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シリーズ・もっと身近に! 生物多様性 ──2010年に向けて(第1回)
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第11話) レッドウッド国立州立公園到着
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Issued: 2007.06.28
レッドウッド国立州立公園到着[3]
 目次
レッドウッド国立州立公園到着
ボランティアハウス入居
レッドウッド国立州立公園到着
小さな港町のトリニダッド。展望台からは入り江が一望できる。

 翌日、国立公園管理事務所に「初出勤」するためホテルを出発した。約束の時間は午後2時。午前中時間があったので、ユーレカに戻って、日本米を売っている店を探す。電話帳に載っていた1軒目の店は鍵がかかっていた。やむなくもう1軒のオリエンタルショップに向かう。東南アジアから来たというモン族の経営する店は開いていて、日本米によく似た中粒米が安かった。20キロのものを購入、これでしばらく安心できる。
 お米を積み込み、一路レッドウッドを目指す。道は徐々に細くなり上り下りがきつくなる。ところどころ大きなレッドウッドの木々が並んでいるが、道の両側に広がる森のほとんどはダグラスモミの二次林だ。
 途中、トリニダッドという小さな港町に立ち寄り、お昼のサンドイッチを食べる。小さな赤い灯台のある展望台からは、足元の入り江と小さな漁船が浮かんでいるのが見える。この辺りは本当にきれいなところが多い。

 またしばらく車で走ると、今度は大きな湿原が現れる。ラグーンだ。この地域の豊かな降雨は、いくつもの小河川となって海へ下り、河口部に大小の汽水湖をつくる。そんなラグーンをいくつか通り過ぎると、国立州立公園の大きな看板が見えてくる。広々とした太平洋も視界に飛び込んでくる。看板の設置場所としては申し分ない。看板の前で写真を撮った後、国立公園のインフォメーションセンターに立ち寄る。

レッドウッド国立州立公園の入口看板はとても大きかった。国立公園のインフォメーションセンター
レッドウッド国立州立公園の入口看板はとても大きかった。国立公園のインフォメーションセンター

 そうして、ようやく国立公園の「南部管理センター(South Operation Center)」、通称SOC(ソック)に到着した。鉄筋コンクリート3階建て、切妻屋根の建物はかなり大きい。駐車場に車を停めて受付に申し出る。間もなくスタージアさんが現れた。
 「レッドウッドにようこそ。無事着いてよかったわね!」
 小柄でとても気さくな感じの女性だった。
 「早速宿舎の方に行きましょうか。荷物も届いているわよ」
 建物の中は広々としている。マンモスケイブ国立公園とは施設の規模が二まわりほど違う。私たちの送った荷物は、その一角を堂々と占拠していた。他の職員は調査に出払っているらしく、室内は閑散としている。
 「それにしてもすごい荷物ねえ」
 日本からの炊飯器やワシントンDCで着るスーツ、その他調査用具などに加えて、マンモスケイブで集めた資料が捨てられず、ほとんどを箱詰めして送っていた。ここにいる間に何としてもレポートにしてしまいたいところだ。
 「さあ、暗くならないうちに荷物を運びましょう。公園のトラックが使えると思うわ」
 早速3人で荷物をトラックに積み込んだ。

国立公園の南部管理センター
国立公園の南部管理センター

ボランティアハウス入居
ボランティアハウス外観

 「………」
 ボランティアハウスに足を踏み入れた妻はしばらく絶句している。部屋の中はまるで廃墟のようだ。埃の積もった家具やばらばらのベッドのフレームが乱雑に置かれ、足の踏み場もない。
 「この建物は雨漏りがあってしばらく使っていなかったの。一応修理は終わっているのよ。それにしてもひどいわねえ」
 私たちの世話役であるスタージアさんもあきれている。彼女はレッドウッド国立州立公園の生物学者で、ボランティアコーディネーターではない。この公園にはボランティアが多いのだがコーディネーターは会計課の職員が兼務している。だからボランティアを使う部署の職員が直接世話をしなければならない。スタージアさんには、すでに先に郵送していた大量の荷物を保管してもらい、さらにその荷物を公園のトラックで運んでもらっている。部屋の片付けの手伝いを申し出てくれたが、これ以上迷惑をかけることはできない。

 「私たちで片付けます。その代わり今日はこちらにいることにします」
 早速、作業を開始する。重い家具を動かし、ベッドを組み立てる。木製家具は無垢材で作られているのでとてもしっかりしているが、それだけに重い。
 「この窓の汚れ方はひどいわ」
 よくみると窓ガラスの外側に黄色いかたまりが動いている。体長が10cmもあるレッドウッドの「名物」ナメクジ、バナナスラッグだ。その名のとおりバナナのような鮮やかな黄色をしている。また、家の中には、床、バスタブ、玄関などところかまわずダンゴムシの死骸が落ちている。その量も尋常ではない。その間を縫うように、生きている虫が這い回る。レッドウッドの森の「生物多様性」にこの宿舎はすっかり占拠されてしまっていた。妻は今にも泣きそうだ。ナメクジも虫も大嫌いなのだ。

 不思議なことにボランティアハウスにはテレビがなかった。その代わり、リビングには、煙突付きの薪ストーブが設置されている。ラジオはかろうじて2局だけ入った。比較的受信状況がよかったのが「Cool 105(クール・ワンオーファイブ)」というオールディーズのラジオ局で、なかなかいい曲が流れてくる。
 レッドウッドの森の宿舎は、かつて大規模に伐採された二次林の中に建てられている。建物は2棟に分かれていて、1棟に2部屋ずつの個室がある。
 この辺り一帯はウルフクリークと呼ばれ、近くにはファイアステーション(消防・防火事務所)とバンガロー付きの野外学校がある。野外学校は、普段は一般に開放されてなく、ボランティアハウスを含む一帯の施設への取りつけ道路には、鍵付きのゲートが設置されている。
 ゲート付近はうっそうとした原生林だ。朝夕ゲートを開閉するために車を降りると、ひんやりと湿った空気に包まれる。かすかに杉の葉に似た香りがする。ゲート脇にあったレッドウッドの木は少なく見積もっても樹齢800年、日本の鎌倉時代の初期に芽を出したことになる。そんなことを考えていると、毎朝何か宗教的で神秘的な気分にさせられる。

レッドウッドの原生林に囲まれたウルフクリーク地区のゲートゲート脇にあるレッドウッドの大木(※1本の木に見えますが、実際には2本の木が前後して並んでいます
レッドウッドの原生林に囲まれたウルフクリーク地区のゲートゲート脇にあるレッドウッドの大木(※1本の木に見えますが、実際には2本の木が前後して並んでいます。)

 気が遠くなるほど念入りに掃除を行い、山のような洗濯物を片付けると、部屋は見違えるようになった。ようやく妻もここで生活する自信が持てるようになったようだ。
 一般利用者の立ち入りが制限されているために人の声もなく静かだ。夜になると決まって「何か」が屋根を走り抜ける音が聞こえてくる。何といってもここはレッドウッドの森、すばらしい自然が残されている。

ようやくきれいになったボランティアハウス
ようやくきれいになったボランティアハウス

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