環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第21講 「Hキョージュ、環境行政の人的側面を論ず」
第20講 「喧騒の夏」
第19講 「キョージュの私的90年代論」
第18講 「キョージュ、無謀にも畑違いの原発を論ず」
第17講 「SEAの必要性・可能性 ―付:S湾アセス秘話」
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No. 第20講 「喧騒の夏」
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Issued: 2004.09.02
H教授の環境行政時評 (第20講 その3)
「成長の限界」の限界 ―石油は化石燃料か?

Aさん―はいはい、そりゃワタシだって、ヒートアイランド対策の本命は水と緑の都市づくり、さらにはこれ以上の都市化の抑制で、温暖化対策の本線は化石燃料の使用抑制だってことくらいわかってます。
それに化石燃料はなんといっても限りある貴重な資源ですもんね。でも、ローマクラブの「成長の限界」(1972)では石油はあと21年しか持たないって書いてあったけど、ぜんぜん違うじゃないですか。

H教授―石油だけじゃないさ。あとのエネルギー資源も金属資源も予測は全部外れている。

Aさん―どうしてですか?

H教授―あと何年というのは、その時点で技術的、コスト的に採掘可能な資源の埋蔵量―それを可採埋蔵量というんだけど─ をその時点での年間生産量で割って出したんだけど、基本的には採掘技術の発達と資源価値の上昇により可採埋蔵量はどんどん増えるんだ。
最新のデータじゃあと43年ということになっているらしいが、これも怪しい。

Aさん―じゃ、可採埋蔵量じゃなく、絶対埋蔵量を用いればいいじゃないですか。

H教授―たとえば鉄を考えてみよう。地球のマントルや核のかなりの部分は鉄。それを年間生産量で割れば事実上永久に枯渇しないという結論になる。

Aさん―それは極端でしょう。マントルや核から採掘できるわけじゃないですか。

H教授―じゃ、金を考えてみよう。普通の岩石1トンあたり金は平均1グラムつまり1ppm含まれている。海水にも金は溶けている。だから金という資源も枯渇することがない。

Aさん―なんかおかしいなあ。

H教授―だから採掘技術の発達と資源価値の上昇をどう見積もるかによって、あと何十年、何百年持つかというのは変わってくる。そしてその見積もりはとてもむつかしいんだ。
どんなに採掘技術が発達し、資源価値が上昇したとしても、マントルから鉄を採掘することはないと思うし、ただの岩石や海水から金を採取するというのはありえないと思うけどね。

Aさん―ということは常識的にいえば石油はじめいろんな地下資源はいつかは枯渇するんでしょう。

H教授―ま、ふつうはそう考えるよね。

Aさん―ちがうという人もいるんですか。

H教授―石油について言えば、もともと化石燃料ではなく、地球の構成部分のひとつで、マントルや地殻深部から沁みだしているものだという説を唱える人もいる。石油だけじゃない、天然ガスもそうだし、無煙炭という上質の石炭までそうだというんだが、ここまでくると眉にツバを塗りたくなる。

Aさん―ホントなんですか?

H教授―いわゆる化石燃料の大半がじつは非化石燃料だという説にはほとんどの学者は否定的だけど、石油の一部はそういう出来方があっても、おかしくないと考えている人はいるようだよ。
ま、いずれにせよ科学的真理は多数決で決めるもんじゃないし、まったくのトンデモ学説と決め付けることはできないようだ。
ただ、この説に立つと、石油資源枯渇説は土台からおかしくなってくる。

Aさん―ふうん

H教授―それだけじゃない、成因の話は省くが、海洋底には「メタンハイドレード」【3】という水分子の結晶構造の中にメタンが閉じこめられたシャーベット状の未利用エネルギー資源が大量にある。いずれにせよ現在の技術ではメタンハイドレードを採掘して地上に持ってくるのに必要なエネルギーの方が、採取したメタンハイドレードのもつ潜在的エネルギーを圧倒的に上回っているから実用化の見通しはないんだけど、これだって技術の発達と資源価値の上昇しだいでどうなるかわからない。

Aさん―じゃエネルギーの将来は心配ないということですか。

H教授―第12講でも紹介したロンボルグ流にいえばそうなる。
ただ、もしそうだとしても─ボクはきわめて懐疑的だけど─ メタンハイドレードは炭化水素系のエネルギー資源だから、温室効果ガスを出すのには変わりはなく、百年単位のオーダーで考えれば温暖化や生態系にとって致命的な結果をもたらすと思うよ。
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【3】 メタンハイドレード
「燃える氷」と表現されるメタンハイドレード。
地下資源として存在し、石油・天然ガスなどに代わる次世代エネルギー資源として注目を集めている。
メタンハイドレード資源開発研究コンソーシアム
温泉と国立公園
Aさん―センセイ、ぼちぼち身近な環境行政時評に行きましょうよ。最近の話題は何ですか。

H教授―ひとつは温泉の不当表示。長野の白骨温泉にはじまって、つぎからつぎに波及してきた。もともと温泉法【4】では、地中から湧き出る温度が25度以上か、硫黄やラドンなど特定の物質が一定量含まれていれば、お湯というほど温かくなくったって「温泉」と表示でき、再検温や再分析の義務もない。そもそもそれが問題だと思うけど。
ま、それは差し置いて、今まで環境行政の中で温泉行政というのは等閑視されてたけど、これからは忙しくなるだろうな。環境省も人手不足の中で大変だな。
【4】 温泉法
EICネット環境用語集「温泉法」
環境省自然環境局(「温泉の保護と利用」についての情報)

Aさん―えー、温泉って所管は環境省なんですか。

H教授―もちろんだよ、温泉法という法律を所管している。ボクが現役のころは環境庁自然保護局のなかで温泉係ってのがあって、事務官がひとり配置されているだけだった。もっとも都道府県では環境部局ではなくて保健部局が対応しているところが多かったと思うけど。

Aさん―へえ、知らなかった。

H教授―温泉の所有権、利用権はどうなっているか、地下水と対比していっぺん調べてごらん。結構オモシロイと思うよ。
日本人はもともと温泉好きだけど、今は温泉ブームだ。ボクの住んでいるところでもクルマで30分以内のところに温泉が5つもできたよ。といってもどれも日帰りの公衆浴場だけど。
国立公園の利用者は年々減っているらしい。その原因としてパックで行く海外旅行の方が、自分たちで行く国内旅行よりかえって安価なこと、また職場の慰安旅行が廃れたことがあげられるけど、もうひとつ、身近なところにこういう施設が増えたということもあるんじゃないかな。

Aさん―じゃ、日本の国立公園の将来はお先真っ暗ということですか。

H教授―そんなことはない。日本では国立公園は、環境庁(当時)やレンジャーの思いとはうらはらに、マスツーリズムによる物見遊山の場として使われてきたけど、本来はもっと静かに自然と親しむ場なんだ。だから、こういう時代にこそ、自然を学び、自然から学ぶ国立公園本来の姿に戻ると前向きに捉えるべきだ。
温泉だってそうだ。ドンチャン騒ぎするんじゃなく、自然の中での癒しの場としなくっちゃいけない。

Aさん―なるほど。
ほかには?
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