一般財団法人環境イノベーション情報機構
エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.028

Issued: 2014.04.10

第28回 東京大学・木下健名誉教授に聞く、海洋再生エネルギー利用の現状と今後の展望

木下健(きのしたたけし)さん

実施日時:平成26年3月18日(火)16:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎
ゲスト:木下健(きのしたたけし)さん

  • 東京大学名誉教授、日本大学特任教授。
  • 1978年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専攻博士課程修了。
  • 1996年より東京大学生産技術研究所教授。
  • 専門は船や海洋構造物の運動に関連した流体力学と運動学の研究。2008年3月より一般社団法人海洋エネルギー資源利用推進機構会長。著書に「海洋再生エネルギーの市場展望と開発動向」(サイエンス&テクノロジー)、「今こそ考えよう!エネルギーの危機」(文渓堂)など多数。
目次
日本の木が伐られなくなったことも花粉症の大きな原因
洋上発電では、沖に出ると風が強くなり、また風の変動が減り安定します
日本の海は急に深くなっているため着床式には不適ですが、浮体式を用いれば何らマイナス要因はありません
風力以外の海洋エネルギーも大事 〜波力や潮流・海流などの利用
地球表面の2/3は海で、陸上の半分は砂漠ですから、そこでのエネルギー利用の開発に取り組むべき
再生エネルギーを巡って、経済性だけでなく人間としての価値とも関係づけ、私たちの生き方を考えるきっかけにしていただきたい

石油ショックに直面し、再生エネルギーとして海をどれだけ利用できるかに関心が集まった

五島沖浮体式洋上風力

五島沖浮体式洋上風力

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。世界全体でもそうですが、とくに日本ではエネルギー問題が最重要課題になっており、自然再生エネルギーの開発に大きな期待がかかっています。木下さんは、海洋再生エネルギー資源の開発で長年にわたり活躍されておられます。今日は、洋上風力発電などの海洋エネルギー利用の現状、今後の展望についてお伺いしたいと思います。
早速ですが、日本の状況をお伺いする前に、世界全体を見渡し、海洋再生エネルギー資源の開発の歴史、そして現状をご紹介ください。

木下さん― まず歴史ですが、最初に紹介したいのは、実際的な海洋再生エネルギー利用は日本の益田義雄さんが始められたことです。昭和39年、1964年のことです。海洋に浮かべる航路標識ブイが夜間にもよく見えるように光らせようと、その電源に波力を使ったのです。これが現在では世界中で広く用いられているのですから、益田さんが海洋エネルギー利用の世界の先駆者なのです。次いで、1970年頃に起きた第1次石油ショックの時、イギリスが海のエネルギーを使おうと大々的にいろいろな試みを始めました。その中心は波力でした。その後、日本、イギリス、アメリカ、ノルウエーなど世界中で盛んになり、多くの研究成果が国際的な学術雑誌に出る状況が10年か15年くらいつづきました。

大塚― その時は、エネルギー問題が強く意識されていたのですね。

木下さん― そうです。石油ショックに直面し、再生エネルギーとして海をどれだけ利用できるかに関心が集まったのです。ところが、石油価格が下がると忘れ去られました。ただし、日本では1998年ころまで国が主導する波力などを利用するためのプロジェクトが動いていました。

大塚― そのプロジェクトの内容は、どのようなものだったのですか。

木下さん― どのくらい発電できるか、コストはどのくらいかかるかの実証実験でした。この頃まで、図1に見られるように、海域での実験を伴う発電システムの発電量は時間経過とともに急速に伸び、各年次において発電量の大きいプロジェクトの推移をみると10年間に10倍になったのです。1999年まで日本は世界のトップでしたが、その直後にパタッとやめたのです。ヨーロッパは技術開発をつづけたので、15年間休んだ日本は、現在では発電量がヨーロッパの1/20あるいは1/30になってしまったのです。なお、図1の右上の▲は浮体式洋上風力発電を示しています。
1999年の日本の話しに戻りますと、この時、海洋エネルギーに限らず、風力エネルギーも太陽光エネルギーも開発をやめたのです。日本にとって、この15年間の空白は大きかったと思います。

【図1】実海域実験を伴う発電システムの開発

【図1】実海域実験を伴う発電システムの開発
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大塚― いろいろな理由があるにしても、もったいなかったですね。

木下さん― その理由はご想像のとおりです。新エネルギーの開発を目指していろいろなことを試みたけれども、コストを考えると原子力という結論になったのだろうと思われます。それが3.11でダメになったのです。
ちなみに、イギリスも1970年頃から10年と少しの間、新エネルギーの開発を試みた後、パタッとやめ、原子力に集中しました。今は世界中で再生エネルギーに注目が集まっていますが、いつまた変わるかと、びくびくしながら見ているのですよ。

大塚― これからは変わらないでしょう。

木下さん― 現状はそのようですね。

洋上発電では、沖に出ると風が強くなり、また風の変動が減り安定します

【図2】英国の洋上風力の沖合展開

【図2】英国の洋上風力の沖合展開
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木下さん― ところで、イギリスでは方針がまた変更され、15年くらい前に洋上風力発電のラウンド1が始まりました(図2)。その頃に発電に利用された海域は狭かったのですが、ラウンド2の段階で海域が広がりイギリスの地図上で識別できるまでになり、現在のラウンド3では、イギリスのEEZ【1】の分割使用許可の対象の1つとして、かなりの区画が割当てられています。

大塚― ラウンド2からラウンド3への移行で、何が変わったのでしょうか。

木下さん― 数年前に終わったラウンド2までは着床式の洋上発電でしたが、ラウンド3になり浮体式の洋上発電が出てきました。浮体式は2009年に実証試験が始まったのですが、その目的は、2024年までに陸上風力と浮体式洋上風力のコストが交差することを実証しようとしたのです。5年後にわかったのは、15年間もかからず半分の期間で交差することでした。なぜかといいますと、沖に出ると風が強くなり、また風の変動が減り安定します。実証実験の結果、出力がほぼ倍になりコストがほぼ半分になるのです。

大塚― 沿岸から外に出るほど有利ということですか。

木下さん― そうです。海底ケーブルが必要なので、その費用は外に出るほどかかりますが、沖に出るほうが有利なことがだんだんと実証されています。
このような流れの中で、フランスは総電力量の80%を原子力に依存していたのですが、3.11を契機に60%まで落とすと方針を変えました。そのために必要になる20%の再生エネルギーは、主として海洋エネルギーということで、たとえば大手原発メーカーのアレバ、大手重工メーカーのアルストンなどの大企業が、海洋エネルギーの開発に乗り出しています。もっと驚くことに、日本では福島県に7メガワットの風車を今年2つ建てる計画ですが、フランスでは7メガワットの風車を年に100基も製作できる量産工場を建設中なのです。日本は大変遅れているのです。

大塚― 今のお話しで1つ確認したいのですが、フランスでは企業と政府の関係はどのようなのでしょうか。

木下さん― 私がフランスの関係者と話したことがあります。「フランスは官僚主義の国で、日本と同じように縦割りが厳しいと聞いていましたが、たった2年間でここまで動けるとはすごいじゃないですか」と聞いたところ、「確かに官僚主義の国なので役所の壁を越えるのはとっても難しかった。でも、やるときはやる、政府の決定はぶれない」とのことでした。政治的なリスクが低い国なのですね。日本は政治的なリスクが高いと思います。フランスの話に戻ると、「国がいったん決めたら、会社はそれを信じて大きく投資をする。1970年代は政府のお金でいろいろな研究をしたけれども、今は民間のお金でしているので後戻りはない」とのことでした。

日本の海は急に深くなっているため着床式には不適ですが、浮体式を用いれば何らマイナス要因はありません

大塚― 日本が世界から遅れをとっていることがわかりました。しかし、日本は海に囲まれていますし、技術的なベースもあると思います。木下さんは、日本の現状と将来についてどのようにお考えでしょうか。

木下さん― ドイツは、総発電量の30%くらいをすでに再生エネルギーでまかなっています。日本は3.11の前まで、水力発電を除くと1%にとどかなかった。3年たってもまだ1.5%ですよ。遅々として進んでいないというのが私の実感です。ただ、遅れたのに理由もあります。ヨーロッパでも、あるいは中国でもアメリカでも、再生エネルギーの伸びは風力によるところが大きいのです。日本は島国なので、風車を置ける場所が山に限られるうえに、日本の山は尖がっています。そのようなところでは空気の流れが乱れるため、風車に不利なのです。もう1つは、日本で相対的に風車に向く東北と北海道では、電力線の系統が9つに分かれているために、発電の適地と需要地とのつながりが悪いのです。
しかし、現状を解消しなければなりません。日本には、陸には山が多く素晴らしい国立公園がたくさんあり風力発電の適地は少ないのですが、海に囲まれています。日本の海は急に深くなっているため着床式には不適ですが、浮体式を用いれば何らマイナス要因はありません。しかも、それに対応する重工業や造船業のポテンシャルは高いのです。今がラストチャンスだと思います。浮体式風力発電で、日本が挽回する好機なのです。

大塚― 今日一番お伺いしたかったのが、浮体式洋上風力発電です。木下さんは浮体式洋上発電の専門家で、環境省が長崎県五島市沖で進めている実証事業の検討委員長、経済産業省が福島県沖で進めている実証事業の検討副委員長をお務めです。どのような状況かをご紹介ください。

木下さん― 環境省と経産省が実証事業を始めたことを、ありがたいと思っています。環境省の五島市沖での事業は着々と順調に進み、とくに地域との協調がうまくいっており、地元の期待もとても高くなっています。
経産省の福島での事業も、商用化するための基礎実験としてチャレンジングに進行しています。海象条件が荒いところで行われているのですが、きっちりと着実に実証実験が進んでいます。地元が原発の被害を受けたところでしたので、最初は理解を得るのに多くの努力がなされたのですが、現在までまずまず順調に進んでいます。

経済産業省 資源エネルギー庁「浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」

経済産業省 資源エネルギー庁「浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」


大塚― 実証事業が順調とのお話ですが、将来展望はいかがでしょうか。

木下さん― 両方とも実用化・事業化を見据えておられます。環境省の五島市沖では、順調に進めば事業化の展望が開けると理解しています。経産省の福島でも、現在の場所か多少場所を変えるか分かりませんが、大型の浮体式洋上風力事業が進む可能性が大いに出てきています。

大塚― 今まで事業の進展の過程をみてこられ、技術面などでの苦労話など、強く印象に残ったことをご紹介いただけますか。

木下さん― 五島市沖では、100年に1回の規模の台風が1年間に2回きました。しかし、大きな事故もなく、シミュレーションを用いる予測技術も正確に機能し、得がたいデータが得られました。結果として、非常にありがたい台風でした。
福島では、海象の荒いところですから、据え付け工事に当初の予想以上にいろいろな困難がありました。環境省の五島市沖の事業とも共通するのですが、事業者側が発電にかかわる部分に力を入れたのに比べると、海洋工事への配慮が弱かったのです。私は海洋工学者ですから、この事業では風車技術と海洋技術が五分五分、あるいは海洋技術の方が難しいくらいと言っていたのですが、それが実証されることになったのです。さまざまな作業のノウハウの必要性はもちろん、専用船の必要性や中核港の役割など、インフラ整備を順々に進めることの重要性が共有されたのです。コストをヨーロッパ並みに下げるのに必要なことを多く学べたと思います。

大塚― 今後の課題はどのようなことになるのでしょうか。

木下さん― 風車の据え付けと、メンテナンスに関連するインフラの整備ですね。日本は遅れていますが、ヨーロッパでもまだ研究課題になっていますので、とくにコストを下げる技術開発を期待しています。

風力以外の海洋エネルギーも大事 〜波力や潮流・海流などの利用

【図3】宮城県寒風沢(さぶさわ)島の潮流発電装置(コンピュータ・グラフィックス)

【図3】宮城県寒風沢(さぶさわ)島の潮流発電装置(コンピュータ・グラフィックス)
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大塚― 少し話題を変えさせてください。木下さんは、洋上風力発電のほかに、波力や潮流・海流などの自然エネルギーも視野に、エネルギーの地産池消の必要性を説かれています。多種のエネルギーを利用するメリット・デメリットについて伺いたいと思います。

木下さん― 風力以外の海洋エネルギーも大事だと考えています。日本でも3.11以降、復興事業として波力と潮流による発電を開発しており、もうすぐ実用できる段階です。たとえば、津波の被害を受けた岩手県久慈市の復興のために、漁港の先で波を利用して起こした電気で漁港の製氷施設を運転する計画です。今年度か来年度早々の実現を目指しています。

大塚― 今の例にもかかわりますが、波力あるいは潮流を使うという判断も、それぞれ場所に合わせてなされるのでしょうか。

木下さん― 1つは大型で大きな電源の一部として使うタイプ、もう1つは地産池消に向く小型のタイプを考えており、多様なものを適材適所で利用するのがいいと思います。波力は、波で動くのですから大きなパワーはでないものの、手軽なタイプといえます。
潮流を用いる地産地消の例も紹介しましょう。仙台の近くの松島湾も津波による被害が大きかったのですが、寒風沢(さぶさわ)という島にはある程度の海流がみられます。この島の復興のために、潮流で水車をくるくる回す、15メートルくらいの長さの装置をほぼ完成させました。図3は、この発電が景観を悪くしないことを示すコンピュータ・グラフィックスです。
ヨーロッパの市場では、浮体式洋上風力発電が量産体制に入ると盛り上がっていますが、潮流発電も5年あるいは10年遅れで盛り上がると予測され、浮体式洋上風力に取組んでいる会社は潮流の技術開発も始めています。日本でも乗り遅れないよう、小型のものでも実用化を始めようと取組んでいます。

地球表面の2/3は海で、陸上の半分は砂漠ですから、そこでのエネルギー利用の開発に取り組むべき

【表1】各種再生可能エネルギーの将来見通し

【表1】各種再生可能エネルギーの将来見通し
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大塚― ところで、浮体式風力発電をはじめ、海洋再生エネルギー利用の全体に目配りする組織はあるのですか。

木下さん― 平成20年に、海洋エネルギー資源利用推進機構という社団法人をつくり、現在では56社の586名が社員になっています。一般社団法人ですが、活動はおおむねボランティアベースで進めています。

大塚― 海洋再生エネルギーとともに、地熱やソーラーなど、多様な自然エネルギーはコスト面などからどのように位置づけられているのでしょうか。

木下さん― 大事な点です。私は、エネルギー源は再生エネルギーを含めて多様化することが必要と考えています。日本はとくに再生エネルギーが遅れているので、可能性のあるすべての再生エネルギーに取組むべきと考えています。
表1に示すのが、各分野の専門家に集まってもらい作成した、各種再生可能エネルギーの発電力の見積りです。2030年の目標は、頑張ればおおむね達成できると考えています。問題は2030年から先です。たとえば、太陽光は、簡便なので立ち上がりは早いれども、建物の屋根に取り付けるという条件のためにあるところで頭打ちになります。国立公園をつぶしてソーラーを並べることも、あるいは食糧と競合することも避ける必要があります。バイオマスはエネルギー密度が低いので、生産地と消費地が近ければ有用ですが、遠くから運ぶようではあまり意味がありません。地熱はとてもいいのですが、やはり頭打ちになるのは避けられません。ということで、2030年から2050年にかけて伸びる可能性があるのは、洋上風力発電などの海洋エネルギーの利用と考えています。IAEA(国際原子力機関)なども同じ見方をしています。
自然エネルギーの大きな部分は太陽からきています。太陽エネルギーを受けることを考えると、地球上の面積比率が重要になります。地球表面の2/3は海で、陸上の半分は砂漠です。長い目で2050年までを見越すと、海洋や砂漠、とくに海洋のエネルギー利用の開発に取組み、ヨーロッパなどの先進国に遅れないようにすべきなのです。

再生エネルギーを巡って、経済性だけでなく人間としての価値とも関係づけ、私たちの生き方を考えるきっかけにしていただきたい

大塚― エネルギー利用の本質についてもお話しいただきましたが、木下さんが今強く考えておられること、あるいは将来への夢をお聞かせください。

木下さん― 私は3.11以降、被災地や長崎県などの海岸地帯を回る機会が増えたのですが、漁村を含む地域の過疎化、あるいは表現がむずかしいのですが衰え方が、非常に気になっています。地域振興が日本で大問題だと感じましたし、視野を広げると、地球上どこでも大問題なのです。私は、地域振興と再生エネルギーの開発はとても相性がいいと思っています。
再生エネルギーは、地域で都会に供給するための工業などの産業活動を支えることもできますし、地域に必要な活動には簡便に供給することもできます。後者の小規模な再生エネルギーの利用は経済性では劣るかもしれませんが、とても大事だろうと考えています。それは、経済性だけでは測れない、人間の生き方ともかかわると思うからです。人間が気持ちよくやさしく生きる上で、再生エネルギーが大きな役割を果たすことになればと願っています。そして、再生エネルギーの技術開発が1つ達成したら終わりというのではなく、新たな技術開発をつぎつぎに生み出しながら、地域振興にも役立てられないかと考えています。経済性だけでなく、新たな価値を育てていくことにつながれば本当にうれしいですね。

大塚― 本当に最後になりますが、一言、EICネットをご覧になっている方々に向けたメッセージをいただければと思います。

木下さん― 3.11以降、多くの方々にとって再生エネルギーについて考える機会が増えたと思います。再生エネルギーをめぐって、経済性だけでなく人間としての価値とも関係づけ、私たちの生き方を考えるきっかけにしていただければと思います。


東京大学名誉教授の木下健さん(左)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(右)。

東京大学名誉教授の木下健さん(左)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(右)。


注釈

【1】EEZ(exclusive economic zone)
 排他的経済水域。国連海洋法条約に基づいて設定される、漁業水域としての利用など経済的な主権が及ぶ水域。沿岸国は国内法を設定することで、自国から200海里(約370km)までの水域に設定できる。