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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第13話) レッドウッドのボランティア(野生生物編)
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Issued: 2007.11.01
レッドウッドのボランティア(野生生物編)[1]
レッドウッド原生林に咲くシャクナゲ
 「ワタル、スタージアが呼んでるよ」
 出勤すると、上司のジェイソンさんが探しにきた。さっそくスタージアさんの個室にかけつける。スタージアさんは国立公園勤務の植物学者で、植生部門の「ナンバー2」に当たる。
 「あなたたちにお願いしたい仕事があるの」
 私たちがまとまった業務を任されるのはこれが初めてだった。

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 目次
歩道の環境影響評価
野生生物部門からの誘い
レッドウッド国立州立公園内の野生生物
エルク調査
歩道の環境影響評価
 スタージアさんは環境影響評価書の執筆に追われていた。ところが、評価に必要なデータが一部不足していたため、緊急に追加調査をしなければならなくなったそうだ。植生部門の職員は皆多忙で、私たちにお鉢が回ってきたわけだ。
 「GPSを使う調査なんだけど、あなたたちできそう? 二次林調査で使っているわよね」
 「多分できると思います。わからなければスコットさんに教えてもらえると思います」
 上司のスコットさんにはいつも二次林調査の指導を受けている。口数は少ないが、とても頼りになる人だ。
 一方、スタージアさんは、私たちの受け入れのために骨を折ってくれた人だ。少しでも恩返ししたいという気持ちもあった。

 この調査は、ローソンヒノキ根腐れ病【1】の拡大防止のための調査だった。ローソンヒノキは日本のヒノキの近縁種で、レッドウッドの原生林に自生している。カリフォルニア州内にはまだ原生林が残っているそうだ。日本にも木材が輸出され、神社仏閣用の建材として使われている。原生林から切り出される丸太は太く質もいい。日本の不況により輸出額は減少しているということだったが、日本が大のお得意さんであることは間違いない。それにしても、神社の大鳥居にも「外材」が使われているというのは驚きだった。
 近年、このローソンヒノキに大きな問題が発生している。外来の根腐れ病が発生し、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州北部に急速に広がりつつあるのだ。

 レッドウッド国立州立公園内でもこの病気の発生が確認されており、その拡散防止が急務となっている。この病気に感染すると根の維管束組織が破壊され、水を樹木上部に供給できなくなって枯死に至る。今のところ有効な薬剤はなく、感染したら切り倒して隔離する以外に方法がない。政府の中で取りまとめ役を務める森林局がマニュアルを作成しているが、それによれば、感染木の周囲にある同種のヒノキも切り倒してしまい、土中に残る菌を「兵糧攻め」にするという、何とも乱暴な方法を採用している。

 この病気のやっかいなところは、水を介して病気が広がるという点にある。そのため、雨の豊富なこの太平洋岸地域一帯は被害が広がるリスクが高い。また、国立公園などの利用者が森に入ることの多い場所では、歩道沿いに感染が広がってしまう。菌の入った泥が靴裏に付着して運ばれるためだ。利用者の移動によって、他の森林にまで病気が広がっていくことを森林局は気にしている。
【1】 ローソンヒノキ根腐れ病(Port-Orford-Cedar Root Disease)
1923年にシアトル(ワシントン州)の庭木で初めて病気が確認された。1952年にはオレゴン州、1980年にはカリフォルニア州でも感染が確認された。感染源はわかっていないが、アジア方面ではないかという説もある。しかしながら、アジア地域では原因となっている菌は現在のところ確認されていない。
米国森林局 太平洋・北西地域事務所のローソンヒノキ根腐れ病に関するウェブサイト
ローソンヒノキの感染状況に関する現地調査の様子

 レッドウッド国立州立公園では、ローソンヒノキの生育場所を特定し、歩道そのもののルートを変更したり、水の流れが歩道を横断する箇所には横断側溝や小さな橋をかけることにした。ただ、工事が原生林の中で行われるために、NEPA(国家環境政策法)に基づく環境影響評価が求められる。この評価書の原案をスタージアさんが作っているという訳だ。
 驚いたことに、これらの工事の費用は森林局が負担するという。工事に先立って、森林局の専門家数名が状況の確認や説明のため、現地を来訪した。

 森林局の管理するシャスタ・トリニティー国有林に勤務する専門家が、手に斧を持って現れた。
 「病気に感染しているかどうかは実際に根の組織を見てみるのが一番」
 やおら道端の細いヒノキの根部に切りつける。3本目で感染が見つかった。
 「維管束組織が変色しています」
 確かに色が変わっている。しかし、こんな調べ方では健全な木まで枯れてしまうんじゃないのか? そもそも斧の消毒はされているのだろうか? 見ていて不安になる。
 いろいろ説明を聞いていてわかってきたのは、彼らが守りたいのは国有林にある大径木、いわば彼らの「看板商品」で、国立公園はそれら商品の存続を脅かす「感染源」とみなされていること。国立公園内に生えている若いヒノキは、彼らにとってはただの厄介者なのだろう。
感染が確認されたローソンヒノキ

 森林局の専門家と別れた後、スタージアさんがいろいろとこの病気について教えてくれた。
 「この病気は、もともと森林局が広げてしまったとも言われているの」
 ヒノキの伐採・搬出のためにはいろいろな重機を使う。その際、そのキャタピラに土が付くが、それを洗わないまま他の林で同じように伐採を行ってきた。その過程で感染が爆発的に広がったというのが一般的な見方だ。ハイカーの靴についた泥などとは比べ物にならない。森林局のパンフレットにも、
 「私たちはこんなふうにキャタピラを洗っています」
 という写真が誇らしげに載せられている。ホースで洗っている写真だ。斧の使い方といい、森林局のやり方は、国立公園局に比べるとちょっと乱暴な印象を受ける。
 「森林局には巨額の対策費用がおりてきます。その分、政治的なプレッシャーも強いのです」
 その巨額な対策費用が関係する政府機関にも配分され、対策をとることが促される。国立公園は利用者が多いから、「国立公園感染源」説は説得力があるようだ。森林局としても対策の実績をつくりたい。
 ところが、実際に歩道を歩いてみると、歩道を横断する水流のほとんどには横断側溝が設置してある。ヒノキが見つかるのもごくごくたまにしかない。これで感染源になるんだろうか?
 「問題は歩道から外れて歩く人たちなのよね」
 たとえば釣り人だ。レッドウッド一帯の河川は、どれをとってもすばらしいサケ・マス類の釣り場だ。そのポイントをひとつひとつ探っていくのか、歩道の川側にはあちこちにかなりはっきりとした踏み跡がついている。
 「最近歩道改修費用が不足気味なので、このお金を使って歩道を直したいと思ってるの。歩道をもう少し山側に移せば、根腐れ病対策にも効果があるでしょう」
 国立公園側にもメリットはあるようだ。

野生生物部門からの誘い
 私たちの所属する植生管理部門は、パーティションを隔てて野生生物部門と隣り合わせだ。
 「植生部門はいつもうまくボランティアを見つけてくるわねえ」
 野生生物部門のテリーさんが冗談交じりに私たちの上司のスコットさんに話しかける。
 野生生物部門は多忙だ。それも、野生生物の活動が活発な夏に業務が集中する。常勤職員は6名程度。その他、ファーローと呼ばれる1年間に11ヶ月勤務(1ヶ月の無給期間がある)の職員や臨時職員が4〜5名勤務している。調査内容が難しいことや、危険を伴う調査が多いという理由からか、あまりボランティアを受け入れていない。
 レッドウッド原生林荒廃の影響は、結果として野生生物の個体数減少という形となって現れる。野生生物の生息状況に関する定期的なモニタリング調査結果は、生息環境としての森林の回復状況を示すものでもある。そのため野生生物部門が実施するモニタリングのデータが、ゆくゆくは植生管理部門の事業効果に対する評価にもつながっていくことになる。
 「うちの仕事がない時には、ワイルドライフ(野生生物部門)を手伝ってもらってもいいと思うよ」
 スコットさんが応じる。
 「それはいいことを聞いたわ。ワタルたちも時々は野生生物が見たいわよね」
 以来、野生生物部門からも時々声がかかるようになった【2】

【2】 レッドウッド国立州立公園の野生生物に関するウェブサイト
http://www.nps.gov/redw/
naturescience/animals.htm
レッドウッド国立州立公園内の野生生物
 レッドウッドの原生林は、ニシアメリカフクロウ(Northern Spotted Owl)の数少ない繁殖地としても知られている。また、太平洋岸の53キロメートルに渡る原生的な海岸線には、サケ・マス類が遡上する大小河川も少なくない【3】。砂浜では、この周辺でも珍しいシロチドリ(Snowy plover)が繁殖している。その他、公園内には、エルク(Elk)、クマ(Black bear)、マウンテンライオン(Mountain lion)、コヨーテ(Coyote)、ブラックテイルディアー(Black tail deer)など、多くのほ乳類が生息している。なお、狩猟の対象となる野生動物やスポーツフィッシングの対象となるサケ・マス類のモニタリング調査は、カリフォルニア州狩猟・野生生物部局と共同で実施されている。しかしながら、州政府予算不足から、十分なモニタリングが行われていないのが現状だ。
レッドウッド国立州立公園の原生的な海岸線サケ・マス類のモニタリング調査の様子
レッドウッド国立州立公園の原生的な海岸線サケ・マス類のモニタリング調査の様子

【3】 全米でも数少ないダムのない河川であるスミス川をはじめ、3つの河川が国立州立公園区域内を流れ、うち2つの河川は公園区域内に河口を有している。これらの河川では1950年代頃から大規模な洪水が頻発し、堆積土砂と河川改修によって河口部の地形が大幅に変わってしまっている。河床の上昇やそれに伴う水温の上昇、汽水域の縮小、大量の海水の流入は、サケ・マス類の稚魚の生存率を低下させ、生息数の減少を招いている。
エルク調査
 テリーさんに連れられて最初に参加した野生生物部門の調査は、エルクの行動圏調査だった。雨と霧の中、ボールドヒルと呼ばれるなだらかな尾根付近で州政府の専門家と待ち合わせる。この一帯は尾根に沿って草原が広がっている。古くからアメリカ原住民であるインディアンの火入れによって維持されてきた草地だ。その後ヨーロッパからの入植者がヒツジなどの牧場として用い、現在は国立公園が管理火災(あらかじめ延焼対策などをとった上で人工的に発生させる火災)により草原植生を維持している。海岸線の草地とともにエルクの主要な生息地となっている。
尾根沿いに草原が広がるボールドヒル入植者の建てた納屋。現在は国立公園局が歴史的な建築物として保存している。
尾根沿いに草原が広がるボールドヒル入植者の建てた納屋。現在は国立公園局が歴史的な建築物として保存している。
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