環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
第7講 亜鉛の環境基準をめぐって(付:レンジャー今昔物語)
第6講 半年継続記念 読者の声大特集(付:コーべ空港断章)
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No. 第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
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Issued: 2003.10.02
H教授の環境行政時評 (第9講 その2)
夏のできごと・2 ──環境基本法見直しに向けて
表:環境省「環境基本問題懇談会」の検討スケジュール
(環境省発表資料より作成)




Aさん―ほかにはなんかありました。

H教授―EICネットの国内ニュースでも紹介されていたけど、環境大臣が記者会見で環境基本法の改正を視野に入れた「環境基本問題懇談会」を設置【5】し、来春までに基本的な考え方をまとめるそうだ。

Aさん―へえ、環境省もやる気満々ですね。それとも大臣の発案なんですか。

H教授―そんなことしらないよ。だけど超一般論としていうと、こういう話の大半は事務方が絵図を書いて、それを大臣に言わせる、つまりボトムアップのことが多かった。
でもたまには大臣が言い出しっぺのトップダウンということがある。その場合も筋がいいものとよくないものがある。後者の場合は事務方が大臣を説得して押し留めようとするんだけど、押しとめられなかった場合、こういう懇談会なんかで時間稼ぎをして大臣交代を待つというケースがないわけじゃない。

Aさん―で、今回の場合はどうなんですか? って聞いてるんです!

H教授―だから知らないって言ってるだろう! もっとも、大臣は先日(9月22日)の小泉第2次改造内閣の発足で交代しちゃったよなあ【6】
まあ、ボトムアップかトップダウンかはともかくとして、内容的には筋の悪い話ではないと思うよ。でも、思い通りの改正ができるかっていえば、おっそろしくむつかしい話だろうな。

Aさん―いまの環境基本法【7】ではどこが不十分なんですか。

H教授―どちらにしても基本法なんだから理念的、抽象的にならざるをえないんだけど、抽象的に過ぎる嫌いがあることは事実だよね。
環境基本法に基づく環境基本計画【8】では循環、共生、参加、国際的取組の4つのキーワードを挙げていて、それはその通りだと思うけど、基本計画に記載されているものは従来からの各省の施策みたいなのが中心で、新たな展開に関しては具体性に欠けるところが多いよね。

Aさん―センセイの言い方も抽象的すぎますよ。もっときちんと言ってください。

H教授―環境と経済の統合、戦略的環境アセスメント【9】、生態系保全のための環境基準概念の導入、廃棄物と循環資源の拡大生産者責任【10】の適用の明言、化石燃料使用や環境への人為的負荷の可能な限りの抑制理念、公共事業の自然共生事業化、NGO・市民の政策参加、いっくらでもあるよ。
そうした新たな潮流を現行の環境基本法や環境基本計画で読み込むことは可能だけど、環境基本法や環境基本計画がそれに先導的・主導的な役割を果たしているとは言えなくなったのも事実だからなぁ。

Aさん―ですが、センセイのいま挙げたような話はどれももっともな話ですから、簡単なんじゃないですか。

H教授―ちょうど自民党総裁選が小泉圧勝で終わって、これから解散・総選挙なんて話がでてるけど、争点はもっぱら景気回復だよね。環境問題だとか持続可能な社会の構築なんてだれも口にしていない。
さっき挙げたどの課題ひとつとってみても、言うは易しだけど、実際に徹底してやるには、いま言われているコーゾーカイカクよりもはるかにむつかしい既成概念と社会構造の変革が必要になってくるし、GDPで表現される景気の回復には反することもあるだろう。
そうなれば、産業界はもちろん、政治家だって各省だって、いやそれだけじゃない、国民だって、そうやすやすと飲むと思えないなあ。

Aさん―なるほどねえ。相当な力技が必要ってことですね。センセイが環境省幹部だったら真っ先に逃げてたでしょう?

H教授―こら、またキミは...。
(しばらくおいて)ま、そうかもしれないねえ。
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【5】 環境基本問題懇談会
2003年が環境基本法制定10年を迎えることから、環境省では、環境政策を取り巻く状況の変化や環境政策の大きな進展を踏まえて、環境問題への取組のあり方などについて根本から検証するため、「環境基本問題懇談会」を設置することとしている。懇談会では、環境大臣ほか環境省幹部も同席し、環境政策や経済・社会などの有識者による議論を年度内に5回予定し、年度末に報告書をまとめる予定。
第1回は、9月18日(木)13:00より環境省内会議室において開催された模様。
EICネット 国内ニュース 「環境基本法制定10年 環境問題取組みの方向性を見直す懇談会設置」
【6】 小泉第2次改造内閣の発足
首相官邸「第2次改造内閣の発足」(平成15年9月22日)
環境省 小池百合子環境大臣
【7】 環境基本法
それまでの公害対策基本法、自然環境保全法では、対応に限界があるとの認識から、地球化時代の環境政策の新たな枠組を示す基本的な法律として、1993年に制定された。
基本理念としては、(1)環境の恵沢の享受と継承等、(2)環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等、(3)国際的協調による地球環境保全の積極的推進が掲げられている。この他、国、地方公共団体、事業者、国民の責務を明らかにし、環境保全に関する施策(環境基本計画、環境基準、公害防止計画、経済的措置など)が順次規定されている。また、6月5日を環境の日とすることも定められている。  
総務省 法令データ提供システム→「環境基本法」
【8】 環境基本計画
環境基本法(1993)の第15条に基づき、政府全体の(1)環境保全に関する総合的・長期的な施策の大綱、(2)環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項を定めるもの。内閣総理大臣が中央環境審議会の意見を聴いて、閣議決定により定めることとされている。1994年12月に策定され、2000年12月に改定されている。
循環、共生、参加、国際的取組を長期的目標に据付けて、地球温暖化対策、循環型社会の形成、交通対策、水循環の確保、化学物質対策、生物多様性の保全、環境教育・環境学習などに重点をおいて施策を展開していくこととされている。
環境省「環境基本計画」
外務省「環境基本法及び環境基本計画」
【9】 「アセス法アセス」
環境影響評価法の手続により行われる環境アセスメントの略称・通称。これに対して、法制定以前の閣議決定に基づいて行われた環境アセスメントは、しばしば「閣議アセス」と称される。
環境影響評価法は、施行からまだ年月が短いことから、このような過渡的な略称・通称が用いられている。
【10】 拡大生産者責任
生産者が製品の生産・使用段階だけでなく、廃棄・リサイクル段階まで責任を負うという考え方。具体的には、生産者が使用済み製品を回収、リサイクルまたは廃棄し、その費用も負担すること。OECD(経済協力開発機構)が提唱した。循環型社会形成推進基本法にもこの考え方が取り入れられている。
拡大生産者責任を採用すると、リサイクルしやすい製品や廃棄処理しやすい製品の開発が進み、リサイクルや廃棄処理にかかる費用が少なくなると考えられている。費用が少なくなるのは、回収費用やリサイクル費用を生産者が負担するため。生産者は費用を製品価格に上乗せすることもできるが、製品価格が上がると販売量が減る可能性がある。そこで、製品価格を上げないよう回収やリサイクル費用の削減努力が生まれる。

 ・
  
  中環審 廃棄物・リサイクル制度専門委員会(第4回)の配布資料より

 ・OECD「拡大生産者責任ガイダンス・マニュアル」について(平成13年7月)
  http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g10910f1j.pdf
  経済産業省産業技術環境局リサイクル推進課
環境省「拡大生産者責任関係の法制度について」
夏のできごと・3 ──RDF事故


Aさん―8月にはRDF(ごみ固形化燃料)【11】発電所で大きな事故がありましたよねえ。

H教授―もともとRDFは大きな矛盾を抱えていたんだけど、思わぬ形でその破綻が明白になったねえ。

Aさん―え? 矛盾?

H教授―そう、RDFっていうのは可燃ごみを乾燥圧縮成型して燃料にするんだけど、そもそもごみの分別・資源化の方向に来ている社会の基本的な方向からすれば逆行している。

Aさん―え? そうなんですか?

H教授―だって、RDFはプラスチックなんかが入ってなければ熱量不足になってしまう。廃プラ分別・資源化という動きには逆行していると言えるんじゃないかな。
それに生ごみなんて乾燥させるには化石燃料も必要だしね。
ただ、ごみの減量や分別・資源化と口で言うのは簡単だけど、実際にはむつかしい。
RDFはそれよりも現実に出てくる大量の可燃ごみを一括して燃料として利用しようという発想だった。
ごみの焼却は地元の反対が強いけど、RDFの製造だったらそれほど抵抗がないだろうし、ダイオキシンの発生抑制にもなる。経済的にも引き合うって言うんで、一時ブームになった。だけど、どうやらRDFの引き取り先もそう簡単には見つからないみたいだし、今回の三重県の事故がきっかけで方々で事故を起していたことも明らかになった。技術としてもまだまだ未完成なものだったんだよねえ。

Aさん―じゃ、RDFはやめるべきだと?

H教授―いや、そこまでは言わない。ただ、限定的・補完的、そして現時点ではなお未成熟な技術だということを知っておくべきだ。
少なくともRDFの安定的な引き取り先を見つけてからでないと、安易には取り入れられないと思うな。
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【11】 RDF(ごみ固形化燃料)
生ごみ・廃プラスチック、古紙などの可燃性のごみを粉砕・乾燥した後、生石灰を混合して圧縮・成型した固体燃料のこと。乾燥・圧縮・形成されているため、輸送や長期保管に便利で、冷暖房・給湯・清掃工場の発電用熱源として利用される。石炭との混用が可能であり、セメント焼成にも利用できる。発熱量は、1kg当り5,000kcalで、石炭に近い。
RDF発電は、安定的で完全燃焼するため、ダイオキシンや焼却灰の減少につながるとして、大規模なごみ発電施設用の燃料として期待されていた。1997年6月には、「RDF全国自治体会議」が設立され、導入促進を決議している。なお、現行法の体系下では、原料が廃棄物であるために、RDFの製造は一般廃棄物の中間処理方法のひとつとみなされ、市町村が事業主体となる。
2000年、固形燃料化施設(RDF製造装置)もまた、ダイオキシン規制の対象施設となった。粉塵の飛散防止、廃ガス処理、ダイオキシンの濃度測定などが義務付けられている。
三重県北勢生活環境部 発表 三重ごみ固形燃料発電所(RDF貯蔵槽)事故に伴うダイオキシン類等環境調査結果(2003.9.26)
三重ごみ固形燃料発電所RDF貯蔵槽の鎮火について(2003.9.27)
夏のできごと・4 ──淀川水系5ダムのその後

Aさん―あ、それからこれも本講で何回も取り上げている淀川水系5ダムについての新聞記事がありましたねえ。

H教授―うん、9月5日に国交省近畿地方整備局が流域委員会に河川整備計画【12】の原案を示したんだけど、5ダムについては「調査検討を行う」とだけしていて結論を先送り、流域委員会のメンバーから批判を浴びたって記事だよね。
これ以上の憶測は控えて、とりあえず読者に情報としてだけお知らせしておこう。

Aさん―夏休みはこんなところですかねえ。
で、今日のメインデイッシュはなんですか? 予告通り環境ホルモンですか?
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【12】 河川整備計画
従来の河川法では、水系ごとに「工事実施基本計画」において河川工事の基本となるべき事項を定めることとしていたが、1997年の改正により、これを「河川整備基本方針」と「河川整備計画」に区分した。
「河川整備基本方針」に沿った「河川整備計画」では、工事実施基本計画よりもさらに具体的な川づくりを明らかにし、地域の意向を反映する手続きを導入することとした。この「河川整備計画」の策定は、社会・経済面や技術面と並んで、環境面からの分析結果を意思決定に確実に反映させ、地域住民、専門家に対し十分な情報公開や意見収集を行い、これを公表しなければならない。
洪水や高潮、地震等の防災、取水や排水、河川空間(高水敷や堤防周辺)の利用、漁業活動、舟運やレクリェーション等の河川の利用・活用、河川の水質や生態系の保全等の河川環境に関する現状の課題に対して、基本的な対応の考え方、現在行っている具体的対策、これから実施しようとする具体的対策を盛り込む。 
国土交通省河川局 記者発表資料 河川事業の計画段階における環境影響の分析方法に関する検討委員会 提言
国土交通省河川局「河川整備基本方針、河川整備計画について」
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