環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第12講 「2004新春 環境漫才」
第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
第8講 盆休み 四方山話 
-電力雑感、読者の便りPart2、環境教育法、大気行政体験記
[an error occurred while processing this directive]
No. 第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
page 4/4  123
4
Issued: 2003.12.04
H教授の環境行政時評 (第11講 その4)
Aさん―当時の環境庁の対応はどうだったんですか。

H教授―ぼくは当時水質規制課にいたんだけど、環境庁の立場では、下水道でも農排でも小型合併でもなんでもいいから早く家庭雑排水の処理をしてくれの一語に尽きた。

Aさん―そりゃ建前はそうでしょうけど...。

H教授―建設省に言わせると、小型合併だとか農排は下水道が整備されるまでの「つなぎ」にしかすぎない。21世紀の遅くない時期に下水道の普及率を国民の9割にまで上げると公言していた。いまでもその旗は降ろしていないんじゃないかな。
これに対して厚生省は、小型合併は性能面でも下水道と対等の施設だと主張していた。
一方、建設省は小型合併は維持管理がきちんとできていないことが多いじゃないかと反論してた。

Aさん―そうなんですか?

H教授―うん、それはそうなんだ。浄化槽法では義務付けてあるけど、実効性のある罰則がなく、実際の法定検査率が低いのは事実。

Aさん―じゃ、やっぱり下水道の方がいいのかなあ。

H教授―確かに都市部では下水道の方が効率的だよ。
でもねえ、田舎みたいなところじゃ、延々と下水管をはりめぐらさなければいけないから、圧倒的にコストが高くつく。
ウルグアイ・ラウンドで公共投資の大幅増を国際公約にしちゃったから、多くの市町村が下水道に飛びついたんだけど、下水道は金喰い虫で、それで自治体赤字がぐっと膨らんだという話もある。

それに下流でまとめて処理してから放流するわけだから、その間の河川の水量が低下するという問題だってある。
個人的見解だけど、現在の普及率はほぼDID(Densely Inhabited District/人口集中地区)人口に達した【14】んだから、面的整備よりも高度処理【15】したり、合流式【16】の欠陥是正の方に転換すべきじゃないかな。

Aさん―高度処理? 合流式?

H教授―高度処理は富栄養化対策で窒素やリンなどを処理すること。また、都市部では雨水排除という機能も持たせるため、雨水も一緒に処理することが多く、これを合流式というんだけど、大雨のときは汚水と一緒になって未処理のままオーバーフローしちゃうんだ。

Aさん―でも小型合併は維持管理の問題があるんでしょう?

H教授―平成6年度から市町村が事業主体になって各家庭に小型合併を設置し、使用料金等を徴収して維持管理も市町村が行うという事業に対する補助制度もスタートした。これがもっともリーズナブルだと思うな。
小型合併の管理者が各家庭だなんて言ったって管理できるわけがなく、清掃業者、保守点検業者任せにしかならないんだから、遅きに失したとさえいえるんじゃないかな。
【14】 DID人口と、下水道による処理人口
統計データに基づき、一定の基準によって都市的地域を定めた指標のこと。昭和35年以来、5年おきに実施される国勢調査で得られた結果を用いて算出している。
背景には、昭和28年に施行された町村合併促進法による、いわゆる昭和の大合併が進行し、市区(市部)の領域内には市街地だけでなく、田畑や山林など農村的な要素が組み込まれていったことがある。市部と郡部(町や村)という行政区域が、都市部と農村部の対比として単純に捉えることができなくなったため、都市的地域の人口や面積を示すための新たな指標が必要となってきた。
DIDは、国勢調査の調査区を単位として、(1)人口密度が4,000人/km2以上)、(2)人口5,000人以上 の2つの条件を満たす区域を指す。
DIDは、都市計画や地域開発計画、市街地再開発計画、産業立地計画、交通計画、環境衛生対策、防犯・防災対策 など、各種行政施策や学術研究、また民間の市場調査などに広く活用されている。

平成12年の国勢調査によれば、人口集中地区(DID)の人口は、8,281万人(平成14年版国土交通白書)。一方、平成14年度末の下水処理人口は、約8,257万人(平成12年度は約7,803万人)と、ほぼDID人口に達してきている。
総務省統計局 「論より数字 勘より統計」 人口集中地区
平成14年版国土交通白書
平成14年度末の下水道整備状況について(H15.8.22)

Aさん―ところで単独浄化槽というのはどうなったんですか。

H教授―うん、これも長い間の懸案だったけど、ようやく平成12年に浄化槽法が改正され、単独浄化槽は原則禁止となった。いままでの単独浄化槽は「みなし浄化槽」ということで、更新の時期が来るまではそのままということになったけど。

Aさん―ふうん、で、センセイのところはどうなってるんですか。

H教授―(小さく)中古住宅で単独浄化槽だった。
でも市役所に聞いたら、下水本管があと100メートルほどのところまで来ていて、1〜2年内に下水道区域になるので、補助制度はないし、二重投資になるのは資源の無駄遣いになるからそのままにしてるんだ。

Aさん―でもまだ下水道区域になってないんですね。
【15】 高度処理
富栄養化対策として、窒素やリンを除去する排水処理方法。
現在の標準的な下水処理方法は、有機物(=汚れ)の除去には効果がある一方で、栄養塩類である窒素やリンが十分に除去できない。栄養塩類の流入が増加すると、それを栄養素にして、生物の繁殖が活発になる。この現象を富栄養化といい、藻類等の異常増殖を招き、その結果、水中の酸素消費量が高くなって貧酸素化したり、また藻類が生産する有害物質による魚介類の死滅を引き起こすこともある。水質は累進的に悪化し、透明度が低く、水は悪臭を放つようになる。

現在の標準的な処理方法は、下水に活性汚泥(微生物の塊)を入れて空気を吹き込むことで、下水に含まれる有機物を微生物の力で分解する。分解後は、汚泥を沈殿槽で分離し、処理水は塩素消毒をして、放流する。
高度処理では、酸素条件を変えた反応槽を通すことで、窒素とリンを効率よく除去することができる。下水中のアンモニア性窒素は好気性条件で硝化細菌によって硝酸化され、その後無酸素槽で脱窒細菌の呼吸によって窒素ガスとして大気中に放出される。一方、リンは好気条件で微生物体内に蓄積され、沈殿汚泥といっしょに取り除かれる。

[下水道のお話](横浜市下水道局)


H教授―一体どうなってるんだろう。まったくお役所仕事というやつは。
(急いで話題を変えるように)それからね、下水道は特別会計で独立採算が原則なんだけど、多くの自治体では赤字になっていて、一般会計から赤字補填してることがよくあるんだ。でも、これなんか、恩恵を蒙らない人々の税金と合わせて補填してるんだからおかしいよね。ましてや小型合併で処理している人の税金を使うなんてとんでもないことだ。
それからせっかく小型合併にしても、何年かして下水道区域になれば下水道への接続義務が生じるんだ。これも二重投資だからやめるべきだよね。

Aさん―(聞いてない)ふうん、センセイのところはまだ単独浄化槽なんだ、この環境の時代に。雑排水を垂れ流しているんだ。ふうん。

H教授―(消え入るように)だから、てんぷら油なんかはふき取ってるし、味噌汁だと米のとぎ汁だとかそんな濃厚な排水は裏の庭に撒いてるよ。クルマだって7年間いちども洗車してないよ。
そんな目でみるなよ。だって仕方ないじゃないか。

Aさん―はいはい。で、浄化槽の方の問題はないんですか。

H教授―いっぱいあるよ。まずは窒素、リンも処理できるような技術開発だよね。それからあとは下水道も共通だけど、水洗では大量に水を使うよね。やっぱり、節水型の水洗便所とそれに対応した浄化槽開発が必要じゃないかな。さらには浄化槽排水や下水道排水の中水としての循環・再利用。

それから浄化槽汚泥【17】なんだけど、現在は大半がし尿処理施設や下水に投入され、最終的には脱水・乾燥したあと焼却処理している。これを有機農業【18】、環境保全型農業【19】とリンクさせて、農地還元【20】するシステムづくりだとか、ローカルな循環型社会を考える際に浄化槽抜きでは考えられないね。

Aさん―ところで浄化槽の主管省庁は厚生省から環境省になりましたよね。建設省、つまり今の国土交通省だとか農水省との関係はどうなんですか。やっぱり縄張り争いみたいなものがあるんですか?

H教授―今は3省の連絡会議みたいなのもあるし、昔のようなことはないと思うけど、浜の真砂とお役所の縄張り争いはなんとやらというから、見えないだけであるのかもしれない。ま、いい意味での競争ならいいんじゃないの
それにどれも補助事業なんだから、むしろ受け皿の都道府県の方で政府のタテ割りの弊害をなくすような組織的な措置を取ればいいと思うよ。

【16】 合流式下水道(Combined Sewer System)
汚水と雨水を同一の管路で下水処理場まで排除する下水道を合流式下水道と呼ぶ。合流式では、雨水が洗い流した道路上の汚濁物質も下水処理場で処理できる上、管路が一つで済むため整備コストが安く効率的などの利点がある。東京都や大阪市など早くから下水道事業に着手した自治体では合流式が多い。しかし、雨天時・融雪時にはポンプ場や雨水吐で、一定量を超える汚水が未処理のままで公共用水域に放流され、大腸菌群数増加等の水環境の悪化を招くという問題がある。 国土交通省では合流式下水道の改善に向けた検討を進め、水道の取水や水浴場の上流など対策を急ぐべき水域を明確化し、雨水の流出抑制を進める観点から、都市の舗装を透水性舗装にしたり、再開発時に分流式に変換したり、雨水の貯留や浸透施設を設置する等と共に、雨天時放流水の効率的な消毒技術、処理技術等の技術開発、開発技術の事業への導入を促進すべきとした。
国土交通省都市・地域整備局下水道部
下水道と暮らし(東京都下水道局)
合流式下水道改善事業(北九州市建設局)

Aさん―センセイはそういう意味での縄張り争いに巻き込まれたことはなかったんですか?

H教授―昔、ボクも水質規制課時代、よんどころない事情で、汚濁小河川を直接浄化するという補助制度を創設しなければならない羽目にあったことがあったんだけど、これなんてこの3省庁の事業や建設省河川局の事業との隙間事業で競合しかねないものだったね。

Aさん―へえ、面白そう。その話をしてくださいよ。

H教授―もう時間切れだ。また、こんどね。

Aさん―なあんだ、つまんないの。
今度は年明けですね。

H教授―そう年内にちゃんと卒論のメドをつけろよ。
じゃ、読者のみなさまも、少し早いけど、よいお年を。
【17】 汚泥
一般には、水中の浮遊物質が沈殿または浮上して泥状になったものをいい、工場排水、や下水、浄水などの水処理施設の沈殿槽などで水から分離された汚濁物が泥状化したものや、河川や湖沼の水底に沈殿している底質などがある。これらの微細な固形物と水との混合物である汚泥は、もっともありふれた産業廃棄物で、1999年の排出量は、18,700万トン、全産業廃棄物の47%を占めていた。汚泥には、無機汚泥と有機汚泥とがあり、土木工事現場や浄水場、鉱山や金属メッキ工場などから出る廃汚水からは、無機質のみの汚泥が発生する。建設汚泥は、とりわけ含水率が高く取り扱いにくいが、無機汚泥の大部分を占め、年間1,400〜1,500万トンに達する。無機汚泥は固化材を加えて脱水するが、水銀、クロム、ニッケル、亜鉛などの金属を含む無機汚泥は、再利用可能な資源として捉らえ直される気運が生じている。有機汚泥は、生産過程で生じた動植物の残滓や老廃物、家畜排泄物などからなる泥状のものであり、生産工場や動物の飼育場から発生する。し尿処理汚泥は一般廃棄物である。
 ページトップ
page 4/4  123
4

【18】 有機農業(Organic Agriculture)
農薬や化学肥料等に過度に依存した近代農業によって、周囲の環境に悪影響が及ぶだけでなく、農地が本来有する生産力も損なわれることとなったことなどへの反省から、農業の本来の姿に回帰しようとする運動の中で生まれた農業生産方式。農薬や化学肥料を原則的に使用せず、家畜や農作物残さに由来するたい肥の施用等によって土づくりを行い、手作業や天敵の利用、機械除草等によって病害虫管理を行う。消費者の食の安全・安心への要求が高まる中で、2000年には有機農産物の日本農林規格も制定された。
特定非営利法人 日本有機農業研究会
【19】 環境保全型農業
一般的には可能な限り環境に負荷を与えない(または少ない)農業、農法のこと。農業の持つ物質循環機能を生かし、土づくり等を通じて化学肥料や農薬の投入を低減し、環境負荷を軽減するよう配慮した持続的な農業生産方式の総称。有機農業や自然農法、代替農業、低投入持続型農業などが含まれるが、化学資材の使用はまったく認めない無農薬・無化学肥料栽培という最も厳格な立場から、多少の使用は認めるという減農薬・減化学肥料という立場まで幅がある。
国では、1999年に持続農業法を制定し、認定農業者に対する農業改良資金の貸付や農業機械の課税に対する特例措置などを設けて支援を行なっている。なお、同法では「持続性の高い農業生産方式」について「土壌の性質に由来する農地の生産力の維持増進その他良好な営農環境の確保に資すると認められる合理的な農業の生産方式」と定義し、具体的には、(1)たい肥などの有機質資材の施用に関する技術で土壌改良効果の高いもの、(2)肥料の施用に関する技術で化学合成肥料の施用を減少させる効果の高いもの、(3)雑草・害虫等の防除に関する技術で化学合成農薬の使用を減少させる効果の高いもの をあげている。
農林水産省環境保全型農業対策室
持続農業法関連法令等(農林水産省環境保全型農業対策室)
(平成15年11月24日執筆・文:久野武、同月末日編集終了)
(参考:南九研時報22号(平成12年4月)同42号(平成15年12月、予定))
Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.