一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.004

Issued: 2001.06.11

viva!スポーツスポーツと環境問題とのつながり

目次
環境とスポーツとの接点?
スポーツと自然環境
冬季オリンピックにおける環境への取り組み
夏季オリンピックの取り組み事例
イベントにおける環境対策
環境問題の本質的解決に結びつく技能や態度を「スポーツ文化」が育む

環境とスポーツとの接点?

 大会に先立って、各国代表はそれぞれに調整を兼ねた親善試合を組んでいます。一次リーグで日本代表が互角以上の戦いを演じた南米チャンピオンのブラジル代表は、東京都調布市の東京スタジアムでJリーグの東京ベルディ1969と対戦し、戦術やコンビネーションの確認などに充てていました。

 GSA Dream Match for Future Generationsと冠したこの親善試合は、『地球環境と共存する新しいスポーツ文化の創造とリサイクル社会の構築』に向けた啓発活動等を行うことを設立趣旨とする「グローバル・スポーツ・アライアンス(GSA)」が特別協賛しています。

 「地球環境と共存するスポーツ文化」とはどういうことでしょう。具体的なイメージが浮かび上がってくるでしょうか。
 GSAでは、『なぜ環境とスポーツなのか?』との問いに対して、「スポーツをする人は、環境の変化による影響を直接受け、地球環境の大切さを直感的に理解・意識できる人」であり、そんなスポーツを楽しむ人々が世界中には10億人もいることが、問題解決のための大きな推進力になる根拠としています。しかしこれもわかりにくい図式です。前出の親善試合についても、結果の報道はあっても環境とのつながりについて示唆するようなものは特に見当たりませんでした。
 GSAの現在の活動は、国連環境計画(UNEP)とのコラボレーションによって、スポーツと環境に関する国際会議(G-ForSE)の開催を中心とした「10億人プロジェクト」の企画運営や、地域イベント「エコdeスポーツ」の実施、テニスボールのリユーズやリサイクル(フェルト地を使ったリサイクルペーパーの開発・販売)などがあります。今後さらに具体的なスポーツと環境との関わりについて、またスポーツを通じた環境問題解決の方策等が示されることを期待したいところです。GSAの活動については、こちらでも紹介されています。


スポーツと自然環境

 「スポーツと環境」といっても少し漠然としすぎているでしょうか。
 ではもう少し限定して、「アウトドア系のスポーツが自然環境に及ぼす影響」ではいかがですか? これなら少なからず具体的なイメージが持ちえるのではないでしょうか。

 ワールドカップと並ぶ世界規模のスポーツの祭典であるオリンピックでも、環境に対する意識が高まってきています。特に冬季大会では自然の地形等を利用することが多く、人工施設を使う夏季大会以上に競技設備やインフラ整備等による地域の自然環境の改変・破壊が、元の自然度の高さに比例して目につきやすい構図にあるといえます。
 日の丸飛行隊の活躍に多くの日本国民が心躍らせたという1972年の第11回札幌冬季オリンピックの次の大会は、アメリカのロッキー山脈麓のコロラド州デンバー市での開催が予定されていました。デンバー市は、しかし資金面の行き詰まりとあわせて、施設建設等による自然環境の破壊に対する市民の反対運動が沸き起こり、札幌大会が閉会した半年後に開催を返上しています(冬季オリンピック・メモリーズより)。


冬季オリンピックにおける環境への取り組み

 記憶に新しいところでは、1998年の第18回長野冬季オリンピックが「美しく豊かな自然との共存」を基本理念の柱のひとつとして、「環境五輪」を謳った大会運営をめざしていました。
 長野「環境五輪」の成果については必ずしも色よい評価がされなかった面もあるようですが、その取り組み事例などからスポーツと環境(特に自然環境)とのかかわりについてみていくことができるのではないでしょうか。

 長野冬季五輪の環境対策等については、いくつか参考になるサイトがあります。

 信濃毎日新聞では、「長野冬季五輪環境関連ニュース(94年・・昂年6月97年7月以降)」として整理されています。
 いくつかあげると、

  • 長野冬季五輪組織委員会(NAOC)が、国連総会で環境への配慮に関する具体策をアピール(1997年6月28日)
    NAOCメディア責任者の山口光氏の記者会見資料(英文)
  • 施設建設の際に取り入れられた自然復元工法等に対する追跡調査の実施に関する記者報告(1997年6月14日)
  • 環境と調和した山岳都市づくりの模索に向けた日仏共同研究の実施に関する記者報告(1995年11月10日)
  • ジュースを搾り取った後のリンゴ繊維質を原料とし、使用後に堆肥や固形燃料等として再利用が可能であると注目を集めた「リンゴ食器」の多くが焼却処分されていたとのニュース(1998年3月14日)、など

 また、イベントの「エコ度(エコロジカルな度合い)」を、開催地域の持続可能性の高まり/低下を基準に検証しているサイトもあります。
monthly green-web 1999年1月号・2月号

 長野五輪では、「先進的な取り組みもいくつかあったが、多くが一時的・断片的な試みに留まり、エコロジカルな遺産として地元に根づくものは少なかった」と指摘し、これはすなわち、環境五輪と謳った長野五輪が、「地域の持続可能性を高揚させる媒体」として機能したとはいえないと結論付けています。
 ここで述べられているように、開催が「地域の持続可能性高揚の役割」を果たし、オリンピックが「エコなイベントのモデルとして評価される」のと併せて、(開催により)「2年ごとにエコな地域のモデルが増え」ていけるようなオリンピックのあり方を近い将来に実現させることが、批判される商業主義的一辺倒の運営方針に代わる環境の世紀にふさわしい今後のスタンダードとなり得るのではないでしょうか。


夏季オリンピックの取り組み事例

 冬季大会だけでなく、夏季大会でも環境との調和や共生などが基本理念の柱として取り入れられています。夏季大会では、開催場所の特徴から、自然環境保護等に関わる対策というよりは、太陽光や雨水の利用といった自然エネルギーの活用や、リサイクルの推進など、より都市型の環境保全・負荷軽減のための対策にシフトしているともいえます。
 昨年夏に開催されたオーストラリアのシドニー・オリンピックでは、国際的環境保護団体「グリーンピース」が計画段階から参画して「環境五輪(グリーン・ゲーム)」の具体的方策を練り上げたといいます。
 長野と同様に選手村宿舎ではソーラーパネルや水のリサイクル設備が設置された(→読売新聞「教育新世紀」より)ほか、「ダイオキシンの郷」とまで揶揄されていた産業廃棄物投棄場の土壌や水質の改善、復元を実現しながらメイン会場「スタジアム・オーストラリア」の建設などさまざまな競技施設が用意されました(産經Web シドニー五輪特集より)。

 前世紀に実現した人類の(というより先進諸国の)大いなる発展は、深刻な公害・環境問題を生み落とすのと引き換えに得たものともいえます。世界の多くの人々の注目を集める大規模イベントを契機に、こうした「負の遺産」の清算というアプローチから「環境五輪」へと取り組んでいくことも有効な方策のひとつといえるのではないでしょうか。
 2008年の夏季五輪招致をめざす大阪市でも、「環境と共生するオリンピック」が基本理念の大きな柱のひとつとして捉えられています。平成11年10月に策定された「大阪オリンピック環境ガイドライン」も公表されています。

 なお、国際オリンピック委員会(IOC)の環境への取り組みの基本的な考え方については、The Olympic Movement and the Environmentへ。


イベントにおける環境対策

 少しスポーツイベントから離れて事例を探ってみます。
 イベントの開催には大きなエネルギーを要します。当然のことながら、ごみもイベントの規模に応じて相応の量が排出されることになります。また照明や音響などを使えばそれだけ電気エネルギーの消費量もあがります。イベントという大人数が関わるハレの舞台には必然ともいえます。

 このようなイベントの実施に際して、参加者をも巻き込みながら、ごみの排出量削減などさまざまな環境対策に取り組む事例があります。取り組みによって、環境負荷を軽減するという直接的な効果に加えて、イベントに関わる人すべての意識に効果的に働きかけていく、そんな効果もねらった取り組みのようです。
 国際青年環境NGOであるA SEED JAPAN(ASJ)は、野外の音楽イベントにおける環境対策活動に1994年夏から取り組んでいます。イベントにおける環境対策事業を請け負う業者としてではなく、「環境NGOとしての独立した立場」を確保しながら、「主催者と対等な関係での共働制作」を試行・実現してきました。これにより「イベント参加者の日常のライフスタイルへ環境保全への配慮が浸透するきっかけを提示することも大きな目的のひとつ」としています。
 取り組みの概要については、

  • A SEED JAPAN「野外イベントの環境対策」(報告書)
  • 地球環境パートナーシッププラザ パートナーシップ事例紹介

環境問題の本質的解決に結びつく技能や態度を「スポーツ文化」が育む

 多くの人の耳目を集める大規模イベントを通じた取り組みは、多くの人の意識に効率的に働きかけていくことのできる機会として絶大な波及効果を生むものといえます。一方で、その場の効果は大きくとも、日常生活の中での持続性を維持するには、また違った形のアプローチが工夫される必要があります。

 2002年のワールドカップ招致は、Jリーグの発足と並んで、日本サッカー界がめざす「地域に根差したスポーツ文化の創造」に向けた両輪となっています。Jリーグ理念に記されているように、Jリーグは「サッカーを普及させ、日本サッカーを強化することだけを目標にしているわけでは」なく、「スポーツが生活の一部となっている“スポーツ文化”の確立」を目標としています。
 日常生活の中で当たり前のように、「“人々がスポーツを観る”、“スポーツをする”、“スポーツを通じて地域の人々と交流を深める”こと」ができるような環境をつくっていくことを通して、「人間性やボランティア精神を育み、世代を超えたふれあいの輪を広げる」という目標が設定されています。
 また、「地域に根差したクラブづくり」のめざすものとして、「社会生活を営む上で必要な人間性が自然のうちに培える機会や場所が少ない」現実があり、「そういった精神や肉体はスポーツを通じて培えるものが多い」とした上で、「自由な発想をする人間を育てる意味でも、遊ぶこと、スポーツをすることは大切」としています。
 旧文部省では、平成7年4月に文部大臣が今後の教育のあり方について諮問しています。これを受けた中央教育審議会の第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」では、
 「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。我々は、こうした資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を[生きる力]と称することとし、これらをバランスよくはぐくんでいくことが重要であると考えた」として、今後における教育の在り方の基本的な方向を示しています。
 また、平成11年12月の中央環境審議会答申「これからの環境教育・環境学習−持続可能な社会をめざして−」でも、
「環境教育・環境学習は、持続可能な社会の実現を指向するものである。言い換えれば、持続可能な社会の実現に向けた全ての教育・学習活動やそのプロセスは環境教育・環境学習と言え」、「どのような領域、テーマからアプローチしようと、その基礎として共通に理解を深めるべき内容がある」としています。その内容は、「人間と自然とのかかわりに関するものと、人間と人間とのかかわりに関するもの」に大別され、人と人とのかかわりの視点の重要性についても触れています。

 答申で述べられているように、「持続可能な社会の実現に向け、日常生活や社会活動のすべての過程に、環境問題の本質的な解決に結びつく具体的な行動・活動を組み込んでいくことが必要」であり、その意味でスポーツのシーンにおいても、Jリーグ理念に謳われるような地域に根差したスポーツ文化の確立を通して、問題の本質的な解決を実現するための技能や態度等を育んでいくことは重要な目的のひとつといえるでしょう。


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(記事:下島寛)

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