環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第16講 「環境ホルモンのいま」
第15講 「Hキョージュのやぶにらみ環境倫理考」
第14講 「BSE愚考、廃家電横流し雑考」
第13講 「都市の生理としての環境問題−花粉症・ヒートアイランド・都市景観」
第12講 「2004新春 環境漫才」
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No. 第15講 「Hキョージュのやぶにらみ環境倫理考」
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Issued: 2004.04.08
H教授の環境行政時評 (第15講 その1)

Aさん―センセイ、春ですねえ。桜がとってもきれい!

H教授―櫻の樹の下には屍体が埋まってる、か...。

Aさん―なんですか、それ。気持ち悪いこと言わないでください。

H教授―あ、ゴメンゴメン、梶井基次郎の一節だったんだけど、教養のないキミにはわかんなかっただろうなあ。

Aさん―そりゃあ、センセイのように棺桶に片足突っ込んでない、無知な若者ですから。

H教授―キミ、教師に対してえげつないこと言うなあ。ま、いいや、ぼくは美女にやさしいから。

Aさん―へえ、センセイも人を見る眼があったんですね。尊敬してますよ、ねっセンセ(上機嫌)。

H教授―悪人なおもて往生す、美女にはやさしいから醜女にはもっとやさしくすることにしてんだ。
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トレードオフとLCA
Aさん―へいへい、どうせアタシャ醜女ですよ、さっさと本論に行きますよ。
(うれしそうに)センセイ、前講で廃家電の横流しの話したでしょう。読者から、「リユースの観点からは悪いことではないかもしれないが、あの国だったらフロンの処理なんてしないだろうから、オゾン層保護の観点からは悪いんじゃないか」ってお便りがありましたよ。

H教授―(虚を突かれて)うーん、そう言われればそうだな。しかたない、冷媒にフロンを使ってる廃家電は除外ってことにしとこうか。
ま、これも一種のトレードオフって奴だな。

Aさん―トレードオフ? なんです、それ。

H教授―ほんとにキミ、院生になったってのに、なんにも知らないんだな。レーニンも言ってるぞ、「無知が役に立ったためしがない」って。いや、ちがったか、マルクスがヴァイトウリングに投げつけたコトバだったっけな、ま、それはどうでもいいや。
トレードオフってのは簡単にいえば、あちら立てればこちら立たずという関係のようなことだ。

Aさん―もう少し具体的に言ってください。アタシャどうせアタマが悪いんですから。

H教授―怒るな、怒るな、顔に小じわが出来るぞ。美人が台無しだ。

Aさん―もう、こきおろしたり、持ち上げたりぃ。

H教授―ま、いいじゃないか。もう2年ほど前になるけど、「自動車NOX・PM(粒子状物質)法」の規制強化に関して、以下のような新聞への投書があった。
「ディーゼル車は乗用車も、数年以内に車検を通せなくなります。ですがディーゼル車を廃車にして買い替える別の車の製造過程でもエネルギーが費やされ、温室効果ガスも発生します。そうした、新たに生じる環境への負荷を差し引いてなお意義ある規制かどうか検証した規制なんでしょうか。ものは大事に使えと、教わったので、まだ使えるものが強制的にスクラップされることに抵抗があります」という内容だった。
つまりNOX、PMはよくなるかもしれないけど、その代わりスクラップ、つまりゴミが増えたり、スクラップの処理で温室効果ガスが増えるだろう、こういうのをトレードオフというんだ。

Aさん―なるほど、ところでそれに対して環境省はなんて答えたんですか。

H教授―そのときの環境省自動車環境対策課の答えは、「環境への負荷を数字ではじきだし、比べることはしていません。環境基準の達成は、従来の対策で困難ならば、より厳しい規制を設けるしかありません」だけだった。

Aさん―はあ? それってなんにも答えてないんじゃないですか?

H教授―(苦笑して)ま、担当課としては、そういう木で鼻をくくったような、すれちがいの答えしか出せないんだろうなあ。よくわかるよ。

Aさん―どういうことですか、もっとちゃんと説明してください!

H教授―LCAって知ってる?

Aさん―センセイ、まえに試験で出したじゃないですか。Los Angels in California of America って書いちゃった。名答でしょう。

H教授―あれはキミかあ。0点どころかマイナス点をつけたぞ。
LCAはライフサイクルアセスメントの略なんだけど、製品なんかの誕生(原料発掘)から死(廃棄)までの生涯を通じてのトータルな環境負荷を評価する手法のことだ。環境省も盛んにその必要性を力説してるんだけど、その質問は、まさにLCAをきちんとしたのかと問うてるに等しいね。

Aさん―その環境省がしてないってどういうことなんですか?

H教授―できないんだよ。例えばNOXとPMを目標まで減らす2つの手段があったとしたら、その2つのどちらを取るかは本来コストではなく、それこそエネルギーの消費だとか、温室効果ガスだとか、その他の環境負荷の小さい方をとることがいいよね。この場合はLCAは可能だし、必要だ。
でも、NOXやPMを減らすことと温暖化対策とごみの減量の3つでどれがいちばん重要かってどうやって判断するの?

Aさん―そんなことワタシに聞いてわかるわけないじゃないですか!

H教授―ま、そりゃそうだ。さっきの読者の質問に数字で答えることは可能だよ。でも、数字ったって「NOXとPMを削減することはリンゴ3個を得ることに相当します。それにより生じる環境負荷はバナナ2本を捨てることに相当します」というようなことになる。
いや、それだったら金額で換算できるから比較できるな、義理が3つと人情2つを比較するようなものだ。

Aさん―はあ?

H教授―環境負荷を抑えるったっていろいろあるよね。ダイオキシンを減らすのも、温暖化を防ぐのもBODを削減するのもみんな重要だ。3つとももっとも効果的に減らせればベストだけど、現実にはそうはいかないし、それどころか、しばしばトレードオフの関係になったりもする。
そのとき何をいちばんのターゲットにするかを決めるのは科学ではなく、個々人の、あるいは社会全体の価値観だし、自分の置かれている立場によってもちがう。
日本のような縦割り社会じゃ、自動車環境対策課の立場からすればそう答えるしかないじゃないか。

Aさん―うーん、なんかよくわかんない。

H教授―だから、将来の実現可能なビジョンを展望した上でないと、真のLCAの導入はむつかしいということ。
もっともこの場合でも評価はできないまでも、質問者が言ったように、新たな規制によるメリットだけでなく、そのためにどの程度スクラップが増加し、エネルギーを消費し、温室効果ガスを出すかという試算をして公表することは、本来必要なんだと思うよ。
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「地球にやさしく」の陥穽
Aさん―なるほどねえ、一口に「地球にやさしく」って言ったって結構むつかしいんですね。

H教授―キミ、キミ、地球にやさしいなんて言い方はよしたまえ。

Aさん―どうしてなんですか、みんなそう言ってるじゃないですか。(段々激昂してくる)センセイは口では環境がどうこうなんて言ってながら、ホントは地球のことなんてどうでもいいんですよね。
センセイみたいな役人がノーパンしゃぶしゃぶの接待を受けて、この日本を無茶苦茶にしたんだ。なんでこんなセンセイに付いてしまったんだろう(泣き出す)。

H教授―そんな接待いちども受けてないよ。銀座のクラブも、向島の料亭も行ったことないもの。大体カネも権限もない、当時の環境庁にそんな接待の声がかかるわけないじゃないか。...(小さく)いちどくらいは受けたかったなぁ。

Aさん―は?

H教授―いや、なんでもない。
そもそも人間がなにをしようが地球が滅びるわけがない。ちょっとした引っかき傷ができるくらいで、それもすぐ回復しちゃうよ。
滅びるのは人間と、可哀想に道連れにされる何割かの生物だけだよ。だから「地球にやさしく」なんてゴーマンというもの。「人にやさしく」って言わなくっちゃあ。
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