環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第14講 「BSE愚考、廃家電横流し雑考」
第13講 「都市の生理としての環境問題−花粉症・ヒートアイランド・都市景観」
第12講 「2004新春 環境漫才」
第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
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No. 第13講 「都市の生理としての環境問題−花粉症・ヒートアイランド・都市景観」
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Issued: 2004.02.05
H教授の環境行政時評 (第13講 その1)
花粉症

H教授―どうしたんだ、浮かぬ顔して。

Aさん―あーあ、やだやだ。また花粉症【1】のシーズンなんですよ。
もううんざりだわ。センセは大丈夫なんですか。

H教授―ああ、なんともないよ。

Aさん―(小さく)そうか、鈍感な人は花粉症にならないのか。

H教授―え?

Aさん―いや、なんでもないです。でも、これってやっぱり環境問題じゃないんですか?

H教授―まあ、広い意味では環境問題なんだろうな。都市部の方が発生率が高いことから、大気汚染との関係が疑われてる。

Aさん―具体的にはどういうことなんですか?
【1】 花粉症
花粉に対するアレルギーによっておこる鼻炎、眼症状である。原因となる花粉が発生する時に一致して発生する。症状は、クシャミ、水性鼻汁、鼻塞、眼のかゆみ、流涙の他、場合によっては頭痛、全身倦怠等の症状も現れることもある。歴史的には、古代ローマの記録にも同様の症状が記録されており、19世紀末に、これらの症状が花粉によって起きることが解明された。日本における研究では、1960年に、ブタクサ花粉症について研究発表がなされたのが最初で、その後、1964年にはスギ花花粉症等が報告され、多くの花粉が関係していることが知られるようになった。近年、日本では、花粉症の患者数は極めて多く国民病とまで言われるようになっている。原因となる花粉は、春季に飛散するスギ、ヒノキ等、秋季に飛散するブタクサ、セイタカアワダチソウ等がある。ことに、スギは、第2次世界大戦後、荒廃した山野に盛んに植林したスギが成長し、今や大量の花粉を飛散するようになり、大きな影響を及ぼしている。また、花粉症の発症については、大気汚染も関係するとも言われており、特に、ディーゼル排出微粒子等の粒子状物質が鼻粘膜に影響を与え、花粉の体内への侵入を容易にしている可能性が高いと言われている。
花粉症保健指導マニュアル(環境省環境保健部)

H教授―都市部以外の方がスギ花粉が多いから、普通に考えれば郊外の方が発生率が高くなってもいいんだろうけど、現実は逆に都市部の方が多くなっている。つまり、大気汚染など都市部特有の環境問題との複合的な影響が疑われるわけだ。

Aさん―なるほどね。ところで、花粉症って大昔からあったんですか。

H教授―ぼくが子どもの頃は聞いたことがなかったなあ。高度経済成長が始まってから、広葉樹の林【2】をどんどん切っちゃって、スギやヒノキの一斉造林を始めたからじゃないかなあ。
現在では森林面積の3分の1以上、国土面積の4分の1がスギ、ヒノキの造林地だ。
そのうち半分はなんの手入れもせず、放置されているそうだ。そうしたところでは、ひょろひょろした弱々しい木ばっかりで、もはや材としても使いものにならず、ただ花粉をまきちらすだけ。


Aさん―えー、どうしてですか。もったいないじゃないですか。

H教授―高度経済成長の初期の頃に、大々的な人口の流動化が起こりだした。つまり、若者がどんどん都会に出ていったんだ。山村は人手が減って、林業の担い手は不足しがちになった。

一方、ほぼ同時期に、燃料革命や化学肥料の普及が重なって、薪炭林【3】が不要になった。里山の雑木林では、10〜20年の周期で伐採して燃料に使うのと同時に、落ち葉などを堆肥に活用するなど、エネルギー的にも物質的にも循環型の生活が成り立っていた。里山林というのは、そうして人手が入ることで維持されてきた二次的環境だから、価値を失ったことで放置され、著しく荒廃していったんだ。

Aさん―へえ、踏んだり蹴ったりじゃないですか。

H教授―そう、だから、林野行政も大転換を図ることになった。
山の木々は一斉皆伐されて、スギ、ヒノキの造林地になった。林業の大規模化・機械化が進められていったわけだ。
当初は国有林会計も黒字になるなど成功したようにみえたものの、高度成長のあおりで、人件費が高騰するとともに、貿易が自由化され、外国産の材木が安価に流通するようになると、国内の林業は一気に斜陽化してしまったんだ。
人工林というのは、下草刈りや間伐、枝打ちなど折にふれ適切な作業をしていかないとよい材にはならないんだけど、人手不足や価格競争で外国産材に太刀打ちできなくなるなど、もはやマメな林地管理の作業を続ける意欲さえ失って、完全に放棄されるようになったというのが全体的な傾向だろう。これは、外国、特に東南アジアや南米などでの熱帯林の破壊を招くという別の問題も生んでいる。

日本は国土の67%が森林という世界屈指の森林率を誇っているのに、林業は片隅に追いやられ、木材需要の8割までが外材に頼るという木材輸入大国になっちゃった。国有林経営をやっている林野庁もリストラにつぐリストラで、ギブアップ寸前。ほんと、ヘンな話だよね。

Aさん―その放置された人工林はそのまま放っておくとどうなるんですか?

H教授―さあ? 台風なんかで倒れたり、へたすればほうぼうで山崩れを起すかもしれない。ま、100年か200年もすれば、もとの広葉樹林になるかもしれないが、その間の災害のもとになりかねない。

Aさん―じゃ、どうすればいいんですか。

H教授―第1講でいったように、いまいくつかの地方自治体では、危機感をもって、緑の公共事業【4】だなんていって、こうした森林の手入れだとか、間伐材の利用だとか、針広混交林化だとかをやろうとしているし、地球温暖化防止対策で森林の吸収機能の評価が追い風になって、農水省も「バイオマスニッポン総合戦略【5】」だとか、昨年末に出した農林水産環境政策基本方針【6】なんかでも、こういう動きを加速させようとしているみたいだけど、それには1日もはやく、従来型の公共事業を見直さないといけないよね(→「ズッコケOBが語る環境省論」)。
【2】 広葉樹の林
暖温帯には常緑の広葉樹が優占する森林が成立している。これらの種は、寒さや乾燥に適応した小型で厚い葉を持ち、葉の表面にクチクラ層が発達していて日光を反射して光ることから照葉樹林と呼ばる。
優占する樹種によりシイ林、カシ林、タブ林などと呼ばれることもある。温暖で夏に雨が多く、冬に乾燥する気候条件下で成立。ヒマラヤ山地から中国南部、台湾、沖縄を経て日本の南西部に至る東アジアの暖温帯に分布。主な樹種はカシ類、シイ類、タブノキやクスノキなどのクスノキ科、サカキやヤブツバキなどのツバキ科など。
階層構造が発達し、着生植物やつる植物も比較的多いほか、林床にも常緑の種が多いため林内は暗く、湿度も高い。
日本の照葉樹林の分布域では昔から土地利用、改変が行われていたため、現在まとまった自然林は少なく、本州では社寺林や急斜面などに断片的に残っている。なお、中国南部から日本に至る地域で、照葉樹林を活用しつつ発達した「照葉樹林文化」は、数十年単位でくり返される焼畑を中心にソバや雑穀を栽培する農耕文化で、水稲栽培以前に発達した。

一方、冬に落葉する広葉樹が優占する森林は、夏緑林とも呼ばれ、北半球ではブナ類、ナラ類、カンバ類、ハンノキ類、カエデ類、シデ類などが多い。照葉樹林に比べると樹木の種類が少なく、構造も単純で明るい。林床にササ類が生育するのが日本の落葉広葉樹林の特徴。
冷温帯を中心に広く分布し、日本では本州中部や東北地方、北海道などに分布する。本州中部の山地では海抜800〜1,600mに分布する。
落葉広葉樹林の分布するこれらの地域を落葉広葉樹林帯または夏緑樹林帯と呼ぶ。暖温帯の照葉樹林と並んで人間活動の盛んな地域に分布するため、人為の影響を受けやすい。


Aさん―あのお、センセイ。どんどん花粉症の話題から外れていってしまうんですけど。

H教授―そうそう、ゴメン。ぼく自身がまだ花粉症じゃないから、あまり切迫感がない。でも、女房も次男も数年前から花粉症には悩まされてるみたいだ。

でもねえ、ライフスタイルが変わったことによる体質の変化というのも相当あるんじゃないかなあ。花粉症以外じゃ、小児アトピー性皮膚炎なんてのも随分増えているような気がするな。

Aさん―じゃ減ったものって、なんかあるんですか。

H教授―たとえば、冬の手の平や指先のヒビ、シモヤケなんて代表例だろう。冬でも室内は暖かくて、給湯設備が整ったためだろうな。それに昔の子どもってのは、たいていリンゴのような赤いほっぺたをして2本の青い鼻汁を垂らしていたもんだけど、最近そういう子どもは見たことがない。こういうのもライフスタイルの変化が影響しているかもしれない。

Aさん―ライフスタイルの変化ってなんだろう。食生活の変化ですか、それとも化学物質とか食品添加剤とかそういうものですか。環境ホルモン【7】じゃないんですか。

H教授―さあねえ、でもぼくが聞いた中で、おもしろかったのは、花粉症やアトピーが寄生虫との共生をやめたせいで増えたという説。
【3】 薪炭林
文字通り、薪や炭材を採るために使われてきた林。用材にはならない雑多な木からなる林の意味で、「雑木林」と呼ばれることも多い。広葉樹などの二次林で、薪炭以外にも、農用林などとしても使われてきたものが多く、里地、里山の中心的存在。 暖温帯ではシイ類、カシ類、冷温帯ではコナラ、ミズナラ、クヌギ、アカマツなどがおもな構成種だが、暖温帯では照葉樹林が伐採されてコナラ、アカマツなどに置き換わっていることもある。 人間の管理により維持されてきた林であり、放置されるとササ類の侵入・繁茂などが起こり、やがて自然植生の構成種に置き換わってゆく。その過程で、雑木林に特有な動植物種が消失することもある。 近年、環境保全上の価値および歴史的・文化的価値が見直されつつある。「新・生物多様性国家戦略」(2002年3月政府決定)では「里地里山の保全と持続可能な利用」の中で雑木林を含む里地里山の重要性が述べられている。
「新・生物多様性国家戦略の概要」(環境省)

Aさん―はあ? 寄生虫との共生? 

H教授―うん、昔は100%、今でいう有機農産物を食べていた。肥料はし尿だよね。だから、カイチュウ、ギョウチュウ、サナダムシのような寄生虫が、たいてい腸内に棲んでいて、しばしば虫下しを飲まされたもんだ。つまり否応なく、共生していた。無論、寄生虫は悪さもしたけれど、アレルゲンに対する抵抗力、免疫力をつけていたというんだよね。

でも、化学肥料や農薬を使うようになり、そうした寄生虫を人体から徹底的に駆除してしまったことで、免疫力やアレルゲンに対する抵抗性が低下したというんだ。
実証するのはむつかしそうだけど、なるほどなあと思えるだろう。

Aさん―ふうん、もしそれが正しければ、花粉症は文明病ってことになりますね。

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【4】 緑の公共事業
国内産の木材価格の低迷が各地の森林荒廃を招く中で、森林の公益性機能に着目した従来の枠にとらわれない公共事業の創出を訴える声が高まってきた。 木材としての市場価値だけでなく、森林の持つ公益的機能を評価して、その保全や維持管理等に公的資金を投入する一方、そうした作業を地元森林組合などが担うことで、雇用機会の増進を図り、地方への人材定着の促進を図り、失業対策などのねらいも持つものと期待される。
【5】 バイオマスニッポン総合戦略
バイオマスの総合的な利活用に関する戦略として、農林水産省、環境省、文部科学省、経済産業省、国土交通省の各省が、アドバイザリー・グループの意見も踏まえて取りまとめたもの。2002年12月17日に閣議決定した。
「バイオマスの総合的な利活用」とは、「動植物、微生物、有機性廃棄物からエネルギー源や生分解素材、飼肥料等の製品を得ること」をいい、その生産、収集、変換、利用の全体をカバーする総合的な戦略づくりを進めることが同総合戦略の目的となる。
背景としては、国内では年間9,100万トンの家畜排泄物、同1,900万トンの食品廃棄物など大量のバイオマス資源が発生し、その利活用が、[1]地球温暖化防止、[2]循環型社会の形成、[3]農林漁業、農山漁村の再活性化、[4]競争力ある戦略的産業の育成 などにつながると期待され、推進が必要と認識される一方、[1]日本の資源、技術、ノウハウを活かした競争力のある総合的なバイオマス利活用が不十分、[2]国民各層のバイオマス利活用に関する共通認識の欠如といった問題点が見受けられることが指摘されてきた。
同戦略では、民間における市場原理に基づいたバイオマスの総合的な利活用を基本とし、利用可能なバイオマスを循環的に最大限活用することにより、将来にわたって持続的に発展可能な社会を実現することをめざし、バイオマス利活用に関するいくつかのシナリオを描いて、それぞれに合わせた具体的な数値目標を示している。
地域レベルでは「廃棄物系バイオマスを炭素量換算で90%以上、未利用バイオマスを炭素量換算で40%以上活用するシステムがある市町村を500程度構築する」との目標を設定。一方、全国レベルの目標として「廃棄物系バイオマスが炭素量換算で80%以上活用され、未利用バイオマスが炭素量換算で25%以上活用される」などを盛り込んでいる。
また、バイオマス資源の利活用推進のための課題を整理し、課題ごとに、基本的な取り組み方針や4省が実施する具体的な行動計画を提示している。
バイオマス・ニッポン総合戦略
【6】 農林水産環境政策の基本方針
農林水産省の循環型社会構築・地球温暖化対策推進本部の第8回会合(平成15年12月25日開催)で決定されたもの。副題に「環境保全を重視する農林水産業への移行」と記され、以下のような基本方針を打ち出している。
(1)大量生産、消費、廃棄社会から持続可能な社会への転換、(2)農林水産業が持っている自然循環機能の維持増進、(3)農林漁業者の自主努力と消費者の支援促進、(4)都市と農山漁村との対話促進、(5)農林水産省による環境保全型農林水産業の支援──の5つの基本認識の下、(一)情報開示、(二)国民の意見を反映した政策づくり、(三)住民やNPOなど多様な主体の施策への参加、(四)他の環境関連施策との連携、(五)環境保全重視型農業のための指針策定、(六)補助事業、制度資金での環境保全重視、(七)公共事業での環境配慮と情報開示、(八)施策ごとの目標の設定と評価、(九)科学的知見に基づく施策実施、(十)農林水産省の業務に対する環境マネジメントシステムの導入──の10項目のめざすべき方向性に沿って施策を実施するとし、各項目で実施する具体的な施策の内容、平成20年度までの取り組みの進展を示す工程表も作成している。
「農林水産環境政策の基本方針」の決定について(農林水産省報道発表)
【7】 環境ホルモン
正式には内分泌攪乱化学物質という。シーア・コルボーン他著による「奪われし未来」やデボラ・キャリバリー著による「メス化する自然」により内分泌攪乱化学物質が世界的な関心を集めた。研究者や機関によって定義が確定していないが、「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」(2000年11月改定)では「動物の生体内に取り込まれた場合に、本来、その生体内で営まれている正常ホルモンの作用に影響を与える外因性の物質」とし、疑われる化学物質として65物質をあげている。
「内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)問題」(環境省 環境保健部)
「内分泌攪乱化学物質問題への環境庁の対応方針について−環境ホルモン戦略計画SPEED'98−」(環境省環境保健部)
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