一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.035

Issued: 2014.11.11

倉阪秀史千葉大学大学院人文社会科学研究科教授に聞く、エネルギー政策の現状と今後の課題・展望

倉阪 秀史(くらさか ひでふみ)さん

実施日時:平成26年10月15日(水)10:30〜
ゲスト:倉阪 秀史(くらさか ひでふみ)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • 環境経済学者。三重県伊賀市出身。東京大学経済学部卒業。
  • 現在、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。環境マネジメントシステム実習、環境経済論、環境政策論、政策・合意形成入門などを担当。
  • 1987年から1997年まで環境庁(当時、現環境省)に勤務。環境基本法、環境影響評価法などの施策に関わる。1994年から1995年まで、米国メリーランド大学客員研究員。1998年から千葉大学法経学部経済学科助教授、法経学部総合政策学科教授を歴任、2011年より現職。
目次
エネルギーの安定供給やそのコストは重要ですが、エネルギー計画には社会を持続させる観点も非常に重要
技術としては既にある。ないのは、技術を活用するインフラ
再生可能エネルギーを将来の基盤エネルギーにするというビジョンが肝心
それぞれの地方自治体によって再生可能エネルギーの種類が違う
人口が多い市ほどエネルギー政策に取組んでいますが、再生可能エネルギーは人口が少なく自然が豊かなところのほうが使い勝手が良い
途上国を含む世界全体に再生可能エネルギーの大きな市場が開ける
さまざまな事象を深いところで理解し本質的な解決法を見出すことが

エネルギーの安定供給やそのコストは重要ですが、エネルギー計画には社会を持続させる観点も非常に重要

大塚理事長(以下、大塚)― 本日は、EICネットのエコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。倉阪さんは、長年環境問題に携わり、とくに環境経済学の視点からさまざまな政策提言をなされておられます。福島の原子力発電所事故以来、再生可能エネルギーの活用をはじめ、エネルギー政策が日本はもちろん世界でも最重要課題になっています。本日は、エネルギー政策の現状と今後の課題や展望についてお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、本年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画第四次計画を、倉阪さんはどのように捉えておられますか。

倉阪さん― 第四次計画は、原発を重要なベース電源として位置づけることで議論を呼びましたが、私が問題と思うのは、経済性が色濃く出されたことです。エネルギーの安定供給は重要ですし、供給するコストも重要なのはそのとおりですが、エネルギー計画には社会を持続させる観点も非常に重要なのです。安定供給とコストだけを考えると、石炭をたくさん燃やせばいいという結論に傾いてしまいます。実際、日本で石炭火力の計画が目白押しの状況が生まれています。これは、おそらく誤りです。温暖化対策という世界全体の流れに逆行しています。

大塚― 石炭火力発電を減らそうと、アメリカのオバマ大統領も主張していますね。

倉阪さん― IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書でさまざまな知見が提供されています。火力発電に対してはかなり否定的で、もし入れるのであれば二酸化炭素回収貯留(CCS)【1】を同時に行う必要性を強調しています。二酸化炭素回収貯留で目標を達成しようとするとコストが高くなる上に、日本には、苫小牧で実証実験をはじめてはいるものの、実用化できるほど地下に貯留できる場所がないのです。

大塚― 原子力についてはいかがでしょう。

倉阪さん― 原子力発電については、基本的に「つなぎの技術」であることをまず押えないといけないと思います。

技術としては既にある。ないのは、技術を活用するインフラ

大塚― 持続性という観点を踏まえ、今後の見通しを伺いたいと思います。

倉阪さん― 第四次計画では、エネルギーミックスをどう具体化するかがまだみえていませんが、私は持続可能なエネルギー政策は可能と考えています。3つの方策をあげることができます。
第1は省エネで、経済的な効果もある選択肢です。省エネを進め、少なくとも2030年には電力消費量を4分の3くらいまで減らすることは十分可能なはずです。
第2は化石燃料の有効利用です。化石燃料を使うなら、熱としても使うことです。現状はエネルギー投入量の3分の1くらいしか使っておらず、あとは排熱されているのですよ。火力発電でも、天然ガスのコンバインドサイクル発電【2】による発電所をつくれば、発電効率を従来型の40%から60%くらいまで引き上げることができます。コージェネ【3】も化石燃料の有効利用の一環で、需要地に近いところで発電し、電力とともに熱を活用するのです。大事なのは、「つなぎの技術」として、化石燃料を有効利用する社会インフラを今の段階でつくることです。
第3が再生可能エネルギーの活用です。再生可能エネルギーの安定供給には、送電線の敷設や、エネルギーを水素として貯める蓄熱などの技術開発が必要です。20年後くらいには再生可能エネルギーに頼ることになるのですから、今からそのためのインフラつくりを進めながら、再生可能エネルギーを最大限に入れる必要があります。

大塚― 再生可能エネルギーの有効利用のための技術開発は、どの程度進んでいるのでしょうか。

倉阪さん― 技術としては既にあります。何がないかというと、技術を活用するインフラなのです。社会インフラが欠けているのです。熱の有効利用についていえば、日本の都市には熱導管が敷設されていません。ヨーロッパでは街をつくるときにエネルギーセンターをつくり、熱導管で結び、温水を供給して冬の暖房に使うようにしています。また、日本の送電系統は電力会社により、狭い国土なのに沖縄を除き9つに分割されているのです。ようやく電力自由化を前に、電気供給のシステムの統一化が議論されはじめた段階です。

北海道寿都町の風力発電

北海道寿都町の風力発電

新潟県松之山温泉の温泉発電

新潟県松之山温泉の温泉発電


再生可能エネルギーを将来の基盤エネルギーにするというビジョンが肝心

長野県飯田市の太陽光発電

大塚― 社会インフラの整備とそのための政策が問題ということでしょうか。

倉阪さん― そうですね。今注目されている、再生可能エネルギーの買い取り制度に上限を設けようとする九州電力や東北電力の主張について、送電網と関連づけてお話ししましょう。現在、地域間連系送電網は九州と北海道で十分ではありません。東北については、東北電力が現在の送電網を東京電力と一体運用すれば問題ないはずです。九州電力はこの点で不利で、今計画されているメガソーラーでつくられる電力をすべて買い取ると域内での送電容量を超えるのは分かるのですが、買い取りの上限を設けるとか一律に停止するというのは適切ではありません。「送電網の整備が終わるまで、電力が余るときには解列【4】をしますので若干利益率が下がりますが、送電網を今後整備し、○○年先には解列をなくすようにします」と説明し、再生可能エネルギーをできる限り入れてもらうようにすべきなのです。
メガソーラーを増やすには、再生可能エネルギーを将来の基盤エネルギーにするというビジョンが肝心で、電力会社も政府も変わらなければならないと思います。

大塚― 政策を変えていくビジョンが大事ということですね。

倉阪さん― どのエネルギーに依存するかですが、原子力発電に夢を描いている人たちが政治家の中にまだいるようで、不思議でもあり、変わらなければいけないところです。世界的にみて、途上国も含め、原子力だけに頼れるわけはないのです。原子力発電の原料のウランが枯渇性だからです。将来を見据えれば、再生可能エネルギーに頼らざるをえません。このことは同時に、再生可能エネルギーの世界市場が開けることを意味します。日本経済を活性化するためにも、日本の技術を活用する再生可能エネルギー開発のビジョンをもつことが、政治に求められているのです。


それぞれの地方自治体によって再生可能エネルギーの種類が違う

京都市渡月橋の小水力発電

京都市渡月橋の小水力発電

福岡県朝倉の三連水車

福岡県朝倉の三連水車

大塚― 倉阪さんの研究室では、環境政策つくりにかかわる研究を長年つづけられています。

倉阪さん― 私は環境庁(現・環境省)から現在の千葉大学に移った時、2つのライフワークに取組みたいと考えました。1つが再生可能エネルギー基盤の経済社会への転換、もう1つが物を売り渡すビジネスからサービスを売るビジネスへの転換です。1つ目を「永続地帯」研究、2つ目を「サービサイズ」と呼んで、この2つの研究を一貫してつづけているつもりです。

大塚― すばらしいと思います。その1つの「永続地帯」研究について、研究の視点や内容をご紹介いただけますか。

倉阪さん― 「永続地帯」研究は、原発事故の前、2005年から私の研究室と環境エネルギー政策研究所【5】とが共同して進めています。その視点は、将来は再生可能エネルギー基盤の経済に変わらざるをえないことを出発点にしています。しかし、化石燃料への依存率が8割、原発事故の後は9割に上がっているのが現実です。再生可能エネルギー基盤に変わるとしても、ある日突然一気に変わるわけはなく、移行期には、再生可能エネルギーでやっていける地域が日本の中で広がっていくというイメージをもったのです。
エネルギー需要が小さく風車がある地域では、再生可能エネルギーだけでまかなえているかもしれない、そのような地域を見つけ出せば、地方自治体の政策目標にもなるし、国としても再生可能エネルギーへの移行に弾みがつくのはないかと考え、「永続地帯」研究と名づけました。研究の内容としては、各市町村の再生可能エネルギーの供給量を推計し、各市町村の住民が生きていくのに必要なエネルギー需要量と比較することが中心になります。

大塚― 「永続地帯」研究の成果についてもご紹介ください。

倉阪さん― 一番初めに指摘したのは、再生可能エネルギーというと、太陽光と風力だけが対象のように言われていたのに対し、ほかにも多くのものがあることです。私たちの計算によると、流れ込み式のダムを使わない小さな水力発電、太陽熱、地熱、さらにはバイオマスもそれなりの貢献をしているのです。現在では、固定価格買取制度【6】も対象を広げ、地熱、水力、バイオマスも含まれるようになっています。 もう1つ、早い段階から言ってきたのは、それぞれの地方自治体によって再生可能エネルギーの種類が違うことです。ですから、それぞれの地方自治体がエネルギー政策を立ち上げるべきという主張です。このことも、ようやく広がりはじめていると思います。多くの自治体、少なくとも多くの都道府県に再生可能エネルギーを担当する課がおかれるようになり、それぞれの目標が掲げられるようになってきました。

大塚― 着々と成果が出ているのですね。

倉阪さん― 私が最近言っているのは、熱にも着目することです。固定価格買取制度は、対象が電気だけでバイアスがかかっています。たとえば、家屋を新築するときでも、ベストミックスは太陽光発電と太陽熱供給なのですが、太陽光発電しか対象になりません。バイオマスの場合もそうです。固定価格買取制度で買ってくれるからバイオマス発電を採用するのですが、利潤を大きくするためには設備規模を大きくしなければなりません。バイオマス発電で規模を大きくするには、原材料を安定供給する必要があり、原材料を海外から輸入することになります。そのため、大型のバイオマス発電設備は、千葉県市原市のように港の近くに造られ、海外から原材料を運び込んでいます。バイオマスは、もともとは薪炭材ですから、熱を中心に利用するのに向いていて、山間地などで小規模に利用して地元の雇用につなげるのが利点なのです。ところが、今ではこの利点が消えてしまっています。このようなことから、現在の制度で本当にいいのかという思いがあります。

人口が多い市ほどエネルギー政策に取組んでいますが、再生可能エネルギーは人口が少なく自然が豊かなところのほうが使い勝手が良い

高知県梼原町のペレット工場

石狩市の市民風車

大塚― 市町村のレベルでの再生可能エネルギーの利用は、どのような状況なのでしょうか。

倉阪さん― 都道府県には再生可能エネルギーの担当課はできていますし、人口が多い市にも担当する部署はあると思います。問題は、人口が多い市ほどエネルギー政策に取組んでいるのですが、再生可能エネルギーは人口が少なく自然が豊かなところのほうが実は使い勝手が良いことです。そのような市町村には、都道府県なり国が人的あるいは財政的な支援をしなければいけないと思います。

大塚― 具体的な動きはまだみえないのでしょうか。

倉阪さん― まだまだですね。固定価格買取制度の法律は経済産業省の所掌ですが、その中に地方自治体という5文字はまったくみられません。市町村の役割が書かれた法律としては、農林水産省による農山漁村再生可能エネルギー法【7】がようやくつくられました。これが、1つの突破口になることを願っています。環境省も地方自治体との協働が得意のはずなので、新しい法律をつくってもいいと思いますね。

大塚― 農水省の法律の話が出ましたが、エネルギー政策の策定あるいは実施をめぐり、国、都道府県、市町村の間で、どのような関係をつくれば実効性を高めていくことができるのでしょうか。

倉阪さん― 役割分担を考える原理原則として、補完性原理があります。地方でできることは地方に任せましょう、地方でできないことについては広域的な都道府県のような自治体がかかわりましょう、それでもできないことは国が補完的な管理をするという原理原則です。エネルギー政策は、まさにこの原理原則に照らして考えるべきテーマです。再生可能エネルギーをどのように地域で開発するかを、まず市町村で考えることになります。とはいえ、市町村には人材や資金が不足していることが多く、必要な支援を都道府県がするのです。再生可能エネルギーが多く利用されるようになれば、全体の電力の受給率にもかかわりますから、この点については国が責任をもって対応するという役割分担ができるはずです。
従来、日本のエネルギーはほとんどを海外に依存していたため、国がすべてを決定していたのです。しかし、再生可能エネルギー基盤のエネルギー供給構造になると、地方自治体から積み上げることになります。この点で大きく変わるのです。

大塚― 日本人に根強い、エネルギーを国外からもってくるイメージを変えることが、まず基本になるということですね。

途上国を含む世界全体に再生可能エネルギーの大きな市場が開ける

大塚― 日本および世界をも視野に入れ、エネルギー利用の将来展望について改めて整理していただきたいと思います。

倉阪さん― どのくらいの時間のスパンで考えるかで、答えが変わってきます。多分、企業のように長くても3年から5年くらいのスパンで考えると、原発は既に投資をした技術なので、元をとるためにも再稼働したいということになるのでしょう。しかし、私たちはもっと長く、国家百年の計で考えなければならないのです。そう考えると、原発の新増設はコスト的に引き合わないですよ。社会的な受入れがむずかしい上に、ウラン自体が枯渇性だからです。繰り返しになりますが、原発は所詮「つなぎの技術」であり、50年を超えるスパンで考えると再生可能エネルギー基盤に変わっていかざるを得ないのです。この考えは、世界で共有されています。そして、大事なのは、途上国を含む世界全体に再生可能エネルギーの大きな市場が開けることです。日本にとって、人類の福祉の向上に寄与できる大きなチャンスなのです。日本が百年後にどのような立ち位置にいるべきかを考えて、エネルギー政策を構築しないといけないと思いますね。現在、この視点が欠けているのが残念です。

さまざまな事象を深いところで理解し本質的な解決法を見出すことが必要

大塚― 倉阪さんには、国のレベルに加え「永続地帯」研究で自治体レベルの検討をつづけ、先ほどご指摘いただいた補完性原理に基づく具体的な政策提言で、ますますご活躍いただきたいと思います。 最後になりますが、これまでの話と重複することもあろうかと思いますが、EICネットの読者の皆様に向けたメッセージをお願いいたします。

倉阪さん― 私たちが考えなくてはならないのは、さまざまな事象を深いところで理解し本質的な解決法を見出すことでしょう。多分、環境問題も環境のことだけ考えればすむわけではないのです。国の進路をどう定めていくのかという、深いところに環境問題がきていると考えています。エネルギー政策もこのことに密接にかかわっています。エネルギーの使い方とか、今日はお話できませんでしたが、物の使い方とか、経済やビジネスにかかわるすべてのことをどう変えていくのかが、深く重要な課題になってきているのです。個々の環境問題についても、このような視点に立って多角的に解釈し、将来につながる手段を探し出す必要があると考えています。

大塚― エネルギー問題と環境問題を掘り下げながら、さまざまな角度からお話しいただきました。本日は、ありがとうございました。

千葉大学大学院人文社会科学研究科教授の倉阪秀史さん(右)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(左)。


注釈

【1】二酸化炭素回収貯留(CCS)
化石燃料の燃焼で発生する二酸化炭素を大気から分離・回収し、地中がもつ炭素貯留能や海中がもつ炭素吸収能を活用し封じ込める技術。英語の頭文字をとり「CCS」、あるいは「炭素回収貯留」とも呼ばれる。
【2】コンバインドサイクル発電
ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせる発電方式。ガスタービンを回し終えた排ガスの余熱で水を沸騰させ、蒸気タービンにより発電する。
【3】コージェネ
「コージェネレーションシステム」とは、熱源より電力と熱を生産し供給するシステムの総称で、一般に「コージェネ」と呼ばれる。内燃機関を用いる方法、蒸気ボイラーおよび蒸気タービンを用いる方法、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて用いる方法に大別される。
【4】解列
電力会社の電力系統において、発電・変電・送電・配電から発電設備を切り離すこと。
【5】環境エネルギー政策研究所
2000年に設立された特定非営利活動法人。持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする、政府や産業界から独立した第三者機関。
【6】固定価格買取制度
再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、国が定める固定価格で電気事業者に調達を義務づける制度で、2012年7月1日に開始された。
【7】農山漁村再生可能エネルギー法(農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電促進に関する法律)
再生可能エネルギー発電に活用できる資源が農山漁村に豊富に存在することから、農林漁業の発展と調和のとれた再生可能エネルギー発電を促進し、農山漁村の活性化とエネルギー供給源の多様化を目的とする法律。
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