環境を巡る最新の動きや特定のテーマを取り上げ(ピックアップ)て、取材を行い記事としてわかりやすくご紹介しています。
トップページへ
「KONUS」観光客にも公共交通利用を
──南西ドイツ・シュバルツバルト──
アメリカ横断ボランティア紀行(第7話)
都市景観への新しい取り組み ― 皆で選び、皆で体験
中国発:中国型エコタウン(静脈産業モデルパーク)の建設始まる
タンザニアで地域住民がゾウを嫌うわけ
〜野生動物保全とゾウ被害問題〜
[an error occurred while processing this directive]
No. アメリカ横断ボランティア紀行(第7話) さよならマンモスケイブ
page 4/4  123
4
Issued: 2006.11.30
さよならマンモスケイブ(その4)
 (その3からつづく)
 各国立公園にも同様の協力団体がある。ビジターセンターでの買い物は、それ自体国立公園訪問の楽しみの一つでもある。売店では、一般の書店ではなかなか買えない図書、地図、教材が豊富だ。また、簡単なことであれば国立公園に関する質問にも答えてくれる。ビジターセンターのカウンターが混んでいるときなど、清算しながらの立ち話でも結構勉強になる。
 なお、このような団体からの還元額は、全米の国立公園全体で年間約5千万ドル(約53億円)にものぼるということだ。
 目次
アメリカ横断のルート取り
荷物
出発−さらばマンモスケイブ
アメリカ横断のルート取り
 準備も大体整い、いよいよこれからカリフォルニア州を目指すことになった。もうすぐこのマンモスケイブを離れるということが2人とも信じられなかった。ここにあと一年くらいいてもいいとも思うほど居心地がいい。一方で、この公園で学ぶことは少なくなってきていた。そろそろ西海岸に移動して、全く違う自然環境を守る公園でまた新しいことを学ぶ時期にきていた。
 アメリカを横断するなら、インターステート40号を走るのが最も近道だが、この機会にぜひいろいろな保護区を回っておきたい。国立公園でのボランティア勤務には週40時間の勤務が義務付けられている。そのため、なかなか他の保護区を回る余裕がなかった。
 地図を見ているうちに、隣のテネシー州ナッシュビルから南下する国立のパークウェイを見つけた。また、ボランティアとしての受入れを申し出てくれたグアダルーペ国立公園とカールスバッド国立公園にも立ち寄ってお礼を言っておきたかった。これら2公園も南の乾燥地帯に位置している。また、アメリカ南西部にはその他にも国立公園や保護区が多かった。
荷物
 荷物の移動は、研修中、常に悩みの種だった。日本を出発するときには7箱だった荷物が、帰国時にはその3倍ほどになった。それも、3分の1は重い書籍や書類。私が各地で集めた資料の山だ。ヨセミテの分厚い影響評価書などの貴重な資料を途中で相当処分したにもかかわらず、まだまだ書類の山は減らない。
 問題は量だけではない。横断している間の預け先も悩みの種だった。
 アメリカでは、自分でトラックを運転して荷物を運ぶのが一般的のようだ。インターネットなどでMover(引越し)を検索すると、ほとんどは引越し用のトラックとトレーラーのレンタル会社の広告だった。引越し業者もいるようだが、とても高い。また、荷物の引越しはさまざまな悲喜劇を引き起こした。
 最も安い宅配便をみつけて送ったものの、国が広いせいか、値段はそれほど安くない。また、アメリカは「安かろう悪かろう、高かろう悪くなかろう」という傾向がはっきりしている。カリフォルニアで私たちを待っていた荷物は、送付時とは似ても似つかない様子になっていた。大切な炊飯器はコントロールパネルがぱっくりと割れ、鍋は面白いようにへこんでいる。本は箱から飛び出している始末。あらためて日本の宅配便サービスの素晴らしさを実感した。
 私たちの山のような荷物はレッドウッドの事務所宛に送ることになったわけだが、当然のことながら職員に驚きをもって迎えられた。
出発−さらばマンモスケイブ
 「ところでガソリンは持った? ブランケットとロウソクと水も持つのよ」
 マンモスケイブ出発を数日後に控えたある日、メアリーアンさんは心配そうに聞いてきた。
 「え、ガソリンスタンドくらいないんですか?」
 「テキサス州に入るとガソリンスタンドも少なくなるし、道に迷うかもしれない。嵐や洪水で立ち往生することだってあるのよ」
 私たちの愛車モンタナは、さながら西部開拓時代の幌馬車だ。何でもかんでも積み込んである。やはりワンボックスタイプにしておいてよかった。2人の座席以外は足の踏み場どころか、これ以上荷物を入れる隙間すらない。
 出発の日は雨。ゆっくりとボランティアハウスの前を離れる。皆にはすでに挨拶を済ませていた。ボランティアハウスや、いつもきれいに刈りそろえられている芝生がどんどん遠ざかる。
 その日は足をのばしてミシシッピー州のTupeloという町に泊まる。ホテルにチェックインし、「もうこれでマンモスケイブには戻れないのだ」と思うと、ぐっと寂しさがこみ上げてきた。妻にとっても私にとっても、マンモスケイブはアメリカでの故郷になっていた。
<妻からの一言 〜アメリカでのクリスマス〜>
■マンモスケイブでのクリスマス
 マンモスケイブを出発したのは12月29日。アメリカで初めてのクリスマスをマンモスケイブで迎えることになりました。クリスマスが近づくにつれ、ラジオでもクリスマスソングが流れてきます。職員もクリスマス休暇に備えて忙しそうに働いています。科学・資源管理部門の事務所もきれいに装飾され、私達2人の送別会を兼ねたポットラックのクリスマス・ランチパーティー【5】も開かれました。また所長が、職員やボランティアなどに昼食を振舞ってくれる日などもありました。国立公園といえども、やはりクリスマスは特別なイベントのようです。
私たちの送別会も兼ねて、科学・資源管理部門で開催されたポットラックのランチ・パーティーで
私たちの送別会も兼ねて、科学・資源管理部門で開催されたポットラックのランチ・パーティーで
 マンモスケイブ国立公園では、毎年クリスマス前に、地元の住民などを集めてイベントが開催されます。この年は12月7日(日)に行われました。この日は、一般客向けのツアーのほとんどが休みとなります。イベントには職員の家族やボランティアも招待され、鍾乳洞の中で歌を歌います。
 通常は、有料のガイドツアーでしか入れない鍾乳洞(ケイブ)も、その日は無料となります。集合場所はマンモス鍾乳洞唯一の自然開口部の入口(natural entrance)付近。両側には石灰岩の斜面が迫っています。マンモスケイブのあたりは日本のように四季があり、冬はかなり冷え込みます。12月に入ると雪が降ることもあり、その日も今にも雪が落ちてきそうな空模様でした。
 鍾乳洞入り口向かって右手の斜面上にあるテラスで、バグパイプの演奏が始まりました。見上げるとはるか高いところにシルエットだけが見えます。スコットランドの正装であるキルト(kilt)を着た男性が一人、すばらしい演奏でムードを盛り上げます。
 鍾乳洞の入り口で国立公園の職員が手短に挨拶をした後、地元出身の女性歌手が無伴奏で国歌を独唱しました。彼女は公園職員の娘さんだそうです。とても感動的なオープニングでした。家族と来ている私服の公園職員の姿も見られ、目礼を交わしたり、小声で家族を紹介しあったりしました。
 鍾乳洞からは湿った温かい空気が噴き出していて、中に入るとぐっと気温が上がります。鍾乳洞内は年間を通して摂氏16度くらいです。そのため夏は涼しく、冬は暖かく感じられます。天井の低い鍾乳洞をしばらく歩くと、「ロタンダ」と呼ばれる大きな円形のホール状の空間に突き当たります。ここは独立戦争時代の硝石採掘現場が残されている場所で、ケイブツアーでも目玉のひとつです。その中央にクリスマスツリーが控えめな照明に浮かび上がっていました。ツリーの前では、金管楽器の四重奏がクリスマスソングを奏でています。よくみると演奏者は皆サンタクロース姿です。ロタンダから長い階段を下りるとイベント会場です。この「カテドラル(教会)」と呼ばれる部分は天井が高く、壁面の鍾乳石は祭壇にも見えます。国立公園になる前には、ここでキリスト教のミサが行われたこともあったそうです。
 前の方からロウソクがまわってきました。参加者は手に手にロウソクを持ち、火を灯します。ほどなく、ケイブ内の照明が落とされ、奥の方から合唱が聞こえてきました。地元の合唱団やバンドが奥に控えているようで、次々に歌や演奏が披露されます。最後に参加者全員でクリスマスソングを合唱しました。歌の名前や歌詞はわかりませんでしたが、温かい雰囲気に包まれ、イベントが終わり出口に向かう列からは歌声が途切れることはありませんでした。国立公園局が行う行事は宗教行事ではないものの、この国に深く根ざすキリスト教文化に触れた気がしました。
ロウソクを手にいろいろな歌や演奏を聴く
ロウソクを手にいろいろな歌や演奏を聴く
【5】 ポットラックのパーティー
持ち寄り形式(pot luck)のパーティーのこと
カールスバッド鍾乳洞国立公園の入口看板
カールスバッド鍾乳洞国立公園の入口看板
○カールスバッド鍾乳洞国立公園(Carlsbad Caverns National Park): http://www.nps.gov/cave/
 ニューメキシコ州にある国立公園。国立公園内には北米最大の鍾乳洞も含まれ、各種の鍾乳洞ツアーが用意されている。1923年に設立され世界遺産にも指定されている。面積約18,900ヘクタール。利用者数は2003年現在で年間約46万人。
グアダルーペマウンテンズ国立公園の石灰岩からなる山塊
グアダルーペマウンテンズ国立公園の石灰岩からなる山塊
○グアダルーペマウンテンズ国立公園(Guadalupe Mountains National Park):http://www.nps.gov/gumo/
 テキサス州にある国立公園。1972年に設立され、面積は約34,960ヘクタール。今から約2億5千万年前に海中で形成された、400マイル(約640キロメートル)にも及ぶ石灰岩質のリーフが隆起した雄大な地形は圧巻。入場料は無料であるが、バックカントリー利用が主のウィルダネス区域が多くを占めているためか、年間入場者数は約18万人(2003年)と比較的少ない。
 ページトップ
page 4/4  123
4

記事・写真:鈴木渉(→プロフィール

[an error occurred while processing this directive]