環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第14講 「BSE愚考、廃家電横流し雑考」
第13講 「都市の生理としての環境問題−花粉症・ヒートアイランド・都市景観」
第12講 「2004新春 環境漫才」
第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
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No. 第13講 「都市の生理としての環境問題−花粉症・ヒートアイランド・都市景観」
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Issued: 2004.02.05
H教授の環境行政時評 (第13講 その3)
都市景観と街づくり
H教授―混乱するのは時代それ自体が混乱しているからさ。
例えば、都市の問題でいうと、建築基準法が都市再生とかなんとかの理由で、規制緩和された。傾斜地なんかのマンションなんかだと最高地盤より下の部分は、地下室扱いになり──俗に「地下室型マンション」なんて言われているよね── 、高さ規制が実質的に大きく緩和されたし、容積率にも地下室部分を算入しなくていいみたいな特例ができるなど大幅緩和された。これまで高層マンションがつくれなかった地域で建築が可能となり、各地で「景観利益」が侵害されたとして反対運動が起きている。

Aさん―景観利益?
眺望権とか景観権とかいうのは聞いたことがありますけど...。

H教授―眺望権ってのは、自宅からの眺望を楽しむ権利と言うことで、それを建物なんかが建って阻害するのは眺望権の侵害だっていう意味で、使われるけど、他人の家からの眺望を妨げないっていう義務の方はあまり感じられないから、違うんじゃないかな。
景観権ってのはよく知らないけど、ま、似たような意味かもしれないね。

Aさん―上から読んだら、景観権、下から読んだら県関係か...。



H教授―バカ! ともかく、住民がまちの景観や風致を享受する権利というべきもので、同時に住民自身がそれを乱さないようにする義務を負う。
ところが、住民や市が景観利益という観点から建築基準法以上の厳しい自己規制を敷いていているところで、この規制緩和が悪用されて、とんでもない地下室型高層マンションが計画され、裁判沙汰になっている例があるんだ。
一方で、ちょうど今、住民意見を取り入れた街づくりの推進を謳って、建築物の色彩まで規制する「景観形成法」という新しい法律をつくろうとしているけど、これは本来でいえば順序が逆だよね。

Aさん―どういうことですか?

H教授―つまり、景観形成法のスキームがあって、それに乗った規制緩和であればいいんだろうけど、一方で土地価格の流動化とマンション建設を加速させることによって、都市再生という名の、ゼネコン、不動産業界の救済をねらった──あ、これはボクの独断と偏見だけどね── 規制緩和の流れがありながら、もう片一方では、住民主導の景観利益を街づくりのルールにするという2つの流れが交錯してみえてしまう。混乱するわけだね。
本来、生活に関わることについては、国は標準を決めればいいのであって、地域・地域では、特に住民が入った組織が決めるのであれば、上乗せ、下出し、横出し なんでもありというのが地方分権の本旨じゃないかな。

Aさん―で、裁判の結果は?

H教授―景観利益をめぐる裁判では、建築基準法の高さ制限よりきつい制限を地元住民と市でルール化している地域で、建築基準法の高さ制限めいっぱいまで建てようとした高層マンションが景観利益に反すると訴えた裁判で地裁、高裁段階では、住民側勝訴の例も出ている。国立市や名古屋白壁地区の住民訴訟だ。
地下室型マンションの判例はまだないと思うけど、ぼくの知っている例では、高さ10メートル以内、つまり3階建て以下に限るとか、厳しい規制がかかり、そのうえに住民たちがそれ以上の暗黙の街づくりルールで厳しい自己規制をしてきて、落ち着いた風情の低層住宅地をつくりあげてきた「第一種低層住居専用地域」に、実質5階建ての大きな地下室型マンションが建てられるという問題が発生し、景観利益に反するとして裁判沙汰になっている。

Aさん―でも、法律の基準を一応満たしていれば仕方ないんじゃないですか。

H教授―そういう見方もできるというか、従来はそれが主流だった。でも実際には、そんな場合でも、いままでは要綱をつくったりして、行政指導で、そうした暗黙の街づくりルールをカバーしていたことが多かったんだ。
でもそういう行政指導は不透明でけしからんという時代になってきたんで、都市計画法の「地区計画制度」で、それを法定化しようとしていた矢先に起きた事件なんだ。
問題は暗黙の合意としての街づくりのルールがある場合に、それが実定法上は担保されていない段階での景観利益が民法上の保護に値する権利といえるかどうかだよね。

Aさん―センセイはどう思ってるんですか?

H教授―これまでの常識じゃむつかしいんだろうけど、やっぱり時代が変わりつつあるんだろうと思うよ。先に述べたいわゆる国立事件の判決(東京地裁)や名古屋白壁地区の仮処分決定(名古屋地裁)などが出されていることは、こうした景観利益が民法上の保護に値する権利であるという見方が法的に成立しうることの証左じゃないかな。
昭和40年代の前期、各種公害法規がなお未整備で不十分な中、司法が先導的な判決を出し、そのことにより、公害行政が飛躍的な進化を遂げたこと──例えば無過失責任制度【10】の公害法規への導入など── もあるから、司法が立法、行政をリードすることだってあるんじゃないかなあ。
まあ、こういったことを意見書として裁判所に提出した。

【10】 無過失責任制度
事業者が大気汚染および水質汚濁等により健康被害を起こした場合には過失の有無を問わず賠償責任を認める制度。事業者の責任を強化して被害者の円滑な救済を図るため、1972年に民法の過失責任の原則の例外として大気汚染防止法(1968)および水質汚濁防止法(1970)で導入されたもの。 被害者が民法の規定によって損害賠償を請求するためには、損害の発生、原因行為と結果発生との間の因果関係、違法性及び加害者の故意又は過失を立証しなければならないが、大気汚染等の分野ではこれらのうち故意過失の立証をしなくてもよいこととされた。無過失責任の例は、イタイイタイ病裁判で使われた鉱業法や、国際法の分野でも宇宙損害賠償条約、原子力損害に関する諸条約、油濁民事責任条約等にみられる。刑事法の分野でも、公害罪法は公害により人を死傷させた者を一定の場合について過失の有無を問わず処罰することとし、法人の両罰規定も置いている。アメリカ法でも公害、麻薬、食品、商標等に関するいわゆる公共的犯罪については故意も過失も要件としない厳格責任(strict liability)が認められている。


Aさん―法律にド素人のセンセイが? そりゃ逆効果じゃないですか?

H教授―な、なんだと! 法律は法律家や法学者のためにあるんじゃない。国民のためにあるんだ。ぼくは国民の一員としての素朴な意見を述べただけだ。

Aさん―はい、はい、わかりました。ところでセンセイ、今回は環境省のあまり絡んでいない環境行政の話に終始しましたね。

H教授―はは、ある人から、アンタのは環境行政時評じゃなく、環境省行政時評だっていわれたからね。でも、ヒートアイランドの関係府省会議では環境省は国土交通省とならんで事務局、取りまとめ役になっている。もっとも環境省自身の施策はあまりなさそうだけどね。

Aさん―ほかに何か動きはありましたか。

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船舶の排ガス規制導入へ


H教授―うーん、今年に入ってからは取材をさぼってるんだけど、そうだなあ、船舶について、はじめて排ガス規制をすることになりそうだ。

Aさん―へえ、今までなかったんですか。
...なんにもセンパクだったんですね。

H教授―く、くだらん!
...それはさておき、移動発生源【11】というとクルマばかりに注目が集っていたけど、船舶からの排出量の占める割合は、SOx【12】では大阪兵庫京都の近畿三府県では46%、NOx【13】でも近畿地方では16%に達するそうで、結構多いんだよね。

マルポール条約【14】が来年にも発効しそうだというので、海洋汚染防止法【15】を改正して規制する方針のようだ。日本船籍の船は大半クリアしそうだけど、外国船籍の船まで規制されるらしいよ。

Aさん―移動発生源ならもうひとつ鉄道はどうなんですか?

H教授―さあ? でも鉄道はほとんど電化されてるから必要ないだろう。
それより飛行機排ガスがまだ残っているんじゃなかったかな、いちど調べてみよう。昔、光化学スモッグに飛行機排ガスが大きく関係しているなんて説もあったしな。ま、いささか珍説、奇説の部類かもしれないけど。

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【11】 移動発生源
大気汚染の発生源のうち、移動するものを、「移動発生源」と呼ぶ。自動車、船舶、航空機、鉄道車両(デイーゼルエンジン駆動)など、燃料を燃焼させることによって動力を得て走行、移動し、大気汚染物質である窒素酸化物や粒子状物質を排出する発生源の総称。これに対して、工場などの移動性のないものは「固定発生源」と呼ばれる。
自動車について、大気汚染防止法(1968)で大気汚染物質・燃料の性状を排出規制している(第2条第10項、第19条、第19条の二)。一方、船舶からの大気汚染物質の排出については、国際海事機関(IMO)において、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等を対象として国際的な規制の枠組みに係る審議が行われ、平成9年に海洋汚染防止条約締約国会議において「船舶からの大気汚染に関する規則」が採択された。また、航空機からの大気汚染物質の排出については、航空法により、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物及びばい煙について、国際民間航空機関(ICAO)の排出基準に適合した航空機でなければ航空の用に供してはならないこととなっている。
【12】 硫黄酸化物(SOx)
硫黄の酸化物の総称で、一酸化硫黄(SO)、三酸化二硫黄(S2O3)、二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)、七酸化二硫黄(S2O7)、四酸化硫黄(SO4)などがある。ソックス・SOxともいう。
石油や石炭などの化石燃料を燃焼するとき、あるいは黄鉄鉱や黄銅鉱のような硫化物鉱物を培焼するときに排出される。 大気汚染物質としての硫黄酸化物は、二酸化硫黄、三酸化硫黄、および三酸化硫黄が大気中の水分と結合して生じる硫酸ミストが主となる。硫黄酸化物は水と反応すると強い酸性を示すため、酸性雨の原因になる。
日本では、硫黄酸化物による大気汚染問題は、高煙突、重油脱硫技術、排煙脱硫技術、天然ガスなどへの燃料転換などの普及により沈静化しているが、途上国を中心に、依然、深刻な問題となっている。
大気に係る環境基準(環境省)
【13】 窒素酸化物(NOx)
窒素の酸化物の総称であり、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、三酸化二窒素、五酸化二窒素などが含まれる。通称ノックス(NOx)ともいう。
大気汚染物質としての窒素酸化物は一酸化窒素、二酸化窒素が主である。工場の煙や自動車排気ガスなどの窒素酸化物の大部分は一酸化窒素であるが、これが大気環境中で紫外線などにより酸素やオゾンなどと反応し二酸化窒素に酸化する。そこで、健康影響を考慮した大気環境基準は二酸化窒素について定められているが、排出基準は窒素酸化物として基準値が決められている。窒素酸化物は、光化学オキシダントの原因物質であり、硫黄酸化物と同様に酸性雨の原因にもなっている。また、一酸化二窒素(亜酸化窒素)は、温室効果ガスのひとつである。
大気汚染に係る環境基準(環境省)
【14】 マルポール73/78条約
船舶の運航やその事故による海洋の汚染を防止するための条約で、正式には「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」と呼ばれる。1978年2月に採択され1983年から国際的に発効。日本は1983年6月に加入した。
1973年に国際海事機関(IMO)で採択された「船舶による汚染防止のための国際条約(マルポール条約)」は、オイル、化学物質、梱包された有害物質、汚水や廃棄物などによる汚染を念頭に置いたものであったが、技術上の問題点等があり未発効のままであった。その間にもタンカーの事故による海域の汚染などが生じたことから、1978年のIMOのタンカーの安全と汚染防止に係る会議において、1973年の条約に統合する形で本条約が採択された。油類、バラ積み有害液体物質、梱包されて輸送される有害物質、汚水及び廃物の全てが規制対象となっている。
MARPOL 73/78(IMO)
船舶安全法及び海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について(環境省報道発表 平成9年2月17日)
【15】 海洋汚染防止法
船舶、海洋施設及び航空機から海洋に油、有害液体物質等及び廃棄物を排出し、船舶及び海洋施設において油、有害液体物質等及び廃棄物を焼却することを規制している。また廃油の適正な処理を確保し、排出された油、有害液体物質等、廃棄物その他の物の防除並びに海上火災の発生及び拡大の防止並びに海上火災等に伴う船舶交通の危険防止のための措置を講じて、海洋の汚染及び海上災害を防止する(1970年法律136号)。国土交通省所轄。さらに海洋の汚染及び海上災害の防止に関する国際約束の適確な実施を確保し、海洋環境の保全並びに人の生命及び身体並びに財産の保護に努めることを目的とする。
油や有害物質の排出による水産動植物資源への損害等、ごみ等の浮遊による美観、自然環境への悪影響等をはじめ、固形物の堆積による海底地形変更、着色の汚水による海の色の変化、温水による海水温の上昇等もすべて海洋の汚染として考えるべきである。
海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(総務省法令データ提供システム)
(平成16年1月18日執筆・文:久野武、同月末編集終了)
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