環境を巡る最新の動きや特定のテーマを取り上げ(ピックアップ)て、取材を行い記事としてわかりやすくご紹介しています。
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カナダ・モントリオール市の環境学習施設 その(2)バイオスフィア
アメリカ横断ボランティア紀行(第5話) 
ガラパゴス国立公園
人間は自然に内包される
「第3回大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ2006」
カナダ・モントリオール市の環境学習施設 その(1)バイオ・ドーム
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第5話)  マンモスケイブ国立公園の夏
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Issued: 2006.09.14
アメリカ横断ボランティア紀行(第5話)
 マンモスケイブ国立公園の夏 (その2)
 (その1からつづく)
 興味深かったのは、事業評価の重要な機能を、他でもない私たちが研修する科学・資源管理部門が担っているということ。科学・資源管理部門が30年にわたって作ってきたインベントリー(目録)やモニタリングの成果がなければ、国立公園内の事業についてしっかりした事業評価をすることはできないという。説明の合間に、「日本の国立公園には科学・資源管理を担う部門がないそうだけど、どうやって評価しているの?」と逆にヘンリーさんから質問される始末だった。確かに、この分野は日本が学ぶべきことが山積している。
【写真14】国立公園局南東地域事務所の事業評価のフローチャート
【写真14】国立公園局南東地域事務所の事業評価のフローチャート
 目次
「ガーリックマスタード」除去作業(外来種対策)
環境省からの依頼メール(その2)
公園のパンフレット
パークニュース
レンジャープログラム予定表(Ranger-Led Activity Schedule;A5判1枚)
洞窟内の無脊椎動物調査
「ガーリックマスタード」除去作業(外来種対策)
 ガーリックマスタードは、ニンニク臭のあるアブラナ科の草本性の植物だ。食用もしくは薬草としてヨーロッパからもたらされた。1868年にニューヨーク州で初めて記録され、1991年までには中西部から北東部にかけての28州に分布している【3】。この地域に持ち込まれた外来種である。繁殖力の強い植物で、5月末から6月にかけて種子をつける。いろいろと忙しい時期だが、種子が成熟する前に除去作業を完了しなければならない。
 久々にわれらがブライスさんの担当するプロジェクトに参加することになった。
 「みんな、今日はこの一帯にあるガーリックマスタードを一本残らずやっつけるぞー!」
 大勢のボランティアを前にブライスさんも張り切っている。

 このところ、学生さんの「ボス」に仕えて作業することが多くなっていたが、準備や安全管理の万全な公園職員担当のプロジェクトは本当に安心して参加できる。抜き取った植物を入れる袋が十分に用意され、作業工程がしっかりしている。そんなごくごく当り前のことすらありがたく感じられた。
 長くインタープリテーション部門にいたブライスさんだけに、産まれたばかりの仔ジカ(ホワイトテイル・ディアー)が息をひそめてうずくまっていたりすると、その場で即座にインタープリテーションが始まる。何の変哲もないオークの森にも、数え切れない生き物の物語が息づいていることを実感する。
 ブライスさんは、ボランティアプログラムの特徴をうまく生かしてプロジェクトを動かしていた。このプロジェクトがしっかりとしていた、もうひとつの理由だ。ボランティアには様々な人がいる。1日しか参加できない人、10名単位で動員が可能なグループ参加者、数は少ないが高い専門的技能を持つSCA奨学生など。
 私たちが、練習を兼ねてバターナッツの予備調査をしていた5月、ブライスさんはGISの知識のある大学生ボランティアを連れて、ガーリックマスタードの分布調査をしていた。分布面積と密度から、大まかなの作業計画をつくり、ボランティア・コーディネーターのメアリーアンさんに伝える。必要なボランティアをホームページで募集したり、事前に研修目的でボランティア活動の申し込みをしていた団体に打診したりすると、案外簡単に必要な人員を集めることができる。もちろん、ビジターが少ない平日には、手が空いているインタープリテーション部門や環境教育部門のボランティアも動員される。こうしてかき集められたボランティアで一斉に除去作業をするため、最近ようやく数も減ってきたそうだ。
 除去作業が行われた区域はGIS上に記録され、翌年以降の除去作業の資料となる。
【3】 ガーリックマスタード
ガーリックマスタード(Garlic Mustard、学名: Alliaria petiolata)に関するウェブサイト
【写真15】ガーリックマスタードのおひたし。意外にも、茹でてしまうと無味無臭だ。

 「今日の収穫は全部で14,000株! みなさんお疲れ様でしたー」
 ブライスさんの号令でようやく作業が終了する。植物を入れたビニール袋が、トラックの荷台に山積みになった。
 なお、公園内では、ガーリックマスタード以外の外来種についても除去作業が進められている。ボランティアは自主的に除去作業を進め、中には休日の早朝6時から作業しているボランティアもいる。必要な薬品、作業用具などは公園から無償で提供されるものの、その熱心さには驚かされる。
 科学・資源管理部門の職員はそれぞれが各分野の専門家であると同時に、ボランティアのコーディネーターでもある。一人一人のボランティアが興味を抱くことや、希望・要望などを細かく聴いて、各自に合った作業内容やスケジュールの調整に労を惜しまない。これはなかなかまねのできることではない。
環境省からの依頼メール(その2)
【写真16】マンモスケイブ国立公園のパンフレット(下)とパークニュース(上)
※拡大写真はこちら


 6月末にまた環境省からのメールが舞い込んだ。今回もかなり急いでいる。調査内容はアメリカのビジターサービスについて。日本の国立公園のサービスを改善するため、先進事例を集めているそうだ。できればイエローストーンやグランドキャニオンなどの大公園の例がほしいなどと未練もあるようだが、それは無理な相談だ。とにかくマンモスケイブのビジターサービスの実態を調べてみようと、今回もブライスさんを頼ることになった。
 幸いにも、ブライスさんは前年までインタープリテーション(自然解説)部門のパークガイドだった。この分野では12年間のキャリアがあり、関係者にも顔が広い。さっそくインタープリテーション部門の担当者と、パンフレットなどの印刷物の作成を担う部署の担当者にコンタクトをとってくれた。あいにくインタープリテーション部門では、夏休みシーズンで多忙のため対応できないとのことだったが、印刷物を担当するトレス・セイモア視覚情報専門官へのインタビューをセッティングしてもらうことができた。トレスさんは、公園のパンフレットなど、印刷物のデザイン、執筆、発注などを担当している職員だ。
 トレスさんからの聞き取りから、マンモスケイブ国立公園が提供する印刷物には以下の3種があることがわかった。
(1)公園のパンフレット(Park folder;地図入りパンフレット)
(2)パークニュース(Park news paper;タブロイド型の情報誌)
(3)レンジャープログラム予定表(Ranger-Led Activity Schedule;A5判1枚紙)
 これらの印刷物は国の予算を使用するため、すべてワシントンDCにある連邦政府印刷事務所(United States Printing Office)に発注するという。
公園のパンフレット
 公園のパンフレットは、国立公園局が管理する国立公園ユニットのすべてに備え付けられている。公園の歴史や概要などが記載されたオールカラーの地図入りのパンフレットで、パンフレットの上端に黒い線がデザインされていることから、別名「ブラックバンド」と呼ばれている。公園区域の全体地図には、ビジターセンターや主要なトレイルなどの位置が書き込まれている。パンフレットは、ウェストバージニア州にある国立公園局ハーパースフェリー・センター(Harpers Ferry Center【4】)で一括してデザインされ、連邦政府印刷事務所で印刷される。
 パンフレットの構成は、ユニグリッド・システム(uni-grid system)という規格を採用しており、多彩な内容が見やすく紙面上に配置されている。各国立公園からは、地図用のGISデータや解説文など制作に必要な情報、修正点などが提供される。資源管理部門の科学的な調査結果やGISデータなどがここでも活用されているわけだ。
 予算は、1部当たり50セント(約55円)。印刷部数に応じた金額を各国立公園がセンターに支払う。マンモスケイブ国立公園では、おおむね年に1回、25万部程度発注し、年間12万5千ドル(約1,375万円)をこのパンフレットの印刷費だけに使っている。何気なく公園で無料配布されているパンフレットに、実は1部50円以上の予算をかけている。これは驚きだった。
【4】 国立公園局ハーパースフェリー・センター
http://www.nps.gov/hfc/
パークニュース
 パークニュースは、公園内のガイドツアーや各種利用者サービスに関する情報誌のことだ。各公園で製作するが、他公園のパークニュースを備えているのは一定規模以上の公園に限られる。編集は各公園が行うが、表紙のデザインの一部は様式が統一されている。年1回・10万部程度の発行で、印刷費用は7千ドル(約77万円、1部あたり約8円)。印刷はやはりワシントンDCの印刷事務所で行われる。印刷物の財源は、公園の協力団体(cooperate association【5】)からの寄付予算でまかなわれている。そのような印刷物には「Printed through the assistance of 〜(○○の協賛により印刷)」というクレジットが入る。
【5】 公園の協力団体
 各国立公園には協力団体として非営利団体が登録されており、ビジターセンター内での図書の有料販売を行っている。運営費用を差し引いた収益は、各国立公園の寄付予算(donation account)に入金され、公園の予算として使用される。  ちなみにマンモスケイブの協力団体は、Eastern Nationalという団体。
イースタン・ナショナル
レンジャープログラム予定表(Ranger-Led Activity Schedule;A5判1枚)
 パークニュースは年に1度しか発行されないため、ガイドウォークなど季節ごとに変更されるビジターサービス関係の情報をとりまとめて配布しているのが「レンジャープログラム予定表」だ。マンモスケイブ国立公園では、年4回発行、夏季23,000部、冬季5,000部程度。A5判程度と小さいので、印刷枚数の多い夏季でも、費用は250ドル(約27,500円、1部あたり約1.2円)程度で済む。
 ケイブガイドツアーの催行時刻・料金や、キャンプサイトの料金と予約に関する情報などの詳細が記載されている。印刷費用にはパークニュース同様、寄付予算が充てられている。

 私たちは、なかば「環境省からの宿題」を片付けるつもりで、この2回のインタビューに取り掛かった。ところが、日常の調査業務とは違ったことを学ぶことができるだけでなく、日々の調査業務が、様々なかたちで他の公園の部署やビジターサービスとつながっていることを知る貴重な機会となった。
 ところで、パンフレットの制作には妻が強い関心を持った。実は公園にはフランス語、スペイン語、ドイツ語の概要版があるのに、なぜか日本語版はない。妻は、マンモスケイブにいる間に日本語版作成に挑戦することにした。ただ、作業を始めてみると、私たちの語学能力や知識ではなかなか翻訳しきれないところが山積していた。妻の奮闘は、この公園を出発する直前まで続くことになる。
洞窟内の無脊椎動物調査
【写真17】鍾乳洞に適応したカマドウマの一種(cave cricket)とそれを見る女の子(国立公園局ホームページより)。
【写真17】鍾乳洞に適応したカマドウマの一種(cave cricket)とそれを見る女の子(国立公園局ホームページより)
【写真18】鍾乳洞内の河川に棲む目のない魚(国立公園局 NPS photoより)
【写真18】鍾乳洞内の河川に棲む目のない魚(国立公園局 NPS photoより)
 マンモスケイブ国立公園といえば、何といっても世界でもっとも長い鍾乳洞(総延長約590キロメートル)が目玉だ。ところが、この鍾乳洞内の生態系についてはまだわかっていないことが多い。現在も、米国内務省の魚類野生生物局と共同で、鍾乳洞内の生態系についてモニタリング調査が行われている。調査の一環で、洞窟内に餌(ニワトリの肝臓)の入ったトラップを設置し、トラップ内に入ってきた生き物の個体数や種数をカウントする調査に参加した。調査を担当しているのは、公園の無脊椎動物の専門家・カートさんだ。
 洞窟内の無脊椎動物(甲虫、ムカデの一種、カマドウマの一種など)は、光の全く差し込まない洞窟内で一生を終えるため、ほとんど視神経を有しない。色も白色か、白に近い淡い茶色の生物が多い。洞窟の中と外を行き来することのできる生物は、無脊椎動物ではカマドウマ3種、ほ乳類ではコウモリ、ネズミのみだ。これらの生物が洞窟内に持ち込む有機物が、洞窟内の生き物たちにとって唯一の栄養源となる【6】
【6】 洞窟内の生き物と、栄養源
 鍾乳洞内の地下水は、公園内を流れるグリーン川とつながっているため、魚など水中に棲む生物は洞窟外の川から流れ込んでくる有機物を餌にしているものと考えられている。ただ、鍾乳洞内に棲む魚もザリガニも、視神経は持たない。
【写真19】カートさんと鍾乳洞内の無脊椎動物を調査する

 洞窟の内外を行き来する生物の中でも、カマドウマが洞窟内に運搬してくる有機物の量が多く、洞窟内の個体群維持にもっとも貢献していると言われている。カマドウマ3種のうち、洞窟内で繁殖するカマドウマは2種で相対的に長寿命だが、産卵数はわずか十数個と極端に少ない。ひとつひとつの卵が大きい。
 カマドウマに依存している生物には、カマドウマの卵を食べている甲虫と、カマドウマの糞を食べている甲虫及びムカデなどがいる。卵に依存する甲虫は生息数が比較的少なく、うち1種はまだ1個体しか確認されていない。
 このような希少な生物がみられる一方で、ケイブツアーが行われる区間は一般の公園利用者の往来も多く、踏み潰されている甲虫も見られるという。
 このモニタリング調査は、鍾乳洞内の環境容量を明確化し、将来のガイドプログラムの頻度や内容の改善につなげることも目的のひとつになっていた。
<妻からの一言:パンフレット翻訳>
 アメリカ国立公園のボランティア研修は、あくまで主人が主役であり、私はおまけのような存在です。ただ、私でも何かできることはないかということで、公園のパンフレットを翻訳することになりました。
 マンモスケイブ国立公園は、日本からのビジターも少なくなく、ビジターセンターのカウンターには日本語を話せるボランティアもいるとのこと。ボランティア・コーディネーターのメアリーアンさんも、「公園への理解も深まるし、英語の勉強にもなるわよ」とパンフレットの翻訳を後押ししてくださいました。優秀な電子辞書もあるからと張り切ってはじめたものの、意外に大変な作業でした。
 各公園にはそれぞれパンフレットが備えられています。横長に折りたたまれていることから、パーク・フォールダー(park folder)と呼ばれています。パンフレットには、公園の歴史や地図、連絡先など一般的な情報がカラーで掲載されています。パンフレットの上端に黒い帯が印刷されているため、公園の職員の間では、通称「ブラックバンド」とも呼ばれています。この黒い帯は、パンフレットなどの印刷物に限らず、説明版やホームページのデザインにも使われ、国立公園としての統一されたイメージを提供することに役立っているそうです。
 この黒い帯を入れるデザインは、もともとワシントンDCの地下鉄の駅名表示に用いました。その駅名表示のデザインはニューヨーク在住のマッシモ・ビンゲッリ(Massimo Vingelli)氏が考案したものだそうです。国立公園局では、同氏にパンフレットのデザイン規格統一のための検討を依頼したところ、「ユニ・グリッド(uni-grid)システム」が同氏より提案されました。ユニ・グリッドシステムとは、基本となるB判用紙を、あらかじめ決められたグリッド(格子)により大まかに区切り、文字や写真の配列をそれに合わせるものです。
【写真20】パンフレットの表側。公園の名前がブラックバンドに白抜きで表記され、写真や歴史、自然など公園の概要に関する説明があります。文章が格子状に配置されているのがご覧いただけるでしょうか。
【写真21】パンフレットの裏面。彩色地図、利用案内などが掲載されています。
【写真20】パンフレットの表側。公園の名前がブラックバンドに白抜きで表記され、写真や歴史、自然など公園の概要に関する説明があります。文章が格子状に配置されているのがご覧いただけるでしょうか。
※拡大写真はこちら
【写真21】パンフレットの裏面。彩色地図、利用案内などが掲載されています。
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 また、年に1回発行される2〜3色刷りのパークニュースという公園独自の新聞もあります。このパークニュースには季節に応じた情報が掲載されています。例えば、マンモスケイブの場合、ケイブツアーやその他のレンジャープログラムの見所や注意事項、キャンプ場の申し込み方法など、実際に公園を利用する際に必要な情報が掲載されています。
【写真22】ケイブツアーの様子。Fat Man's Misery(太っちょの悲劇?)は人気スポットの一つです。(国立公園局NPS photoより)。
【写真22】ケイブツアーの様子。Fat Man's Misery(太っちょの悲劇?)は人気スポットの一つです。(国立公園局NPS photoより)
【写真23】レンジャープログラムの様子
【写真23】レンジャープログラムの様子
【写真24】バックカントリーキャンプ(国立公園局NPS photoより)
【写真24】バックカントリーキャンプ(国立公園局NPS photoより)
 私が当初翻訳しようと考えたのは、国立公園のパンフレットです。ところが、ルームメイトのボランティアから、パークニュースに掲載されている「ケイブツアー情報」もぜひ翻訳してほしいと依頼され、ケイブツアーの内容や注意事項についても翻訳することにしました。
 パンフレットの方は、日本語にしてレターサイズ用紙6ページほどでしたが、結局、マンモスケイブを離れる直前まで仕上がりませんでした。理由は簡単にいえば3つありました。1つは鍾乳洞に関する専門的な知識が必要なこと、2つめはアメリカの文化や周辺の地理、語学の知識が欠けていること、3つめは翻訳原稿を推敲してくれる人がなかなか見つからなかったこと、でした。
 1つ目の点についていえば、鍾乳洞に関する説明は、鍾乳洞の地図をどのように作っていくかということを専門書に当たらなければ自信をもって訳すことができませんでした。例えば、GPSの使えない鍾乳洞では、現在でも昔ながらの方法で調査が行われているそうです。
 2つ目の点が、実は理解するまで時間がかかった部分でした。マンモスケイブ国立公園は、実はアメリカの独立戦争の歴史にも深く関係しています。初期の鍾乳洞は、火薬製造原料として欠かせない硝石の「鉱山」でした。イギリスによって硝石の輸入ルートを絶たれた独立軍は、鍾乳洞内に堆積したコウモリの糞から硝石を抽出しました。それにより何とか火薬原料を確保した独立軍は、イギリス軍との戦争に勝つことができたわけです。こうして、独立戦争が終わる頃にはマンモスケイブの名は知れわたり、多くの人々がマンモスケイブを訪れるようになったわけです。硝石の掘削は奴隷たちの手で行われましたが、鍾乳洞の利用が硝石の掘削から観光に代わると、奴隷たちはガイドとして活躍しました。身分はどうあれ、鍾乳洞のことを熟知して様々なアトラクションを披露するケイブガイドは、観光客に大人気だったようです。今でも、このようなガイドの墓がビジターセンターの奥の方に残され、レンジャープログラムの重要なテーマのひとつになっています。
【図】硝石抽出の様子(国立公園局ホームページより)
【図】硝石抽出の様子(国立公園局ホームページより)
【写真25】現在でも掘削跡がそのまま残されています(Finley-Holiday Film Corp.)
【写真25】現在でも掘削跡がそのまま残されています(Finley-Holiday Film Corp.)
【写真26】ガイドとともにポーズをとる観光客(国立公園設立前の1900頃の写真、国立公園局NPS photoより)
【写真26】ガイドとともにポーズをとる観光客(国立公園設立前の1900頃の写真、国立公園局NPS photoより)
 公園内の地質や生き物などに関する記述の翻訳についても苦労しました。中でも「strollerは禁止されている」というフレーズの誤訳にはひやっとさせられました。strollerは辞書では「放浪者」が先に出てきます。「放浪者は立ち入り禁止」と書いてみたものの、何か変です。よく調べてみると、どうやら「ベビーカー」のことをさしているようでした。このような安全対策や利用の条件に関する記述は、「うっかり」の誤訳が許されない部分です。
 やはり、翻訳したものを誰かに推敲してもらわないとならないと、ビジターセンターのボランティアであるジョーさんにお願いすることにしました。ジョーさんはアメリカ人ですが、日本で働いていたこともあって、漢字にもほとんど不自由しないほど日本語が上手でした。10年間以上にわたって、毎週土曜日にビジターセンターのカウンターでボランティアとして働いていらっしゃいます。
 パークニュースの翻訳でも同じことが言えますが、公園のパンフレットでは安全対策と利用案内が重要です。誤訳が事故や思わぬ利用者の不都合を招きかねません。ケイブツアーの装備についての説明、階段の段数や高低差などを元にしたツアーの難易度、ツアー参加の注意事項などが非常に細かく記述されています。
 安全対策はもちろんですが、時間帯(time zone)に関する注意事項1つとってみても、とても大事なことが書かれています。マンモスケイブ国立公園はセントラルタイムゾーン(中部時間帯)に属していますが、同じケンタッキー州でも車で1時間半ほど北方にあるルイビルという都市はイースタンタイムゾーン(東部時間帯)に属しています。せっかくケイブツアーを予約しても、時間帯が異なることを忘れていると、出発時刻を逃してしまうこともあります。
 思わぬ役得もありました。パンフレットの翻訳をしてくれているということで、いくつかのツアーに無料で招待していただけたのです。中には数十ドルもかかるツアーもあり、自前ではなかなか行きづらかったのですが、行ってみて初めてわかることも少なくありませんでした。
 結局、多くの方々に御協力いただき、どうにか翻訳が完成しました。ビジターセンターのカウンターにその日本語のパンフレットが置かれ、少しでも誰かのお役に立っているのなら、こんなに嬉しいことはありません。
【写真27】ビジターセンターのカウンターで案内を受けるビジター(NPS photoより)
【写真27】ビジターセンターのカウンターで案内を受けるビジター(NPS photoより)
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記事・写真:鈴木渉(→プロフィール
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