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2008年環境重大ニュース
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第19話) アラスカへ(その1)
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Issued: 2008.12.11
アラスカへ(その1)[2]
 目次
野生生物保護区の職員
モニタリングの目的とボランティアの貢献
キーナイ国立野生生物保護区
写真13:魚類野生生物局の生物学者とアリューシャンカナダグース(写真提供:米国内務省魚類野生生物局)

 また、キツネもアリューシャン列島及び千島列島全域で海鳥の繁殖に大きな影響を与えている。
 「ロシア人及びアメリカ人毛皮業者により持ち込まれたキツネによって、アリューシャンカナダグースが絶滅したと一時は考えられていました。ところが、奇跡的に繁殖コロニーが発見され、現在徐々に分布域を広げています。そういった保護増殖対策にも取り組んでいます」
 キツネの駆除はすでに40年間の実績があり、のべ3,500〜3,600万エーカー(約1,420〜1,460万ヘクタール)の島で駆除を完了しているそうだ。駆除面積は年により異なる。2004年は職員2名、3ヶ月で20,000エーカー(約8,100ヘクタール)を処理し、前年は8名を2名ずつの4グループに分けて、180,000エーカー(約73,000ヘクタール)を処理したそうだ。

 「アホウドリ保護をめぐっては、FWSと漁業関係者が数十年間敵対してきたため、保護対策も進展しませんでした」
 アホウドリは、はえなわ(延縄)漁で流される釣針にかかって死んでしまうことが多い。このような混獲が個体数の減少に大きく影響している。ところが、絶滅危惧種法が施行されて、その対立関係に変化が見られたそうだ。
 「法律により、アホウドリを殺傷すると漁を打ち切らなければならなくなってしまいました。このため両者は争うことをやめ、『どうすればアホウドリがハリにかからずに済むか』という課題に対して、協力して取り組むようになったんです」
 検討の結果、はえなわに沿って長い吹流しを流すことが効果的だということがわかってきた。このため、FWSはこの吹流しを大量に購入し、漁船に提供することにした。その見返りとして、混獲の情報を報告することを求めた。これにより、混獲の状況がある程度正確に把握できるようになった【3】
 「アラスカ原住民との関係についても同じことがいえます。ただ単にそれぞれの島々に上陸して外来種を駆除しているだけでは、理解も協力も得られません。外来種の問題等を指摘、説明して理解を求めることが必要だということがわかってきました」
 ロシア人の導入した外来のキツネは、原住民にとっては狩猟の対象になる。ところが、実はキツネは毛皮としての市場価値が低くなってきている。それに対し、カモ類は原住民の重要な収入源であり、タンパク源でもある。キツネの除去によりカモの数が増える方がメリットも大きい。この点について根気強く説明したところ、原住民の全面的な協力が得られたそうだ。
 「言い換えれば、それぞれが自分の組織の中だけに閉じこもるのではなく、どうやって両者が合意できるか、どのようにそれぞれの制度ややり方を変えていくべきかを考えるようになったということですね」
【3】 吹流しによる混獲防止対策に関する解説の事例(魚類野生生物局文書)
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野生生物保護区の職員
 「この事務所の職員は、長期間この保護区に勤務する職員が多いんです。職員の給与はGS級(General Schedule Level)と号(Step)により決まりますが、このGS級はポストごとに決まっていて、例えば9〜11級のポストは、異動しない限り12級以上の級にはなれません。管理職になりたい職員は、短期間で多くの職を経験し、級をあげていく必要があります」
 同じ級でも号が10まであり、勤続年数により少しずつ給与額が増えるようになっているそうだ。ただ、昇給幅は1号で年額500〜800ドル程度で、5年目までは1年に1号上がるが、6年目以降は2年に1号ずつ上昇し、10号で昇格が止まる。

 「連邦政府職員の給与は一般の民間企業に比べて安い。それでもこの保護区での仕事を選ぶのは、職員にとってこの仕事の魅力が大きいということの表れといえます」
 この保護区に勤務する生物学者は、最短でも8年程度勤務し、15年間以上勤務している職員も少なくないそうだ。
 「私は1971年にFWSに採用されてから5ヶ所程度の保護区に勤務していますが、ほとんどアラスカ州内です。この保護区は、船舶の操作や地理的な感覚をつかむ必要があるので、仕事に慣れるまで最短で5年間は必要なのです」
モニタリングの目的とボランティアの貢献
 「保護区で行われているモニタリングは、この保護区設立にあたって、区域内にどんな生物がどのくらい生息していて、それがどのように変化したかを記録する目的で開始されたものです。保護区の管理にはインベントリー(生物目録)の作成と定期的なモニタリングが必要不可欠です」
 1975年より行われている保護区内の鳥類の繁殖状況に関するモニタリングは、保護区内10箇所を対象としている(結果は毎年”Breeding status, Population Trends and Diets of Seabirds in Alaska”として取りまとめられている)。調査結果から、地球規模の海洋環境変化の理解につながるようなデータが得られているそうだ。
 「問題は、これが商業的漁業の影響なのか、自然のプロセスなのか、また、エルニーニョなどの影響であるのか明らかにする必要があるというです。言い換えれば、何が自然界での正常な変化の範囲であるのかを、何が異常な状態であるのかを明らかにして、対策を講じる必要のある閾値(いきち)を設定することです」
 モニタリングは、長期間に渡って継続して仕事をしていくことが重要だ。無理のない範囲で、有効なデータを安定して積み重ねていくことが重要になる。
 「残念ながら、この保護区には常勤職員は25名しかいません」
 保護区の面積からすると驚くほど少ない。
 「職員をカバーするのが、研修生とボランティアです。生物部門だけで70名が勤務しています。この他、ビジターセンターにも20名程度の研修生とボランティアがいます」
 業務が集中する5〜9月にもっとも人手が必要となる。加えて、2〜3月も作業が発生する。島全体が雪で覆われ、動物が海岸線に降りてくるために、外来生物駆除の適期となるからだそうだ。
写真14:保護区の調査船Tiglaxからボートで島へ向けて出発する調査員(写真提供:米国内務省魚類野生生物局)

 「保護区には専用の船があって、職員や研修生を目的の島に下ろしたり物資を運んだりしています。年間32,000キロメートルほども航行しています」
 ここでの勤務は寒そうだが、アリューシャン列島の島々で半年間も研修できたら、面白い経験が積めるだろう。
 「バーノンさん、今日はありがとうございました」
 あっという間に約束の時間が来てしまった。最後に3人で記念写真をとってお別れする。もう一度ビジターセンターに立ち寄り、先ほどは見ることができなかった保護区の調査船に関するドキュメンタリーフィルムを見てから事務所を後にする。北太平洋に点在する島嶼を行き来する調査船と、そこからゴムボートで島へ向かう若い調査員達の姿がとても印象的だった。
写真15:調査船内の様子(写真提供:米国内務省魚類野生生物局)
写真15:調査船内の様子(写真提供:米国内務省魚類野生生物局)
写真16:ボートでの上陸の様子(写真提供:米国内務省魚類野生生物局)
写真16:ボートでの上陸の様子(写真提供:米国内務省魚類野生生物局)
キーナイ国立野生生物保護区
 ホーマーを出発し、次の目的地であるスワードへ車を走らせる。天気がよく、左側には雄大なクック湾とチグミット山脈の風景が広がる。高台には何箇所も駐車場があり、それぞれにすばらしい風景を楽しむことができる。停車しては写真を撮ったりしているのでなかなか先へ進まない。スワードへは、アンカレッジ方面に少し戻り、タルキートナという町から分岐する車道を南下する。
 タルキートナには、キーナイ国立野生生物保護区のビジターセンターがある。建物はかなり大きな木造構造物だ。内部の展示は剥製などが多く、いろいろな野生生物の毛皮や角、ヒズメの実物が展示してあって、自由に触ることができる。それほど目新しいものはないが、この地域の野生生物について必要かつ十分な情報を得ることができる。白くて似たような姿をしたドールシープ(ヒツジのなかま)とマウンテンゴート(ヤギのなかま)の区別ができるようになったのはありがたかった。
写真17:高台の展望台からの風景
写真17:高台の展望台からの風景
写真18:キーナイ国立野生生物保護区のビジターセンター
写真18:キーナイ国立野生生物保護区のビジターセンター

○キーナイ国立野生生物保護区(Kenai National Wildlife Refuge)

写真19:保護区の入口標識  キーナイ国立野生生物保護区は、キーナイ半島に生息するムースの個体群を保護することを目的として、1941年に設立された。その他にも、この保護区にはドールシープ、マウンテンゴート、カリブー、コヨーテ、オオカミ、ヒグマ、ブラックベアーなどが生息する。保護区には、氷河のある山岳地帯、ツンドラ、湿地、広葉樹を主体とする森林などが存在し、アラスカでみられる様々な生息環境の縮図となっている。面積190万エーカー(約77万ヘクタール)のうち、135万エーカー(約55万ヘクタール)がウィルダネス地域に指定されている。
 アラスカのほとんどの国立野生生物保護区は車道でのアクセスが困難であるが、キーナイ保護区内には車道も通っている。アンカレッジからも近く、車で気軽に訪問できる貴重な保護区といえる。
写真19:保護区の入口標識
 この国立野生生物保護区は、これから向かうキーナイフィヨルド国立公園とも境界を接している。面積は約77万ヘクタールあり、かなり大きな保護区といえる。
 ビジターセンターの周囲には簡単な周回歩道もあった。周回歩道は、細いシラカバかハンノキのような林を抜け、川沿いの低い湿地帯まで続いている。湿地帯の木道は幅員も狭く、国立公園に比べると簡素なつくりだ。基礎は、杭を打ち込む代わりに、横たえた丸太の上に木道が固定されている。春など、雪融け水があふれると動いてしまうだろうが、据えなおしも楽なのではないだろうか。湿地帯の風景はそれほどめずらしいものではなかったが、広々としていて、いかにもいろいろな野生生物が生息しているようなところだった。
周回歩道の標識。簡素なつくりだ
写真20:周回歩道の標識。簡素なつくりだ
湿地帯の木道は、国立公園のものに比べ幅員が狭い
写真21:湿地帯の木道は、国立公園のものに比べ幅員が狭い
杭の代わりに材木が横たえてある
写真22:杭の代わりに材木が横たえてある
スワードに向かう途中の風景。氷河のためか、川の水は不思議な色をしている
写真23:スワードに向かう途中の風景。氷河のためか、川の水は不思議な色をしている
 駐車場に戻り、脇に建てられていた東屋でサンドイッチを食べ、スワードへ向かう。散歩したおかげで、運転でこわばっていた筋肉も少しほぐれたような気がする。

 スワードに続く車道は、高い山岳地帯を縫うように続いている。ふもとの針葉樹と、山腹のツンドラの紅葉、そして険しい岩肌がきれいなコントラストをなしている。川が平行して流れているが、氷河から流れ出る水のために白濁しており、まさに「水色」をしている。不思議な色だ。少し魚くさいにおいがすると思ったら、河原のあちこちにピンクの婚姻色に染まったキングサーモンの死骸が打ち上げられている。

 「あれ、動物じゃない?」
 妻が、対岸の岩肌を指差す。白っぽいものがいくつか動いているようだ。標高も高いところで、肉眼でようやくわかる程度。双眼鏡を取り出して見てみると、ドールシープと呼ばれる野生のヒツジが岩肌を登っているのが見えた。近くの展望台には大きな双眼鏡が備え付けられていて、簡単な解説板もある。何気なく、あちこちに野生生物が出没することに驚かされる。
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