もちろん、法律ができればアメリカの国立公園の管理方針がすぐ変わるわけではない。制度や方針が変われば、それまで持っていた「既得権」を制限されるグループも必ず出てくる。
「この後に待ち構えていたのは、全米ライフル協会との法廷闘争でした」
1978年、国立公園局は、法律改正を受けた形で、国立公園システムのひとつである国立レクリエーション地域(NRA)内での狩猟(スポーツハンティング)を禁止した。これに対し、全米ライフル協会が、国立公園局を相手に訴えを起こした。この訴訟は、「保全(conservation)」という概念に、「狩猟」という行為が含まれるかどうか、という論争に発展した。国立公園局の設置根拠となる1916年の組織法には、目的の中に“conserve”(保全)が盛り込まれており、ライフル協会の訴訟は、「『持続可能』な狩猟はその範疇である」という主張である。
「国立公園局は、『保全は公園の資源を守ることを意味している。狩猟は認められない』と主張しました」
これに対しライフル協会は、「狩猟は資源の賢明な利用(wise use)のひとつであり、公園内での狩猟は認められるべきである」として、意見が真っ向から対立した。
「この論争は、『ライフル協会とPotter【5】との闘い』といわれました」
結局、判決によって国立公園局の主張が認められ、この論争は決着した。
「これは、ライフル協会というアメリカの巨大な利権団体に対する勝利であり、非常に大きな意味を持っていました」
この論争は、単に古くからの利権を取り除くことに成功しただけではなく、全米の世論にも変化をもたらした。つまり、国立公園システムでは、レクリエーションを目的とする公園地も含め、「自然を守り、伝えていくこと」が最優先されるという考え方が米国民に定着したのだ。
世界ではじめて国立公園をつくったアメリカですら、狩猟、伐採などのいわゆる消費的利用(consumptive use)の排除が実現したのは、ほんの20〜30年前ということになる。それも、レッドウッドの原生林伐採という大きな代償を払った上でのことだった。