EICネット
前のページへ戻る

エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

トップページへ

グローバルメニュー
  • 国内ニュース
  • 海外ニュース
  • イベント情報
  • 環境Q&A
  • 機関情報
  • 環境リンク集
  • 環境用語集
  • ライブラリ
  • 森づくり

エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
子どもたちがもっと自然に触れることができる、昔のような社会を取り戻したい
「山はみんなの宝」という人間の原点に立った発想が自然発生的にでてきた
山の厳しい自然の中で、山の中の生活の中で、子どもたちが自ずと学びとる機会を与える
【1】
ウッドクラフト(森林生活法)とは、アーネスト・トンプソン・シートン(イギリス出身でアメリカに永住した博物学者、作家)が提唱したもので、アメリカの先住民であるインディアンの生活を理想とした、素朴なエコロジーと自然主義に基づく自然観あるいはその生き方。

No.020

Issued: 2013.08.09

第20回 NPO法人富士山クラブ・奥島孝康理事長に聞く、「山」の魅力や価値とその付き合い方[1]

実施日:平成25年7月23日(水)14:45〜15:15
聞き手:一般財団法人環境情報センター 理事長 大塚柳太郎

子どもたちがもっと自然に触れることができる、昔のような社会を取り戻したい

奥島孝康(おくしま たかやす)さん
奥島孝康(おくしま たかやす)さん
特定非営利法人富士山クラブ理事長、公益財団法人ボーイスカウト日本連盟理事長、白鴎大学学長など。早稲田大学14代総長、早稲田大学名誉教授、文部科学省中央教育審議会委員。
著書に「企業法学の歳月」(早稲田大学出版部)など多数。

大塚理事長(以下、大塚)― EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただき、ありがとうございます。奥島さんは、特定非営利法人富士山クラブ理事長、公益財団法人ボーイスカウト日本連盟理事長をはじめ数多くの重責につかれ活躍されておられます。本年6月26日、富士山がユネスコにより世界文化遺産に登録されました。その翌日の6月27日には、「山はみんなの宝」憲章が制定されました。これらに中心的な役割を果たしてこられた奥島さんに、富士山をはじめとする「山」の魅力や価値、そして私たちが「山」とどのように付き合うべきかについてお伺いしたいと思います。どうぞ宜しくお願いいたします。
早速ですが、奥島さんご自身の山や自然との出合い、あるいは思い出に残るエピソードなどをご紹介いただけますでしょうか。

奥島さん― 私は生まれが四万十川の源流の地域でしたので、生まれたときからずっと自然の中で育ってきました。とくに記憶に残っているのは山と川ですね。子どものころから山とか川が好きで、大学の卒業後に教員として残ることになったとき、これで好きな読書と山歩きができると楽しい思いに浸ったのを覚えています。そういうわけで、私は生活の一部として自然との接触を楽しんでまいりました。
エピソードになるか分かりませんが、私は育ちが山の中でしたから、他人のお尻を見ながら山歩きするのは嫌いです。大学生の時代から早稲田大学の総長になった55〜56歳ころまで、有名な山には行かなかったのですよ。人があまり行かない東北地方や北陸地方の山を訪ねて、秘湯と山菜を肴の酒を楽しむことに努めておりました。たとえば、乳頭温泉の「鶴の湯」はとりわけ楽しい思い出となっております。山を歩いていて感じたことがあります。私たちが学生のころには登山の熱気といえるような雰囲気があったのに、その後どんどんなくなっています。また、山に人がほとんど入らないからのんびり歩けるものの、道がほとんど草で覆われて失われかけているのを見ると、こんなことでいいのだろうかと考えさせられました。

大塚― 奥島さんが、自然に溶け込むように付き合ってこられてきたことがよくわかりましたが、最後にお話しになった「こんなことでいいのだろうか」と考えられた気持ちをもう少しご説明ください。

奥島さん― まず言えるのは、山に行く人が少なくなったことです。北アルプスや南アルプスなどのよく知られた山々を除くと、山に登る人は本当にいなくなっているのですよ。川にも人がいなくなってきました。田舎に帰ってもびっくりします。私たちは小さいころ、危険も承知で四万十川で遊んでいましたけれども、今では四万十川の清流にほとんど子どもが寄りつきません。どこの学校にもプールができ、みんなプールに集まっているのですよ。親は「川が危ない」「山も危ない」と言います。要するに山も川も人気がなくなり、非常に淋しいと感じています。このことが、私がボーイスカウトの運動にかかわっている理由です。子どもたちがもっと自然に触れることができる、昔のような社会を取り戻したいと願っています。
私は四万十川の近くで育ったことだけでなく、わずか3年でしたが、パリ大学の交換研究員としてフランスに滞在した経験からも、山への想いが強くなったと思います。フランスもまさにそうですが、ヨーロッパの山は、多くの大人と子どもに楽しまれているのです。大人も子どもも行きやすいように、道などの整備がなされているのです。山に行くことによって、大人も子どももリフレッシュし、そして日常生活に戻ることが、社会の営みとして非常にいい循環をもたらしているのです。日本では逆向きになっています。大人も子どもも自然、とりわけ山を楽しまなくなったこの状況を何とかしないといけないという思いが、最近というか、50歳代以降、いつも考えている私のテーマです。

「山はみんなの宝」という人間の原点に立った発想が自然発生的にでてきた

「山はみんなの宝」憲章
「山はみんなの宝」憲章
※拡大図はこちら(PDF)

大塚― 山や川を大事にすることは、人間を大事にすることのようにも聞こえました。そのような背景に関係していたのだろうと思いますが、今年の6月27日に「山はみんなの宝」憲章が制定されました。奥島さんは、その呼びかけ人の代表をお務めになられています。憲章をつくるきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

奥島さん― 最初に私の個人的なことを少し話させてください。私は大学時代に探検部の部長をしており、私の仲間は卒業後も探検部OB会として、自然と触れ合う活動をつづけています。たとえば、毎年1回、海外のあまり人が行かないようなところに出かけています。学生たちがする本格的な探検とは違い、OB会の活動はハイキングのような軽いものですけれども、そういう中で私たちの話題になるのは自然との触れ合いです。「自然との触れ合いをもっと大事にしなければいけない」「こんなに楽しいことをみんなの共通のものにしたい」「山を活かしてもっと自分たちの人生を豊かにしたい」、などなどです。ところが、現実はどんどんどんどん逆の方向に行っていると、苛立ちを感じているのです。私たちが若いころに行っていた山と、今の山はまるっきり違うのです。何が違うかというと、ご存じのように、山が荒れ果てはじめているのです。

大塚― 山あるいは自然に対する考え方が変わってきたのでしょうか。

奥島さん― 自然というものへの理解が、どうも間違えているかもしれないと感じることがよくあります。たとえば、アメリカの国立公園で山火事が起こったとき、その原因が自然の現象だと分かると消しもしません。ほったらかしなのですよ。それに対して、人手を加えないと自然を護れないというのが日本人の自然だと思います。もっともっと山に対する考え方、つまり山がどれだけ我々の人生を豊かにしてきたかを理解して大事にしたいと、みんなで話している中で、「山はみんなの宝」という人間の原点に立った発想が自然発生的にでてきたのです。この発想に立つ自然への眼差しを、とくに青少年に教育をとおして伝えたいと思いました。そのために、表現が適当かは分かりませんが、山の「基本法」をつくり、みんなで使えるような標語やスローガンを込めた宣言文をつくろう、という話が自ずとできてきたわけです。

大塚― 「山はみんなの宝」は、言葉としての響きもいいですね。

奥島さん― この活動を中心的に担ってこられたのは、山のトイレの改善に長年取組まれてきた「NPO法人山のECHO」です。代表理事の上幸雄さんの尽力がとくに大きなものでした。私たちは上さんたちの活動をずっと早くから応援してきましたが、彼らの地道な活動がなければ、日本の山のトイレはひどい状態のままだったでしょう。たとえば、富士山には江戸時代から山小屋があったのですが、つい最近まで近くに行くとトイレの臭いが漂ってひどい状態だったのです。

「山はみんなの宝」憲章制定発表大会の様子
「山はみんなの宝」憲章制定発表大会の様子

「山はみんなの宝」憲章(前文)"
「山はみんなの宝」憲章(前文) ※拡大図はこちら(PDF)

山の厳しい自然の中で、山の中の生活の中で、子どもたちが自ずと学びとる機会を与える

大塚― 憲章の内容についてですが、全体を通して強調されたいこと、あるいは奥島さんがとくに強く主張されたいことなどをお話しいただければと思います。

奥島さん― いろいろな見方ができると思いますが、私がとくに重視したいのは憲章の3つ目と4つ目です。3つ目の「山のきびしい自然と謙虚に向きあい、安全な利用を心がけ、みずからの責任を自覚して行動します」ということは、我々が「ウッドクラフト」という、いわば人間の生活とか行動の原点といえる森林生活法【1】の中身を表しています。それは山の自然の中で、自然と生活しているうちに育まれるもの、人間としての最低限のモラルとか、行動力とか、心がけとか、あらゆるものを包含しているのです。それを私たちは子どもたちに教えなければいけないのですが、どうするかというと、山の厳しい自然の中で、山の中の生活の中で、子どもたちが自ずと学びとる機会を与えるようにする、ということなのです。
憲章の4つ目は、「未来を担う子どもたちとともに、山での楽しい自然体験を共有し、生きる力を育みます」と言っています。我々の希望は、未来にかかわっているわけで、未来への希望の主は子どもですから、子どもたちをたくましく、サバイバルする力をもつように育てなければならないのです。私たちは、山の中で子どもたちにもっと自然体験をさせ、鍛えていくことを考えなければなりません。言い換えると、山の中で子どもたちを鍛える、あるいは教育するというのは、子どもたちが自ずと学んでいくのをサポートすることなのです。私たちは子どもたちに、山をもっと大事にしなさい、山からもっと謙虚に学びなさいということを伝えるように、このような言葉づかいにしたのです。

ページトップ