一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.028

Issued: 2002.07.04

学校のプールからヤゴを救おう!ヤゴの飼育を通して自然を学ぶ

目次
網やざるでプールからヤゴを救出
教室の授業では学べないことを体験
ヤゴ飼育を通して大人も変わる
身近な生き物から学ぶ自然の偉大さ
ヤゴの羽化シーン
プールに入ってのヤゴすくい、子どもたちの歓声が上がります

プールに入ってのヤゴすくい、子どもたちの歓声が上がります

 トンボの幼虫、ヤゴを学校のプールからすくい、観察や飼育を通して自然を学ぶ。そんな環境教育の授業がさかんになっています。夏が来るまで水を張ったままのプールは、トンボにとって絶好の産卵場所。産み落とされた卵は、プールの中で孵化してヤゴになりますが、放っておけば、プール清掃の際に水と一緒に流されてしまいます。
 今年もたくさんのヤゴが、子どもたちの手によって「救出」されました。

網やざるでプールからヤゴを救出

 「いた、いた!」「とれた!」梅雨入り前の青空の下、泥や藻で緑に濁ったプールの中から、子どもたちの歓声があがります。
 ここは、東京都杉並区立済美小学校。総合的な学習の時間に、3年生と4年生の子どもたち約100名がプールの周りに集まりました。目的は、ヤゴの「救出」です。
 通常、池などで孵化したヤゴは、植物の茎などをのぼって水上に出て羽化します。ところが、プールの壁では滑って水上に出ることができません。そこで、プール清掃の前にヤゴをすくい出して羽化させ、その飼育や観察を通して自然を学ぼうという試みです。
 まずは、3年生約50名がプールに入ります。家から持ってきた網やざるを手に手に持ち、子どもたちは水深20cmまで水を減らしたプールの中を、縦横無尽に歩き回ります。腰をかがめて、水中をじっと見つめながら進みます。プールサイドの4年生は、すくったヤゴを数える係です。
 「網の中に緑色のものが入っていて、何かな、と思ったら、ヤゴだった!」 3年生の女子が、網にかかったヤゴを、そっと指でつまんで自慢しています。


教室の授業では学べないことを体験

ものすごい数のヤゴがすくえました

ものすごい数のヤゴがすくえました

 「子どもたちが身近な自然に触れるきっかけを作りたいと思った」。4年1組担任の教諭・山口京子さんは、済美小学校でヤゴすくいの授業を提案した理由をこう話します。同校では、ヤゴすくいの3日前に、トンボやヤゴについての事前授業を実施。プールの中にはヤゴなどの生物がいることや、トンボの一生、ヤゴの採りかた、飼いかたなどを学びました。事前授業やヤゴすくいの当日、事後の観察授業などでは、環境問題に取り組む地域の住民など約10名が授業を支援しました。
 事前授業を聞いた子どもたちは、ヤゴすくいの当日が待ちきれない様子。ヤゴやトンボの生態に興味を持ち、当日までに、自主的に本などで調べてきた子どももいました。
 正味1時間のヤゴすくいの結果、済美小学校では、アカネ類など計約4,400匹を救出。子どもたちが一部を自宅に持ち帰り、残りは理科室で飼育しています。
 ヤゴすくいを終えた3・4年担任の先生からは、「ふだんはちっとも勉強しない子どもが一生懸命ヤゴをすくい、『20匹もとれたよ!』と目を輝かせていた」「虫どころか土も触れない子どもが、友達の助けを借りて濁ったプールに入ることができた」と、驚きと喜びの入り混じった感想が次々と述べられました。


ヤゴ飼育を通して大人も変わる

ヤゴを観察してスケッチした観察授業
(済美小学校)

羽化しようと割り箸を登って様子を窺う飼育中のヤゴ

羽化しようと割り箸を登って様子を窺う飼育中のヤゴ

 ヤゴすくいの体験を通して、変わったのは子どもたちだけではありません。「親も変わった」と言うのは、江戸川区立鎌田小学校4年2組担任の教諭・吉田菜穂子さん。鎌田小学校では、父母や地域住民への公開授業でヤゴすくいを行いました。
 はじめはヤゴを持ち帰ることを渋っていた父母が、他の子どもが楽しそうに飼育している話を聞き、ヤゴをもらいたいと後から依頼してきた例もありました。「ヤゴの飼育を通して親子の関係が変わることが一番よかったと思う」と吉田さんは言います。

 約200匹のヤゴを救出した鎌田小学校では、観察日記を書いたり、ヤゴの観察を通して発見したことなどを俳句に詠んだりして、事後学習を進めています。

 一方の済美小学校では、地域の住民に子どもたちが手作りのビラを配り、ヤゴを飼育してくれる人を募集しています。昨年も授業でヤゴの飼育を行った同校では、子どもたちが「なるべく多くのヤゴを羽化させてトンボを増やそう」と発案し、ビラ配りを始めました。


身近な生き物から学ぶ自然の偉大さ

昆虫研究家の須田孫七さん

昆虫研究家の須田孫七さん

 杉並区在住の昆虫研究家で、自然体験学習手法を学校や自治体にアドバイスしている須田孫七さんが行ったアンケートでは、同区内の区立小学校44校のうち、21校でプールのヤゴすくいや飼育を行っているとの回答を得ています。トンボが生息できる環境を整えるため、ビオトープ(池や植物など野生の生物がすめる環境)を作る動きも広がっているそうです。
 須田さんによれば、都内で羽化したトンボのうち、アキアカネなど移動距離の長い種の中には、遠く日光連山や八ヶ岳まで飛んでいくものも確認されているそうです。救出したヤゴがトンボになり、産卵場所を見つけ、卵がかえってまたヤゴが生まれる―。プールのヤゴという身近な生き物を通して、子どもたちはこうした自然の不思議や偉大さを学んでいくのです。


ヤゴの羽化シーン

ヤゴの羽化シーン

 ヤゴが背中から殻を割って頭を出して、そっくり返るようにして身体を抜き、ひょいと体勢を入れ換えて殻につかまってぶら下がり、翅→腹を伸ばしていく様子を連続写真にしています。伸ばしきると、身体が色づいてきて、飛び去っていきます。


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(記事:土屋晴子、写真:下島寛)

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