次に着手したのは、公園近くのレストラン巡りだった。知事の訪問にあわせて、お薦めの店をいくつか準備しておく必要があると思ったからだ。私たちはいつも自炊していたので、地元のレストランをほとんど知らなかった。
「このあたりで一番美味しいお店はどこですか?」
いろいろな人に聞いて回ったが、それぞれ言うことが違う。結局、いろんな店を食べ歩いてみることになった。シーフード、中華、和食、イタリアン…。普段は行かないような高級なところにも、できるだけ小奇麗な服を選び出かけてみた。メニュー、量、チップ、営業時間、実に様々だ。
何軒かまわって気が付いたのは、まず量が多いことだった。
「量が多いんですね。おいしかったのですが食べ切れませんでした」
ウェイターに、何気なく話しかけてみた。
すると、「あまったものは詰めますよ」とか「メインディッシュの替わりに前菜を1品とって、それにスープとライスをつけてもいいと思います」「メインディッシュを2人分に分けることもできますよ」などアドバイスしてくれる。
日本だと迷惑がられそうなやりとりも、むしろ歓迎されるようだった。徐々に、ウェイターやウェイトレスとの間合いもわかってきて、こうしたやりとりを楽しめるようになっていった。
ウェイターやウェイトレスにいろいろ相談しながら食事を決め、自分が食べたいもの、飲みたいものをとり、満足して家路につく。単に注文をとって料理を持ってくるだけではない“サービス”が、そこにはある気がする。チップは単に食事代金の「10%」相当の経費ではなく、感謝の気持ちの現れなのだ。
「そういえば、日本にも『心づけ』という習慣があるな」
ふとそんなことが頭に浮かぶ。日本にも、忘れ去られようとする人と人との「間合い」のようなものがあるのかもしれない。
一番近いアルカタの町でも車で片道40分はかかる。一ヶ所ずつレストランを回るのは大変だったが、この地域の食材の豊かさには正直驚かされた。そして、食事を通して学ぶことも多かった。大げさかもしれないが、こういう機会がなければ、この地域の料理や食文化に触れずにレッドウッドを去っていたかも知れない。
こうして、思い出深い私製の「レストランガイド」が完成した。