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〜モントリオールのカーフリーデー
アメリカ横断ボランティア紀行(第8話)
佐渡の空にトキが再びはばたく時
―トキの野生復帰連絡協議会の活動―
2006年環境重大ニュース
「KONUS」観光客にも公共交通利用を
──南西ドイツ・シュバルツバルト──
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第8話) 大陸横断編・その1
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Issued: 2007.01.18
大陸横断編・その1(テネシー州−ミシシッピー州−ルイジアナ州−テキサス州)[3]
 この後、再びパンサージャンクション・ビジターセンターに戻って、カウンターの女性職員に、インタビューをお願いしているビダル・ダヴィラ氏の事務所の場所を聞く。
 「ビダルは私の夫です。今日は資源管理の話をしにきたの?」
 そういえば、マンモスケイブ国立公園でお世話になったボランティアコーディネーターのメアリーアンさんとそのご主人のリーさんのデイビス夫妻も、夫婦で同じ国立公園に勤務していた。組織が大きいからなのか、雇用形態が柔軟なのかその理由は定かではないが、日本人の感覚からするとおもしろい。
 ダヴィラ氏とのインタビューの約束までまだ時間があったので、ビジターセンター近くの歩道に出て妻と2人でスケッチをする。サボテンの葉などをよく見ると、とても面白い形をしているのがわかる。
 科学及び資源管理部門は、ビジターセンター裏手の職員住宅の奥にあった。大きめのトレーラーハウス(トラックで運ぶプレハブのような家)に入っている。周囲にも似たような建物やキャンピングカーが配置されている。ボランティア用の宿舎もしくは、キャンピングカー用の駐車区画だそうだ。
ボランティア向けのキャンピングカーの駐車区画とトレーラーハウス。一見するとちょっとしたオートキャンプ場にも見える。
ボランティア向けのキャンピングカーの駐車区画とトレーラーハウス。一見するとちょっとしたオートキャンプ場にも見える。
 目次
ビッグベンド国立公園 科学・資源管理部長のインタビュー
ビッグベンドでの主な資源管理問題
国際協力
公園の資源管理におけるボランティアの位置付けについて
乾燥地における自然資源管理とボランティア
ビッグベンド国立公園 科学・資源管理部長のインタビュー
 今回のインタビューの目的は、乾燥地の国立公園における資源管理についてお話を伺うことだった。
 事務所では、科学・資源管理部長のビダル・ダヴィラ(Vidal Davila)氏が迎えてくれた。
 「科学・資源管理部門には合計9名の職員が勤務しています。博物学専門官(Museum specialist)は、予算削減のため空席になっていますが、ポストは合計で10あります」

*ビッグベンド国立公園科学・資源管理部門のポスト一覧
  • Chief(部長)

  • Wildlife biologist(野生生物学者)

  • Geologist(地質学者)

  • Archeologist(考古学者)

  • Botanist(植物学者)

  • Physical Scientist (Air and water quality)(物理系科学者(水質及び大気))

  • Physical Technician(物理系技官)

  • GIS specialist(GIS専門官)

  • Administrative assistant(庶務補佐)

  • Museum specialist(空席)(博物学専門官)
ビッグベンド国立公園の科学・資源管理部門の入っているプレハブのような建物。


 「この他、SCA(Student Conservation Association)奨学生が4名勤務していますが、5日勤務のうち1日のみ科学・資源管理部に勤務し、残り4日間は自然解説部門に勤務しています。ボランティアは多く、現在も2人の常勤ボランティアがいます。2ヶ月間の野生生物ボランティア2名と地図整理ボランティア2名が来週着任する予定です」

 科学・資源管理部門の年間予算は、通称ONPS(Operation National Park Service)と呼ばれる国立公園局管理費ベースで525,000ドル(約6,000万円)。予算の内訳のほとんどは人件費である。ボランティア制度に対する予算は、公園全体で年間12,000ドル(約140万円)程度と少ないが費用対効果が大きい。予算不足に悩む公園側としては貴重な働き手となっているようだ。
 「ボランティア予算のほとんどはユニフォーム代とトレーラーで滞在している人たちのためのプロパンガス代です。ボランティアのほとんどは退職した老夫妻で、皆さんキャンピングカーを持参し滞在しています。若いSCA奨学生や学生ボランティアの場合には、トレーラーハウスを3人程度でシェアしてもらっています。2段ベッドの並ぶバンクハウスもあるので、短期間のグループ参加の場合はそちらを使ってもらっています。」
ボランティア向けのトレーラーハウス
ボランティア向けのトレーラーハウス
ビッグベンドでの主な資源管理問題
リオ・グランデ川。川の右側はメキシコ領だ。

(1)リオ・グランデ川の水質及び水量
 公園を流れるリオ・グランデ川の水量が減少し、また水質も悪化している。
 「上流での農業用水などの取水と排水による水質の汚染が主な原因です。現在では本来の水量の5分の1程度の水しか流れていないと言われています。水生生物については、すでにこの区間では姿を消してしまった魚類や貝類も多いのです」
 アメリカ、メキシコ両国側の水資源利用と関係するため、問題はさらに複雑なようだ。
雄大な景色も大気汚染による霞により損なわれてしまう。

(2)大気汚染
 「国立公園の周辺に立地する発電所から排出される硫黄酸化物やばい煙の影響により、公園内に霞(かすみ、Haze)がかかり視界がきかない日が多くなっています。これには、テキサス州内でとれる石炭の質が悪く、硫黄分を多く含んでいるという理由もあります」
 また、最近はメキシコから火山の噴火による天然の硫黄酸化物も流れてきており、汚染に拍車がかかっているという。


(3)外来生物
 ビッグベンド国立公園のような乾燥地にも、外来生物の問題があった。例えば、外来植物であるタマリスクが泉のまわりに繁殖し、水を大量に吸い上げてしまう。そのために泉が枯れ、野生動植物に悪影響が出ている。このような事案は、水の限られている乾燥地域では深刻だ。
 「カールスバッド国立公園(ニューキシコ州)にこの地域の外来生物駆除チームがあり、定期的に巡回してきて、1回に2週間程度駆除作業が行われます。この公園では今月(1月)末に駆除チームを受け入れる予定です」
 また、Buffelgrassという草本植物が公園区域に侵入してきているそうだ。この植物は周囲の畜産業者によって導入された牧草であり、テキサス州南部で広く栽培されている。
 「手による抜き取りや薬品による処理を行っています。薬品の使用についてはワシントンDCの本省の承認が必要であるため、手続きに時間がかかります」
 その作業の主力も、やはりボランティアだそうだ。
国際協力
 リオ・グランデ川をはさんでメキシコと国境を接しているビッグベンド国立公園では、メキシコ側の野生生物保護区に技術支援等をしながら同時に外来生物対策に取り組んでいる。
 「河川の水を介して繁殖する外来生物については、河川の両岸が共同で対策を講じる必要があります。2年前からビッグベンド国立公園が、助言、作業日程の立案、物資の提供などを通じてメキシコ側管理者の能力向上と外来生物対策の実効性の向上に取り組んでいます。問題は、世界貿易センタービルの航空機テロをきっかけに、米国が国立公園付近の国境を封鎖してしまったことです。年に1回の会議に出席するため、地理的にはすぐ隣の保護区に勤務しているメキシコ側の管理者が、わざわざ片道11時間かけて迂回して来なければならなくなりました」
 また、メキシコや他の途上国への技術協力のため、公園局の職員が派遣されることがあるそうだ。
 「ワシントンDCの本省が旅費を全額負担してくれることもありますが、場合によっては公園がその費用を負担しなければならないこともあります。予算の制約で参加できない場合もあります。また、職員数も逼迫しており、要望に応えられないこともあります」
 スペイン語を母国語とする国(メキシコ、コスタリカなど)については、この地域に位置する公園の職員の多くがスペイン語を解することから、多数の要請が寄せられるそうだ。
英語とスペイン語の二ヶ国語で書かれた案内板と解説板。アメリカの国立公園では、一般的に標識などに英語以外の言語が使用されることはあまりない。メキシコと国境を接しているという土地柄、ヒスパニック系の利用者が多いのだろうか。
英語とスペイン語の二ヶ国語で書かれた案内板と解説板。アメリカの国立公園では、一般的に標識などに英語以外の言語が使用されることはあまりない。メキシコと国境を接しているという土地柄、ヒスパニック系の利用者が多いのだろうか。
英語とスペイン語の二ヶ国語で書かれた案内板と解説板。アメリカの国立公園では、一般的に標識などに英語以外の言語が使用されることはあまりない。メキシコと国境を接しているという土地柄、ヒスパニック系の利用者が多いのだろうか。
公園の資源管理におけるボランティアの位置付けについて
科学・資源管理部長のインタビュー風景

 「ボランティアは公園内の資源管理のためになくてはならない存在です。例えば、この公園には野生生物の専門家は1名しかいないため、公園内の遠隔地に出かけて行き数日間に渡る調査を行うことは、事実上不可能です」
 そのような調査を担当してもらっているのが、ボランティアだという。続けて、
 「公園内には数多くの稀少な野生生物がおり、その調査のためにはボランティア制度が不可欠です」
 また、予算の関係で空席となっている博物学の専門官ポストはボランティアによって代替されているという。
 「しかしながら、ボランティアの仕組みをこれ以上拡大するのは難しいのです」
 主な理由はボランティアのための滞在施設とオフィススペースが限られていることだ。バンクハウス(2段ベッドなどの相部屋からなる短期滞在用の施設)など比較的居住環境がよくない宿泊施設ですら、収容人数が限界に達している。
 「オフィスは来年建替えの予定ですが、カリフォルニアでの森林火災の対策のために8,200万ドル(約94億円)を公園局全体で支出しなければならなくなり、オフィスの建設費140万ドル(約1億6千万円)が引き上げられてしまいました。設計費用として、すでに270,000ドル(約3,100万円)支出してしまっているのですが、まだ予算の目処はたっていません」
 また、ボランティアとは少し違うものの、大学が公園内で実施する調査研究への協力も重要だという。大学の行う調査を公園側が許可するかわりに、調査結果のデータを提供してもらう。
 「調査のために公園に滞在する学生については、1日あたり6.7ドル(約770円)を徴収して、バンクハウスを宿泊施設として提供しています。昨年は90のプロジェクトが実施されましたが、調査費用を負担せずにデータを取得できるため、公園としても助かります」
乾燥地における自然資源管理とボランティア
 乾燥地における資源管理には、他の地域にはない特徴がある。灌木林や草地の広がる平地は広大で、自動車による移動にも時間がかかる。動物は主に日没後に活動するために、野生生物の調査には泊りがけの日程を組む必要がある。また、隣接して民間の牧場があり、外来の牧草などが公園区域内に侵入してくる。公園境界線は長く、その侵入を防止することは難しい。外来生物対策など、一度に多くの人手を必要とする作業や、長期間バックカントリーで調査を実施するには、ボランティアが不可欠だ。
 一方、ボランティアをする側にとっても魅力がある。ジュディーさんのようなリタイヤした人々にとって、ボランティア勤務は公園を楽しむ第2の選択肢となっているようだ。1泊90ドル(約1万円)程度と高い公園内の宿泊が長期に渡って無料で提供される。その上、公園管理に貢献しているという満足感も得ることができる。参加者にとってボランティアとしての勤務は、レクリエーションと社会貢献、さらには自己実現につながるもののようだ。→(その4)へ続く
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