環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
第7講 亜鉛の環境基準をめぐって(付:レンジャー今昔物語)
第6講 半年継続記念 読者の声大特集(付:コーべ空港断章)
第5講 脱ダム、自然再生、環境教育 三題噺
第4講「或る港湾埋立の教訓」
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No. 第7講 亜鉛の環境基準をめぐって(付:レンジャー今昔物語)
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Issued: 2003.08.07
H教授の環境行政時評 (第7講 その1)
環境基準と生物多様性

H教授―お、どうしたんだ。ちょっと不自然なほどウキウキしてるじゃないか。

Aさん―だって、もうすぐ夏休みですもの。そうなれば、センセイの顔見ずにすむかと思うと、うれしくって、うれしくって。

H教授―相変わらず、口がわるいな。そんなんだから、彼氏にフラレるんだ。

Aさん―(ギクッ)ほっといてください! しばらく冷却期間を置いてるだけです。夏休みはワタシひとりで青春を謳歌するんだもん!

H教授―へえ、ところで、夏休み中、アエンのケリがどうつくか見ものだな。

Aさん―ヤダ! カレに「会えん」なんて悲しいこと言わないでください(涙声)。

H教授―(驚いて)ちがう、ちがう、金属の亜鉛、Znだ。

Aさん―え? なんですか、それ。

H教授―やれやれ、環境基準【1】て知ってるよね。

Aさん―(涙をふいて)あったりまえじゃないですか。環境上の望ましい基準で行政の目標とするものでしょう。英語で言えば「Environmental Quality Standard」。

H教授―お、えらい、えらい。でもねえ、だれの何にとっての望ましい基準なの?

Aさん―え? みんなが文化的で健康的な生活を送る上で、でしょう。

H教授―そう、みんなってのは人間みんなってことだよね。人の健康または生活環境を守るうえでの望ましい基準ということになっている。だから概念上、健康項目と生活環境項目のふたつがある。そしてこれを維持達成することが行政の努力目標になっていて、そのため規制だとかさまざまな手段を講じている。
大気や水の環境基準は、環境中の濃度の話だから、煙突出口や排水口の濃度の規制基準と混同しちゃダメだぞ。
健康項目は全国一律と決まっているけど、生活環境項目の場合は直接健康に関係するわけじゃないということで、何段階かの基準が決まっていて、自治体がどの基準にするか個別にあてはめることになっている。これを「類型あてはめ」【2】って呼んでいる。
大気には健康項目しかないんだけど、水質では健康項目の他、生活環境項目も決められていて、川の場合だとBOD、海や湖ではCODというのが代表的な指標になっていて、利水の状況に着目して類型あてはめを行っている。
【1】 環境基準
環境基本法第16条に基づいて、政府が定める環境保全行政上の目標。人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準。政府は公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより環境基準の確保に務めなければならないとされている。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について定められている。また、これら基準は、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならないと規定されている。 現在、大気汚染、水質汚濁、地下水の水質汚濁、土壌汚染、各種騒音、およびダイオキシン類による汚染のそれぞれに係る環境基準が設定されている。 環境省では、平成14年8月、水生生物保全に係る水質目標の考え方の整理と、環境中の濃度が高く、かつ、その影響についての知見を得ている物質に対する水質目標値を検討・導出した報告書を公表している。これを踏まえて、平成14年11月に水生生物の保全に係る水質環境基準の設定について中央環境審議会に諮問している。
環境省ホームページより

Aさん―なんだか、下手な講義を聴いてるみたいですね。で、なにが問題なんですか?

H教授―じつは環境基準にはさまざまな問題があって、これだけでも一冊の本が書けるくらいなんだけど、今日の話は、そもそも環境基準は「人の健康または生活環境」を守るためだけでいいのかという大前提にかかる問題だ。

Aさん―わかった! 「生物多様性」のことでしょう。

H教授―ピン、ポン! だいぶ勘がよくなったじゃないか。1990年頃から生物多様性の保全というのが、国際的なキーワードになった。この概念自体、遺伝的多様性だとか種の多様性だとか生態系の多様性だとかいろんなレベルで言われていて、よくわからないところもあるんだけど、いずれにせよヒトも生態系を構成している一員であり、その生態系を撹乱させるとヒト自体もおかしくなってしまう、他の生物との共生を図らなくちゃいけないということだね。
だから新・生物多様性国家戦略が政府決定された(「地球環境保全に関する関係閣僚会議」による)だけでなく、自然公園法や、鳥獣保護法でも近年になって、生物多様性を意識した改正が相次いだし、化学物質審査法でも生態系保全を視野に入れた見直しがはじまり、環境アセスメントでも生物多様性の観点からの評価が取り入れられた。自然再生推進法だってそうだ。
だから、環境基準も単にヒトの健康、生活環境だけでなく、そうした生態系保全の観点からもういちど考え直さなければならない。

Aさん―へえ、じゃ、コペルニクス的転回じゃないですか。
【2】 類型あてはめ
中央環境審議会水環境部会 水生生物保全環境基準専門委員会 配付資料(第5回参考資料15/第6回参考資料14)より
上記の会議概要及び会議資料一覧 (第5回)
(第6回)

H教授―そうは簡単にいかないよ。大体、生物多様性の保全なんて、総論賛成、各論反対の世界だもん。科学的なデータも乏しいし、害虫だとか病原体生物も保全しなきゃいけないのかなんて、うんざりするような議論も出てきて収拾がつかなくなるよ。
だから、将来的にはそういうことも視野に入れつつ、とりあえず、できるところから地道にやっていこうということになった。水質の場合、まずは代表的な魚が、その餌生物も含めて健全に成育できるための基準を決める。それを広い意味でのヒトの生活環境だということで、生活環境項目として追加するというのなら、一般の理解も得やすいだろうということで検討がはじまったんだ。

Aさん―なんか随分遠回りみたいだけど。

H教授―仕方ないよ。だって、生活環境項目と言っても、実質的には健康項目の追加みたいなもんだもん。

Aさん―えー、なんで、なんで?

H教授―いままで生活環境項目というのはBOD、COD、SS、DO、大腸菌群数、油分、pH、全窒素、全燐しか決まっていない。一方、いわゆる化学物質だとか金属はすべて健康項目で、排水基準と連動している。そうしたものを生活環境項目に入れるというのは、ある意味ではミニ・コペルニクス的転回といっていいんじゃないかな。

Aさん―で、どんな検討をしたんですか?

H教授―淡水域の上・下流、海域と3つに分けて、いろんな物質の毒性データ、環境データなどの検討が専門家による検討会ではじまった。
昨夏、亜鉛などの金属、ホルムアルデヒドなどの化学物質の計9つの物質について、水質目標値案を公表。で、これをもとに水生生物保全のための基準を決め、それを生活環境項目に追加しようというので、中央環境審議会の水環境部会に諮問したんだ。
中央環境審議会は昨年12月、水生生物保全環境基準専門委員会を発足させた。で、この6月にその専門委員会が報告書をまとめたんだ。

Aさん―どんな内容なんですか。

H教授―検討会報告書で案を公表した9物質のうち、1物質を除いた8物質について水質目標値を決定した。さらにこのうち亜鉛に関しては環境基準を設定、ホルムアルデヒド、フェノール、クロロフォルムの3物質については水質汚濁防止法上の要監視項目と位置付け、他の4物質は目標値をその根拠とともに広く公表して事故などの際の指標とするなど経過をみるのを妥当としたんだ。

Aさん―水質目標値を決めながらなぜ取り扱いが違うんですか。

H教授―毒性試験などのデータが豊富かどうかということと、現実の水環境中で目標値を上回るレベルの濃度が出現している程度や、測定の容易さ、あるいは海外での事例なんかを勘案したんだと思うよ。やっぱり環境基準の設定となれば、排水基準との連動も考えなきゃいけないから、相当慎重に構えて、とりあえずは亜鉛だけに絞った。
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 BOD(生物的酸素要求量)/COD(化学的酸素要求量)/SS(浮遊物質)/DO(溶存酸素)
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