スタージアさんは
環境影響評価書の執筆に追われていた。ところが、評価に必要なデータが一部不足していたため、緊急に追加調査をしなければならなくなったそうだ。植生部門の職員は皆多忙で、私たちにお鉢が回ってきたわけだ。
「GPSを使う調査なんだけど、あなたたちできそう?
二次林調査で使っているわよね」
「多分できると思います。わからなければスコットさんに教えてもらえると思います」
上司のスコットさんにはいつも二次林調査の指導を受けている。口数は少ないが、とても頼りになる人だ。
一方、スタージアさんは、私たちの受け入れのために骨を折ってくれた人だ。少しでも恩返ししたいという気持ちもあった。
この調査は、ローソンヒノキ根腐れ病
【1】の拡大防止のための調査だった。ローソンヒノキは日本のヒノキの近縁種で、レッドウッドの原生林に自生している。カリフォルニア州内にはまだ原生林が残っているそうだ。日本にも木材が輸出され、神社仏閣用の建材として使われている。原生林から切り出される丸太は太く質もいい。日本の不況により輸出額は減少しているということだったが、日本が大のお得意さんであることは間違いない。それにしても、神社の大鳥居にも「外材」が使われているというのは驚きだった。
近年、このローソンヒノキに大きな問題が発生している。外来の根腐れ病が発生し、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州北部に急速に広がりつつあるのだ。
レッドウッド国立州立公園内でもこの病気の発生が確認されており、その拡散防止が急務となっている。この病気に感染すると根の維管束組織が破壊され、水を樹木上部に供給できなくなって枯死に至る。今のところ有効な薬剤はなく、感染したら切り倒して隔離する以外に方法がない。政府の中で取りまとめ役を務める森林局がマニュアルを作成しているが、それによれば、感染木の周囲にある同種のヒノキも切り倒してしまい、土中に残る菌を「兵糧攻め」にするという、何とも乱暴な方法を採用している。
この病気のやっかいなところは、水を介して病気が広がるという点にある。そのため、雨の豊富なこの太平洋岸地域一帯は被害が広がるリスクが高い。また、国立公園などの利用者が森に入ることの多い場所では、歩道沿いに感染が広がってしまう。菌の入った泥が靴裏に付着して運ばれるためだ。利用者の移動によって、他の森林にまで病気が広がっていくことを森林局は気にしている。