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アメリカ横断ボランティア紀行(第26話)
大陸横断(デンバー)
Issued: 2010.07.15
今回訪問したサービスセンターでもっとも印象深かったのは、附属施設の「技術情報センター(Technical Information Center: TIC)だった。図書館と図面庫、そしてちょっとした印刷工場が同居したような大きな施設だ。
「ここには、全米の国立公園に関する計画や図面が一元的に保管されています」
案内してくれた図書館司書のような女性が説明してくれる。書棚には、各公園の歴代のGMP(総合管理計画)の印刷物をはじめ、公園内の資源や施設に関する計画書が整然と並んでいる。ほぼフロアを埋め尽くしている書架の列はかなりの迫力がある。
「新しい書類は電子化されていて、データも保存されています」
古い書類のスキャンも行っているそうだ。
資料の目録。現在もカードによる管理が行われている
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書類よりもすごかったのは保管されている図面の量だ。TICには国立公園内に設置されているある程度の規模以上の施設に関する図面がほとんど網羅されている。施設の図面は大判で量も多いために、保管場所の確保が難しい。整備後数年間は使用しないが、10年後、20年後に大規模修繕や改築を行う際にはこうした図面が必要になる。
図面がそのまま入る大きな引き出し型のキャビネットがずらっと並んでいる。でも、すべての図面を保管しているにしては台数が少ないように見える。
大判図面の保管キャビネット
「図面のほとんどはマイクロフィルム化して保存しているのです」
階段を下り、マイクロフィルム化している部署に案内してもらう。部屋に入ると、そこはまるで印刷工場だった。
「ここで書類のスキャンや印刷を行います。どこかの公園の計画書や図面に関するリクエストがあると、ここで印刷して発送します」
大きな印刷機や製本機などが備え付けられている。マイクロフィルムから図面を印刷する機械もあった。
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マイクロフィルムのビューアー
「ここです」
薄暗い部屋に案内される。そこには1人の男性職員がいて、照明機器のついた大きな図面台の前で作業をしている。
まず、図面を作業台の上に広げてカバーをかけ、吸引して台に圧着させる。台の両側から斜めに照明をあて、天井の方に設置されているカメラで撮影を行う。
撮影後のフィルムを現像装置に入れ、現像されたフィルムを台紙にマウントしていく。
「それぞれの図面ごとに決められた枚数のマイクロフィルムを複製して、国会図書館や国立公園などに送付するんです」
未だにデジタルではない。アナログカメラを使っている理由を伺ってみると、
「このカメラは日本製でなかなか壊れない。それに、マイクロフィルムを使うシステムが完成しているから、それを切り替える必要性があまりなかったんです。ようやくデジタル機器に切り替えることになりましたが、それまでまだしばらくは頑張ってもらわないといけません」
この職員は1年中ここでマイクロフィルムを作っているそうだ。気の遠くなることだ。
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日本では、古い図面は倉庫の奥に保管されるか、さらに古くなれば国立公文書館に移管されたりする。以前、瀬戸内海にある小さなコンクリートの橋が波にさらわれたことがあり、茨城県にある公文書館の倉庫まで図面を探しに行ったことがあった。このようなシステムがあれば、いちいちホコリにまみれながら、まる一日かけて図面を探し回る必要もなくなるだろう。
こんなところにも、巨大な国立公園システムを管理する組織の底力が感じられた。
デンバーは、高層ビルの立ち並ぶ大都会でした。サンフランシスコで見て以来、久しぶりの感覚です。
少し時間があったので、「コロラド歴史博物館(Colorado History Museum)」を訪問することにしました。
この博物館には、コロラド州を中心としたアメリカの西部開拓時代の歴史について、いろいろな展示がありました。
開拓民が集まりデンバーの町ができた頃のデンバーのジオラマがありました。町はまだできたてで、赤い土がむき出しの空き地が目立ちます。表通りに立派な家があったかと思えば、少し路地を入れば三角テントが立っています。西部開拓時代の家の模型を見てみると、家の壁が土でできていることがわかります。木材が貴重だったため、普通の庶民の家は分厚い土の壁でできていたのです。
開拓民が使っていた幌馬車も展示されていました。馬車には鍋釜はもちろん、ストーブやいす、テーブルも積まれています。大荷物を積んで大陸横断をしてきた私たちの車にも、何となく雰囲気が似ています。
ネイティブアメリカンと白人入植者との関係について、時代ごとにジオラマが作られていました。忠実に再現された模型に、アメリカの西部開拓というものがどのようなものだったのか、ということが少し理解できたように思えます。
記事・写真:鈴木渉(→プロフィール)