環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
第7講 亜鉛の環境基準をめぐって(付:レンジャー今昔物語)
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No. 第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
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Issued: 2003.10.02
H教授の環境行政時評 (第10講 その2)
VOC規制宣言 ―トピック・2


H教授―ところでいまSPMの話をしただろう? SPMが改善しないのはVOC(揮発性有機化合物)【7】のせいだと言って、環境省は固定発生源からのVOCの法規制を本格的に目指すことにしたらしい。
ぜひボクのときのリベンジを果たしてほしいねえ。

Aさん―?? どういうことですか。

H教授―第8講でノンメタンハイドロカーボン(NMHC)【8】の話をしただろう? 法規制を目指したけど挫折したって話。
実は、NMHCってのはVOCの大半を占めているんだ。NMHCはオキシダント【9】の原因物質なんだけど、同時にSPMの主犯とまではいかないまでも重要な共犯らしい。大気中に放出された揮発性炭化水素系物質が細かい水滴みたいになってSPMの相当部分を占めているんだ。

Aさん―じゃ、NMHCで統一すればいいじゃないですか。

H教授―NMHCは炭素と水素だけの化合物だけど、VOCはもう少し定義が広くて、炭化水素に酸素や窒素が入ったものを含んでいる。ホルムアルデヒドなんかのようにね。

Aさん―あーあ、頭が痛くなってきましたよ。

H教授―わかった、わかった。まあ、ともかく、環境省がVOCの排出抑制に向けた法規制の検討を始めたということと、その目的がSPMやオキシダント対策にあるということだけは押さえておいて、今後の経緯に注意を払っていこう。年内にも検討会報告が出て、次期国会に法案を提出する見込みのようだよ。

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【7】 VOC(揮発性有機化合物)
常温・常圧で揮発する有機化合物をVOC(Volatile Organic Compounds)と呼ぶ。
VOCは、油脂成分の溶解能や難分解性、不燃性などの特性により、洗浄剤や、塗料・接着剤の溶剤など多くの用途で広く普及してきた。主な用途は、IC基盤や電子部品の洗浄、金属部品の前処理洗浄、ドライクリーニングなど。
一方、吸引によって頭痛やめまいの原因になるほか、中核神経や肝臓・腎臓機能障害、発ガン性を示すことが報告されるなど問題化してきている。近年住宅の室内空気汚染の原因としても注目される。
具体的な物質には、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、ジクロロメタン、四塩化炭素、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,3-ジクロロプロペン、ベンゼンなどがある。
環境省では、SPMとオキシダントの生成にVOCが関与していること、また国内の排出量約185万トンは諸外国と比べて単位面積当りの排出量が多く、濃度も高いこと等から、特に固定発生源からのVOCの排出抑制に関する検討会を設置して、法制化に乗り出している。
環境省報道発表「揮発性有機化合物(VOC)排出抑制検討会の開催について」(平成15年9月18日)
環境省 揮発性有機化合物(VOC)排出抑制検討会
知床、世界自然遺産に ─トピック3
図:日本の世界自然遺産(登録地2箇所+候補地3箇所)および、世界自然遺産検討会(環境省・林野庁合同)について
(環境省資料等より作成)

H教授―じゃ、最後のトピック。ユネスコの世界自然遺産って知ってるよね。日本では白神山地と屋久島が登録されている。
環境省と林野庁は、知床を日本で3番目の自然遺産として登録するよう推薦することを決めた【10】

Aさん―確か知床、小笠原、琉球・奄美の3箇所に候補地を絞ったんですよねえ。なぜ知床だけになったんですか?

H教授―自然的価値からすれば、どれも資格あると思うよ。でも自然遺産というのは、きちんとした管理のもとで守られることが国内法で担保されてなければダメなんだ。小笠原や琉球・奄美は自然遺産となれば観光地としても箔がつくことは間違いないから地元では熱望しているのも事実だけど、同時に小笠原だったら空港問題、琉球・奄美だったら赤土流出【11】とか干潟埋立みたいな開発問題があって、管理上の条件を満たしていないということじゃないかなあ。

Aさん―なるほど、なかなか一筋縄ではいかないんですね。
さ、トピックスはこの程度にして、今日のメインテーマはなんですか?

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【8】 非メタン炭化水素(NMHC)
メタン以外の炭化水素(脂肪族飽和炭化水素、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素)の総称。NMHCと記すこともある。
メタンは光化学的に活性が低いため、光化学オキシダント対策で大気汚染を論じる場合にこのような指標が使用される。NMHCは、自動車に対して規制が実施されているほか、塗装、印刷工場などの発生源についても排出抑制の指導が実施されている。
環境省環境管理局「非メタン炭化水素濃度の推移」(平成13年度の大気汚染状況より)
瀬戸内法30年、浄化槽法20年

H教授―今年は瀬戸内法30年、浄化槽法20年なんだ。その話をしようか。

Aさん―瀬戸内法は何回か聞いたけど、浄化槽法なんて知らなかったなあ。ワタシが生まれた年にできたのか。

H教授―(鼻で笑って)また年齢詐称だ。そのセリフ聞き飽きたよ。

Aさん―ヒッドーイ!

H教授―(無視して)長くなるから、今講はどっちかひとつにしよう。どっちがいい?

Aさん―(不承不承)瀬戸内法の話は断片的にしか聞いてないから、今回はきちんとそれを話してください。
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【9】 光化学スモッグと光化学オキシダント
工場、自動車などから排出される窒素酸化物や炭化水素が一定レベル以上の汚染の下で紫外線による光化学反応で生じた光化学オキシダントや視程の低下を招く粒子状物質(エアロゾル)を生成する現象、あるいはこれらの物質からできたスモッグ状態のことをいう。 光化学オキシダントとは、工場や自動車排出ガスに含まれている窒素酸化物や炭化水素が、一定レベル以上の汚染の下で紫外線による光化学反応を繰り返すことによって生じる酸化性物質(オゾン、パーオキシアセチルナイトレート、ヒドロキシペルオキシドなど)の総称。 光化学オキシダントの高濃度発生は気温や風速、日射量などの気象条件の影響を受け、夏期の風の弱い日差しの強い日に発生しやすい。オキシダントと同義で使われることがある。粘膜を刺激する性質を持ち、植物を枯らすなどの被害を及ぼす。光化学オキシダントの高濃度汚染が起こるような状態のことを光化学スモッグとよぶ。 1950年ごろに米国・ロサンゼルスで、粘膜の刺激を訴える人が増え、また植物被害が生じる原因不明の大気汚染現象について研究解明が行われ、光化学反応によることが判明した。また、日本では1970年7月18日、東京都の高校生がグランドで運動中に胸が苦しいなどの症状を訴え、約40名の生徒が病院に運ばれ、同日に東京都などで数万人が目の刺激などを訴えたが、これは光化学オキシダント被害であったと考えられている。この頃から日本でも汚染や健康影響が発生するようになった。 環境基準は1時間値0.06ppm以下(窒素酸化物の影響を除いたもの)、注意報基準は 0.12ppmで、警報基準は0.4ppm。
環境省環境管理局「光化学オキシダント(Ox)」の測定状況(平成13年度の大気汚染状況 より)(PDFファイル)
環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」
【10】 世界自然遺産
人類にとって普遍的な価値を有する世界の文化遺産、自然遺産を、特定の国や民族のものとしてだけでなく、人類のかけがえのない財産として、各国が協力して守っていくことを目的に、第17回ユネスコ総会で1972年に採択された「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」(発効は1975)では、「自然遺産」、「文化遺産」、「複合遺産」を登録して保全を図っている。 締約国は、登録候補地を「世界遺産委員会」に申請し、世界遺産として相応しいと認定されると「世界遺産リスト」に登録される。2002年現在、締約国数は125カ国、登録件数730(自然遺産144、文化遺産563、複合遺産23)。日本は、1992年に締約国になり、11(自然遺産2、文化遺産9)箇所を登録している。 日本の世界自然遺産は、平成5年に登録された白神山地と屋久島の2箇所しかなく、新規登録を目指して平成15年に世界自然遺産候補地検討会を環境省・林野庁が合同で設置、同年5月に3箇所の候補地を選定し、10月に知床を推薦することが発表されている。
日本ユネスコ協会連盟「世界遺産最新情報」
知床の世界自然遺産推薦に関する小池環境相のコトバ(環境省HP「大臣談話等」より)
環境省報道発表「世界遺産条約に基づく世界遺産一覧表への記載に係る今年度推薦作業方針について」
【11】 赤土流出
沖縄や奄美諸島、小笠原等のサンゴ礁域で、降雨により土壌が浸食されて海域に流出すること。 これらのサンゴ礁域の土壌は赤色や暗赤色の成分が多いため、赤土と呼ばれる。裸地状態になった開発工事現場や農用地が主な流出源。 サンゴ礁域に流入する赤土は海水中の懸濁粒子となり、サンゴの体組織に摩擦による損傷を与えたり、光の透過を妨げてサンゴと共生している藻類の光合成を妨げて、サンゴの生育に影響を与える。 また、サンゴは体表に堆積した堆積粒子を除去するために粘液を分泌することによっても多くのエネルギーを消費する。堆積の程度によっては代謝が阻害されて死亡することもある。
赤土流出がおきるしくみ(沖縄県衛生環境研究所)
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