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No. 2008年環境重大ニュース
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Issued: 2009.01.07
2008年環境重大ニュース(海外編)
 2008年は、皆様にとって、どのような1年間でしたでしょうか。また、2009年はどのような1年になりますでしょうか?
 国際的な面では、2008年は、地球温暖化交渉の最終目的地である2009年末のコペンハーゲン会議(COP15/COP5)に向けた中間地点でした。これまで1年をかけて、地球規模の長期的な協力行動や、京都議定書の第一約束期間終了後(2013年以降)の先進国の削減目標などについて、各国が話し合いを進めてきましたが、12月のポズナニ会議(COP14/MOP4)では、先進国と途上国、また先進国間の意見の隔たりが大きく、長期・中期の削減目標、途上国の参加などについて具体的な合意には至りませんでした。
 残り1年で全ての交渉をまとめることができるのか、かなり不安も残りますが、2009年から全面「交渉モード」に入るということなので、応援していきましょう。
 また、2008年は4年に一度のアメリカ大統領選挙の年でもありました。民主党のオバマ候補が選出され、国内外での地球温暖化対策の進展に期待がかかります。温室効果ガス排出量世界一のアメリカが変われば、世界も変わると信じて。
 そして、ミャンマーでのサイクロン、カリブ諸国を襲ったハリケーンなどの異常気象、さらに世界を震撼させた金融危機など、大変なニュースも多い一年でした。金融危機に対しては、これを環境対策を遅らせる言い訳にさせず、環境やクリーンエネルギー分野への投資を重点的に行い、雇用拡大を目指す「環境版ニューディール政策」を展開するようUNEPなどが提唱しています。エコで経済復興を実現、新しい大きなチャレンジになりそうです。
 この他にもいろいろな出来事のあった2008年、海外ニュースでも振り返ってみたいと思います。
第1位:アメリカ オバマ次期大統領 地球温暖化対策に強い決意
 11月のアメリカ大統領選挙で「チェンジ(変革)」の大旋風を巻き起こした、オバマ次期大統領。
 ブッシュ政権下で京都議定書から離脱してしまったアメリカですが、オバマ氏は、「アメリカは再度、交渉に精力的に参加し、気候変動に関する国際協力の新しい時代をリードする」と国際交渉への強い決意を表明しています。また、国内では、風力発電ソーラー発電などクリーンエネルギーを促進して雇用創出を図るというビジョンを掲げ、CO2排出量取引制度にも前向きです。閣僚人事でも、ホワイトハウスに新たにエネルギー・気候変動問題担当の大統領補佐官を置き、クリントン政権でEPA長官として活躍したキャロル・ブラウナー氏を起用するなど、今後が楽しみです。
 やや停滞気味の気候変動交渉にも「チェンジ」をもたらしてくれるのか、2009年に向けて期待が高まっています。


第2位:EU 気候・エネルギー政策パッケージに合意
 EUが1年をかけて合意に漕ぎ着けた「気候・エネルギー政策パッケージ」。
 「20-20-20」といわれる3つの目標((1)温室効果ガス排出量を2020年までに20%削減、(2)エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーのシェアを20%に拡大、(3)エネルギー効率を20%アップ)の達成を目指し、EUの温室効果ガス排出量取引制度(EU-ETS)の改定、再生可能エネルギーの導入促進、環境に配慮した炭素回収・貯留(CCS)のための法的枠組み、自動車からのCO2排出量削減といった対策が、まさに、てんこ盛りです。
 1月に案が発表されてから、EU加盟国や欧州議会を巻き込んだ喧々諤々の議論を経て、なんとか年内にまとめきれたのは、EU議長国を務めていたフランスの力量も大きかったように思います。

ブリュッセル EU本部
ブリュッセル EU本部



第3位:相次ぐ異常気象
 2008年は、5月のミャンマーのサイクロン、9月のカリブ海やアメリカのハリケーンなど異常気象が相次いだ一年でした。ミャンマーのサイクロンは8万4500人が命を落とす大惨事となり、四川大地震の死亡者数を上回ってしまいました。気象関連の自然災害による損害は、今や地震による損害を上回る勢いだそうで、地球温暖化が進むとさらに異常気象が頻発するおそれも懸念されています。
 この他、2008年は、北極の海氷量が観測史上2番目に少なかったことが、世界気象機関(WMO)のデータで明らかになっています。北極の海氷面積は100年前の9000km2から、現在はなんと1000km2にまで縮小しているのだとか。
 また、気温も観測史上10番目に暖かい年にランクインする見込みです。実は2008年はラニーニャ現象(太平洋赤道域からペルー沿岸にかけて、海面水温が低い状態が続く現象)のため、例年よりは涼しかったはずなんですけどね。
 2009年の地球温暖化交渉は、待ったなしの状況です。


第4位:ドイツ 生物多様性条約第9回締約国会議
 ドイツのボンで、5月19〜30日まで、生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)が開催されました。
 「2010年までに、生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」というなかなか大変な目標(2010年目標)に向けて、課題や対策の強化について話し合った他、特に途上国からの要望が強い「遺伝子資源へのアクセスと利益の配分」をめぐる国際的な枠組づくりについて、2010年までに交渉をまとめるためのスケジュールを決定しました。
 また、企業による生物多様性保全を目的にした国際イニシアティブ「企業と生物多様性」が発足したり、「生物多様性の喪失による経済損失(生物多様性版スターンレビュー)」の中間報告が公表されたり といった点でも注目を集めた会議でした。
 生物多様性条約の締約国会議は2年に1度の開催ですが、次回、2010年のCOP10は日本の名古屋で開催されます。大きな節目の年の会議に、世界中が注目!

生物多様性条約第9回締約国会議のポスター(ドイツ連邦環境省提供)
生物多様性条約第9回締約国会議のポスター(ドイツ連邦環境省提供)



第5位:「金融危機」を環境に配慮した経済成長の契機に
 アメリカのサブプライム問題に端を発し、世界中を揺るがせている金融危機、一見、環境問題とは縁遠いようにも思えますが…「金融危機」で地球温暖化対策や省エネ対策が後退してしまうのではないか という懸念が駆け巡りました。
 こうした事態を受けて、気候変動枠組条約事務局のデ・ブア事務局長やアメリカのゴア元副大統領らは、むしろ、金融危機を契機として、短期的な利益を追い求めてきたこれまでの投資の方針や経済成長のあり方を見直し、長期的な視野に立った環境投資やクリーンエネルギー投資に方向転換するよう呼びかけました。
 世界各国で景気対策が急がれていますが、国連環境計画(UNEP)では、世界恐慌を克服するためにアメリカのルーズベルト大統領が実施した「ニューディール政策」に倣って、環境分野への投資を重点的に行い、雇用拡大を目指す「環境版ニューディール政策」を提唱しています。


第6位:中国 北京オリンピック 環境技術も活躍中
 8月には中国で北京オリンピックが開催されました。
 北京の大気汚染を心配して、マラソンを辞退する選手も出ましたが…自動車交通量を半減するナンバープレート規制(末尾の数が奇数か偶数かで、走行できる日を規制)、周辺の工場の閉鎖といった対策が効果を上げ、澄み切った青空が広がりました。なお、一部、雨のお陰だという説もあります。
 ところで、会場では、ソーラーエネルギーや風力発電、環境配慮型照明など最新の環境技術が秘かに活躍していたのをご存知でしょうか?
 通称「鳥の巣」と呼ばれていたメインスタジアムでは照明にソーラー発電が利用され、水泳競技の会場だった「水立方」では透光性の天井や壁で自然光を取り入れる工夫がされていました。現在、急成長中の中国の再生可能エネルギー、環境技術市場ですが、その一端を垣間見ることができました。


第7位:EU REACH規制が本格始動
 EUの新しい化学物質規制「REACH」が、6月から本格的にスタートしました。
 REACHは、化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則で、約3万もの化学物質をカバー。1トン以上の化学物質を製造・輸入する企業は、安全性等を示すデータを欧州化学物質庁(ECHA)に登録しなければなりません。
 化学業界の反対もあり、制定まで大いにもめたREACHでしたが、欧州化学物質庁もフィンランドのヘルシンキに新設され、6月1日から、企業による化学物質の予備登録の受付を開始しました。予備登録の期限である12月1日を過ぎると、企業は直ちに必要な文書を全て準備して正式登録するか、さもなければ市場から即時撤退するか という選択を迫られるため、EU各国は予備登録に遅れないよう呼びかけるのに躍起になっていました。

ヘルシンキに設置された欧州化学物質庁(ECHA)(©EU)
ヘルシンキに設置された欧州化学物質庁(ECHA) (©EU)



第8位:イギリス 気候変動法案 温室効果ガスを2050年までに1990年比80%減
 地球温暖化防止に熱心に取り組んでいるイギリスですが、またまた大胆なことをやってくれました。
 2050年までの気候変動対策を盛り込んだ「気候変動法案」が議会に提出されていたのですが、「CO2排出量を1990年レベルから、2050年までに60%削減する」としていた目標をさらに強化。「1990年レベルから、2050年までに80%削減する」としたのです。法的拘束力のある目標ということなので、これは驚きでした。
 また、10月の内閣改造では、エネルギー・気候変動省を新設。これまで環境・食糧・農村地域省(DEFRA)が担当していた気候変動分野と、ビジネス・企業・規制改革省(BERR)が担当していたエネルギー分野を統合し、強力な行政機関を誕生させました。


第9位:フランス 環境グルネル実施法が成立
 フランスでは、昨年、サルコジ大統領が有識者を集めて設置した「環境グルネル」(環境懇談会)が、地球温暖化、生物多様性の保全といったテーマに関する様々な行動プログラムを提言しました。
 2008年は、この提言を具体化する年。環境グルネルの約束を実施するプログラム法案(グルネル第1法案)はその柱となるもので、地球温暖化、生物多様性・自然環境の保全、環境・健康リスクの防止、ガバナンス等の分野について、目標と対策が盛り込まれています。10月には、議会でほぼ全会一致で可決されました。
 この他にも、環境グルネルの提言を実行に移して、CO2排出量が少ない自動車に報奨金・多い自動車に課徴金を課す制度(ボーナス・ペナルティ制度)、全国再生可能エネルギー計画、白熱電球の削減や省エネ電球の普及、容器包装の削減・リサイクルの強化、光害対策など様々な取り組みを打ち出しました。
 EU議長国としても奮闘していましたが、国内でも大車輪の活躍のフランスでした。

再生可能エネルギーの利用も促進
再生可能エネルギーの利用も促進



第10位:バイオ燃料は本当に環境にやさしいのか?
 地球温暖化防止に役立つクリーンな燃料として、期待を集めていたバイオ燃料。欧米諸国ではガソリンへの混合率を決め、その割合を引き上げて促進を図ってきました。
 ところが、食糧生産と競合してしまい、食糧価格の高騰を招く、森林や草原を開墾して燃料作物を生産するとかえってCO2排出量が増え、生物多様性の喪失にもつながるといった問題点が次々と明らかになってきました。
 このため、EUでは、12月に合意された再生可能エネルギー指令の中で、バイオ燃料の持続可能性基準が盛り込まれました。生物多様性や炭素吸収源(森林、湿原など)への配慮が義務付けられ、企業は、CO2削減効果、その他の環境影響、社会的な影響等についても報告を求められる予定です。また、欧州委員会でも2年に1度、こうした事項に関する報告を取りまとめることになりました。
 バイオ燃料と生物多様性の問題は、ドイツで開催された生物多様性条約第9回締約国会議でも重点の一つとなりました。
 この問題、環境問題は常に大きな視野で、トータルに考える必要があることを教えてくれる問題です。一つの面だけ解決できた様に思えても、他の面にとんでもないツケが出てくるのでは困りますよね。


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(EICネット海外ニュース担当 源氏田尚子)
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