環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
第7講 亜鉛の環境基準をめぐって(付:レンジャー今昔物語)
メルマガ申し込み 会員登録 ヘルプ サイトマップ
国内ニュース 海外ニュース イベント情報 環境Q&A 機関情報 環境リンク集 環境用語集 ライブラリ 森づくり宣言
No. 第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
page 1/5 
1
2345
Issued: 2003.10.02
H教授の環境行政時評 (第10講 その1)
プロローグ


Aさん―センセイ、今日は突き抜けるようなさわやかな秋の青空ですね。こんな日になにも研究室で講義することないじゃないですか。「書を捨てて街に出よう」ですよ。

H教授―昔、マルクスが愛してやまなかったゲーテの至言がある。正確には覚えてないけど「緑なす現実の豊かさ! それにくらべ学問のなんと灰色なことか!」だったかな。

Aさん―ゲーテさんもいいこというじゃないですか。じゃ、本日の講義はなしですね。

H教授―(厳かに)でもねえ、ぼくらはこの現実をより豊かに緑なすために、時に灰色の肥料を播かねばならないんだ。キミには今がまさにそのときなんだよ。

Aさん―(虚を突かれて)うーん、なるほどねえ・・・でも、ちょっとカッコ良すぎるなあ。だれの受け売りなんですか?

H教授―へへ、商売のネタをばらすわけにはいかないよ。さ、始めるぞ。前講以降のトピックスでなにがあった?

 ページトップ

ディーゼル排ガス規制強化― トピック・1

Aさん―えーと、関東の自治体では10月からディーゼル車の排ガス規制を独自にはじめています【1】
環境省もディーゼル排ガスの規制強化をしてますけど、環境省は地方自治体の動きに少なくとも表面上は苦い顔してるようですね。一体どうしたんでしょう?

H教授―さあ?

Aさん―え? 知らないんですか? そういえば、この時評ではいちども自動車排ガス問題を正面から取り上げてないですね。センセイはそれほど環境問題としては重きを置いてないんですか。

H教授―いや、そんなことないよ。重要な問題に決ってるじゃないか!

Aさん―え? じゃ、どうして? どうして?

H教授―簡単さ、よく中身を知らないからだ。なんせ、ぼくは役人時代いちども自動車排ガス問題にタッチしたことがない。知ったかぶりして、変なことをいえば、どっと批難の投書が来るもんなあ。

Aさん―(呆れて)しょうがないセンセイですねえ。じゃあ、細かいことはいいけど、なぜ今、ディーゼル排ガスが問題になってるんですか。

H教授―ひとつは都市のNOx【2】問題が改善していないんだけど、ディーゼル車は相対的にガソリン車より、N0xの負荷が高いということ。もうひとつはやはり都市を中心に環境基準の達成が芳しくないSPM(浮遊粒子状物質)【3】対策だろうなあ。

Aさん―じゃ、ガソリン車よりディーゼル車の方が環境にやさしくないんですか?

H教授―そりゃ一概にいえない。環境問題のなにをターゲットにするかで変わってくる。
ディーゼル車の方が燃費がいいよね、と言うことは、走行距離当たりのCO2負荷はディーゼル車の方が低いということになる。つまり温暖化対策という観点からはディーゼル車の方がいいということだよね。
一方、NOxやSPMとなると話は逆になる。とりわけ欧米ではPM2.5【4】が発ガンに寄与しているといってうるさいんだけど、ディーゼル排ガスにはPM2.5が多いらしい。

Aさん―PM2.5?

H教授―環境基準【5】が決められているSPMは10ミクロン以下の微粒子と定義されているんだけど、2.5ミクロン前後の超微粒子に発がん物質が多く含まれているらしいんだ。だから、それを特にPM2.5と呼んで区別している。
で、ディーゼル排ガスにはそれが多いらしいってことだ。

Aさん―なるほどねえ、一長一短というわけですか。
【1】 首都圏のディーゼル規制
神奈川県、埼玉県、千葉県、東京都の条例により、平成15年10月1日から、1都3県の全域(東京都の島部は除く)において、ディーゼル車の排出ガス規制が実施されている。
対象車両は、軽油を燃料とするトラック、バス、及びこれらをベースに改造した特種用途自動車のうち、初度登録から7年を超えたもの。基準に適合しない車両は、粒子状物質減少装置の装着等が求められる。また、違反車両に対しては、最大50万円の罰金が課せられることとなる。
各都県では、条例に基づいて路上検査等を実施してきたが、10月末の集計結果によると、取り締まり台数計7,139台のうち未対策の違反車両は227台(約3.2%)だったと発表された。
その後、東京都では11月4日に、対策の指導に従わずに走行を続けていた業者に対して、運行禁止命令を出している。対策を取れば命令は解除されるが、未対策のまま再び都内を走行すると業者名公表や罰金もありうるとしている。
一方、環境省では2010年度までにディーゼル車の新たな排ガス規制を導入し、大気汚染の原因となるNOx、PMの排出を、現行規制から最大9割減を目指すとしている。
なお、ディーゼル車の排出ガスは、自動車起源のNOxの約7割とPMのほとんどを占めるとされている。
八都県市あおぞらネットワーク
東京都 ディーゼル車規制総合情報サイト
東京都の大気汚染地図情報
国の対応:環境省環境監理局「自動車関係」


H教授―問題はガソリン車かディーゼル車かということより、より環境負荷の小さい公共交通機関の充実だと思うよ。だから第9講でもいったけど、自動車諸税は道路整備だけじゃなくて、環境負荷対策と公共交通機関の助成にも充てることを考えるべきだ。

Aさん―自分がクルマ乗り回してて、よくそんなこと言えますね。

H教授―ぼくが東京にいるときはクルマなんか持ってなかったよ。公共交通機関が充実してたからな。

Aさん―駐車場代が高いのと、大都会のど真ん中で運転するのが怖かっただけでしょう(笑)。
でもクルマに関してはグリーン税制【6】が敷かれたじゃないですか。これで少しはよくなるんじゃないですか。

H教授―大気汚染ということでいえばそうかもしれない。でも、全面的には賛成しがたいなあ。

Aさん―え、どうして? センセイの普段の言動からいえば、大賛成と思ったけどなあ。

H教授―年々クルマの排ガスや燃費は改善している。だからといって、毎年、毎年、より「環境にやさしい」クルマに買い換えるのが「環境にやさしい」ライフスタイルだとは思えないなあ。
クルマとか家とかは一生大事に使うという精神も必要じゃないかなあ。廃棄物問題だってあるしなあ。

Aさん―そうか、センセイのクルマはほんとひどいポンコツですもんねえ。ま、一所懸命高い税金を払ってください。

H教授―よけいなお世話だ。
 ページトップ
page 1/5 
1
2345
次のページへ

【2】 都市のNOx(ノックス)問題
燃焼過程において発生する窒素酸化物をNOx(ノックス)と呼ぶ。呼吸器障害や光化学スモッグの原因となるため、削減・改善が求められている。
発生起源により、燃焼用空気の中に含まれている窒素と酸素とが高温状態において反応し、NOとなることで生成するNOxを「サーマルNOx」、一方、石炭・石油などの燃料中に含まれる窒素化合物の一部が燃焼中に酸化されてNOとなることで生成するNOxを「フューエルNOx」と区別することもある。
窒素含有量の低い燃料を使用すること、燃焼域における酸素濃度を低下させることによってフューエルNOxは削減されてきたが、サーマルNOxは燃焼温度が高く、燃焼域での酸素濃度が高いほど、さらに高温域での燃焼ガスの滞留時間が長いほど生成量は多くなることから、自動車排ガス中などからの発生は改善が困難となっている。
都内排出量約6万7,600トン(1995)のうち、自動車排ガスからのNOxが約7割、さらにそのうちの約7割を、走行量では2割に過ぎないディーゼル車からの排出ガスが占めるとの試算されている。
環境省環境監理局「自動車関係」
【3】 SPM(浮遊粒子状物質)
大気中に浮遊している粒子状物質で、代表的な「大気汚染物質」のひとつ。
環境基本法に基づいて定められる環境基準については、粒径10μm以下のものと定義している。発生源は工場のばい煙、自動車排出ガスなどの人の活動に伴うもののほか、自然界由来(火山、森林火災など)のものがある。また、粒子として排出される一次粒子とガス状物質が大気中で粒子化する二次生成粒子がある。
粒径により、呼吸器系の各部位へ沈着し人の健康に影響を及ぼす。年平均100mg/m3になると呼吸器への影響、全死亡率の上昇などがみられることなどが知られている。このためSPMの環境基準は、1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下、1時間値が0.20mg/m3以下、と定められている。
汚染状況について、年平均値は近年ほぼ横ばいからゆるやかな減少傾向が見られる。平成13年度の環境基準達成率は『一般環境大気測定局』で66.6%、『自動車排出ガス測定局』で47.3%である。
環境省 環境基準>大気汚染に係る環境基準
【4】 PM2.5
直径が2.5μm以下の超微粒子。大気汚染の原因物質とされている浮遊粒子状物質よりもはるかに小さい粒子で、ディーゼル車が出すディーゼル性排気微粒子など、化学物質が主な成分と見られている。PM2.5はぜんそくや気管支炎を引き起こす。それは大きな粒子より小さな粒子の方が気管を通過しやすく、肺胞など気道より奥に付着するため、人体への影響が大きいと考えられている。
【5】 環境基準
環境基本法第16条に基づいて、政府が定める環境保全行政上の目標。人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準。政府は公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより環境基準の確保に務めなければならないとされている。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について定められている。また、これら基準は、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならないと規定されている。 現在、大気汚染、水質汚濁、地下水の水質汚濁、土壌汚染、各種騒音、およびダイオキシン類による汚染のそれぞれに係る環境基準が設定されている。
環境省ホームページより
【6】 (自動車)グリーン税制
燃費効率がよく、排出ガス中のNOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)などの有害物質を低減した自動車の自動車税や自動車所得税を軽減するための制度。2001年度より2年間の特例措置として導入され、2003年度には排ガス中の有害物質を75%減らす車に限って1年間の延長をしている。
減税分は、性能の劣る13年以上経ったガソリン車、11年以上のディーゼル車の自動車税を重くすることでまかなうこととしている。
国土交通省のまとめでは、新車登録の3台中2台が低公害車となるなど、急速な普及をみせており、10年間で1,000万台との目標を5年前倒しで達成できる見込みとしている。
国土交通省「自動車税制のグリーン化」(平成15年9月22日)
低公害車ガイドブック
Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.