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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第16話) レッドウッドの見どころ
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Issued: 2008.04.24
レッドウッドの見どころ[2]
 目次
海沿いの原生林
ジェデダイアスミス・レッドウッズ州立公園
視察終了
海沿いの原生林
 この川にかかる橋を渡ると、デルノルテコースト・レッドウッズ州立公園の区域に入る。車道は太平洋に面した急峻な山道になる。車道からは、レッドウッドの原生林としては珍しい斜面林を見ることができる。斜面林の木は太くはないが、材に腐れが少ないために経済的な価値が高い【2】。その上、高低差があって伐採した木を搬出しやすいことなどから、ほとんどが商業的に伐採されてしまった。海沿いの険しい山地が、例外的にこの森を伐採から守ってくれたのだ。
 
【2】 木材の商業的価値と残存する原生林との関係
州立公園には原生林が多いが、ほとんどは平地にある。こうした巨木の立ち並ぶ平地林は、意外にも経済的な価値が高くはないそうだ。木の根元に大きな洞ができているなど、材木の芯の部分が腐ってしまっていることが多いためだ。
写真13:残された原生林の中を流れるレッドウッドクリーク

 上流部にあたる斜面林の伐採が続いたために、やがて丸裸にされた山の斜面は崩壊し、土石流が何度も発生した。下流の原生林や集落が押し流されるという大災害が引き起こされた。
 この反省に立ち、レッドウッド国立公園では、レッドウッドクリークという河川の集水域全体の保護を目標として公園区域が設定された。ところが、残念ながら、国立公園として指定された時には、区域内の斜面林の多くは伐採されてしまっていた。このため、もともとの森林生態系を再生(レストレーション)し、本来の水循環と豊かな生物層をとり戻すため、国立公園局はあえて伐採跡地を国立公園に取り込むことにした。これはアメリカの国立公園の歴史上、画期的なことだった。
(註)
 国立公園区域に含まれなかったレッドウッドクリークのさらに上流部は民有地が95%を占めており、現在も伐採が続けられている。1978年に国立公園区域が拡張された際の法律により、国立公園局は、この区域で浸食防止対策を行う権利を認められている。国立公園区域外についても、公園内の生態系を管理する上で必要な対策を行う権利と予算が認められたことで、国立公園内の流域管理がはるかに効果的に行えるようになったことはいうまでもない。


ジェデダイアスミス・レッドウッズ州立公園
 この険しい山道を越えると、道路左手にクレセントシティーの町並みが見えてくる。国立州立公園の北のゲートシティー(玄関口)だ。この町にレッドウッド国立州立公園の管理事務所がある。カリフォルニア州の北のはずれにあり、オレゴン州との州境も目と鼻の先だ。事務所には立ち寄らず、最後の目的地、ジェデダイアスミス・レッドウッズ州立公園の大原生林に向かう。
 州立公園を通過する車道(ハウランドヒル・ロード)は未舗装のデコボコ道だ。レッドウッドが両側に立っている場所などは、車一台がやっと通れる程の幅しかない。それだけに、車窓からの原生林の風景には迫力がある。
 この森の中を、スミス川という川が流れている。この川は、米国でも数少ないダムの造られていない河川で、水は透明で青い。サケやマスが遡上していくのが肉眼でも見える。もちろん、これらの魚は全くの天然ものだ。
 
ジェデダイアスミス・レッドウッズ州立公園のスタウトグローブ(スタウトの森)に横たわる倒木
写真14:ジェデダイアスミス・レッドウッズ州立公園のスタウトグローブ(スタウトの森)に横たわる倒木。写真右下が筆者
スミス川の透明な水の流れ
写真15:スミス川の透明な水の流れ
原生林の中を通るハウランドヒル・ロード
写真14-2:原生林の中を通るハウランドヒル・ロード

 ここでは州立公園のレンジャーが案内してくれた。この大原生林はレッドウッドの平地林の中でも有数の規模と質を誇り、森の雰囲気は神々しいほどだ。都知事は、この州立公園の管理の課題や利用者管理などについて説明を受けながら、森の中を歩く。そして、ふと振り返り、
 「君は伊勢神宮の森に行ったことはあるかい?」
 と語りかけてきた。
 「この森は確かにすごい。だけど、見方をかえれば昔から残ってきたというだけだ。伊勢神宮の森は、日本人がその文化の中で、時代を越えて守ってきた。帰国したらぜひ行ってみるといいよ」
 私にとって“原生林”はあこがれであり、このレッドウッドの森林こそ、私がアメリカ国内で見てきた森の中で文句なしに一番の森林だった。それだけに、知事の言葉には、「あっ!」と気づかされるものがあった。日本のこともろくに学ばずにアメリカに来ても、その本質をつかむことは難しい。
 日本では、「カミ」というものを介して、人が森林と世代を超えた関係を維持してきたという面がある。いずれにしても、「レッドウッド」と「伊勢神宮」をごく自然につなげてしまう、そういった感覚こそ、日米の自然観の違いを理解するために必要な能力なのかも知れない。
写真16:州立公園レンジャーによる説明風景

 
視察終了
 こうして、丸一日の視察はあっという間に終了した。公園職員に別れを告げ、公園を南下する。帰りは内陸部のバイパス道路を通る。片側2車線の高規格道路だ。国立公園内にもかかわらず、見渡す限りの伐採跡地が視界に飛び込んでくる。
 一般的に、レッドウッドの伐採は、道路沿いに両側の木々を少し残し、その奥を皆伐するといった方法がとられてきた。そのため、伐採時期よりも前に造られた道路沿いからはこのような景色は見えない。伐採現場が見えなければ批判は起こらない。これが伐採会社の作戦だった。"seeing is believing" ということわざがあるが、しょせん人間は見えないことを理解することはできない。理解できなければ行動にもつながらない。
 ところが、それを一変してしまう「役者」が登場した。科学的なフォトジャーナリズムの先駆者である「ナショナルジオグラフィック社」である。同社は伐採の悲惨な状況を写真により世に知らしめた。人々はその写真に大きな衝撃を受け、レッドウッドの保護運動に一気に火がついた。それほど伐採の現場はひどかったのだ。
写真17:国立公園の区域外では、現在もレッドウッドの伐採が続けられている。日本の林業とは違い、かなり粗放な伐採方法がとられているようだ

 
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