福島の事故という現実は本当に重いものです。その厳しい現実の中ですが、今だからこそ、高レベル放射性廃棄物の処理への関心を高める必要があると考え勉強会をつづけています。その中で感じるのは、エネルギーや原子力産業については規模が大きいせいか、産業側と市民側の双方が壁をつくっているようなところがあることです。多くの環境分野で市民参加による課題解決が最近20年ほどで広がったと思うのですが、エネルギーや原子力の分野では市民参加や連携・協働が成り立っていないのです。原子力の規制が資源エネルギー庁から環境省の所管に移ったのを機に、市民参加や連携・協働の精神で市民の目線を重視しようと考え、「原子力規制庁発足に向けた市民会議」を開くことにしたのです。

国内の活動が多かったのですが、最近はアジアの国々に行く機会が増えてきました

大塚― 原子力をはじめとするエネルギーの利用は重要な環境問題になっており、崎田さんたちの活動をこれからもつづけていただきたいと思います。
少し話題を変えて、「リオ+20」の話しと重なる部分があろうかと思いますが、国際的な環境問題への対応についてご紹介ください。

崎田さん― 「リオ+20」のときにお話ししたように、それぞれの国の市民や産業界がどんどん動いていくことが大事で、そのときに日本が提案した持続可能な都市づくりとか、生物多様性を大事にした自然共生社会づくりを実現するように行動することが大事だと思います。
私は11月中旬に、国連環境計画(UNEP)から依頼され、タイのバンコクで開かれた国際会議に出席しました。そのテーマは、「リオ+20」でも取り上げられたのですが、アジアの環境をよくするための持続可能な消費と生産でした。生産者である産業界と消費者である市民が、日本で培ってきたような環境と経済の好循環という精神を共有することが大事です。UNEPからは、UNEPが提唱する「持続可能な消費と生産(SCP)」とも関連づけ、ビジネスの視点から提案してほしいといわれていました。ビジネス側のコスト負担を理解するために、消費者に信用できる情報の伝達、環境報告書の作成、環境ラベルの普及、日本における環境配慮促進法や環境教育法のような法律や制度の整備、さらには金融機関の投資行動における環境配慮など、多角的な視点から話をしてまいりました。

大塚― アジアの方々の反応、そして崎田さんご自身が日本での活動との関連でどのように感じられましたか。

崎田さん― 私の活動は国内が多かったのですが、最近はアジアの国々に行く機会が増えてきました。日本の国内の環境がよくなっても、世界とりわけアジアの国々から大気汚染物質が流れてきたり、逆に日本から不適正に使用済み家電が出てく可能性もあったりと、相互に関係することが増えています。私は今まで日本で苦労してきたこと、たとえば公害の経験などをきちんと伝え、アジアの国々がこのような苦労をできるだけせずに、持続可能な発展ができるよう行動することが大事と考えています。これからは、日常的に海外と連携していければと強く思っています。

大塚― 国内での活動と同じ目線で、アジアの国々と協働されておられ素晴らしいと思います。

崎田さん― 最後に、アジア諸国と連携して行っている活動を紹介させていただきます。日本政府は国連機関と連携し、「アジア3R推進フォーラム」をつづけています。日本が中心となり、アジアの20数カ国が、循環を国の政策に入れる応援などをしています。私たちはNGOの立場から、日本の環境省に、制度をつくっても技術が伴わないと効果的でないだけでなく、市民が買い物とかごみの分別などで3Rを徹底するよう行動を変える必要があるので、政府だけでなくNGOとの協働を強めてほしいと提案してきました。私たちは国内の3RにかかわるNGOに呼びかけネットワークを広げ、菜の花プロジェクトネットワーク代表の藤井絢子さんが代表となり、「アジア3R推進市民フォーラム」を2009年に立ち上げました。現在、国内では18のネットワークが参加し、開催国の市民団体との交流をつづけています。

アジア3R推進市民フォーラム(マレーシアにて)


大塚― 活動を開始されて間もないアジア3R推進市民フォーラムを含め、今日は、崎田さんがなされてきたNGO活動について多くのことを伺うことができました。キーワードだけでも、「地域」「実践」「まちづくり」「協働」「情報交流」「次世代」「アジア」など、実に多岐にわたりました。
これからも、国内はもとよりアジアをはじめとする国々も視野にますますご活躍ください。本日はどうもありがとうございました。

ジャーナリスト・環境カウンセラーの崎田裕子さん(右)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(左)

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