この険しい山道を越えると、道路左手にクレセントシティーの町並みが見えてくる。国立州立公園の北のゲートシティー(玄関口)だ。この町にレッドウッド国立州立公園の管理事務所がある。カリフォルニア州の北のはずれにあり、オレゴン州との州境も目と鼻の先だ。事務所には立ち寄らず、最後の目的地、ジェデダイアスミス・レッドウッズ州立公園の大原生林に向かう。
州立公園を通過する車道(ハウランドヒル・ロード)は未舗装のデコボコ道だ。レッドウッドが両側に立っている場所などは、車一台がやっと通れる程の幅しかない。それだけに、車窓からの原生林の風景には迫力がある。
この森の中を、スミス川という川が流れている。この川は、米国でも数少ないダムの造られていない河川で、水は透明で青い。サケやマスが遡上していくのが肉眼でも見える。もちろん、これらの魚は全くの天然ものだ。
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写真14:ジェデダイアスミス・レッドウッズ州立公園のスタウトグローブ(スタウトの森)に横たわる倒木。写真右下が筆者 |
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写真15:スミス川の透明な水の流れ |
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写真14-2:原生林の中を通るハウランドヒル・ロード
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ここでは州立公園のレンジャーが案内してくれた。この大原生林はレッドウッドの平地林の中でも有数の規模と質を誇り、森の雰囲気は神々しいほどだ。都知事は、この州立公園の管理の課題や利用者管理などについて説明を受けながら、森の中を歩く。そして、ふと振り返り、
「君は伊勢神宮の森に行ったことはあるかい?」
と語りかけてきた。
「この森は確かにすごい。だけど、見方をかえれば昔から残ってきたというだけだ。伊勢神宮の森は、日本人がその文化の中で、時代を越えて守ってきた。帰国したらぜひ行ってみるといいよ」
私にとって“原生林”はあこがれであり、このレッドウッドの森林こそ、私がアメリカ国内で見てきた森の中で文句なしに一番の森林だった。それだけに、知事の言葉には、「あっ!」と気づかされるものがあった。日本のこともろくに学ばずにアメリカに来ても、その本質をつかむことは難しい。
日本では、「カミ」というものを介して、人が森林と世代を超えた関係を維持してきたという面がある。いずれにしても、「レッドウッド」と「伊勢神宮」をごく自然につなげてしまう、そういった感覚こそ、日米の自然観の違いを理解するために必要な能力なのかも知れない。