環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第12講 「2004新春 環境漫才」
第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
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No. 第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
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Issued: 2003.12.04
H教授の環境行政時評 (第11講 その1)
忠臣蔵の季節到来

Aさん―センセイ、いよいよ師走ですねえ。

H教授―そう、またくだらない忠臣蔵をTVでやるのかと思うと、うんざりするねえ。

Aさん―えー、どうして? 艱難辛苦の末に主君の仇を討つ物語でしょう。なんどみても感動的じゃないですか。


H教授―なんで主君の仇なんだ。別に吉良が浅野を殺したわけじゃない。
それどころか、吉良は浅野に殺されかけたんだぜ。
殺し損ねたからといって、その手下が徒党を組んで危うく難を逃れた被害者宅に押し入り殺す物語に拍手喝采なんて、あんまりじゃないか。

Aさん―そんな身も蓋もない。全国の忠臣蔵ファンから怒りの手紙が殺到しても知らないですよ! まあ、環境問題と関係のない話はここまでにしましょうよ。

H教授―そんなことはない。だいたい、歌舞伎の美化されすぎた話が、さも史実のように定着していること自体がおかしい。
そもそも、吉良は一方的な被害者なのに、ひどすぎると思わないのか。...

Aさん―あ、センセイ。センセイの主張は結構ですから、要するにどこがどう環境問題とつながるかを教えて下さい。

H教授―...うっ、ここからが佳境に入るんだがなあ。まあいいや。
つまり、なぜこんなに忠臣蔵物語がもてはやされたのかをきちんと見極めることだ。それは世論操作のせいといってもいいんじゃないかな。環境問題だって、マスメディアや官庁情報だけに頼っていると、規制しないでいいものを規制したり、規制しなくちゃいけないものを見逃したりすることもある。情報公開だけではなくて、その情報を自分の健全な市民的常識で判断することが必要なんだ。

Aさん―う〜ん、なるほどね。でも、センセイのは「健全」かな? ただ、アマノジャクなだけなんじゃないですか。

H教授―うるさい。そんな憎まれ口ばかり聞いているから、キミの就職が一向に決らないんだ。

Aさん―あ、もうそれはいいんです。ワタシ、大学院に行くことにしましたから。センセイ、これからもよろしくね(ニッコリ)。

H教授―う、うう。ようやく来春、キミの面倒から解放されると思ったのに...。

Aさん―へへえ、解放(カイホウ)されなくて残念でした、その代わりにこれからも介抱(カイホウ)よろしく。ね、センセイ。

H教授―(あきらめ顔で)わかった、わかった。


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トピック1 京都議定書を巡るロシアの対応

Aさん―えーと、まずはトピックですね。最初に、12月1日から気候変動枠組条約締約国会議の第9回会合がイタリアのミラノで開催されますね。京都議定書【1】の発効を受けての会合となる見込みが、まだ発効していないどころか、なにやら先行きがあやしくなってきましたねえ。

H教授―あとロシア1国で、発効するし、ロシアも批准に前向きな発言していたけど、最近ちょっとおかしくなったよね。プーチン大統領もロシアは北国だから、温暖化した方がいいなんて物騒な冗談を飛ばしていたしねえ。

Aさん―結局、どうなるんでしょう。

H教授―ロシアは2008〜2012の第一約束期間【2】でも、対'90年比の温室効果ガス排出量は相当程度マイナスになりそうなんだ。ソ連崩壊からの工業生産復興がまだ遅れているから。
で、そのマイナス分は京都メカニズム【3】の排出権取引【4】って奴で、他国、例えば日本に売れることになっている。これを買えば買った国はそれだけ削減したとみなされるからね。
これをホットエアー【5】と言うんだけど、どうも思ったほどは高く売れそうにないんで、ゆさぶりをかけてるんだと思うよ。

そうは言っても、売れなきゃたいへんだから、来年中には批准すると思うんだけど、米国の大統領選がどうなるかを見極めてからということになるかも知れないなあ。

【1】 京都議定書(Kyoto Protocol)
1997年12月京都で開催されたCOP3で採択された気候変動枠組条約の議定書。2003年12月現在で、未発効。日本は1998年4月28日に署名、2002年6月4日に批准。2003年11月現在の批准国数は、120カ国。
先進締約国に対し、2008〜12年の第一約束期間における温室効果ガスの排出を1990年比で、5.2%(日本6%、アメリカ7%、EU8%など)削減することを義務付けている。また、削減数値目標を達成するために、京都メカニズム(柔軟性措置)を導入。京都議定書の発効要件として、55カ国以上の批准、及び締結した附属書I国(先進国等)の1990年における温室効果ガスの排出量(二酸化炭素換算)の合計が全附属書I国の1990年の温室効果ガス総排出量(二酸化炭素換算)の55%以上を占めることを定めている。
The Convention and the Kyoto Protocol(UNFCCC) 英語
京都議定書の概要(環境省地球環境局)
京都議定書の締結及び地球温暖化対策推進法の一部を改正する法律について (環境省地球環境局)
京都議定書の骨子(外務省)
京都議定書の批准国の排出量内訳と、
発効のカギを握るロシア







■議定書発効の条件は、
1) 55カ国以上の批准を得ること
2) 附属書I国による1990年当時の総CO2排出量のうち、批准した附属書I国の排出量合計が55%以上を占めること
2つの条件が整い次第、90日以内に発効することとされている。このうち、第1の条件については、すでに120カ国(2003/11現在)が批准しており、問題はない。
一方、第2の条件に関しては、最大排出国であるアメリカ(基準年の排出量の36.1%を占める)が離脱を表明したことで、議定書の発効には17.4%を占めるロシアの動向がカギを握ることとなった。なお、すでに批准している日本、カナダ、EUなどの排出量を足し合わせても44.2%に過ぎない。
【2】 第一約束期間
京都議定書で定められた第一段階の目標期間で2008年から2012年までのこと。
京都議定書では温室効果ガスの削減への取り組みの第一段階として、締約国の温室効果ガス総排出量を1990年から少なくとも5.2%を削減しなければならないと規定されている。
京都議定書の締結の決定に当たって

Aさん―ブッシュがこけて米国に京都議定書復帰の動きが出れば、ホットエアーの値が高騰するかもしれないと言うことですね。

H教授―ま、そういうことだ。地球環境政策を考えるには、こうした国際的な動向をよくみておかなければならないんだ。そのためにはキミも大学院に行くんなら、英語を日本語と同じぐらいに使いこなすようにならなければだめだぞ。

Aさん―(呆れて)Thank you とNice to meet you しか知らないセンセイがよくそんなこと言えますね。

H教授―その代わり、関西弁、東京弁だけじゃなくて、岡山弁、飛騨弁、鹿児島弁もなんとかなるぞ。

Aさん―バッカバカしい。それ以外になんかトピックはありますか。本論のページ数がなくなっちゃいますから簡便にね。

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【3】 京都メカニズム(Kyoto Mechanism)
温室効果ガス削減数値目標を達成を容易にするために、京都議定書では、直接的な国内の排出削減以外に共同実施(Joint Implementation: JI、第6条)、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM、第12条)、排出量取引(Emission Trading: ET、第17条)、という3つのメカニズムを導入。さらに森林の吸収量の増大も排出量の削減に算入を認めている。これらを総称して京都メカニズムと呼んでいる。
共同実施と排出量取引は先進締約国間で実施され、コミットメント達成を目的とした国内行動に対して補完的であるべきと要求されている。CDMは先進国の政府や企業が省エネルギープロジェクトなどを途上国で実施することである。この京都メカニズムや、その無制限の適用に関してはNGOやEUからの批判も強い。
「京都メカニズム情報コーナー」(環境省地球環境局)
「京都メカニズムに関する検討会」(環境省地球環境局)
【4】 排出権取引(Emissions Trading)
全体の排出量を抑制するために、国や自治体、企業などの排出主体間で排出する権利を決めて割振る排出権制度を導入するケースが増えてきている。このとき、権利を超過して排出する主体が、権利を下回る主体との間でその権利の売買をすることで、全体の排出量をコントロールする仕組みを、排出権取引(制度)という。
二酸化炭素(CO2)など地球温暖化の原因とされるガスに係る排出権や、廃棄物の埋立に関する排出権などの事例が見られる。
京都議定書では、温室効果ガスの排出権取引が第17条として採択された3つのメカニズム(京都メカニズム)のうちのひとつにあげられている。国や企業が温室効果ガスの削減目標を達成するための補完的手段として、先進締約国(Annex B)の温室効果ガス排出削減量が京都議定書の定める所の削減目標値を達成し、更に削減できた場合に、その余剰分を金銭を対価として他国へ売却できる仕組み(または逆の場合には購入する)。イギリスは2002年4月に世界初の国内取引市場を作り、日本も2005年以降に国内市場を作ることが予定されている。
京都メカニズム情報コーナー(環境省地球環境局)
イギリス温室効果ガス排出取引 1年目の成果を発表(EICネット 海外ニュース)
Emissions Trading Schemes(英文)
【5】 ホットエアー(Hot Air)
京都議定書で定められた温室効果ガスの削減目標に対し、経済活動の低迷などにより二酸化炭素(CO2)の排出量が大幅に減少していて、相当の余裕をもって目標が達成されることが見込まれる国々(旧ソ連や東欧諸国)の達成余剰分のこと。この余剰分の排出枠が先進国に「排出権取引」を通じて売却され、先進国の実質的な排出削減を阻害することが懸念されている。
なお、英語の"Hot Air"には、熱気、温風、暑気などのほか、くだらない話、ナンセンス、大言壮語、空手形などの意味を持つ。これらの国の余剰分は、自国の努力による削減量ではないため、「空手形」という意味を込めて揶揄され、定着していったという経緯がある。
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