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カナダのカーシェアリング事情
アメリカ横断ボランティア紀行(第9話)
観光客に公共交通利用を
──ツバイテーラーラントの取り組み──
En ville, sans ma voiture!(街中ではマイカーなしで!)
〜モントリオールのカーフリーデー
アメリカ横断ボランティア紀行(第8話)
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第9話) 大陸横断編・その2
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Issued: 2007.03.15
大陸横断編・その2(テキサス州→ニューメキシコ州→アリゾナ州)[2]
 グアダルーペ国立公園はほとんど通過だけになってしまったが、お礼も兼ねてビジターセンターを訪問した。公園内の石灰岩の崖や石灰岩台地のカルスト地形などは圧巻だった。調子に乗ってカールスバッドまで足をのばす。あいにく到着時刻が遅かったためレンジャーツアーは終わっていたが、ビジターセンターのある石灰岩台地上からの眺めは素晴らしかった。ひとしきり眺めを楽しんだ後、事務所にお邪魔して、お礼だけをお伝えすることにした。
 目次
ホワイトサンズ国立記念物公園
サガロ国立公園
カールスバッド鍾乳洞国立公園の入口標識にて。ビジターセンター前からの眺め。遠くに地平線が見える。
カールスバッド鍾乳洞国立公園の入口標識にて。ビジターセンター前からの眺め。遠くに地平線が見える。
 カールスバッド鍾乳洞国立公園にもボランティアの応募をして「内定」をいただいていたのだが、レッドウッドを研修先として選んだために、お断りした経緯がある。
 受け入れの審査を担当していただいた方は、別の建物にいたので、電話での会話となった。
 「レッドウッド国立州立公園に行くそうですね。あの公園はいいですよ」
 「ありがとうございます。お断りしてしまいすみませんでした」
 「それはいいですよ。推薦者の皆さんはお2人をほめていましたよ。ぜひ採用すべきだと言っていました」
 思いがけず、私たちに対する評価を聞くことができた。もちろんお世辞も多分にあるだろうとは思うが、悪い気持ちはしない。
 「レッドウッドに着いたら、取締部門(law enforcement)のAさんによろしく伝えてください。とてもいい人だからぜひ会ってみてください」
 電話を終えて事務所を出る。やはり採用の際は推薦者には電話が入るのだ。このシステムだと、不適切な応募者が紛れ込んでくることは少なくなるだろう。
公園区域外に設置されているカールスバッド鍾乳洞国立公園の管理事務所。同じ建物にグアダルーペ国立公園の管理事務所も入っている。


 夜2時間ほどかけて今後のルートを検討しなおした。翌日からも厳しい日程が続きそうだった。また、連日の運転の疲れからか、腰が痛みはじめた。
 横断中につけていた日記には、研修報告書のアイデアとして次のような記述がある。

  • カールスバッドとグアダルーペの対比。集客力のある小公園と面積は大きいが集客力のない大公園。地元をささえる経済力の大小。利用者にとって魅力のある公園は、地元経済にも貢献するといえる?
  • VC(ビジターセンター)、ユニフォームを着た「パークレンジャー」。統一された印刷物にはコレクションとしての価値がある。アメリカの国立公園を1箇所訪れると、他の公園にも行きたくなるようなイメージの統一やサービスの質の高さ。
  • ピクトグラフと掲示板の組み合わせや、維持管理を楽にするための様々な施設の工夫。

 同じアメリカの国立公園といっても、それぞれ面積や運営の仕方、自然環境など、様々な違いが見られる。その一方で、どの国立公園を訪問しても、パンフレットやビジターセンター、レンジャーの対応など、ほぼ同程度のサービス水準が保たれている。これをどのように最終的な報告書にまとめていくか、この時点では皆目見当がつかなかった。

ホワイトサンズ国立記念物公園
 ホワイトサンズ国立記念物公園は日本人にも人気の公園だ【5】。真白いジプサムサンド(石膏の砂)の砂丘が続く。小さい公園だがその風景は幻想的で一度はぜひ訪れてみたい公園だ。おもしろい形をした屋根つきのピクニックベンチや、この地域特有の建物のデザインを生かしたビジターセンターもある。

ホワイトサンズ国立記念物公園の砂丘にて。砂丘の中の駐車スペースには、屋根付きのピクニックテーブルが設置されている。
ホワイトサンズ国立記念物公園の砂丘にて。砂丘の中の駐車スペースには、屋根付きのピクニックテーブルが設置されている。
【5】 ホワイトサンズ国立記念物公園
ニューメキシコ州に位置する国立記念物公園で、1933年に設立された。面積は約5万8千ha。世界最大規模を誇るジプサム(硫酸カルシウムからなる鉱物)の砂丘の大部分を公園内に含み、その真っ白な砂の砂丘の風景は幻想的。また、ビジターセンターでは、砂丘の厳しい環境に適応した植物や小動物のおもしろい生態に触れることができる。
ホワイトサンズ国立記念物公園(国立公園局ウェブサイト)
ビジターセンター

 この砂丘では水は強いアルカリ性を示す。その上、砂丘が風で移動するので、根を深く張りながらも砂の上にうまく葉を茂らせることのできる草だけが繁茂できる。国立公園のボランティアが、砂丘の中の小さなビジターステーションでその「自然の秘密」を子どもたちに教えてくれている。
 少し驚かされるのは、砂丘の中心部分まで自家用車の乗り入れが可能なことだ。幻想的な風景を車の中から眺めながら走るのは気持ちがいいが、そのためにかなりの大工事が行われたのだろうと心配にもなる。とはいえ、こういった思い切った施設計画が、アメリカの国立公園の魅力を高めていることは否定できない。
ホワイトサンズ国立記念物公園

サガロ国立公園
ビジターセンター前のサガロサボテンと。

 サガロ国立公園【6】の名称は、サガロというサボテンに由来している。枝のつき具合によっては人にも見えるそのユニークな姿は、誰もが「ああ、これか」と認めるサボテンの「代表選手」だ。

 「このくらいの大きさになるには200年ほどかかります」
 砂漠の厳しい環境のため、生長速度は相当遅い。ビジターセンターには、この地域でみられる様々なサボテン、野生生物や、アメリカの砂漠の分布に関する展示などがある。
 この公園で面白かったのは、入場料金が公園の入口ではなく、特定の道路で徴収されていたことだ。料金は、サガロが立ち並ぶ中をゆっくりとめぐる周回道路の入口で徴収される。有料公園というと、全ての利用者から料金が徴収されるものと考えてしまいがちだが、こういう方法だと訪れる方も気が楽だ。料金を「とれるところで」「とれる人から」徴収するという考え方がおもしろい。時間がなくてビジターセンターに立ち寄るだけなら、わざわざ入場料を支払う必要はない。
 考えてみれば、公園側にしても、徴収ゲートの数が少なければそれだけ徴収のための人件費や施設を削減することができる。また、公園としての魅力が相対的に乏しい米国南部乾燥地帯の公園では、利用者の支払い意思も低くなってしまうだろう。これが現実的な選択といえなくもない。

 話はそれるが、日本の国立公園でも料金を徴収すべきではないか、という議論は古くからある。確かに、有料化に値する魅力がある公園も少なくない。それでも、いろいろな理由からこれまで国立公園の有料化は行われていない。一部には、「日本は自然が豊かでどこにでもあるものなので、お金を支払ってまで自然を楽しむという意識は薄いから有料化は難しい」という意見もある。しかしながら、その点はアメリカも同じではないかと思う。これまでの開拓の歴史から言っても、木材など、お金になりそうな自然資源があればとにかく収奪的に利用して、経済的な発展を遂げてきた国だ。景色がきれいだからと言ってすんなりと入場料金を支払う利用者が多いとは思えない。むしろ、国立公園を訪れる利用者は、単に自然の魅力に対して料金を支払っているのではなく、直接的な「サービス」に対してその「対価」を支払っているように思える。パークレンジャーによる自然解説プログラム、快適な利用施設、充実したパンフレットやパークニュースなどの印刷物などのビジターサービスがあってはじめて、公園自体の持つ自然の美しさや印象的な景観が総合的に評価され、支払いの意思が生まれるのではないだろうか。→(その3)へ続く

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【6】 サガロ国立公園
 アリゾナ州にある国立公園で、面積は約3万7千ha。年間利用者数は約64万人(2003年)。国立記念物公園として1933年に設立され、1994年に国立公園として再指定された。アメリカ南西部の景観のシンボルであり、北米最大のサボテンであるサガロサボテンが公園の多くを覆っている。公園内には5つの植生帯があり、ポンデロッサマツも見られる。公園区域はトゥーソン(Tucson)をはさんで2つの区域に分かれている。著者が訪問したのは、そのうち東側の区域。
サガロ国立公園(国立公園局ウェブサイト)
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