環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第13講 「都市の生理としての環境問題−花粉症・ヒートアイランド・都市景観」
第12講 「2004新春 環境漫才」
第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
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No. 第12講 「2004新春 環境漫才」
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Issued: 2004.01.15
H教授の環境行政時評 (第12講 その2)
地球温暖化―異論反論オブジェクト

Aさん―現に地球温暖化が起きていて、その原因が温室効果ガスの増加だってはっきりしていて、放っておけば取り返しのつかないことになるのがこれだけ科学的にはっきりしているのにねえ。

H教授―ところが科学的にはそれほどはっきりしていないという人たちもいる。はっきりしているのは温室効果ガスが増加してきていることだけでねえ。

Aさん―えー、そんなあ。

H教授―ここ100年、温暖化してきていることは確からしいんだけど、それは温室効果ガスの増加というより太陽磁場の変化の方が効いているんじゃないかという説がある。

Aさん―でも、仮にそうだとしても温暖化に温室効果ガスが寄与していることは確かなんでしょう?

H教授―うん、それはボクもそう思うよ。でもそれが主犯か従犯かじゃ、だいぶちがうよねえ。
それからね、温暖化が進むと海水の蒸発が盛んになる。つまり大気中に水蒸気が増えてくる。実はね、この水蒸気も温室効果を持っているんだ。

Aさん―じゃ、ますます深刻じゃないですか。


H教授―ところが、水蒸気が増えてくると当然雲の量も増えてくるだろう? この雲は太陽を遮って冷却効果をもたらすって話だ。

Aさん―??

H教授―つまり結果的に水蒸気の増加は温暖化を加速させるのか、ブレーキをかけるのか、実はよく分かっていないらしい。だから、IPCCの報告書も温暖化の予測に大きな幅をもたせているんだ。

Aさん―(悲鳴をあげるように)でも! いずれにせよ、温室効果ガスの排出抑制に努めねばならないのだけは確かですよね。

H教授―京都議定書どおりにするには高いコストがかかる。そんなコストをかけて抑制しても、結局のところほんのわずかの期間、温暖化を遅らせるにすぎない。だったら、そのコストは、むしろ温暖化で被害が出そうになったときに、被害防止策を取ったり、被害者の救援に充てた方がよっぽどコストパフォーマンスがいいという話もある。
一方じゃ、温暖化すれば農作物にいいということを言う人もいるくらいだからな。

Aさん―そんなばかな! まさかセンセイも賛成してるわけじゃないですよね。


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ロンボルグの波紋


H教授―あったりまえじゃないか。温室効果ガスに限らず、自然の生態系を大きく改変するようなことは極力押さえるというのが、ボクのスタンスだ。だから、断固とした温室効果ガス排出抑制対策を取るべきだと思うよ。
でも、この手の話が今年 ─いやもう年を越したから去年か─、去年になって増えたような気がするな。代表的なのが、ロンボルグの「環境危機をあおってはいけない」だよね。
環境危機説を煽る定番話に真っ向から挑戦している。いやあ、この本はじつに面白いよ。

Aさん―他にはどんな話をしているんですか。

H教授―環境が悪化しているなんてのは真っ赤なウソで、われわれの環境や生活は、途上国も含めてどんどんよくなっているということを膨大なデータで論じている。化石燃料をどんどん使って科学技術を進めていけば、化石燃料に替わるエネルギー源だってヒトはきっと見つけて実用化していくにちがいないって言ってるよ。生物多様性【6】だって減少していないって。

Aさん―だって、毎日何十種という動植物が滅んでいるんでしょう?

H教授―毎日一種という話から毎日100種まで随分幅がある。で、ロンボルグは滅んだとされている動植物が、その後、見つかったりすることも多く、いずれにせよ見積もりがあまりにもオーバーだってよ。

Aさん―ホントなんですか?
【6】 生物多様性
もとは一つの細胞から出発したといわれる生物が進化し、今日では様々な姿・形、生活様式をみせている。このような生物の間にみられる変異性を総合的に指す概念。
生物多様性条約など一般には、
 ・様々な生物の相互作用から構成される様々な生態系の存在=生態系の多様性
 ・様々な生物種が存在する=種の多様性
 ・種は同じでも、持っている遺伝子が異なる=遺伝的多様性
という3つの階層で多様性を捉え、それぞれ保全が必要とされている。
種内の多様性(遺伝子の多様性)が低下すれば種の遺伝的劣化が進み、絶滅の危険性が高まる。生態系の多様性が低下すれば多様な種が棲み分けられる生息環境が崩壊し、種が絶滅する可能性が高まる。種間の多様性はこれら双方の基となり生物多様性の要といえる。
生物多様性は生命の豊かさを包括的に表した広い概念で、その保全は、食料や薬品などの生物資源のみならず、人間が生存していく上で不可欠の生存基盤(ライフサポートシステム)としても重要である。人間活動が大きくなるとともに、生物多様性は低下しつつあり、地球環境問題のひとつとなっている。国際的には生物多様性条約に基づく取り組みが進められ、日本でも生物多様性国家戦略の策定を受けて総合的な取り組みがされている。

H教授>―絶滅種の見積もりに関する個々のデータに関しては彼の言う通りかもしれない。
でもねえ、生物の『絶滅』というのは、普通、個体数の減少からはじまって、分布域の減少分布域の分断・孤立化それぞれの分布域における個体数の減少孤立した分布域の消滅 と進んで、最後の生息地がなくなることで「絶滅」とされる。
つまり、この途中段階でも生物の多様性は減少しているんだ。だから、ロンボルグが「絶滅」という最終段階のみを問題にして、生物多様性はほとんど減少していないなんていうのはとんでもない間違いだと思うよ。
日本で言うと確かにメダカやタガメは滅んだわけじゃない。でも、昔は至るところで目にしたものが、めったに目にしなくなったことだけは確かだ。それこそが生物多様性の減少じゃないかな。
ロンボルグが言っている、「多くの種類が滅んだという報告があったけど、よく調べたらそうじゃなかった」という話、そのことは事実だろうけど、滅んだという報告があったこと自体が(本当に個体数=ゼロになっていたのかはともかく)、個体数の極端な減少を意味しているんじゃないかな。それは絶滅に向かう中間過程にあることを示していて、生物多様性の減少だとボクは思うよ。

Aさん―へえ〜、なるほどね。 ところで、わたしたちの環境や生活はよくなっているんですか。

H教授―うん、よくなっていることも多いのは事実だ。でもそれはどこかにツケを回しているだけかもしれない。それに環境がよくなったのも、警鐘を乱打する人がいたからこそだと思うよ。
有名なカーソンの「沈黙の春」【7】だって、学問的には問題の多い書だと思うけど、あの書があったからこそ、農薬の改良がグンと進んだんだ。もちろん、狼少年を弁護するわけじゃないけど、みんなが狼少年を受け入れる素地はあったんだ。
一言でいえば、こんな生活ばかりしていると、いつかはお天道様の罰があたるんじゃないかという庶民のひそかな恐れにフィットしたからだと思うよ。
そして、そういう感覚を大事にしていかないといけないと思うな。ただ、狼少年の時代は終わったと思うけどね。
【7】  沈黙の春
1962年に出版されたレイチェル・カーソンの著書。日本訳は、1964年に『生と死の妙薬』のタイトルで単行本として出されたが、1974年『沈黙の春』というタイトルで新潮文庫に収められ、それ以来、日本でも多くの読者に親しまれている。農薬や殺虫剤等の化学物質が大量に使用された時に自然の生態系はどうなるのか、生物そして人間はどうなるのか問いかけた警告の書である。また同時に、人間が自然環境とどのように共生していくべきなのかを考えさせるものとなっている。
本書が取り上げた残留性の高い有機塩素系農薬や、急性毒性の強い有機リン系農薬のほとんどは今日では使用禁止になっているが、本書に書かれたワシの生殖能力の異常は今日の環境ホルモンの問題につながるものであり、今日でも意味のある著書といえる。
レイチェル・カーソン日本協会
書評:環境の破壊と荒廃にブレーキをかける書 レイチェル・カーソン『沈黙の春』(上遠恵子)
「沈黙の春」(四六判変形、新潮社)
「沈黙の春」(文庫、新潮社)


Aさん―でも、ロンボルグはそういう感覚を捨てろってわけですね。

H教授―そう、で、彼の最大の問題は、いままでのトレンドがそうだったから、これからもそうだという根拠のない思い込みというか、技術至上主義じゃないかな。彼は技術者じゃないからこそ、工学技術信仰があるのかもしれない。ま、それでもロンボルグはあれだけのデータを集めたんだからえらいと思うよ。
ただねえ、こわいのは彼のエピゴーネンが続出したり、彼の論説の一部をシタリ顔で使って、自分のやることを正当化しようとする人間が出てくることだと思うよ。

Aさん―センセイは、ブッシュさんがそうじゃないかって言いたいんでしょう?

H教授―ま、そうだ(乾いた笑い)。

Aさん―なんかセンセイ、今日はいつもの元気がないですね。

H教授―絶望の虚妄なるは希望の虚妄なるに等し、か(溜息)。

Aさん―は? なんですかその寝言みたいなのは。

H教授―魯迅だよ、魯迅!!

Aさん―老人ねえ。センセイは老いを嘆いているんだ。

H教授―魯迅も知らないのか! もう、キミ大学院なんかさっさとあきらめたら?
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【8】 「淀川流域委員会と脱ダムの提言」
平成9年の河川法改正により、河川管理の目的として、従前の「治水」・「利水」に加えて、「河川環境の整備と保全」が追加されている。
これまでの「工事実施基本計画」に替わり、長期的な河川整備の基本となるべき方針を示す「河川整備基本方針」と、今後20〜30年間の具体的な河川整備の内容を示す「河川整備計画」が策定されることになった。後者では、地方公共団体の長や地域住民等の意見を反映する手続きを導入。これに基づき、全国20水系で流域委員会が設置され、すでに8流域において整備計画が作成されている。
淀川水系の整備計画についての意見を聴く場として2001年2月に近畿地方整備局により設置された「淀川水系流域委員会」は、河川や防災、環境などの専門家や自然保護活動団体の代表など55人で構成。2003年1月にまとめた同委員会の提言「新たな河川整備をめざして −淀川水系流域委員会 提言−」では、ダムについて「生活の安全・安心の確保や産業・経済の発展に貢献してきている」と評価する一方で、「地域社会の崩壊など」をもたらすことや「河川の生態系と生物多様性に重大な悪影響を及ぼしている」などと批判し、計画段階や工事中のものも含めて「原則として建設しない」と明記した。
淀川水系流域委員会
同 脱ダムの提言について
淀川水系のその後

Aさん―はいはい。ところで淀川水系流域委員会【8】の方もなにか動きがあったようですね。

H教授―うん、新聞情報でしか知らないけど、近畿地方整備局の河川整備計画【9】原案に対する最終意見書を出した。地方整備局は依然として、5ダムは有効だとしているけど、流域委員会では5ダムすべてについて、「中止も選択の一つとし、抜本的な見直しが必要」と結論付けている。地方整備局では1〜2年かけて検討し、結論を出すそうだ。

Aさん―どうなりそうなんですか。

H教授―そんなことボクにわかるわけないじゃないか。

ま、無責任な予想をすれば、流域委員会も5ダムすべて中止すべきだと強く言ってるわけじゃないし、地方整備局も地元市町村との関係もあるだろうから、最終意見書を参考にしつつも、5ダム全部中止ということにはならないんじゃないかなあ。
しかし、関東では尾瀬の登山口に当たる戸倉に造られようとしていた戸倉ダムが建設中止となった。工事に着工していたにも関わらず、水需要を見直した結果、中止を決めたものなんだけど、こういう例もあるからどうなるかわからない。
まあ、でも行政との対話という意味では、ひとつの雛型になるのかもしれないね。
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【9】 河川整備計画
従来の河川法では、水系ごとに「工事実施基本計画」において河川工事の基本となるべき事項を定めることとしていたが、1997年の改正により、これを「河川整備基本方針」と「河川整備計画」に区分した。
「河川整備基本方針」に沿った「河川整備計画」では、工事実施基本計画よりもさらに具体的な川づくりを明らかにし、地域の意向を反映する手続きを導入することとした。この「河川整備計画」の策定は、社会・経済面や技術面と並んで、環境面からの分析結果を意思決定に確実に反映させ、地域住民、専門家に対し十分な情報公開や意見収集を行い、これを公表しなければならない。
洪水や高潮、地震等の防災、取水や排水、河川空間(高水敷や堤防周辺)の利用、漁業活動、舟運やレクリェーション等の河川の利用・活用、河川の水質や生態系の保全等の河川環境に関する現状の課題に対して、基本的な対応の考え方、現在行っている具体的対策、これから実施しようとする具体的対策を盛り込む。
河川事業の計画段階における環境影響の分析方法に関する検討委員会 提言 国土交通省河川局 記者発表資料
国土交通省河川局「河川整備基本方針、河川整備計画について」
エコツアー振興策

Aさん―ところで、小池環境大臣はエコツアー【10】にご執心のようですね。

H教授―うん、着任早々、振興のために懇談会を設置したみたいだ。ご自分が言い出しっぺみたいだよ。

Aさん―エコツアーはコスタリカやガラパゴスなんかで盛んだそうですね。日本ではどうなんですか。

H教授―少人数のガイド付きツアーという意味では知床、小笠原、屋久島、西表なんかではかなり行われているみたいだね。問題はガイドのインタープリター【11】能力が玉石混交で、利用者にはそれを見分ける術がないこと。その収益が地域の環境保全に還元されてないし、地域の雇用や経済にも目に見えるほどの貢献はしていないようだ。
だからライセンス制だとか、国立公園の利用調整地区【12】制度とのリンクだとか、いろんなアイデアがありそうだ。来春には、いやちがった今春か、ええい、ややこしい、2004年の3月中には結論を出すそうだから、乞うご期待だね。
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【10】 エコツアー
自然や人文環境を損なわない範囲で、自然観察や先住民の生活や歴史を学ぶ、新しいスタイルの観光。なお、地域住民の働き場が組み込まれていることなど観光収入が地域にもたらされることも必要条件として概念に含める場合も多い。
1980年代後半、地球環境の保全意識の高まりとともに、環境保全について学ぶことも観光の重要な目的であるとの認識ができてきたこと、また、マス(大衆)による観光活動(マスツーリズム)が自然環境を悪化させるひとつの要因とみなされるようになったことなどを背景として登場してきた。特に、途上国においては、地域にもたらされる観光収入により、環境を大切な資源として認識することとなり、貧困等に起因する環境破壊が防止されると期待されている。
日本エコツーリズム協会
【11】 インタープリター
自然観察、自然体験などの活動を通して、自然を保護する心を育て、自然にやさしい生活の実践を促すため、自然が発する様々な言葉を人間の言葉に翻訳して伝える人をいう(interpret=通訳)。植生や野生動物などの自然物だけでなく、地域の文化や歴史などを含めた対象の背後に潜む意味や関係性を読み解き、伝える活動を行なう人をさす。一般には、自然観察インストラクターなどと同義に用いられることも多い。
なお、インタープリターの行なう活動をインタープリテーション(自然解説と訳されることも多い)という。
インタープリテーション協会
自然体験型環境教育の簡単用語集(財団法人キープ協会)
【12】 利用調整地区
将来にわたって自然公園の風致景観を維持するとともに、適正な利用を推進するため公園計画に基づき特別地域内に指定される公園利用の制限地区(自然公園法第15条)。
指定地区の公園利用者数を制限するため地区内に公園利用者が入る場合には、環境大臣又は都道府県知事(指定認定機関(法第17条)が指定されている場合は指定認定機関)の認定を受けなければならないこととされている(法第16条)。2002年の自然公園法改正で創設された制度であり、具体的な地区指定、認定機関の指定はまだ行われていない。
自然公園法の改正について
自然公園法 第15条
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