一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.197

Issued: 2011.08.11

【エコポイント寄附特講】ドイツの地球温暖化対策と都市・地域づくり 事例2)建築部門は地域における温暖化対策の主役

目次
市所有地販売における優先策
既存の建築物の改修の促進
改修企業の信頼を生み出す
情報不足の克服に向けた現場でのアプローチ
多様にある地方自治体の役割

 ドイツでは、総エネルギー需要の約40%、二酸化炭素排出量のほぼ20%が暖房と給湯によるもので、そのほとんどが一般家庭の消費と排出です。これらの削減のため、設計、施工、管理、改修といった住宅・建築物のプロセス全体に関わる対策が講じられます。さらに新築・改修に関係なく、多様な形態の建築物における温暖化対策が可能です。
 建築物への温暖化対策には、高度で特殊な技術を導入しなくてもエネルギー消費とCO2排出量を大幅に削減できるため、地方自治体が進める温暖化防止対策の中でも中心的な取り組みです。

市所有地販売における優先策

 住宅・建築物のエネルギー消費を低減するためには、特に新築時の取り組みが効果的です。既設の住宅・建築物と比較して、包括的に対策を実行でき、改修時には制約や障害が多くなる対策も導入しやすいため費用を抑えることができます。
 住宅・建築物のエネルギー消費は、エネルギー効率に配慮した建築構造によって大きく改善することができます。なかでもエネルギー需要量について非常に厳格な値を設定したパッシブハウス基準に基づく住宅・建築物は、省エネルギーと心地よい暮らしを同時に実現すると注目を集めています。省エネルギー政令に定められた基準(年間暖房消費量50kWh/m2)に従って建設された住宅と比較すると、パッシブハウス基準に従って建設された住宅用建築物では、エネルギー需要もCO2排出量も大幅に削減されます(年間暖房消費量15kWh/m2)。
 ハノーファー市は、現行法では強制力を持たないパッシブハウス基準を普及するために、市所有地の販売時にインセンティブを付ける対策を実施しています。

ハノーファー市内に建設されたパッシブハウス(出典:Jonas Gonell)

【事例】ハノーファー市 市所有地販売においてパッシブハウス基準の遵守を促進
 ハノーファー市(人口約52万人)は、住宅・建築物におけるエネルギー効率の向上を目的に、現行法より厳しいパッシブハウス基準を満たした住宅の普及施策を実施しています。これは、市所有の土地を購入しようとする施主に対して専門家によるコンサルティングを無料で提供し、購入希望者がパッシブハウス基準を満たした住宅の建築を決定した場合に、入札の優先権を与えるものです。また、一部の開発地区ではパッシブハウス基準の遵守を義務付けていて、条件が満たされない場合は違反金(土地代金の10%)が発生する仕組みも導入しています。
 ハノーファー市内では、市所有地における取り組みも含めて、年間の延べ床面積7000平方メートル近くのパッシブハウスが誕生しています。


既存の建築物の改修の促進

 ドイツ国内の建築物の4分の3は、住宅・建築物に対するエネルギー基準が設定されていなかった1979年以前に建てられたものです。ドイツでは、住宅・建築物の改修をおよそ25年から30年に1度の周期で実施しています。改修によって半分、特殊なケースでは90%のエネルギー消費の削減が達成できると指摘されます。国や州、地方自治体が多様な支援プログラムを実施しているものの、エネルギー効率に重点を置いた住宅・建築物の改修は、まだまだ不十分な状況にあります。

改修中の現場に掲げられた幕「改修中−CO2削減中−エネルギー削減中」。(出典:Stadt Mu(e)nster)

【事例】ミュンスター市 省エネルギー率達成度によって差をつける改修補助金
 ミュンスター市(人口約28万人)では、気候・エネルギー諮問委員会が1992年にまとめた提言書をもとに、これまで数々の地球温暖化防止対策を実施してきました。その中でも、建築物の改修に対する補助金プログラムは代表的な施策です。
 ミュンスターの住宅のうち70%が1980年以前に建築されたものであるため、改修における温暖化対策のポテンシャルが高いことは早くから注目されてきました。1997年、住宅改修に伴う補助金プログラムが導入されました。補助金プログラムは、改修によって達成される省エネルギー率に応じて助成額が前後する形式を取り、施主のモチベーションを高めています。この結果、1997年から2008年の期間で1150件の住宅の改修によって8200tのCO2が削減されました。また、温暖化対策だけでなく、経済・雇用効果も大きく、市役所が出した補助金総額530万ユーロに対して、4500万ユーロの投資が行われ、建築やエネルギーの分野で、560人分の雇用確保にも貢献しています。


改修企業の信頼を生み出す

 建築物の改修には、施主、建築家、施工業者など様々な立場の人たちが関わっています。施主にとっては、工事開始前や工事中に適切なアドバイスを受けることが重要です。一方で、これらの専門家が、最適な技術を導入しているのか素人の施主が判断するのは難しく、また地方自治体でも十分な状況把握は困難です。
 このため、ミュンスター市では独自の指針を設置して、一定以上の専門知識と技術が保障された施工業者のみが加入できるネットワークを形成しています。ネットワークに加盟している企業は、施主にとって信頼できるパートナーとなり、住宅の効果的な改修を促進しています。

ネットワーク参加企業による屋根の断熱改修作業現場(出典:Stadt Mu(e)nster)

【事例】ミュンスター市 建築物改修専門企業のネットワーク
 ミュンスター市は、地域の施工業組合と協力し、建築物改修の専門企業15社からなる地域ネットワークの形成・運営を支援しています。ネットワークに参加しているのは、暖房設備や断熱、屋根、窓、壁、タイル等の分野を業務にする施工業者で、住宅・建築物の改修に関して専門的な知識と経験を持っていることが加入の条件です。これらの企業には地球温暖化防止対策の専門家としての仕事が義務付けられています。ネットワークでは、最新の技術や法規定に関する定期的な研修会を開催して、会員企業の参加を推奨しています。さらに、「エネルギー最適化のための改修と、再生可能エネルギーの利用促進」、「環境に配慮し、省エネを実現する製品と対策の紹介」、「再生可能エネルギーとエネルギー効率に関する最新知識の習得」、「改修プロセスの全体について助言する能力を持ち、必要に応じて適切な技術を持つ専門業者を紹介すること」が定められたネットワーク独自のエネルギー法典に署名しています。また、ミュンスター市や地域施工業組合による抜き打ち検査も実施され、参加企業の技術の品質と信頼が担保されます。改修を希望する施主にとっては、専門的な知識と技術を持つパートナーを安心して選ぶことができ、不動産の価値の向上はもとより、エネルギー費用を削減して温暖化防止に貢献することができます。


情報不足の克服に向けた現場でのアプローチ

 多くの場合、住宅所有者は、改修をしようとするときに最善の方法やその経済性に関する情報を十分に把握することができていません。将来的なエネルギー価格の変動は不確定で、省エネ設備などエネルギー効率改善のための先行投資には慎重な姿勢を崩しません。
 地方自治体は、改修時に正しい情報とアドバイスを提供することで、エネルギー消費に配慮した改修を促進するとともに、改修時期に至っていない住宅・建築物に対しても、エネルギー効率の改善のための改修を促していくことが必要です。
 ラインベルク市では、建築物改修の専門知識を持つエネルギー相談員が市内を巡回し、最適なアドバイスを与えるプロジェクトを実施しています。

【事例】ラインベルク市 現場で市民に直接アドバイス「ドクター・ハウス」
 ルール工業地帯の北西部に位置するラインベルク市(人口約3万人)では、2009年11月以降、市の委託を受けたエネルギー相談員が市内の住宅を訪問し、無料でエネルギーアドバイスを提供するというプロジェクトを実施しています。2012年末まで36ヶ月にわたって実施するプロジェクト「ドクター・ハウス」の取り組みで、市内を18ヶ所に区切り、1ヶ所あたり2週間かけて、それぞれ200世帯を訪問するというものです。36ヶ月間で合計3600世帯を訪問することを目指しています。
 対象となるのは、1995年より前に建設された1世帯用または2世帯用住宅。市は、対象地区における訪問期間を設定して案内を送り、希望があった住宅に対してエネルギー相談員を派遣します。エネルギー相談員は2人1組で行動し、断熱や暖房設備の改修、窓の交換、空調技術、太陽光発電設備の設置など、様々なエネルギー改修の可能性について情報提供したり助成プログラムの助言をしたりします。取得が義務付けられている住宅の年間エネルギー消費量の表示制度「エネルギーパス」や、断熱が不十分な個所を表示できるサーモグラフィック調査などに関する情報も含みます。  助言レベルは初期レベルのもので、その後、専門のコンサルティングに依頼するための情報や連絡先も伝えます。2週間のドクター・ハウス期間中、対象地区では各種イベントが開催され、プロジェクトの認知度を高める努力も行っています。
 市の委託によってマーケティング会社が実施した調査によると、エネルギー相談員の訪問を受けた世帯の27%がすでに何らかしらの対策を実施したことが示されています。もっとも多いのが、窓の交換、屋根裏の断熱、暖房設備の交換であり、ほとんどの場合、投資費用は15000ユーロ以下でした。
 ラインベルク市は、このプロジェクトを通じて、省エネルギー政令で定められたエネルギー需要上限値よりも40%向上した住宅を普及させ、再生可能エネルギーの利用を促進し、地域経済を活性化させることを目指しており、市の住宅用建築物における温暖化対策の重要な柱となっています。

対象地区で2週間のドクター・ハウスを告知する看板(出典:Stadt Rheinberg)

対象の住宅に配布される告知チラシ。訪問予定のエネルギー相談員の紹介付き(出典:Stadt Rheinberg)


多様にある地方自治体の役割

 投資家や住宅・建築物所有者のエネルギーに配慮した建設や改修に対する対応は、生活状況や経済力、投資への対応、または価値観などによって大きな差が生まれます。また、賃貸住宅の場合には、設備の修繕・更新にかかる費用を負担するのは大家ですが、月々の光熱費は借家人が支払うため、修繕・更新にかかる費用の負担者である大家が、直接の利益を受けにくいというジレンマも指摘されています。
 地方自治体としては、住宅・建築物の一連のプロセスにおけるエネルギー効率の改善を支援することが可能です。これまで各種の補助金の設置、パンフレットの作成やイベントの実施などの間接的な活動が主な役割でしたが、このような一歩踏み込んだ直接的な対策に取り組んでいこうとする地方自治体も増えてきています。

 一般財団法人環境情報センターは、環境省・経済産業省・総務省が実施する「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業」(家電エコポイント)及び国土交通省・経済産業省・環境省が実施する「エコポイントの活用による環境対応住宅普及促進事業」(住宅エコポイント)における環境寄附団体として選定を受けております。
 皆様からお寄せいただいた寄附金は、地球温暖化防止に向けた事例収集および普及啓発に活用させていただいています。本記事はその一環として作成したものです。
 ご協力いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。

 ※詳しくはエコポイントにおける環境寄附のお礼をご覧ください

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記事:近江まどか(プロフィール

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