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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第15話) 国立公園局と州政府の協力
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Issued: 2008.03.06
国立公園局と州政府の協力 [3]
 目次
レストラン巡り
国立州立公園の成立経緯
国立州立公園の共同管理
公園の独自財源
レストラン巡り
 次に着手したのは、公園近くのレストラン巡りだった。知事の訪問にあわせて、お薦めの店をいくつか準備しておく必要があると思ったからだ。私たちはいつも自炊していたので、地元のレストランをほとんど知らなかった。
 「このあたりで一番美味しいお店はどこですか?」
 いろいろな人に聞いて回ったが、それぞれ言うことが違う。結局、いろんな店を食べ歩いてみることになった。シーフード、中華、和食、イタリアン…。普段は行かないような高級なところにも、できるだけ小奇麗な服を選び出かけてみた。メニュー、量、チップ、営業時間、実に様々だ。
 何軒かまわって気が付いたのは、まず量が多いことだった。
 「量が多いんですね。おいしかったのですが食べ切れませんでした」
 ウェイターに、何気なく話しかけてみた。
 すると、「あまったものは詰めますよ」とか「メインディッシュの替わりに前菜を1品とって、それにスープとライスをつけてもいいと思います」「メインディッシュを2人分に分けることもできますよ」などアドバイスしてくれる。
 日本だと迷惑がられそうなやりとりも、むしろ歓迎されるようだった。徐々に、ウェイターやウェイトレスとの間合いもわかってきて、こうしたやりとりを楽しめるようになっていった。
 ウェイターやウェイトレスにいろいろ相談しながら食事を決め、自分が食べたいもの、飲みたいものをとり、満足して家路につく。単に注文をとって料理を持ってくるだけではない“サービス”が、そこにはある気がする。チップは単に食事代金の「10%」相当の経費ではなく、感謝の気持ちの現れなのだ。
 「そういえば、日本にも『心づけ』という習慣があるな」
 ふとそんなことが頭に浮かぶ。日本にも、忘れ去られようとする人と人との「間合い」のようなものがあるのかもしれない。

 一番近いアルカタの町でも車で片道40分はかかる。一ヶ所ずつレストランを回るのは大変だったが、この地域の食材の豊かさには正直驚かされた。そして、食事を通して学ぶことも多かった。大げさかもしれないが、こういう機会がなければ、この地域の料理や食文化に触れずにレッドウッドを去っていたかも知れない。
 こうして、思い出深い私製の「レストランガイド」が完成した。
国立州立公園の成立経緯
 レッドウッド国立公園は1968年に設立されたが、当時既に「Jedediah Smith Redwoods State Park」「Del Norte Coast Redwoods State Park」「Prairie Creek Redwoods State Park」という3つの州立公園が近接して設立されていた。国立公園は、将来それらの州立公園が連邦政府(国立公園局)に移管されることを想定して、それらを包み込むように公園区域が設定された。
 ところが、結局州立公園の移管は実現せず、国立公園局とカリフォルニア州公園レクリエーション局が、奇妙な同居関係をはじめることになった。外見はほぼひとつの公園だが、それぞれが自らの管轄地域のみを管理する。この状態は国立公園が設立されてから30年弱にわたって継続し、多くの業務重複と管理上の不都合を招き、両者の摩擦が顕在化していった。
 問題を解決するため、ハイレベルの話し合いの場(California Coordinating Committee on Operational Efficiencies)が設けられ、業務効率化のための勧告がなされた。
 勧告に基づき、カリフォルニア州公園レクリエーション局長と国立公園局地域事務所長間で、1994年に覚書が締結され、区域を接する国立公園(Redwood National Park)と3つのカリフォルニア州立公園を共同で管理するための枠組みが初めてつくられた【4】

 国立公園の設立が1968年、州立公園が1920年代から30年代にかけて設立されていることを考えると、この協力体制はごくごく新しいものであるといえる。

【4】 レッドウッド国立州立公園における覚書
この覚書は1999年に見直された。その後、米国の各国立公園における管理の基本となる計画である「管理総合計画(General Management Plan; GMP)」が2000年に共同で策定され、実質的にも同一の公園としての管理体制が整った。
国立州立公園の共同管理
 「『国立州立公園』といっても、組織や予算は完全に独立しているんだ。覚書や、共同の管理計画に定めがないものは、それぞれ独自の規定に従う。制服も、イントラネットも違う。トランシーバーのチャンネルも独立しているんだ」
 州立公園との協力関係について職員に質問してみると、いろいろな苦労と工夫があることがわかる。
 予算については、覚書の一部を修正するための覚書を結べば、相互に融通することができるそうだ。カリフォルニア州政府が7月1日から新予算年度となるのに対し、連邦政府は10月1日から予算が切り替わる。予算年度のはざまで執行が難しい場合など、この予算融通の威力は大きい。
 また、両者の連携は、ゴミ収集を一元化するとか、外来生物対策などを一体的に行うなど、業務を公園の境界を越えて融通しあうものが多いこともわかった。
 さらに、覚書の内容からは、この協力体制が、体制、施設、知見ともに充実している国立公園が、州政府の業務を支援する色合いが強いことも読み取れる。象徴的なのは、州立公園の所長が、国立公園局の本部に連絡員として勤務していることだ【5】

写真9:プレーリークリーク・レッドウッズ州立公園のビジターセンター。州立公園の管理事務所を兼ねているが、規模は小さい
写真10:レッドウッドインフォメーションセンター。国立公園局所有のビジターセンターで規模も大きい。写真向かって左側に星条旗とカリフォルニア州の旗が見える


【5】 覚書の内容
覚書で定められているのは、
・州政府は、州が所有する土地管理について国と協力体制を構築することができること
・国立公園局は、州政府の土地の管理について契約関係に入ることができること
・州政府のリエゾン(連絡員)を国立公園管理事務所に常駐させること、国立公園局はその人員のための事務所スペースを提供すること
・予算はそれぞれ独自に執行すること
・次の分野において協力して管理を行うこと:利用者保護と公衆の安全、広報、自然解説及び出版、資源管理、施設維持、設計及び建設、計画、マーク及び標識、ならびに政策の立案
・財産管理はそれぞれの機関が行うこと
 など。
 原生林は州立公園の方がずっと多いために、自然資源の財産価値としては州立公園の方が優れている。また、施設の整った宿泊用のキャンプサイトは州立公園にしかない。
 対照的に、国立公園側には伐採跡地が含まれていて、自然生態系の修復やモニタリング調査のための体制や機器が充実している。そのため、環境影響評価や科学的な調査など、科学的な知見が求められる業務は国立公園側が全面的にバックアップしている。
 また、一般的に予算や人員も国立公園の方がずっと余裕がある。ビジターセンターや野外学校のように、建設費も維持費もかさむような施設の多くも国立公園内に立地している。公園管理のための人員も多く、所有する車両の種類や台数も多い。
 国と州政府の共同管理といっても、両者それぞれに事情が異なる。こうした利害得失をうまく調整した上で、国立公園と州立公園の両所長が、トップ同士で密に連絡を取り合いながら管理を行っていることが成功の秘訣のようだ。

写真11:国立公園局が管理する野外学校。私たちの住んでいたボランティアハウスと同じウルフクリークという場所にある
写真13:野外学校の内部。折りたたみ式のテーブルやいすが備えられている。壁の向こうは本格的な厨房が用意されている。バンガローもあり、合宿形式の自然教室にも対応することができる
写真12:屋根に太陽電池パネルが設置されている屋外教室
写真14:野外学校には大きな暖炉もある


公園の独自財源
 「アメリカの国立公園には入場料収入がありますよね。ああいった予算はどうなっているんでしょうか」
 東京都のMさんからの質問だ。こうした公園の「独自財源」は、いつも予算不足に悩んでいる日本の自然公園の現場にとって、とても興味があることだ。
 国立公園の入場料収入は、その8割程度がそれぞれの公園の自主財源として扱われる(フィープログラム(第6話参照))。ただし、レッドウッド国立公園は入場無料の公園で、料金収入がほとんどない【6】

 州立公園はどうなのだろう。州立公園の職員に聞いてみる。
 「収入はあるんですが、州の財政に納付されてしまいます。だから、私たちが入場料を直接自分の予算として使うことはできません。金額は管理費と同額か、少し下回るくらいです」
 州立公園も国立公園同様、区域に入るだけなら無料だ。一般に、カリフォルニア州立公園は、キャンプ場などの利用拠点でのみ料金を徴収する方式をとっている。レッドウッド国立州立公園においても、ピクニックエリアを利用する場合には、自動車1台あたり4ドルの入場料金がかかる【7】

【6】 レッドウッド国立公園内の料金収入
 国立公園内の有料施設としては自然学校がある。
 国立公園のプログラムの一環として自然学校に滞在する場合には、1団体300ドル前後(プログラム料金含む)、施設のみの借用の場合には150ドル前後がそれぞれ徴収される。料金は後述の非営利協力団体(レッドウッドナチュラルヒストリーアソシエーション:RNHA)が徴収し、後に国立公園に寄付金として還元される仕組みをとっている。
【7】 カリフォルニア州立公園の料金システム
いずれかの州立公園で入場料を納入すれば、同日中に他の州立公園を訪問しても入場料金を再度支払う必要はない。ただし、宿泊用キャンプサイトの利用料金などの会計は公園ごとに独立しており、その都度支払う必要がある。
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