環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
第7講 亜鉛の環境基準をめぐって(付:レンジャー今昔物語)
第6講 半年継続記念 読者の声大特集(付:コーべ空港断章)
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No. 第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
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Issued: 2003.10.02
H教授の環境行政時評 (第9講 その3)
温暖化対策税の在り方を巡って
H教授―環境ホルモンは、いずれ機会をみてということにしよう。それほど緊急性もないということが明らかになりつつあるみたいだし。それより8月末に中央環境審議会の専門委員会が「温暖化対策税の具体的な制度の案―国民による検討・議論のための提案」という報告をまとめて環境大臣に提出した【13】
ここでいう温暖化対策税とは、いままでしばしば炭素税だとか環境税【14】だとか呼ばれていたものだけど、今回はこれを話題にしよう。
環境省のHPでも公表されてるんだけど、キミ読んだ?

Aさん―あったりまえじゃないですか。バカにしないでください。
H教授―そうか。じつはあの報告をまとめるにあたって重要な役割を果たしたのがAIM(アジア太平洋地域統合モデル)【15】なんだ、名前だけで中身は知らないけど。
ところで、専門委員会メンバーで、AIMの開発を行った森田恒幸さん(国立環境研究所社会環境システム研究領域長)が9月4日に肝不全で亡くなられた。まだ53歳の働き盛りだったけど、余りの多忙さに医者に行く暇もなかったみたいだから、ある意味では壮絶な討死を遂げられたといえるかもしれない。
学者らしからぬ、きさくな人でぼくも昔、随分お世話になったし、一緒に遊んだこともある。謹んでご冥福をお祈りしよう。

Aさん―優秀な人ほど早死するんですねえ。センセイはきっと長生きできますよ。

H教授―ありがとう、キミに言われると涙がでるほどうれしいよ。

Aさん―(拍子抜けして)へえ、随分今日は素直ですねえ。

H教授―(相手にせず)専門委員会報告のまえに温暖化対策の現状をまず押さえておこう。簡単に整理して話したまえ。

Aさん―(すらすらと)えーと、1997年にCOP3で京都議定書【16】がまとまりました。先進国全体で2008年から2012年までの平均値で温室効果ガスを1990年比で5.2%カットするということが決り、日本は確か6%カットということだったですよね。
ただし国内だけの削減努力ではむつかしいというので、森林吸収分を認めたり、排出権取引だとか、CDMだとか言った「京都メカニズム」【17】が導入されたんだけど、その細目をめぐって、紛糾。
そうこうしているうちに世界最大の排出国である米国が京都議定書を離脱したんですよね。
ようやく2001年のCOP7【18】で京都議定書の運用ルールがまとまりました。昨年に入ってからは京都議定書の批准が相次ぎ、日本も批准。
発効要件は先進国の55%以上の国が批准し、その国々の温室効果ガス排出量が全体の55%以上。あとロシア一国が批准すれば米国抜きで発効するところまで来て、ロシアも批准の方針を打ち出しているので、遅くとも来年中には京都議定書が発効されることになります。
【13】 温暖化対策税制
中央環境審議会では、地球温暖化防止のための税制についての専門的な検討を行うため、総合政策部会と地球環境部会の合同部会を設け、その下に「地球温暖化対策税制専門委員会」を設置。第1回会合は2002年10月17日(水)に開催されている。 同専門委員会は、翌2003年8月29日に「温暖化対策税制の具体的な制度の案〜国民による検討・議論のための提案〜(報告)」を公表。現在、11月28日までの日程で意見募集を行っている。なお、2002年12月には、それまでの審議を取りまとめた「我が国における温暖化対策税制に係る制度面の検討について」も発表している。
環境省総合環境政策局「温暖化対策税制の検討状況について」
EICネット 中央環境審議会の「温暖化対策税制制度案」検討結果に対する意見募集を開始
EICネット 温暖化対策税制の制度面を具体的に検討した報告書を作成
EICネット 地球温暖化防止のための税制を検討する専門委員会を中環審に設置
【14】 環境税もしくは炭素税
二酸化炭素の排出に対する課徴金制度のこと。化石燃料を燃焼した場合に排出する二酸化炭素の量に応じて課税し、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を低減させる目的の税金を指す。 OECD内では、炭素税に関する多くの提案がなされ、オランダやスウェーデンなどの国はすでにこれを採用し、日本を含む他の先進諸国においても導入が検討されている。環境税はもともとは炭素税の別名であったが、近年では、二酸化炭素排出も含めて、もう少し広義な意味で環境に負荷を与えるもの(環境の利用者)に対する課徴金制度を指すことが多い。 日本では、経済産業省により、エネルギー特別会計のなかで石油に対して石油税として電力会社や石油元売会社などに課税していたが、2003年度から「石油・石炭税」(仮称)等に改め、石炭等に対しても課税し、増収分を温暖化対策に充てることとしている。しかしこの「石油・石炭税」は環境省が導入を検討しているCO2の排出量に応じて幅広く課税する環境税(炭素税)とは性格が異なるものとされている。
環境省資料「平成15年度の既存関連税の見直しについて」 中央環境審議会 地球温暖化対策税制専門委員会(第11回)資料より


H教授―お、よく知ってるな(ちょっと見直す)。

Aさん―だって、就職試験対策で必要なんですもの。

H教授―まずは卒業できるかどうかだな。

Aさん―ひっどおい!

H教授―で、国内での動きは?

Aさん―日本では2004年までをファーストステップとして温暖化法【19】ができたり、温暖化対策大綱【20】を決めたりしてますけど、現在の排出量は依然として1990年比で8%ほど増加してます。

H教授―そう、一方EU全体では京都議定書では8%カットが義務付けられているんだけど、すでに'90年比でマイナスになっている。原因はいろいろあるんだけど、そのひとつとして炭素税の導入や化石燃料の自然エネルギーへの転換が挙げられる。
日本では2004年、2007年にそれまでの対策をチェックし、必要に応じて追加的な対策をとるとしているんだ。こういうバックグラウンドのなかで、今回の報告が出された。

Aさん―でも米国抜きの議定書発効に意味があるんですか。

H教授―もうブッシュの命運は尽きたよ。イラクの大量破壊兵器も見つかりそうもないし、イラク国民の反米感情は高まるばかり。米英兵の死者も増える一方で、イラク侵攻と占領政策の失敗は誰の目にも明らかだ。
だから米国内での人気がガタ落ち。ネオコンも見る影のない凋落振りらしいよ。
いずれ一国主義から国際協調主義への復帰という路線が陽の目をみるだろうし、排出権取引市場という実利面もあるから、政権交代で京都議定書に復帰するという可能性はあると思うよ。
【15】 AIM(アジア太平洋地域統合モデル)
AIMモデルは物質循環を考慮したモデルであり、国立環境研究所(NIES)地球環境研究グループの温暖化影響・対策研究チームがアジア太平洋地域における温暖化対策評価モデルとして開発したもの。酸性雨対策にも有効とされる。 対象地域は中国、韓国、日本を含む東アジア太平洋地域。このモデルによると、中国、韓国等の硫黄酸化物(SOx)の排出と越境移流により、酸性雨が最重要な環境問題のひとつになっていると指摘している。このため国立環境研究所では硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、アンモニア(NH3)、非メタン揮発性炭化水素(NMVOC)などの発生量マップを作成している。また、国または地域別の発生、輸送、変質、沈着モデル(酸性雨長距離輸送モデル)も作成している。
独法国立環境研究所・環境儀「AIM研究の歩み」
環境省資料「温暖化対策の経済性評価−数量モデルによる評価」 中央環境審議会地球環境部会 目標達成シナリオ小委員会(第6回)資料より

Aさん―またセンセイの妄想、願望癖がでましたね。

H教授―うるさい。で、温暖化対策税の専門委員会報告だけど、読んだといってたね。じゃ、かいつまんで説明してごらん。

Aさん―まかしといてください。まず追加的な対策、施策を講じないと'90年比6%カットはきわめてむつかしいということですね。
現行水準の技術で新技術を導入しない場合は'90年比13.7%増で、現在よりも5%以上増加。
追加的な対策、施策を行政は講じないけれども、企業が合理的な省エネ技術を自律的に導入するとした場合は同じく7.6%増。化石燃料に新たに炭素税を課税して、その価格インセンティブによる排出抑制効果を計算した場合、炭素換算トン当たり3,000円という低率では5.7%増、同じく30,000円といった高率でも0.2%増。
これらは現状より削減はできますが、いずれも'90年比ではプラスになっています。
しかし炭素換算トン当たり3,400円という低率でも、その税収を温暖化対策の補助金などに活用した場合は'90年比で2.4%減とはじめて'90年比でマイナスになるとしています。
これと同等の削減を価格インセンティブによる排出抑制で行おうとすれば、炭素換算トン当たり45,000円という高率課税が必要だそうです。
いずれにせよ'90年比2%程度の排出抑制ができれば、それに森林吸収や京都メカニズムの分を加算して'90年比6%カットは可能だという試算をしています。
この試算にさっきのAIMが使われたんですね。
このモデルは公開されてるから、だれにでも検証可能だそうですけど、センセイも使ってみました?

H教授―ぼくはそういう意味での研究者じゃないって常々言ってるだろう。恥をかかせるなよ。

Aさん―そういう意味も、こういう意味も、そもそも研究者じゃないでしょう。

H教授―うるさい。で、次は?

Aさん―課税のやりかたですが、できるだけ薄く広く国民に分担してもらうために最上流、あるいは上流で課税してそれを価格に転嫁する方法が妥当だと言ってます。
さっきの炭素換算トン当たり3,400円ケースでは一世帯あたり月460円だそうです。
もちろん温室効果ガスを排出しないようなところへは税の減免が適用されるとしています。目的税かどうかについてはとりあえず結論は出していません。
ここまでのところでセンセイの評価はどうですか、あ、センセイに評価なんてできるわけないですね。なんか感想ありますか?

H教授―まったく、一言多いね、キミは。
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【16】 COP3と京都議定書
本来COPとは、任意の条約の締約国会議(The Conference of the Parties)を指す略称だが、1997年に京都で開催された「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)」の第3回締約国会議(いわゆる「京都会議」;COP3)の開催以降、同条約締約国会議を示す用語として一般化している。 前述の第3回会議は、1997年12月1日から10日まで、京都で開催されたが、いくつかの問題で国益や思惑がからんで紛糾した。最終的にはぎりぎりのところで合意が成立し、第1回締約国会議の決定(ベルリン・マンデート)に従って、先進国の温室効果ガスの排出削減目標を定める法的文書とともに、排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズムなどの柔軟性措置が「京都議定書」の形で採択され、今後の地球温暖化防止対策に向けて大きな一歩を踏み出すこととなった。 同議定書は、先進締約国に対し、2008〜12年の第一約束期間における温室効果ガスの排出を1990年比で、5.2%(日本6%、アメリカ7%、EU8%など)削減することを義務付けている。また、削減数値目標を達成するために、京都メカニズム(柔軟性措置)を導入。 議定書の発効要件として、55カ国以上の批准、及び締結した附属書I国(先進国等)の1990年における温室効果ガスの排出量(二酸化炭素換算)の合計が全附属書I国の1990年の温室効果ガス総排出量(二酸化炭素換算)の55%以上を占めることを定めている。
環境省地球環境局「地球温暖化防止京都会議」
外務省「地球温暖化問題 気候変動枠組条約、京都議定書とは」
外務省「COP3」
全国地球温暖化防止活動推進センター「関連条約・法律の年表」
「京都議定書(Kyoto Protocol to the UNFCCC)」(英文)
【17】 「京都メカニズム」と、排出権取引、CDM
温室効果ガス削減数値目標を達成を容易にするために、京都議定書では、直接的な国内の排出削減以外に共同実施(Joint Implementation: JI、第6条)、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM、第12条)、排出量取引(Emission Trading: ET、第17条)、という3つのメカニズムを導入。さらに森林の吸収量の増大も排出量の削減に算入を認めている。これらを総称して京都メカニズムと呼んでいる。 共同実施と排出量取引は先進締約国間で実施され、コミットメント達成を目的とした国内行動に対して補完的であるべきと要求されている。CDMは先進国の政府や企業が省エネルギープロジェクトなどを途上国で実施すること。 この京都メカニズムや、その無制限の適用に関しては、NGOやEUからの批判も強い。
環境省地球環境局「京都メカニズム情報コーナー」
環境省地球環境局「京都メカニズムに関する検討会」
【18】 COP7
「気候変動に関する国際連合枠組条約(気候変動枠組条約)」の第7回締約国会議。2001年10月29日から11月9日までモロッコ国マラケシュ(Palais des Congre)で開催された。 米国の京都議定書離脱表明にもかかわらず、京都議定書の中核的要素に関する基本的合意(ボン合意)を法文化する文書が採択され、京都議定書の実施に係るルールが決定された。これにより、先進国等の京都議定書批准が促進されることになった。COP7で採択されたものは、7月のCOP6再開会合(於:ボン)で合意された途上国支援に関する決定及び吸収源、遵守、京都メカニズム等に関する決定。これにより、途上国支援のための3つの基金が正式に設立された。
環境省地球環境局「気候変動枠組条約第7回締約国会議(COP7)について」
全国地球温暖化防止活動推進センター「COP7に関わる動き」
【19】 地球温暖化対策推進法
地球温暖化対策推進法は、1998年10月2日の参議院本会議で可決、10月9日に公布。正式名称は、「地球温暖化対策の推進に関する法律」。 COP3での京都議定書の採択を受け、まず、第一歩として、国、地方公共団体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取組むための枠組みを定めたもの。温暖化防止を目的とし、温室効果ガスの6%削減を達成するために、国、地方公共団体、事業者、国民の責務、役割を明らかにしている。 2001年11月のCOP7(モロッコのマラケシュ)における京都議定書の運用細目にかかわる合意を受け、京都議定書締結の承認とこれに必要な国内担保法の成立のために、2002年6月に一部を改正する法律が制定されている。これにより、京都議定書目標達成計画の策定、計画の実施の推進に必要な体制の整備、温室効果ガスの排出の抑制等のための施策等を定めることとされている。
環境省地球環境局「地球温暖化対策推進法について」
環境省地球環境局「京都議定書の締結及び温暖化法の一部改正(法)について」
【20】 地球温暖化対策大綱
日本における、京都議定書の約束を履行するための具体的裏付けのある対策の全体像を明らかにしている基本方針。政府等の100種類を超える個々の対策・施策のパッケージをとりまとめたもの。 地球温暖化対策推進法改正における京都議定書目標達成計画は、新大綱(2002年)を基礎として策定される。基本的な考え方として、「環境と経済の両立」「ステップ・バイ・ステップ アプローチ(節目の進捗見直し)」「各界・各層が一体となった取り組みの推進」「地球温暖化対策の国際的連携の確保」を方針におく。 ただし、あくまで大綱であり、方針を示してはいるものの、具体的な実施方法については各個別法に譲るので、その充実いかんにより、目標達成の実現が決せられるものであることに留意しておきたい。
環境省地球環境局「新たな地球温暖化対策推進大綱の決定について」
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