環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第6講 半年継続記念 読者の声大特集(付:コーべ空港断章)
第5講 脱ダム、自然再生、環境教育 三題噺
第4講「或る港湾埋立の教訓」
第3講「Hキョージュ、水フォーラムを論じ、
ダイオキシンを語る」
第2講「Hキョージュ、循環型社会形成推進基本計画案を論じ、
環境アセスメントの意味を問う」
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No. 第5講 脱ダム、自然再生、環境教育 三題噺
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Issued: 2003.06.05
H教授の環境行政時評 (第5講 その1)
淀川水系脱ダムの行方
Aさん―(ニッコリ)センセイ、これみてください(新聞記事を差し出す)

H教授―え、なになに。「脱ダム提言生きず」【1】? なんのことだい?

Aさん―第2講で淀川水系流域委員会の脱ダム提言について国土交通省が怒り狂ってるんじゃないかってワタシ言ったんですよ。そしたらセンセイ、なんていいました?

H教授―そんなの覚えてないよ。春眠暁を覚えずだ。

Aさん―なに、わけのわかんないこと言ってるんですか。これをみてください。
【1】 脱ダム提言と国土交通省近畿地方整備局の見解
国土交通省近畿地方整備局の「建設は有効」との見解につき、新聞各紙にいくつか報道されている。
毎日新聞 滋賀版(5月17日付)
日本経済新聞 関西版(5月17日付)
同地方整備局では、5月16日に開催された第21回淀川水系流域委員会において、計画中の丹生(滋賀県余呉町)、大戸川(大津市)、余野川(大阪府箕面市)の淀川水系の3ダムにかかわる見直し案についての説明がなされた。
会議の結果報告(委員会庶務担当より)によると、「流域委員会の提言の理念に沿って見直しを行っている」ものの、現段階では計画を「『調査検討』と位置づけ」、「『実施』と位置づけられるまで本体工事は原則中止とする、としている」と記されている。
第21回淀川水系流域委員会の会議資料等
Aさん―そう言えば1月に淀川水系流域委員会が脱ダムを提言しましたねえ。あれには国土交通省も怒り狂ってるんじゃないですか。

H教授―そんなことはないよ。国土交通省も承知の上の出来レースに決まってるじゃないか、委員を選ぶのは国土交通省なんだから。つまり、国土交通省は大きな反対運動が予想できるようなところでのダム建設はあきらめるって遅まきながら宣言したんだと思うよ。

(※第2講の該当記事は、→こちらへ


Aさん―この記事には、国土交通省近畿地方整備局は委員会の提言に対して5つのダムとも、「現段階では建設は有効」って見解を述べたんですよ。ちょっとも出来レースじゃないじゃないですか。

H教授―(うろたえて)うーん、なるほどねえ。落としどころについての役人の読み違いかな、それともコントロール能力を失ったのかなあ。いやいや、国士型官僚から利害調整型官僚に変わったと思い込んでいたんだが、もはや成行任せ官僚に変わったのかなあ(ブツブツ)。

Aさん―(そ〜っと、キョージュの額に手をあてようとする)

H教授―おい、やめろ。逆セクハラだぞ。

Aさん―失礼な! なにかブツブツ言ってるから、熱出したのかって心配してあげたんじゃないですか。まさかSARS【2】じゃないでしょうね。

H教授―いやあ、ゴメン、ゴメン。うーん、ちょっとびっくりしたんだ。
ぼくらが役人の頃には、役人というのは利害関係者の反応を考えながら、みんなが渋々ながら納得するような「落としどころ」を見付け、それに向けて誘導するもんだったんだ。委員会なんかの運営もそうだった。もちろん、根回しするし、選んだ委員の意見も柔軟に取り入れて、可能な限り修正もするし、場合によっては真っ向から反対するような先生にも1人、2人は入ってもらい、それにより御用委員会じゃないってアリバイつくりなんてのもしたもんだ。
やっぱり時代が変わったんだねえ。

Aさん―どう変わったんですか。

H教授―ひとつは委員の選び方で、学識経験者を国土交通省が選ぶんでなく公募制みたいなのをとったのかもしれない。そして根回しなんていうことをせずに自由闊達に議論してもらったのかもしれない。もちろん、事務局が委員を説得しきれなかったのかもしれないんだけど。
ひょっとすると利害関係者のだれもが渋々ながら納得する落としどころなんて考えられなくなった、あるいは落としどころなんて傲慢なことを考えるのは役人の僭越だって考えられる時代に入ったのかもしれないねえ。

Aさん―だとしたら、提言にそのまま乗っかればよかったんじゃないですか。

H教授―地元が納得しなかったのかもしれないし、多元化時代に入ったから、国土交通省と地元市町村、流域委員会が独立した対等の立場で公開の議論を行っていけばいいと腹をくくったのかもしれない。

Aさん―そんなあ。だって平行線のまま行けば、最後はだれが結論を出すんですか
【2】 新型肺炎 重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)
英語で、Severe(重症) Acute(急性) Respiratory(呼吸器) Syndrome(症候群)といい、頭文字をとってSARSと表記される。日本では、「サーズ」もしくは「エス・エー・アール・エス」などとも呼ばれる。
5月28日のWHO総会決議では、「21世紀最初の重度の感染症」と位置づけられ、国際協調による封じ込めの必要性などが強調された。
感染から発病までの潜伏期間は10日以内で、症状はほぼ1週間おきに3段階で進行するとされる。38度以上の急な発熱や咳からはじまり、いったん熱が下がるものの、発病後9日前後で再び熱が上がる。さらに肺炎症状など呼吸器障害がおきて急速に重症化し、死亡率は14〜15%にのぼる(世界保健機関=WHO が5月7日に修正発表した試算値)。病原は、新種のコロナウイルスと判明し、ハクビシンなどが感染源ではないかと疑われている。
感染の仕組みは、感染者のくしゃみや咳を通じて広がる飛沫感染が主で、「患者と2m以内の近距離で接触したり、排泄物に触らない限り感染の恐れはない」(WHO)とされる。発病後10日頃が、体内ウイルスの検出量はピークとなり、この時期がもっとも感染力が高まるとみられる。
なお、国内では、98年制定・翌年施行の「感染症法」に関して、施行後5年の見直しに向けて、バイオテロへの対応などの盛り込みが指摘されていたが、今回のSARSへの行政の対応の遅れを教訓に、国の権限を大幅に強化して、部分的に前倒しで改正する方針も発表されている。
世界保健機関(WHO)のSARS最新情報(英語)
厚労省検疫所「海外渡航者のための感染症情報」
国立感染症研究所 感染症情報センター
感染症法改正について(厚労省事務次官会見より)

H教授―議論していくうちに、そのこともいずれ落ち着くところに落ち着くし、落ち着かなければ、それもまたよしってことかな。
キミ、この経緯を今後もずうっと追っていってごらん。Σだとか∫の記号にわけのわかんない変数ばかりを並べてなんとかモデルだなんて言ってる、くだらない研究論文より、よっぽどいい卒論ができるよ。

Aさん―(にっこり)センセイは英語がしゃべれないだけじゃなくて、数学もできなかったんですね。マトモな論文が書けないわけだ。

H教授―ほっといてくれ!

Aさん―はいはい、でも、落としどころが見つからないことだって昔からいっぱいあったでしょう。そういうとき、昔の役人はどうしたんですか。

H教授―そのときは調査とか検討とか言って先送りというのがひとつのパターンだよね。そのまえに可能ならば逃げて、よそに押し付ける。
役所の権限争いってよく言うよね。でも、それにはふたつあるんだ。一つは積極的権限争い、これはだれでも知ってるよね。で、もうひとつが消極的権限争い。落としどころがみつかりそうにないときには、しばしば、「それはウチの仕事じゃない」って言って、お互いに押し付けあうんだ。

Aさん―へえ、消極的権限争い?

H教授―例えば80年前後に温暖化問題が日本でも問題にされはじめた頃には、霞ヶ関で消極的権限争いがあったらしいよ。結局環境庁が引き受けることになったんだけど。
でもねえ、80年代も終わり近くなると、国際的に炭酸ガスの排出抑制に向かわざるをえないという見通し、つまり落としどころが見えてきた。そのためには法律の制定とか、予算の確保とか組織の拡大につながるようなことがいっぱいある。となると、どの省庁もこんどはウチの出番だといって積極的権限争いがはじまった。

Aさん―なるほどねえ。でもそういうのは全部水面下だったんですね。そういう意味では情報公開が相当進んだんですね。
でも、淀川流域のダムの件は、これからどうすればいいとセンセイは思ってるんですか。

H教授―一個、一個自分で調べたわけじゃないから、なんともいえないけど、基本的に水の需要は余っているし、世界的にも脱ダムの流れにあるし、だいいち日本は借金漬けで、このあいだの統一地方選挙をみても、公共事業削減をみんな言いだしてるから、もはやできないんじゃないかなあ。
問題は昔、ダム建設を無理やり納得させられて、ダム建設を前提に地域おこしを考えざるをえなくなった人たちを、どうやって説得し、自立を援助できるかだと思うよ。
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