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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第14話) ヨセミテ国立公園へ!
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Issued: 2008.01.10
ヨセミテ国立公園へ![5]
 目次
適正なビジター利用(Visitor Use)レベル
User Capacity Management Program(利用者容量管理プログラム)
VERP(利用者経験および資源保護プログラム)
適正なビジター利用(Visitor Use)レベル
 GMPによると、ヨセミテバレーの施設エリア(developed area)の宿泊収容レベルは、キャンプ場及び宿泊施設の規模から算定して7,771人、日帰り利用(Visitor Use)レベルは、日帰り利用客の利用可能な駐車場容量及び、計画策定当時ツアーバスで入場していた日帰り利用者数に基づき、10,530人とされている。
 計画では、バレー内の駐車場の数を大幅に削減し、盆地外の駐車場からバスによる輸送を打ち出している。パークアンドライドだ。それにより、自家用車の乗り入れによる悪影響を低減し、最終的には私用車をヨセミテバレー内から締め出すとしている。こういった施設の削減により、ビジター利用レベルを一定範囲に抑えようとしている。利用者が集中した場合には、入場制限も可能としているが、今のところほとんど入場が規制されたことはないらしい。

 ヨセミテバレー地区には、GMPとは別に「ヨセミテバレープラン」という大部の計画がある【14】。2000年に策定され、計画に基づいて、バレー内の利用拠点の再整備などが進められている。

 この計画の特徴は次の通りである。
 ・250以上の具体的な事業、対策
 ・大面積の草地、樹林地の再生
 ・日帰り利用客のための駐車場収容台数の拡大(550台)
 ・ヨセミテロッジの改築
 ・Northside Driveの車両通行の禁止と多目的トレイル化
 ・特定の区間についてシャトルバスの増発

 プランでは、GMPの打ち出した「自家用車のバレーからの締め出し」とは逆に、駐車場の増設計画が盛り込まれている。理由を簡単にまとめると、「GMPでのバレーの総収容人数は1日10,530人であるが、1980年に比べて宿泊容量が減ったために、その分日帰り施設を増やすことができる」としている。見方によっては相当に無理のあるこじつけだ。国立公園局がこのような無理を押し通す背景には、ヨセミテバレー地区の利用者数の急増がある。ヨセミテバレープランによれば、1980年のGMP策定当時から2000年にかけて倍増している【15】
 その上、日帰り利用者の約86%は、依然として自家用車を運転してバレーを訪れている。典型的な混雑日には、バレー東側を訪れるビジターの27%が、路肩や日帰り利用客用以外の駐車場に車を停めるか、駐車スペースを探して走り回ることがわかっている。こうした混雑日におけるバレー内の延べ走行距離は、概算で69,014マイル(約11万キロメートル)と試算されている。
 こうした実態を受けて、バレー内の渋滞が激しくなるハイシーズンには、日帰り利用者用駐車場の利用と、無料の巡回バスや自転車、徒歩での移動をするよう誘導しており、日帰り駐車場増設の必然性が説明されている。結論はどうあれ、政策決定の裏付けデータがしっかりと計画書に書き込まれていることはすばらしいことだと思う。
【14】 ヨセミテ国立公園に関する承認された計画一覧
http://www.nps.gov/archive/
yose/planning/documents/
yosenepaall.htm
ヨセミテバレープラン(国立公園局ウェブサイト)
【15】 1980年当時のヨセミテバレーの利用者数は不明だが、ヨセミテ国立公園全体の利用者数は、1980年の258万人から、2000年には355万人に増加している。しかしながら、1996年の419万人をピークに利用者数は減少傾向をたどり、2006年の訪問者数は336万人にとどまっている。
ヨセミテバレープラン(2000年)
I.Yosemite Valley Plan Volume 1A ~Purpose and Need / Alternatives / Affected Environment~(p.2-15)Visitor Use and Parking Considerations
 1980年のGMPでは、ヨセミテバレー日帰り利用者向け駐車場の駐車スペース区画上限は1,271とされている(1日当りの利用者数10,530人)。計画策定後にキャンプ場と宿泊施設の収容力が削減されたため、GMPに定められた日帰り及び宿泊利用を合わせた一日当りの総利用者最大数(daily maximum number)を維持するには、1,622区画の日帰り駐車場が必要となる。
 この1,622区画の駐車場案について、地形分析及び自然資源価値の評価を行った結果、自然地域の改変は避けられないものの、高い価値を有する自然資源に大きな影響を与えずに、バレー中央部のTaft toeに設置することができると報告されている。また、さらにバレー東部公園内周回道路の北側部分(ヨセミテロッジからエルキャピタンまでのNorth side Drive)を閉鎖することにより、さらに800台分の日帰り利用者の車両を受け入れることが可能であるとしている。
User Capacity Management Program(利用者容量管理プログラム)
 「ヨセミテバレーの利用者数をどのように管理するかは大変難しい問題です。先進的な輸送システムとインターネットによる情報提供が重要と考えています」
 ヨセミテプランでキャンプ場の増設を打ち出している一方で、利用者数の抑制には施設の削減が必要であるという認識が公園職員にもある。バレー内の交通量を半減するため、現在ループ道路となっているバレー内道路を一部閉鎖して、南側車道を双方向通行とすることも検討されている。
 こうした取り組みをみると、この利用者容量管理プログラムは、訪問客数自体をコントロールすることよりも、むしろ公園の自然環境に影響のない方法で利用者を受け入れ、さらに満足度も向上させることを主な目的としているということがわかる。その手法を論理的にまとめたものが、次にご紹介するVERPというプログラムだ。
VERP(利用者経験および資源保護プログラム)
オープンハウスで展示されていたVERPに関する解説パネル

 利用者容量を明らかにするために国立公園局が開発したのが、「Visitor Experience and Resource Protection(利用者経験および資源保護プログラム)」、通称VERP(ヴァープ)だ。ヨセミテバレーを流れるマーセド川に関する利用者容量管理プログラム【16】が実施されているが、これにもVERPの手法が用いられている。

 ヨセミテ公園の訪問当時、すでにこのVERPに関する資料を入手していた【17】ものの、具体的にどのように使われるものなのかが理解できずにいた。そこで、プレゼンテーションの後、さっそくヨセミテ国立公園計画室のMark Butler氏に、VERPについてお話を伺うことにした。

 「VERPは、植生などの資源の保護と利用者の便宜向上の両立を目指すものです。影響を受けやすい資源を保護しながら、ビジターを比較的影響を受けにくい代替地点に誘導する、国立公園局全体で行われている取り組みです」
 そんなことが可能なのだろうか。私はまだ半信半疑だった。
 「VERPの要点は次の通りです」
 ・公園管理者は、特定の地域ごとに、原状回復のための措置を講ずる必要性の有無を知るための基準と指標を定める
 ・資源専門家が定期的にその地域における影響の兆候についてモニタリングする
 ・対象地域における影響が、公園の定める基準を超えた場合に、管理者はその解決策を提示し、場合により必要な措置を講ずる
 ヨセミテバレー全体におけるVERPの適用は、指標策定などの作業が訪問当時にも続いていて、残念ながら本格的な運用は始まっていなかった。
 「これまでの調査の結果、ヨセミテでは次のような利用傾向があることがわかっています」
 ・国立公園への入口4箇所は、それぞれ利用者数全体の25%ずつが入場すること
 ・入場者数のうち95%はヨセミテバレーを訪問し、バレー訪問客の75%はヨセミテ滝を訪れること
【16】 マーセド川利用者容量管理プログラム
http://www.nps.gov/yose/
parkmgmt/ucmp.htm
【17】 VERPハンドブック(国立公園局ウェブサイト)
http://planning.nps.gov/
document/verphandbook.pdf
展望台(グレーシャーポイント)における6段階の混雑度合い

 公園内の主要な興味地点で、利用者自身がどの程度の利用密度を好むかという聞き取り調査が実施されていた。その結果は大変興味深いものだった。
 「主要な展望台でアンケートをしたところ、適度に混んでいる方が安心できる、という結果が出ました」
 これは意外だった。国立公園の利用者は、原生自然の雰囲気を求めて訪れているものと思い込んでいたが、アンケートの結果は必ずしもそうではないことを示している。
 「車道もないバックカントリーではそうなのですが、展望台などの利用施設では、むしろまわりに人がいた方が安心するようなのです」

 観光要素の強い利用施設においては、混雑が居心地の悪さを強いる反面、極端に人が少ない状況もさびしさを呼び起こすことになるらしい。
 「逆に、もっともストレスを感じるのは、駐車場が満車で待たなければならなかったり、駐車場に入れず引き返すことになったりした場合です」
 つまり、ヨセミテ国立公園のような観光目的の利用者が多い公園では、大規模な施設さえあれば、利用者にストレスを感じさせることなく収容することが可能ということになる。また、駐車場の混雑状況を随時把握し誘導することにより、より多くの利用者をストレスなく受け入れることができる。
 施設利用者数の上限として、利用者に不快感を与えない範囲の設定をアンケート等の調査をもとに算出し、その利用者数のレベルが保たれるように、駐車場の収容台数を調整したり、興味地点への到達経路の入口に駐車場待ち時間などを掲示することで利用者を誘導したりする。
 バックカントリーのように、自然環境の保全が優先される地域とは異なり、ヨセミテバレーのような観光目的の利用者が多いところでは、それまでの経験則やモニタリング調査の結果をもとにした情報の提供と利用の誘導によって、利用者のピークを分散させるといった社会科学的な対策が奏効する。つまり、人間の心理的な許容量と自然の収容力の間には多少のギャップがあること、それがVERPの成立する要件であり、また、これこそ国立公園局がようやくたどり着いた、「保護と利用の両立」のひとつの姿なのだろう。こうした社会科学的な手法を積極的に採り入れていることも、米国国立公園局の公園管理の特徴といえる。
(参考)VERPの作業手順
 手順1:学際的プロジェクトチームの設置
 手順2:パブリックインボルブメント戦略の策定
 手順3:公園管理者による、目的、重要性、主要な教育的テーマ、計画上の制約などに関する公式見解の策定
 手順4:公園の資源および現在の利用動態の分析
 手順5:潜在的な利用の幅と資源の状況に関する説明書の作成
 手順6:公園内の特定の地点に関する潜在的なゾーニングに関する説明書の作成
 手順7:指標(indicators)の選定とそれぞれのゾーン関する基準(standards)の設定
 手順8:資源と社会的指標のモニタリング
 手順9:(必要な場合に)管理措置の実施
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