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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
国際金融の仕事や国際交流基金の仕事をしていた時から、代替エネルギーに興味があった
醸造学は文化の側面も強く、半分は生化学、微生物学、有機化学、残りの半分は食品や料理にかかわるもの
大学に入るときから卒業したら会社を始めようと決めていた
【1】M&A
 Merger and Acquisitionの略で、主に企業の合併と買収を指す(厳密には、銀行を退職した後の会社でM&Aを担当した)。
【2】バイオマスタウン構想
 日本政府が策定するバイオマスタウンとは、域内においてバイオマスの発生から利用までが効率的なプロセスで結ばれ、バイオマスの安定的な利活用が行われる(あるいは今後見込まれる)地域を指し、その基準は「域内に賦存する廃棄物系バイオマスの90%以上、または未利用バイオマスの40%以上の活用に向け、総合的なバイオマス利活用を進める」とされる。2011年4月現在、318の市町村のバイオマスタウン構想が公表されている。
【3】なれずし
 主に魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品。酢を用いず、乳酸発酵により酸味を生じさせるもので、これが本来の鮨(すし)の形態である。
【4】ポスドク(Postdoctoral Fellowの略称)
 大学院の博士課程を修了し学位を授与されている若手研究者。
【5】稲藁(いなわら、いねわら)
 収穫した稲の籾(もみ)を取り去ったもので、「むしろ」や縄など藁工品の材料になる。

No.054

Issued: 2016.06.21

第54回 株式会社ファーメンステーション代表・酒井里奈さんに聞く、奥州市における地域循環サイクルの取り組み[1]

実施日時:平成28年6月7日(火)10:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

国際金融の仕事や国際交流基金の仕事をしていた時から、代替エネルギーに興味があった

酒井 里奈(さか・いりな)さん
酒井里奈(さかいりな)さん
国際基督教大学(ICU)卒業。富士銀行(現みずほ銀行)、ドイツ証券などに勤務。
発酵技術に興味を持ち、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、09年3月卒業。同年、株式会社ファーメンステーション設立。研究テーマは地産地消型バイオエタノール製造、未利用資源の有効活用技術の開発。好きな微生物は、麹菌。好きな発酵飲料は、ビール。東京都出身。

大塚理事長(以下、大塚)― エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。
 酒井さんは、岩手県奥州市の休耕田で栽培したコメからエタノールを製造し、製造過程でつくられる蒸留残さを飼料として活用する地域循環型事業を進めておられます。この環境保全と地域活性化を両立させる事業は高く評価され、環境省の「持続可能な社会づくりを担う事業型環境NPO・社会的企業中間支援スキーム事業のモデル実証事業」における地域循環サイクルのお手本になっています。
 本日は、酒井さんがこの事業に取組まれるようになった経緯や実際の展開、さらには事業にかける意気込みなどをお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 酒井さんはこの事業に着手される前にさまざまな経験をなされましたが、その紹介から始めていただけますか。

酒井さん― 私は1995年にみずほ銀行(当時の富士銀行)に入り、主に金融部門で10年くらい仕事をした後、東京農業大学に入学したのですが、銀行に勤務中の1997年から1999年まで、国際交流基金日米センターに出向していました。NPO法案が成立した時期で、日米の草の根交流促進のプログラムオフィサーの仕事をし、すっかりハマってしまいました。
 銀行に戻ってから国際金融やM&A【1】の仕事をしましたが、自分にしかできないことをしようと決意し、2005年に東京農大に入学したのです。2009年に卒業と同時に、現在の仕事を始めました。

大塚― 東京農大で醸造学を専攻することは、受験前から決めていたのですか。

酒井さん― そうです。その前年にNHKテレビで東京農大の小泉武夫先生が、発酵の楽しさだけでなく、醸造発酵で生ごみをエネルギーにできるという研究を紹介されていました。国際金融の仕事や国際交流基金の仕事をしていた時から、代替エネルギーに興味があり、地熱や風力だけでなく生ごみがエネルギーになるならと考え、その研究室に入りたくて入学しました。

大塚― その頃は、生ごみのエネルギー源としての利用が始まったばかりだったでしょうか。

酒井さん― バイオマスタウン構想【2】などが出る前です。食品リサイクル法の中で、メタン発酵が取り上げられはじめたころです。


醸造学は文化の側面も強く、半分は生化学、微生物学、有機化学、残りの半分は食品や料理にかかわるもの

大塚― ところで、東京農大での勉強の中心は化学系で実験なども多かったと思いますが、いかがでしたか。

酒井さん― 私はいわゆる「ド文系」で、最初に卒業した大学では理系の勉強を避けてきたほどです。しかし、醸造学は文化の側面も強いのです。半分は生化学、微生物学、有機化学のようなサイエンスですが、残りの半分は「なれずし」【3】などの食品や料理にかかわるものでした。私は結婚し主婦でしたし、料理に関係するおもしろい話も聞けたので楽しかったです。もっとも、有機化学や生化学はまったくわからず、家庭教師の先生に習っていました。

大塚― どういう先生だったのですか。

酒井さん― 遠い知り合いのポスドク【4】の方が、大学入試を目指す受験生向けの家庭教師をしており、私は1人だけで個人授業を受けたのです。お金はかかりましたが、しっかり勉強できました。

大塚― 気合が入ったお話しを伺いました。とはいえ、大きな方向転換をされたわけですから、いろいろ苦労があったのではないですか。

酒井さん― 私はすごく不器用で、微生物の扱いなども苦手で、絵を描くのも苦手です。ところが、東京農大でPDCAサイクルのサイエンス版のような考え方を教えていただき救いになったと思っています。どういうことかというと、対象にいきなり取組むのではなく、事前にリサーチし仮説を立て実証し検証するのです。
 それに、自分のテーマがもてたことも本当にラッキーでした。もっとも、私のテーマは生ごみではなく稲藁【5】のエタノール化になりました。というのは、ちょうどその頃、農水省の稲藁のエタノール化事業の実証実験が全国で行われており、私も全国を見て回ることができたからです。事業の内容は高いレベルでしたが、現場での生の話を聞き自分で勉強できたのです。すごく楽しくて、苦労とか嫌なことは何もありませんでした。

農家、現地スタッフ、市役所の皆さんなどと。
農家、現地スタッフ、市役所の皆さんなどと。


大学に入るときから卒業したら会社を始めようと決めていた

大塚― 2009年に卒業と同時に、ファーメンステーション社を立ち上げられたのですね。奥州市で、無農薬生産によるコメを原料とするエタノール製造に取り組まれたわけですが、その経緯をかみ砕いてご説明いただけますか。

胆沢の風景。
胆沢の風景。

酒井さん― はい。大学に入るときから卒業したら会社を始めようと決めていました。もっとも、卒業後の1年間は研究生として大学をうろうろしていたのです。その時ちょうど、奥州市と東京農大との共同研究が始まったのです。
 奥州市の胆沢(いさわ)という地域(旧胆沢町)なのですが、私がまったく知らないころから、胆沢町の町長や役場の方それに農家の方が、東北大学の先生を交えて勉強会をしていたのです。その背景として、胆沢の田んぼの3分の1が休耕田、耕作放棄田、転作田になっていて、農家がどう生きていくかが大きな問題だったからです。農家の方が、ブラジルでサトウキビから、アメリカでトウモロコシからエタノールをつくっているように、胆沢のコメからエタノールをつくれないかと、アメリカ・ミネソタ州に視察に行くなど積極的だったのです。このような動きの中で、実証実験が計画され、指導者として東京農大の先生に白羽の矢が立ったのです。
 鈴木昌治先生が奥州市の方々と相談した結果、私が受託事業をお手伝いさせていただくことになり、2010年から奥州市で実証実験が始まったのです。

大塚― このことが、ファーメンステーション社の最初の事業になったのですね。

酒井さん― そうです。弊社の最初の事業が奥州市での実証実験です。実証実験を行ったのは現地の方、市役所の方と私でした。私たちは、市役所の近くで閉業していた酒蔵を借り実験を進めました。

大塚― 1つ気になっていたのですが、サトウキビやトウモロコシに比べ、コメはエタノールの収量の点で問題ないのでしょうか。

酒井さん― サトウキビやトウモロコシに比べ、エタノールの収量はものすごく少ないです。それに、アメリカやブラジルのような広大な農地もなく、コスト的に厳しいのです。私たちも、最初の年は非食用でエタノール用の稲穂の大きいコメを植えました。この地域で一般的な食用の「ひとめぼれ」の収量が1反あたり約600kgなのに対し、1トンを超えるほど栽培したのです。しかし、収量を多くすると茎の倒伏などを招くことにもなるので、最近は無農薬で収量を650kgくらいにしています。もっとも、現在はエタノールのエネルギー源としての利用はやめ、化粧品の原料にしています。


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