一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.016

Issued: 2013.04.10

環境再生保全機構・福井光彦理事長、環境への取り組みの経験や今後の抱負を語る

福井 光彦(ふくい みつひこ)さん

実施日時:平成25年3月27日(水)16:00〜16:30
ゲスト:福井 光彦(ふくい みつひこ)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 独立行政法人環境再生保全機構理事長。
  • 1992年 安田火災海上保険(株)地球環境室特命課長、2009年 (財)損保ジャパン環境財団専務理事を歴任。2012年より現職。
目次
1992年のリオサミットを機に、総力をあげて地球環境に取り組むようになった
12年離れている間に、企業の環境とCSRへの取り組みが大きく進んでいた
石綿(アスベスト)健康被害の救済が大きな業務へ
企業はもっと使命感をもたなければいけない、NGOはマネジメント力を向上させなければいけない──ドラッカーの指摘
創設20年を迎える地球環境基金
対等の関係で互いに汗をかいたことで、Win-Winの関係ができた

1992年のリオサミットを機に、総力をあげて地球環境に取り組むようになった

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただき、誠にありがとうございます。福井さんは、安田火災海上保険株式会社、株式会社損保ジャパンおよび財団法人損保ジャパン環境財団、現在は独立行政法人環境再生保全機構にお勤めで、長年にわたり環境問題の解決や環境再生にかかわってこられました。本日は、企業、財団、そして独立行政法人環境再生保全機構の環境への取り組みについて、お伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
福井さんは平成4(1992)年に、安田火災海上の地球環境室特命課長に就任されたと伺っております。この年は、リオ・デ・ジャネイロで地球サミット(国連環境開発会議)が開催された年でもありました。最初に、その頃の日本の企業や社会における環境問題の認識や取り組みについてお話しいただけますでしょうか。

福井さん― 1970年代から1980年代は、大手の製造業などが産業公害対策に取り組まれていました。大手の総合商社には、熱帯林の伐採がもたらす問題への対策に取り組まれていたところがあったかもしれません。しかし、それ以外の企業では、サービス業や金融保険業も含めて、1980年代に環境問題といってもピンとこなかったと思います。そのような中で、1991年に、平岩外四氏が会長を務めていた経団連が地球環境憲章を発表し、会員企業に地球環境問題への積極的な取り組みを呼びかけました。このとき、安田火災海上も社内に委員会を設置して環境問題への取り組みを開始したのです。

大塚― 実際には、どのような状況だったのでしょうか。

福井さん― 安田火災海上の場合、1991年に社内に委員会を作って、環境問題への地道な取り組みを進めようとしていたのです。それが加速されたのは、1992年6月のリオサミットに、当時社長だった後藤康男氏が経団連のミッションの団長として参加してからです。帰国した後藤社長は、われわれスタッフを集め、「21世紀は環境とNGOの世紀になる」「必ず社会が大きく動くからすぐに地球環境室を作り、総力をあげて取り組みなさい」と指示されたのです。10月1日には地球環境室がスタートしました。

大塚― 経団連の平岩会長はもちろん、安田火災海上の後藤社長も先見の明に富んでおられたのですね。

福井さん― NHKに自分の出身の小学校で授業をする番組があり、後藤社長は愛媛県の小学校で授業を行っています。そのテーマが「保険と環境」で、「一人は万人のために、万人は一人のために」が、保険の精神であり環境の精神であると小学生に説明していました。環境マインドが強かったと思います。

大塚― すばらしい言葉ですね。

福井さん― 後藤社長が地球サミットに参加する直前の1992年4月に、アメリカのNGOのザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)の会長が会社を訪ねてこられ、熱帯雨林のプロジェクトの重要性をスライドで説明したのです。後藤社長は、彼の考えに大きな関心を示したこともあり、リオに行ったのです。リオでは、NGOと各国政府の活動にびっくりしたようで、特にNGOの活動や内容に大きな刺激を受けて帰ってきました。
経団連の環境への取り組みも本格化し、9月には自然保護基金が作られ、その運営協議会の初代会長に後藤社長が推挙されました。後藤社長は、経団連の自然保護基金を運営すると同時に、安田火災海上の社内に地球環境室を作りました。その初代の課長を私が拝命することになったのです。

12年離れている間に、企業の環境とCSRへの取り組みが大きく進んでいた

大塚― 地球環境室の創設は、安田火災海上が最初だったのでしょうか。

福井さん― 安田火災海上には、1990年当時、リスクマネジメント部の中に環境リスクマネジメント室がありましたし、ほかの損保会社にも同様の組織はありました。しかし、地球環境室は、それとは別に、経営企画部の下で、経営の課題として取り組む部門という位置づけで誕生したのです。

大塚― 企業の環境問題への取り組みあるいは貢献は、今ではごく普通になったCSRの動きと連動するような面もあったかと思いますが、当時の状況を福井さんの経験からご説明ください。

福井さん― 1992年から1997年までの5年間、地球環境室特命課長として安田火災海上の環境への取り組みの基盤づくりをしました。その後の12年間、ほかの部署におり、安田火災海上が合併して損保ジャパンとなった後、2009年に退任し、損保ジャパン環境財団の専務理事に就任しました。12年ぶりに環境の世界に戻ったのです。びっくりしました。12年離れている間に、企業の環境とCSRへの取り組みが大きく進んでいたのです。特に経団連傘下の企業のほとんどは、環境問題からCSR全般へ取組みを拡大していきました。また、「環境」から「人権」などの社会的課題へと視野が広がっていました。さらに言うと、CSRは本業の中で取り組むことが理解されるようになっていたのです。

大塚― お話しのように、環境問題やCSRを本業の中で取り組むことが、まさに本質を突いていると思います。福井さんの記憶に鮮明なことなどを、具体的にご紹介いただけますか。

福井さん― 例えば、損保ジャパングループでも投資信託の商品に、環境に先進的に取り組んでいる企業向けのものを作りました。また、環境に良い物品を買うグリーン調達についても、会社の中だけで閉じるのでなく、保険を売る代理店会や自動車整備工場の代理店会などにも声をかけ、半分以上の代理店が参加してグリーン調達に取り組んでくれました。こういう仕組みを通して、総務部門や金融部門がそれぞれの仕事の中で環境に取り組むようになったのです。CSRを環境推進室だけでなく、それぞれが実践するようになったわけで、私は大変感動しました。

石綿(アスベスト)健康被害の救済が大きな業務へ

大塚― 話題を少し変えさせていただきます。現在お勤めの独立行政法人環境再生保全機構は、環境政策の実施機関として設置されたものと理解しておりますが、現在の主要な事業をご紹介下さい。

福井さん― 1つが公害健康被害の補償業務【1】です。それに関係する公害健康被害の予防事業【2】もしています。それから、NPOやNGOへの助成事業と研修事業を柱にする地球環境基金事業【3】です。最近は、石綿(アスベスト)健康被害の救済が大きな業務になっています【4】

石綿(アスベスト)救済制度の広報用ポスター


大塚― アスベスト被害者の救済事業は、労働者災害補償保険法(労災法)で救済されにくい方を対象にしていると思いますが、どのような状況なのでしょうか。

福井さん― 本年2月末までに申請いただいた方が12,157名で、その内で審査し認定された方が8,481名です。不認定の方が1,875名、途中で取り下げられた方が1,322名ですので、約7割の方が認定されたことになります。しかし、まだPRというか告知が不充分な部分があるので、一所懸命告知を心がけているところです。新聞、雑誌、電車の広告や、インターネットも利用しています。最近は、病院の待合室にいる患者さんの目につくように、病院のディスプレイの利用も始めています。さらに、医師向けの雑誌にも広告を載せています。

大塚― アスベストへの曝露から発症するまでの時間は、ケースバイケースでしょうが、どのくらいかかるのでしょうか。

福井さん― 30年か40年経過してから発症するとされています。ですから、亡くなられた後でご家族が申請されることもあります。先ほど申し上げた申請数や認定数には、そのような方々も含まれています。

大塚― ところで、申請数は減ってきているのでしょうか。

福井さん― 少しずつ減りながらも安定的だったのです。ところが、昨年の2月から3月に厚生労働省が過去に曝露された方々向けに改めて告知を行ったので、直後の3月から5月にかけてぐんと増えました。告知が大事なことが改めてわかったので、厚生労働省および環境省と当機構が一体になって、告知を進めているところです。

企業はもっと使命感をもたなければいけない、NGOはマネジメント力を向上させなければいけない──ドラッカーの指摘

大塚― アスベスト被害者の救済の実をさらに上げていただければと思います。
環境再生保全機構のもう1つの大きな事業、地球環境基金についてお伺いします。「基金」でなさっているNGO・NPOへの支援活動では、どのような視点を重視されているのでしょうか。NGO・NPOへの期待も含めてお話を伺えればと思います。

福井さん― NGO・NPOは、あくまでも多様性をもって、自主的に活動するのが大前提です。したがって、こちらから方向性を云々することはありませんが、支援の重点分野はあります。また、質的にも量的にも優れたNGO・NPOに育ってほしいという思いがありますし、そのための資金支援であり研修事業と考えています。
日本には草の根のNGO・NPOがたくさんあります。それらの必要性はわかるのですが、それらの中から質量ともに優れたNGO・NPOが多くでてきてほしいと思っています。そして、国内の問題を解決していただくNGO・NPOに加え、できればアジア地域をはじめ海外のプロジェクトに参画し、国際貢献していくNGO・NPOがもっと増えていっていただければと思います。
私が経団連の自然保護基金の活動にかかわっていたとき、アメリカのNGOを視察に行きました。ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)やコンサベーション・インターナショナル(CI)を訪ね、びっくりしました。日本でいえば企業のような組織で、数百億円もの活動資金をもっているのです。例えば、ランドサットという人工衛星を飛ばして植生を把握する一方で、世界各地のNGOと連携して地上観察も行い、それらのデータを合わせて植生の経年変化の分析をしています。特に、現地のNGOとネットワークを作り、科学的な自然保護プロジェクトを展開していたのが印象に残っています。日本のNGOにも、このような国際貢献を期待したいと、私自身は強く考えています。

大塚― 日本のNGOが、草の根的な特徴を強くもつという指摘はわかります。パワーアップするには、どのようなことが大事なのでしょうか。

福井さん― 資金と体制づくりですね。ピーター・ドラッカーという経営学者が著作の中で、「企業はマネジメントだけでなく、もっと使命感をもたなければいけない」「NGOは使命感はあるけれどもマネジメント力が弱い」「互いに参考にしあいながら、よりよい組織になる必要がある」というような趣旨のことを述べていた記憶があります。この本を読み、その通りだなと思いました。地球環境基金の支援も、このような視点に立って、日本のNGOの成長に貢献できればと思っています。

ミャンマー連邦での希少植物保全活動(高知県牧野記念財団)

ミャンマー連邦での希少植物保全活動(高知県牧野記念財団)

マレーシアでの熱帯雨林再生システムづくり推進活動(日本マレーシア協会)

マレーシアでの熱帯雨林再生システムづくり推進活動(日本マレーシア協会)

創設20年を迎える地球環境基金

大塚― 福井さんのお考えはよくわかります。ところで、現在支援されている活動について、もう少し詳しくご紹介ください。

福井さん― 地球環境基金から、最近は、毎年平均約6億円が助成されています。助成の重点分野があります。地球温暖化対策、生物多様性保全、循環型社会形成、総合環境教育です。また、東日本大震災関連の活動は別に扱っています。海外への助成は、アジア太平洋地域を中心にしています。

大塚― 地球温暖化対策、生物多様性保全、循環型社会形成、総合環境教育は大体同じくらいの比重なのでしょうか。

福井さん― 生物多様性に関係するテーマが3割くらいで、一番多い状況になっています。取り組むべきことが多いからだと思います。また、最近増えているのは環境教育ですね。

地球環境基金の助成対象分野(平成24年度)

(参考1)助成対象分野 平成24年度:国内案件 146件

(参考1)助成対象分野 平成24年度:国内案件 146件

(参考2)助成対象分野 平成24年度:海外案件 44件

(参考2)助成対象分野 平成24年度:海外案件 44件


大塚― 環境教育は、学校を対象にしているものが多いのでしょうか。

福井さん― いろいろなテーマがあります。学校をフィールドにおこなうものも、NGOが地域で展開するものもあります。単に植林をするというプロジェクトよりも、むしろ子どもへの教育を中心に据えたプロジェクトが多くなっているように感じます。

大塚― 将来を見据えると、人材育成と環境教育は非常に大事ですね。

福井さん― 「持続可能な開発のための教育」はESDと略称で呼ばれていますが、日本が提案した「ESDの10年」が2004年にユネスコで承認され、来年には10年を迎えます。その後もESDを推進していく必要があると考えられ、われわれもサポートしたいと考えています。

大塚― 環境教育関連のほかには、どのような計画をおもちでしょうか。

福井さん― 地球環境基金は今年5月に創設20年を迎えますので、20周年の記念事業を行い、今までの活動を総括し、今後を展望するシンポジウムなどを企画したいと思っています。もう1つは、機構内に4月からプロジェクトを立ち上げ、若手中心に外部の方々のご意見を伺いながら、半年以上かけて今後のあり方を検討することにしています。
また、NGO・NPO支援の一環ですが、ほかの主体との連携、例えば企業とNGO・NPOの連携を促進することも支援したいと考えています。日本には、「人・もの・金」をもちCSRや環境への貢献に関心をもつ企業がありますので、NGO・NPOとうまくコラボレーションしてほしいと思っています。

対等の関係で互いに汗をかいたことで、Win-Winの関係ができた

大塚― 福井さんの豊富な経験を活かされ、うまく軌道に乗られることを期待しています。
最後になりますが、EICネットは企業の方やNGO・NPOの方にも見ていただいておりますので、福井さんからメッセージをお願いいたします。

福井さん― 私にとって、環境にかかわる最初の仕事を紹介させていただきます。安田火災海上時代の1993年に始めた「市民向けの環境公開講座」で、現在まで20年間つづけています。そのきっかけは、日本環境教育フォーラムという任意団体を立ち上げ理事長になられた方から、構想段階で「一緒にやってくれる企業はないか」と相談を受けたことです。企業とNGO・NPOの対等の関係を大事にして、一緒に企画委員会を作りテーマを考えることにしました。互いの強みを活用し、安田火災海上は会場の提供やPRを受けもち、研究者等の有識者のネットワークをもつ日本環境教育フォーラムは、講師の人選などを受けもちました。そして、講師への連絡、レジメづくり、会場での受付などは、両方で分担してきました。講演会が終わった後には、必ず講師の方も交えた反省会も行ってきました。
日本環境教育フォーラムの事務局長をなされた方が、60歳で定年退任されたとき、「スタート時の日本環境教育フォーラムを、世に出してもらったのは安田火災海上さんのおかげです」「安田火災海上と協働事業を行ったことで信用が高まりました」とおっしゃいました。僕はそれに対して、「それはお互い様です」「われわれも環境問題に乗り出したとき、相談できる多くの方々を日本環境教育フォーラムから紹介いただきました」と申しました。まさにWin-Winの関係だったのです。
EICネットをご覧になっている企業の方もNGO・NPOの方も、是非、ほかの主体と連携してネットワークを組んで活動していただきたい、そしてその際は対等の関係で互いに汗をかいていただきたいと願っています。

大塚― 福井さんから、長年にわたる経験に基づくさまざまなお話しをいただきました。今後とも、公害被害者への支援、そして環境NGO・NPOへの支援をさらにお進めいただきたいと思います。本日はご多忙の中、ありがとうございました。

独立行政法人環境再生保全機構理事長の福井光彦さん(右)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(左)。

独立行政法人環境再生保全機構理事長の福井光彦さん(右)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(左)。


注釈

【1】公害健康被害の補償業務
公害健康被害補償制度における補償給付に必要な費用の一部(汚染負荷量賦課金、特定賦課金)をばい煙発生施設等設置者または特定施設等設置者から徴収し、それを公害に係る健康被害発生地域の県、市、区に納付する業務(健康被害者への支給は県、市、区から行う)。
【2】公害健康被害予防事業
地域住民に対して、ぜん息等の発症予防及び健康回復を図るための事業。従来から国や地方公共団体が行ってきているぜん息等に対する対策や大気汚染の改善に関する施策を補完し、地域住民の健康の確保を図ることを目的として実施している。
【3】地球環境基金
国の出資金と民間からの寄付金によって造成される基金で、その運用益(利息)と国からの運営費交付金によって、日本国内及び開発途上地域の環境保全に取り組む世界中の民間団体(NGO、NPO)の活動を支援する助成とNGO、NPOの活動を振興するための研修、情報提供などを行っている。
【4】アスベスト(石綿)健康被害救済業務
アスベスト(石綿)による健康被害については、アスベストが長期間にわたって幅広くかつ大量に使用されてきた結果、多数の健康被害が発生してきている一方で、長期にわたる潜伏期間があって因果関係の特定が難しいという特殊性がある。
本業務は、石綿の吸入により指定疾病にかかった旨の認定を受けた方(被認定者)及び指定疾病に起因して死亡した方の遺族に救済給付を支給するもの。
アンケート

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