「鈴木さん、今朝の新聞を見ましたか?」
都知事一行が出発する日の朝、東京都のMさんに声をかけられた。
「これですよ、これ」
地元紙だが、一面トップに、都知事一行のレッドウッド国立州立公園訪問を報じる記事がカラー写真とともに掲載されている。この扱い方は別格だ。
「東京都知事/巨木の森を訪問」という見出しが踊る。
さらに、写真をよく見ると私たちの姿も知事の両側に写り込んでいる。野外学校での昼食会で、知事がネイティブアメリカンの工芸品に見入っているシーンだった。
「いい記念になりましたね」
記事もかなり好意的な内容だった。国立州立公園の両所長が写っていなかったのはさすがに少し気が引けたが、しょうがない。いずれにしても、レッドウッドが新聞のトップを飾ったのには変わりがない。
おそらく読者にとっては、
「このボランティアは誰だろう?」
「日本人が国立公園で何しているの?」
そんな素朴な疑問がわいてくるだろう。
写真の中の私たちは、おそろいのボランティア用の帽子とトレーナーを着ている。いわゆるボランティアユニフォームだ。私たち2人が知事の両側にひかえるだけで、「国立公園」にちなむ様々なストーリーやメッセージが発信されることになる。アメリカの国立公園は、こういった絵になる演出に事欠かない。また、それを市民も期待しているのだ。
「じゃ、お二人さん、お世話になりました」
知事はいたずらっぽく笑って、颯爽と搭乗口に消えた。
知事一行を乗せた飛行機が飛び立つのを見送った後、さっそく新聞を買いに行く。アメリカでは、お金を入れて新聞を取り出すタイプの自動販売機が街角に設置されている。1回お金を払って扉を開けると、構造上は何部でも持ち出すことができる。せっかくなので2〜3部とろうとすると、後ろに並んでいた初老の女性が私たちに声をかけてきた。
「この写真はあなたたちじゃない?」
"Yes" と笑い返しつつ、1部だけ新聞を取り出して扉を閉めた。