環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第12講 「2004新春 環境漫才」
第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
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No. 第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
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Issued: 2003.12.04
H教授の環境行政時評 (第11講 その3)
浄化槽と下水道秘聞
Aさん―さ、センセイ。ぼちぼち本論に行かないと。今回は浄化槽法【6】の制定20周年にちなんで、浄化槽【7】と下水道【8】の話題でしたね。

H教授―うん、そのためにはまず歴史のおさらいをしておこう。
キミのご両親が子どもの頃は多分汲み取り便所だったはずだ。大の場合、ボチャンと落ちてはねかえりを防ぐため、お尻をひょいとあげなきゃならなかった。下を見れば、蛆虫が蠢いていてね。

Aさん―キャー、やめてよセンセイ、気持ち悪いじゃないですか。そんな汚い話はやめてください。

H教授―し尿を汚いと思うところからしてそもそも間違っている。欧米では、し尿は汚物として1日も早く系外に─つまり、河川に放流しようとした。それが下水道の起源だ。

日本ではし尿は貴重な資源として近在の農民が買いにきたんだ。それは高度経済成長のまえまで続いた。ボクもかすかに覚えているよ。畑の片隅にはそのし尿を熟成させる「肥え溜め」が必ずあった。だから、日本の河川は欧米と比較にならないほどきれいだったんだ。

Aさん―そんなアナクロなこと言ったって...。

H教授―ところが進駐軍がそれを不衛生だとして嫌い、また、一方では化学肥料が出現して一変。
かくてし尿は資源から汚物になり、市町村がバキュームカーなどで収集し、し尿処理施設【9】で処理したあと河川に放流したり、未処理のまま直接海の沖合いに投棄(海洋投棄【10】)するようになった。
いまでもごく一部は海洋投棄してるんだぜ。

Aさん―まっさかあ。そんな不潔な。

H教授―近々禁止になるけどね。でも、貧栄養の沖合いじゃ、漁業にとってよかったのかもしれないよ。
ま、いずれにせよ高度経済成長とともに生活の欧米化が進行し、公共施設などではトイレの水洗化がはじまり、それから各家庭でも水洗化のニーズが急激に高まってきた。それを可能にしたのが下水道だったし、マンションなんかでの大型の合併処理浄化槽【7】だったんだ。
いずれも微生物の働きで有機物を分解する、自然界での浄化作用をより効率的にしたものなんだ。

Aさん―合併って何軒もの家庭排水をまとめて処理するからですね。

H教授―ブー。それは集合処理【11】という。
合併というのは、し尿と台所排水などの生活雑排水をまとめて処理するものをいうんだ。
こうして昭和33年に下水道法【12】ができ、大都市部を皮切りに自治体による国の補助を受けての下水道整備が本格化したんだ。
【6】 浄化槽法(Low for Combine Household Wastewater Treatment Facility)
この法律は、浄化槽の設置、保守点検、清掃及び製造について規制するとともに、浄化槽工事業者の登録制度及び浄化槽清掃業の許可制度を整備し、浄化槽設備士及び浄化槽管理士の資格を定めること等により、浄化槽によるし尿等の適正な処理を図り、生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与することを目的とする(1983年法律43号)。国土交通省及び環境省所管。 単独処理浄化槽は、汚濁負荷の大きい雑排水を未処理で放流するだけでなく、し尿による汚濁負荷も大きいため、公共用水域の保全に対して大きな弊害となっている。このため、生活排水対策への社会的意識の高まりに対応して、単独処理浄化槽の新設禁止のために浄化槽法を改正し、2001年4月1日より施行している。
浄化槽法 条文(総務省法令データ提供システム)
下水道普及率の推移(国交省 都市・地域整備局 下水道部の発表資料より作成)
【7】 浄化槽(Household Wastwater Treatment Facilities)
水洗トイレ汚水(し尿)と、台所や風呂、洗濯などの生活雑排水を、微生物の働きにより浄化処理する装置。処理水は終末処理下水道以外に放流される。市町村の設置する「し尿処理施設」は含まない。
具体的には、1戸建ての住宅で利用される家庭用浄化槽から、集合住宅や住宅団地、集落で利用される共同排水処理施設などをさす。
し尿のみを処理する「単独浄化槽」(生活雑排水は未処理で放流)と、生活雑排水もあわせて処理する「合併浄化槽」の2種類があるが、浄化槽法(1983)の改正等によって、単独浄化槽の新設は実質的に禁止されているため、現在では浄化槽といえば合併浄化槽を意味するようになってきている。
下水道と同レベルの浄化能力を持ち、原排水の汚濁物質の9割方は除去される。設置に際しては、国と自治体の補助金交付制度が適用され、個人負担を軽減している。
「浄化槽関連」(環境省廃棄物・リサイクル対策部)
「単独処理浄化槽の新設禁止について」(環境省廃棄物・リサイクル対策部)

Aさん―でも下水道整備ってオカネと時間がかかりますよね。下水道地域や大型マンションの人はもちろんのこと、それ以外の人たちだって水洗化しているところありますよ。

H教授―そういう人たちのために各家庭用のし尿だけを処理するいわゆる小型単独処理浄化槽がすごい勢いで広まっていったんだ。これが昭和40年代から50年代にかけて起こった。

Aさん―ワタシの生まれるまえだ。

H教授― ......。
さて一方、昭和30年代から40年代にかけて都市周辺の河川や内海内湾での水質汚濁はひどいものとなっていた。そして40年代半ばにそれへの不満が爆発。これで一気に公害規制が進んだんだ。
例えば、周辺地域で下水道が整備された隅田川なんかは産業排水規制とあいまって、うんときれいになった。だけど、多くの場合、都市周辺の河川や内海内湾の汚濁は必ずしもそうでなかった。

Aさん―つまり生活系の負荷、それもし尿以外の生活雑排水の負荷が無視できないほど大きく、しかも、下水道の整備がそれに追いつかなかったんですね。

H教授―そう、下水道などの生活排水の合併処理は水洗化が主たる目的だったんだけど、この頃から河川などの水質浄化の決め手として認知されたんだ。そして、各家庭用の小型合併処理浄化槽が開発された。
ところが家庭用の小型浄化槽はじめ、浄化槽ってのはいずれにしても清掃だとか保守点検だとかのきっちりした維持管理が必要なんだ。でも、建築基準法で設置時の性能基準が定めてあるだけで、そうしたソフト面の規制がなかったんだ。
もちろんマンションなどの大型の浄化槽は水質汚濁防止法で規制されていたけど、小型の家庭用のはフリーパス。
これじゃいけないというんで、関係業界が運動し、議員立法で成立したのが浄化槽法なんだ。昭和58年に制定され、60年に施行された。
そして、62年には各家庭用の小型合併処理浄化槽(以下、小型合併と略)に対する国庫補助制度がはじまった。
【8】 下水道(Sewarage)
下水を排除するために設けられる排水管、排水施設、処理施設およびポンプ施設その他の施設の総体を下水道という。日本における近代下水道は、雨水による浸水問題や停滞した汚水による伝染病の発生を防ぐことを目的として明治初期にスタート。1900年「土地の清潔を保持する」ことを目的とした下水道法が制定され、昭和初期から戦後は失業対策、戦災復興事業として整備さた。1958年に新下水道法が制定され、合流式下水道を中心とした都市内の浸水防除、都市における汚水の排除による生活環境の改善を柱とした下水道の整備が本格化した。その後高度経済成長による公害問題の深刻化の中1970年下水道法が改正され、流域別下水道整備総合計画及びその規定が新設され、生活環境の改善、浸水の防除及び公共用水域の水質保全を目的とした現在の下水道の整備目的が確立された。
下水道部(国土交通省 都市・地域整備局)

Aさん―え? 個人に国から補助したんですか?

H教授―うん、小型合併は単独浄化槽より高くつく。正確に言うとその差額分の全額を個人に補助しようとする市町村に対して、県と厚生省(現在の所管は環境省)が1/3づつ補助するようにした。

また、それに先立って農村集落などでの農業集落排水処理事業(農排)【13】という集合処理の小型下水道みたいなものに対する農水省補助事業もはじまっていた。この農排も法的には大型の浄化槽ということになる。
つまり昔の役所で言えば建設、厚生、農水3省の競争というか縄張り争いがはじまった。とくに建設と厚生の対抗意識が強かった。

Aさん―当時の環境庁の対応はどうだったんですか。
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【9】 し尿処理施設
「し尿」とは、人体から排泄される「屎(し)」と「尿」の混合物のことで、排出量は平均1リットル/人・日、「し」と「尿」の比率は概ね1:9。広義には、家庭や事務所、公共施設の便所から出る汚水を指し、水洗トイレ排水を含むが、法律では、汲取り作業によって収集・処分しているものだけを指して「し尿」という。汲取りし尿は、一般廃棄物として自治体が収集、運搬、処分をしなければならない。 「し尿処理」は、上記のし尿を処理する施設をさし、すなわち水洗化されていない便所の汲み取り処理のことを意味する。「し尿処理施設」は、そのための施設をいい、市町村が設置するもの。 回収されたし尿は、し尿処理施設で集中処理をした後、下水道へ放流される。放流水は、河川、海域等の富栄養化の要因である窒素、リンの除去及びし尿の色や臭気の除去がされる。
【10】 し尿の海洋投棄
海洋汚染防止(1970)法施行令では、し尿・汚泥など海洋還元型廃棄物の投棄について、速やかに拡散するように、少量ずつ航行しながら投棄するように定め、その排出海域について「海流に乗せやすく廃棄物が漂着しない領域基線から50海里以上の海域」と指定されている。
環境省の統計によると、平成12年度中のし尿処理量16,165,032キロリットルのうち615,338キロリットル(約3.8%)が、また浄化槽汚泥処理量14,929,802キロリットルのうち882,753キロリットル(約5.9%)が海洋投棄されている。

なお、海洋汚染防止条約(MARPOL73/78条約)の附属書IV「国際航海に従事する船舶からのふん尿及び汚水の排出に関する規制」が2003年9月27日に発効することを受け、国土交通省では海洋汚染防止法施行令を改正している。
また、環境省はし尿等の海洋投入処分禁止に関して、廃棄物処理法(1970)施行令の一部を改正し、2002年2月から5年以内に全面禁止としている。
海洋汚染防止法施行令(総務省法令データ提供システム)
「海洋汚染防止条約の附属書発効に伴い、海洋汚染防止法施行令が改正」EICネット 国内ニュース(2003.09.05発表)
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令等の一部を改正する政令について 環境省報道発表(平成14年1月10日)
【11】 集合処理
汚水処理方式は、下水道のように複数戸からの汚水を管渠で集約的に処理する「集合処理」と、個々の発生源ごとに(敷地内で)処理した処理水を放流する「個別処理」に大別することができる。前者は下水道や農業集落配水施設による処理が該当し、後者については合併処理浄化槽が該当する。
集合処理・個別処理にはそれぞれ特性があり、果たす役割も異なるため、優劣はつけがたい。地域の実情に応じて適切な方式を選択していくことが求められる。
環境省では、平成14年3月に合併処理浄化槽、下水道、農業集落排水施設の3事業について、建設費用、維持管理費用、施設の使用実績等を鑑み、集合処理と個別処理のエリア分けによる、生活排水処理施設の整備について、経済的効率性の観点からのマニュアルを示している(「生活排水処理施設整備計画策定マニュアル」)。
ここでは、世帯当たりの管渠距離で計算する「家屋間限界距離」という指標を提案し、これによって個別処理と集合処理のエリア分けを検討することを提示している。
生活排水処理施設整備計画策定マニュアルの概要 (環境省廃棄物・リサイクル対策部)
【12】 下水道法(Sewerage Law)
旧下水道法(1900)を廃止して、1958年制定。1970年流域別下水道整備総合計画 の項目を追加。流域別下水道整備総合計画の策定に関する事項ならびに公共下水道、流域下水道及び都市下水路の設置、その他の管理の基準等を定めて下水道の整備を図る。これにより都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、同時に公共用水域の水質の保全に資することが目的。国土交通省所管。特定施設の届出。除害施設の設置。排水基準の遵守等。特定事業場から公共下水道・流域下水道に排除される下水について下水道法施行令の改正を行い、改正された政令は、2001年7月1日から施行される。健康項目の下水排除基準に「ほう素及びその化合物」、「フッ素及びその化合物」「アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物」が追加指定され水質規制を実施する。
下水道法(総務省法令データ提供システム)
下水道部からのお知らせ(国土交通省 都市・地域整備局)
【13】 農業集落排水処理事業(Agricultural Community Effluent Treatment Programs)
農業集落からのし尿、生活雑排水または雨水を処理する施設を整備する事業。農地や農業用排水路に汚れた水が流れ込むのを防ぎ、生活環境を向上させるとともに、窒素、りん等を除去し、公共用水域の水質保全および農業用用排水施設の機能維持または農村の生活環境の改善を図り、生産性の高い農業の実現と活力ある農村社会の形成に資することを事業目的としている。農業集落排水施設は、主として集落を単位とした小規模分散システムであるため、処理水が農業用水などとして集落内で反復利用され、地域の水環境の保全に役立つ。また施設より発生する汚泥についても、緑農地利用、建設資材利用、熱利用等農地還元を通じて資源のリサイクルを図り、土づくりの面から環境保全型農業に資するなど、農業集落排水施設は生態系と調和をとりながら農村環境の保全に適したシステムといえる。
農業集落排水事業への融資
汚水処理施設連携整備事業の認定について
汚水処理施設連携整備事業の実施状況等について
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