環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
第7講 亜鉛の環境基準をめぐって(付:レンジャー今昔物語)
第6講 半年継続記念 読者の声大特集(付:コーべ空港断章)
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No. 第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
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Issued: 2003.10.02
H教授の環境行政時評 (第9講 その4)

H教授―まったく、一言多いね、キミは。
このままだと発電に関しては原発が温暖化対策税の影響を受けない分、コスト的に有利になってしまうんじゃないかってことがひっかかるなあ。
もともと、日本の温暖化対策は原発の推進を前提としているから、当然のことかもしれないけど、個人的にはこれ以上の原発の推進には疑義が残る。

でもまあ、あとは妥当じゃないかな。排出権取引なんてのはぼくは好きじゃないけど、合理的なのは確かだし。

Aさん―なぜ排出権取引が好きじゃないんですか。前講へのアンケート回答で「排出権取引をどう評価するか」という質問もあったことですし、説明してくださいよ。

H教授―COP3でEUが排出権取引に消極的だったのは、国内の排出抑制努力を妨げる恐れがあるからだということだったけれど、それだけじゃない。
カネさえあれば排出権を買えるというウルトラ資本主義的システムが心情的にひっかかるんだ。
それに、排出権取引を最初に導入したのは米国、SO2対策で用いて、もっとも廉価なSO2対策だと自慢してるんだけど、米国はGDPあたりのSO2排出量は日本より一桁も高いんだぜ。まずはきちんとした規制をしろといいたくなるよ。

Aさん―相変わらず非論理的な浪花節ですね(笑)。
ワタシは排出権取引は合理的でいいと思ってるんですけど、さきほどの「炭素換算トン当たり3,400円ケースで税収を温暖化対策の補助金等に当てれば、炭素換算トン当たり45,000円ケースの価格インセンティブによる排出抑制効果と等しい」というところがひっかかるの。

H教授―え? どうして?

Aさん―だって、45,000円ケースでその税収を温暖化対策の補助金等に当てればもっと排出抑制効果はあるはずですよね。

H教授―うん、そりゃ、まあそうだ。

Aさん―どうしてそれを試算しなかったのかしら。2013年以降の第二約束期間【21】にはもっと大胆な排出抑制が必要になるんでしょう。じゃ、第二約束期間を先取りする形で世界に範を垂れるぐらいの排出抑制をすべきじゃないかなあ。

H教授―...まあ、いまでもエネルギーは欧米に比べて割高だから、そんな高率課税は到底実現不可能だと思ったんじゃないかな。

Aさん―でもそうした場合、どの程度CO2の排出抑制が可能になり、その場合のわれわれの生活はどうなるのかというイメージというかビジョンをプラス面もマイナス面も含めて提示することこそが必要なんじゃないですか。
それこそ価値観とかライフスタイルの見直しの第一歩じゃないのかなあ。センセイ、いつも授業でそう言ってたじゃないですか!

H教授―(小さく)そうは言ってもなあ。それに専門委員会報告でも最後にほんの少し触れてあるよ。
【21】 第二約束期間
京都議定書における数値目標は2008年〜2012年の「第一約束期間」に設定されており、これに引き続く2013年〜2018年を「第二約束期間」と呼ぶ。この数値目標交渉が2005年から2007年までの間に行われることになっている。 なお、第一約束期間では、温室効果ガスの削減への取り組みの第一段階として、締約国の温室効果ガス総排出量を1990年から少なくとも5.2%を削減しなければならないと規定されている。日本には、第一約束期間の5年間における温室効果ガスの平均排出量を、基準年(CO2、CH4、N2Oついては1990年、HFC、PFC、SF6については1995年)の排出量から6%削減するという目標が割り当てられている。
環境省総合環境政策局「温暖化対策税制の検討状況について」

Aさん―ここですね。
「産業構造など経済の姿は、...速く大きく変わる...経済等の影響を緩和するために、あるいは、より広い他の社会的経済的な目的のために、税収を活用したり、他の税を減免」「税率を、課税による価格インセンティブ効果だけで相当な排出削減量を確保できる程の高い水準とし、その税収は温暖化対策以外の施策や一般的な減税に活かす、との考え方についても、国民の意見を」。
でも、それにとどまらず、その高率の税収を温暖化や環境対策に生かすという考え方だってあるでしょう。

H教授―キミ、今日は過激だなあ。宝塚へ行ったんだろう。

Aさん―ハ?

H教授―宝塚カゲキ(笑―自分だけ)

Aさん―(軽蔑の目で)サッブー、そんなオジンギャグで誤魔化さないでください!

H教授―すみません。(小さくなる)

Aさん―ま、いいわ。あとは他の石炭・石油税だとか揮発油税だとかのエネルギー税制などとの関係ですね。
現にそれで温暖化対策に寄与している側面もあるわけで、しかも去年だったか、税率を変更し、税収の増加分の半分を環境省で使えって言ってきたわけでしょう。
でも、専門委員会報告では「役割分担を明確にし、調整を図る必要がある」としか言ってないですね。
なんだか奥歯に物がはさまったような言い方のような気がしたけど。

H教授―他省庁の管轄にあるものだから、環境省の審議会としてはそんな思い切ったことは言えないよ。

Aさん―じゃ、センセイはどう思われるんですか。

H教授―ぼくは税制のことはよくわからないし、調べてる時間もない。だから発言する資格なんてないよ。

Aさん―いいじゃないですか、一国民としての独断と偏見でズバッと言って下さいよ。

H教授―じゃ、思いつきの無責任な放言だということで、いくつか言わせてもらおう。
税制全体を環境シフトというか持続可能性社会構築のためにシフトするのが大前提。
つまり税収中立の原則の下で、環境負荷の大小や持続可能社会に寄与するかどうかの指標により、消費税だとか事業税の税率を決める。当然のことながら大規模な開発なんかは既存税以外に開発税だとか自然改変税をとる。都市住民には水源税という形で...。

Aさん―ちょ、ちょっと、いまは温暖化対策税に関連する税制の話に絞ってください。

H教授―しょうがないなあ、これからが佳境だったのに。じゃ、あとひとつだけ、税の過半は地方税にする。循環型社会の構築には地方主権の...。

Aさん―ストップ! だれもそんなこと聞いてないですって。早く話を戻してください。

H教授―わかった、わかった。よく知らないから誤魔化そうと思ったんだけどなあ。
われわれが電気やガソリンなどのエネルギーを使用したり、クルマを買ったりすると、いろんな形の税を間接税として払うことになる。こうした税の多くはエネルギーの安定供給や道路整備という特定の目的のために国や地方の特定財源として使われているし、特別会計として別勘定に繰り入れられることも多い。
エネルギー税制に関しては、エネルギーの有効利用の促進ということで、温暖化対策に寄与するようなものにも使われているのは専門委員会報告でも述べられているとおりだ。

あと、専門委員会報告ではほとんど述べられていないんだけど、自動車関連の税金の多くが道路整備という特定の目的のために使われている。だけど、運輸部門からのCO2排出も大きなウェイトを占めているし、相対的に公共交通機関より環境負荷の大きい自動車関連の税金については、その目的を道路整備からCO2削減も含めた自動車環境負荷対策に変更すべきじゃないだろうか。最低限、目的に道路整備だけじゃなくて自動車環境負荷対策を付け加え、その使途を道路整備から公共交通の補助育成を含めて環境保全に大幅にシフトさせるべきじゃないかなあ。
温暖化対策税に関しては、こうした既存のエネルギー税制や自動車関連税とのトータルで、最低限市民が節電を心がけざるをえなかったり、マイカーでの遠方への単独ドライブを躊躇する程度の水準の税率とし、税収は専門委員会報告でも言ってるように、排出抑制への補助金だとか奨励金みたいなものに回して排出抑制へのインセンティブを図るものにすべきだろうなあ。
要はエネルギーやクルマの過度の利用を経済的に抑制するよう誘導するとともに、質素な生活のほうが得で楽しいと思えるような社会意識を醸成することが必要だと思うよ。
あ、あと結果的には原発推進になってしまうような税金の使われ方には反対だな。

Aさん―なんだか随分抽象的で、温暖化対策税はどの程度の水準がいいのか、それだけじゃよくわからないじゃないですか。

H教授―(むっとして)じゃ、キミはどう思うんだ。

Aさん―だからとりあえずはエネルギー関連税と自動車関連税と新設の温暖化対策税のトータルでどれぐらいの税率にし、税収のどれぐらいを温室効果ガス削減の補助金等にすれば、森林吸収だとか京都メカニズムを差し置いて、'90年比で国内の総排出量△6%になるかという試算をぜひお願いしたいわ。
それだけじゃなく、そうしたときの社会や経済、雇用はどうなってるんでしょうか。きっと激変するんでしょうね。そのへんもぜひシミュレーションしていただきたいわ。

H教授―それをキミの卒論のテーマにしたらどうだい。AIMを駆使して。

Aさん―また、無茶苦茶を。センセイが経済にも弱いことがよくわかりました。(呆れ顔)

H教授―いずれにせよ温暖化対策税の導入は不可避だと思うよ。来年はその税率や課税方法、エネルギー関連税との関係を巡る攻防が環境行政のひとつの焦点になるだろうと言うのが本講の結論かな。
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参考: 南九研時報41号(平成15年9月)(予定)・南九研時報34号(平成14年6月)
(執筆終了9月23日・文:久野武、編集終了9月末日)
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