環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第22講 「環境戦線異状あり」
第21講 「Hキョージュ、環境行政の人的側面を論ず」
第20講 「喧騒の夏」
第19講 「キョージュの私的90年代論」
第18講 「キョージュ、無謀にも畑違いの原発を論ず」
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No. 第21講 「Hキョージュ、環境行政の人的側面を論ず」
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Issued: 2004.10.07
H教授の環境行政時評 (第21講 その3)
環境行政の人的側面

Aさん―なんだか抽象的ですねえ。ところでセンセイ、環境庁時代いろんな部署を回ってこられたわけですけど、そうするとセンセイの専門ってなんなんですか? 環境政策全般ということになるんですか?

H教授―そんなことはないよ。強いていえばやっぱり生態学じゃないかな。

Aさん―はー? センセイの専門が生態学? なんの生態学なんですか。林学出身だから森林生態学なんですか。それにしては樹木の名前はあんまりご存知ないようですけど。

H教授―うるさいなあ、役人生態学に決ってるじゃないか。役人の論理、倫理、心理、生理から病理まで任せといてくれ。なんせ29年間役人やってきたんだからな。

Aさん―バッカバカしい。

H教授―キミ、そういうけどなあ、行政施策や政策を理解するためには、背景にある行政の組織・機構だとか人事だとかを理解しておかなきゃダメだよ。メディアで取り上げることは滅多にないけどね。そうすればさっきの3Rの提言の意味ももっとわかるよ。

Aさん―へえ、そうなんですか。じゃ、ウラガネとか接待の真相もご存知ですよね。

H教授―もちろん、真相だけじゃなく、深層もね。まあ、興味があれば、こんど話してあげるけど、今日はもう少しまっとうな話と行こう。

Aさん―じゃ、行政改革なんてどう考えればいいんですか。

H教授―わが政府は行革といっても、省庁や局の統合と人数減らしを省庁に一律に割り振る(第○次定数削減計画)ようなことしかしていないよね。
省庁や局の数を減らすことは事務次官や局長の数を何人か減らす程度の効果しかなく、一方では弊害も多い。その代わりの中2階の管理職が増えて、クリアしなければならない関門ばかり増えて、迅速な対応ができなくなるからね【8】
行革の真骨頂は権限の大胆な下部委譲で、その際に誤った判断をしたり不正をしたリーダーや、そうしたリーダーを任命した者に即座に相応の責任をとらせる仕組みをつくるべきじゃないかな。

Aさん―どうしてそれができないんですか?

H教授―その原因のひとつは人事システムだと思うよ。
まずは国家公務員の人事システムからみてみよう。
国家公務員は決して国家や政府に採用されるのでなく、各省庁ごとに採用されていること、同じ行一(行政職(一)俸給表適用職員、いわゆるお役人はほぼこれに該当する)であっても「I種」(旧上級職、広義のキャリア)、「II種」(同中級職)、「III種」(同初級職)の別があること、さらにさまざまな職種(「I種」の場合だと「法律」「経済」「土木」等、多くの職種)があり、大きく事務官と技官に大別されることは知っているよね。

Aさん―ええ、でも具体的な中身は知りません。

H教授―うん、環境省を例にとって具体的に眺めてみよう。
建前上は環境省も大臣を頂点に単一のピラミッドを形成している。しかし人事という観点からみると、実態は大きく異なるんだ。あえていうならばピラミッド自体がいくつもの非公式な小ピラミッドから形成されている。この小ピラミッドをシマとかムラと称する。すべての省庁はこのシマの複合体といって過言ではない。
【8】 行革の弊害(第18講より)
第18講

Aさん―環境省の場合は?

H教授―行政職(行一)には大きく分けて法文系キャリア、レンジャー、公害系技官、事務系ノンキャリの4つのシマがある。
法文系キャリアは「法律」「経済」や「行政」といったI種試験合格者。レンジャーは自然保護系技官で「造園」職というI種試験合格者が多いんだけど、最近ではII、III種も増えている。公害系技官はやや複雑で、環境庁時代はプロパー技官と称する「物理」「化学」などのI種試験合格者よりなる環境庁採用技官と、厚生省(水道環境部)1日採用でただちに環境庁に出向し、環境庁と厚生省を行ったり来たりする「土木」職I種試験合格者技官がいて、後者は「衛工」(衛生工学の略)と呼ばれて別のシマだったけど、環境省になってからは1つのシマに統合されたらしい。
このうちレンジャーとノンキャリ事務官は当初は環境庁への移籍組からなっていたんだけど、徐々に環境庁採用組が増えてきて、いまじゃほとんどが環境庁・環境省採用組になった。
つまり環境省はそうした移籍を含めた広義のプロパー職員と相当数の他省からの出向組により構成されている。

Aさん―じゃ、局とか課とかいうのは?

H教授―局−課という行政上の単位組織はそれらの混成部隊からなるんだけど、技官に関して言えば自然環境局はレンジャーの牙城で、公害系技官の拠点は環境管理局と官房の廃棄物・リサイクル部という縄張りと言うか、棲み分けができている。

Aさん―じゃ、ポストは?

H教授―事務次官以下すべてのポストはどのシマのものか不文律として決まっている。ま、一種の縄張り(ジッツ)だね。もちろん環境庁創設時はすべてのポストが出向・移籍組だったけど、その後、徐々に環境庁採用組に置き換わってきている。しかし、まだ出向組のポストは多く、次官もそうだし、局長級の半分は出向組だ。
なお、補佐や係長級でも専門性や人数の関係から、他省庁からの出向ポストも依然かなり多く見られるが、それはそれで貴重な戦力だし、プロパーにしばしば見られる独善性を中和する意味でも、環境省シンパを他省庁につくっていく意味でも、プロパーだけで構成するより、よほどいいと思うね。
また、ノンキャリ事務官は課長ポストが1つあるのみで、このポストはなお数年は移籍組だろうな。

Aさん―でも人事は秘書課でやるんでしょう?

H教授―建前はね。でも官房長―秘書課長ラインは事実上は法文系キャリアの人事を所管するだけで、それ以外の人事や処遇は、枢要ポストを法文系キャリアが優占している見返りとして、それぞれのシマに基本的に委ねているし、天下り先の確保までシマごとの責任で行われていることが多い。
つまりシマのトップがシマ内の事実上の人事権を有しているし、他省からの出向者に関しては環境省は基本的に発言権を有していない。

Aさん―そんなシマのシステムで育ってきたんですか。じゃ、つきあうのも同じシマだけ?

H教授―冗談じゃない、ぼく自身はシマという発想は大嫌いで、そういうことは一切考えずに人間関係を構築してきたという自負があるし、それが財産だと思っているよ。多くの役人もそうじゃないかな。

Aさん―シマのシステムの問題点は?

H教授―こういう強固な不文律である法文系キャリア優位のシマ・システムは、どんな意味でも正当化しうる法的根拠はなにもないんだ。
その弊害を昔の有名なO事件でみてみよう。厚生事務次官だったOは厚生省法文系キャリアのトップで人事権者だ。人事権を握られている法文系キャリアがどんな良心的な人間であっても、Oの悪事を諫めることは極めて困難だし、かりに正義感に駆られて諫めても飛ばされるのがオチ、それよりはできるだけかかわりあわぬようにして、悪事が露見したOおよびその一派が失脚してそのポストが空くのを待った方が賢明だよ。
なぜなら空くポストは法文系キャリアの指定席だからだ。
つまり、シマ内部に自浄のためのシステムは存していない。
自浄システムを内部にビルトインする唯一の現実的な手段は、不祥事を起こした者のポストはすべからく他のシマで埋めることだと思うよ。そうすればそのシマの部下も必死に諫めるよ。
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