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2008年環境重大ニュース
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第19話) アラスカへ(その1)
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Issued: 2008.12.11
アラスカへ(その1)[4]
 目次
クジラ出現
ホルゲート氷河
港にて
クジラ出現
 「あれはベイトボールと呼ばれるものです」
 船の前方の海面に、海鳥が群れ集まっている。どことなく海面も盛り上がっているように見える。
 「これは、カタクチイワシの群れです。あまりにも数が多くて、中心部では酸欠になり死んでしまう魚も出るほどなのです」

 ベイトボールに群れる海鳥の写真を撮ったりしていたところに、レンジャーの声が響く。
 「皆さん、前方にクジラがいました!」
 この一言で、船の中は一時騒然となった。まず、客室にいた乗客がほぼ全員甲板に出てきた。そしてクジラの見える船首部分に押しかけた。体の大きなアメリカ人が群らがると、壁のようになってしまい前が見えない。クジラは、ベイトボールに頭をつっこんでえさを食べているようだ。船を気にしてか、少しずつ移動している。船の方も、クジラの後を追うように移動する。
 船の中は騒然としていて、
 「あっちだ」とか「こっち」だとか、「頭を出した」「飛んだ」などとすごい騒ぎになっていた。
 「船長さんも写真をとってるわよ」
 妻も呆れ顔だ。民間のツアー会社だからなのかもしれないが、国立公園らしからぬ「海のサファリパーク」ツアーに私たちは少し興ざめしてしまった。クジラもあまり見えないので、その後は、舷側からさっきまでベイトボールだったあたりを双眼鏡で見てみたり、写真を撮影したりした。周辺には満腹で飛べなくなってしまいじたばたしているパフィンとか、いろいろな珍しい海鳥が飛び回っていた。
ホルゲート氷河
写真37:ホルゲート氷河

 昼食後は、いよいよホルゲート湾に入っていく。次第に、氷河の破片が流れてくるようになる。湾は氷河に削られたU字谷で、両側に絶壁の岩肌が迫る。この湾の一番奥の部分ではホルゲート氷河の末端が海に入り込んでいる。1日に約30センチの速度で進む氷河は、海に達すると大きな崩壊を起こして海に崩れ落ちる。氷河の崩壊を直接見ることはなかなか難しいそうだが、巨大な氷壁が聳え立っている様だけでもものすごい迫力だ。
 「クマがいました」
 また船の中は騒然とする。クジラほどではないが、「あっちだ」「こっちだ」などの声があちこちから聞こえる。ここでも、アメリカ人の哺乳類に対する興味というのは相当なものだと実感する。
 湾の最奥部では、目の前に氷河の壁が迫ってくる。気温もぐっと下がり、風も凍るようだ。海水もすっかり灰色に濁っている。

 「しばらくエンジンを止めて待ってみます」
 船長のアナウンスだ。エンジンが止まると、氷河の下から勢いよく流れ出る灰色の濁流のドウドウという音が聞こえてくる。
 「コロコロ」
 時折、上の方から氷の塊りが転げ落ちてくる。
 しばらく時間が経ち、乗客もあらかた記念撮影などを終えた。それでも崩壊は起きない。

 「今日は残念でした。そろそろ帰ります」
 残念ながら、帰る時間になってしまったようだ。いい加減体も冷えてしまって、乗客も「そろそろいいかな」と思い始める頃合だった。

 しばらくして、右手に白い粒のようなものが岩肌に見える。
 「コースタルマウンテンゴートです。海の近くに棲むマウンテンゴートは個体数も少ないんです」
 確かに、絶壁のような崖の途中に、白い粒が動いている。こちらに気が付いたようで、上の方に逃げようとしている。とても用心深い動物らしい。子ヤギが、ゴールデンイーグルやハクトウワシに狙われるために、子育ての時期は特に敏感だそうだ。車道と違って船からだと、意外と近い。それだけにヤギの方も緊張するだろう。珍しいものを見るのはやはりうれしいが、その一方で気も引ける。私たちは、群がる船客の只中でじっと双眼鏡に見入った。
港にて
写真38:帰りは少し岸から離れた航路をとったが、目の前には相変わらず氷河地形の山並みが広がっていた

 帰途は船もスピードを上げたので早かった。ほとんどの乗客は船室に入ったが、私たちはそのまま甲板に残った。かなりしっかり防寒対策をしていたので、それほど寒くはなかった。氷河によって削り出された雄大な景色がすばらしく、なかなか見飽きるものではない。

 スワードの港町が近づいてきた。町並みはうっすらと夕闇に包まれている。
 船を降り、また少し港を散策する。以前トドを見た桟橋辺りに戻ってくると、魚を載せた大きな手押し車を押している人たちがいた。手押し車も大きいが、そこに載っている魚はさらに大きく、少しはみ出している。ハリバットだ。どうやらこの人たちは釣り船の業者で、客の獲物を運んできたところのようだった。
写真39:写真手前がハリバット、奥がリングコッド

 「ドサッ」と音をたててハリバットが引きずりおろされる。すると、その下からは大きなリングコッド(タラの一種)が出てきた。その次は、何匹かのキンメダイのような深海魚。鮮やかな赤色はキンメダイそのものだが、サイズは比べ物にならないほど大きい。重量でいくとサケかそれ以上ありそうだ。キングサーモンはとりあえず脇の方に並べられている。無造作に10匹ほどもいる。

 眺めていると、次は、獲物を吊り下げる準備に入る。大きな掲示板から滑車を使って、一本の太い横木がぶら下げられている。その横木についている鉤に魚のエラのあたりを引っ掛ける。大きな獲物は二人がかりだ。大きいものから順にぶら下げ、小物は脇の辺りに並んでいる。最後に、何人かでロープを引っ張り、魚のぶら下がった横木を高く引き上げる。

 みるみる人が群がってくる。掲示板の上には、誇らしげに釣り船会社の看板が大きく掲げられている。「当社に任せればこんなに釣れますよ!」というわけだ。釣り人が恥ずかしげにその前に立って記念撮影。おそらく一世一代の「漁獲量」だろう。
写真40:獲物の品評会!? それにしても見事な魚ばかりだ

 今日のクルーズといい、この釣り船といい、ここの人たちは自然を「人寄せ」とか「金儲けのネタ」としか考えていないのではないかという思いがよぎる。こんなやり方をしていたらすぐに漁場は荒れ、またアメリカ人の大好きな哺乳類の生息環境も悪くなっていくはずだ。消えうせようとする“最後のフロンティア”は、やはり他の“消えてしまったフロンティア”同様、非持続的な乱獲の対象になっているようだ。

 港に並ぶレストランの一つに入り、夕食をとることにした。
 「あのカサゴみたいな魚のフライがあるらしいわよ」
 ロックフィッシュというその魚は、見かけは悪いが脂が乗っていてとてもうまい。本当は煮付けにして食べたいところだが、ここはフライでがまんする。
 「この切り身大きいわねえ」
 揚げたての白身魚のフライはとてもおいしかった。量も多いのに安い。考えてみれば、私たちもさっきの釣り人達を笑えない。こうして、安くておいしい天然の魚を好んで食べているし、日本に輸入されている海産物の多くは、アラスカで非持続可能な方法で獲られたものかもしれないのだ。回転寿司とか、世界各地から輸入されている、やけに安い天然ものの「キンメダイ」とか「アイナメ」の仲間に、私たちの食生活は支えられている。
 この日のクルーズも夕食もすばらしいものだったが、同時にいろいろなことを考えさせられる1日となった。
<妻の一言>
 
 アンカレッジに出発する日の午前中、スワードの「アラスカシーライフセンター」という施設に行きました。これは、1989年に発生したエクソン・バルディーズ号の石油流出事故を契機に設立された水族館のような施設です。入場料は1人14ドルでしたが、入場料収入は全部餌代に消えてしまうのだそうです。

 入口を入って2階に上がると、小さな魚が入った水槽が置いてあります。アラスカというと大きな魚とかすごい哺乳類が頭に浮かびますが、それには理由があります。この水槽に入っていたのは、小さなカタクチイワシでした。海鳥や様々な哺乳類の大切な餌になる魚で、アラスカの「縁の下の力持ち」というわけです。
 展示は、国立公園のビジターセンターよりずっと充実していて、ラッコとかアザラシの毛皮が実際に触れたりしました。また、漁師の網がぶら下がっていて、左側が1990年初頭のもの、右側が90年代の終わりくらいのものが並べられていました。もちろん模型ですが、右側の網は大きく膨らんでいます。中に入っているのはクラゲでした。クラゲの大発生で漁業に大きな被害が出て、多くの漁師が廃業してしまったそうです。
 また、トドの展示にも驚きました。トド(ステラーズシーライオン)は、1997年に、アラスカに生息していたもののうち8割が死んでしまったそうです。それ以来絶滅危惧種に指定されています。展示は、トドの胃の内容物に関してでした。大量死の前は、胃袋の6割はスケトウダラで、残りがニシン、イカ、シシャモ(カペリン)だったそうです。ところが、大量死の後は、スケトウダラが4割に減っていて、タコが3分の1、残りがブラックフィッシュという魚になったそうです。それまで食べていなかったものをしょうがなく食べているということでしょうか。タコやブラックフィッシュは脂分が少なく、あまりいい餌ではないそうです。アラスカの海は、以前に比べ約3℃程水温が上昇しているそうです。こうした餌や水温の変化は海洋の様々な生きものに大きな影響を与えていると言われています。
写真41:トドの水槽の前で  展示スペースの次は、いろいろな生きものの水槽が並んでいます。水槽は、上からも横からも観察できます。解説板もとても詳しく書かれています。
 アザラシの水槽に行くと、ちょうど餌をもらっているところでした。飼育員は、アザラシに「ちょうだい」とか「待て」とか、ちょっと曲芸のようなことをさせながら、歯の状態を確認したり、体を触診しています。
 ところで、この近くでは、春は岸の近くでカヌーに乗ることが禁止されています。アザラシの子どもをねらうシャチが静かに近づく様子にカヌーがそっくりなので、母親に大きなストレスがかかるのだそうです。特に、カヌーに乗る人間の姿は、ちょうどシャチの直立した背びれとそっくりなのだそうです。
 トドの水槽を下から見ると、トドが水槽の中をぐるぐる回りながら、こちらの方を横目で見ながら通り過ぎていきました。ためしに手を振ってみると、体を水槽のガラスの壁に押し付けるようにして泳いでいきます。
写真41:トドの水槽の前で
 パフィンの水槽では、ちょうど餌の時間でした。水槽には切り身とか小魚とかが少しずつ投げ込まれます。すると、パフィンが水の中を驚くようなスピードで泳ぎ回ります。昨日船から見た「飛べない鳥」とは別の生きもののようです。水の中で、うまくくちばしでつまんだり、つかみ損ねてまた餌を追いかけて潜っていったり。とにかく潜水が得意なようです。かなり長い時間水の中を泳ぎ回っています。
 食事が終わると、今度は水面で水浴びです。私たちは慌てて2階に上り、水槽の上からそのしぐさを観察しました。一見するとおぼれているように見えるほど、一生懸命に羽づくろいしています。時にはひっくりかえってしまっています。厳しいアラスカの海では、これだけ念入りな羽の手入れが必要なのでしょう。
写真42:パフィン
写真42:パフィン
写真43:アンカレッジに向かう道路から見た風景  最後にもう一度トドの水槽に行ってから、センターを出ることにしました。入口のすぐ近くにギフトショップがあったので、立ち寄ってみると、パフィンのしおりとかちょっとしたお土産がたくさんありました。アメリカには意外と手ごろなお土産がないので、いろいろ小物を買い込んでしまいました。
 センターを出ると、天気もよく気温も上がっていました。海を見ながらお弁当を食べて、来た道をアンカレッジに向かいました。帰りは来た時と打って変わっていい天気です。青空に映える紅葉がとてもきれいでした。
写真43:アンカレッジに向かう道路から見た風景

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記事・写真:鈴木渉(→プロフィール

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