環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第25講 「エイリアンを巡って ─外来生物法雑感」
第24講 「2005 ─地方の時代のために」
第23講 「二つの山場と三位一体改革」
第22講 「環境戦線異状あり」
第21講 「Hキョージュ、環境行政の人的側面を論ず」
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No. 第24講 「2005 ─地方の時代のために」
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Issued: 2005.01.06
H教授の環境行政時評 (第24講 その1)

Aさん―センセイ、おめでとう!

H教授―やあ、オメデトウ。今年こそ、ちゃんと修士論文に取り組めよ。
読者のみなさまもおめでとうございます。今年もよろしくご贔屓ください。

Aさん―(小さく)とはいっても、まだクリスマスですけどね。

H教授―シー、それをいっちゃダメ。約束ごとなんだから

Aさん―でもセンセイ、この時評、もう満2年ですよ。よく続きましたよねえ。
(読者に)じつはセンセイ、還暦を迎え、成人病オンパレードなんです。ホント、年寄りの冷や水ですよねえ。

H教授―こらこら、ぼくはまだまだ元気だよ。相手さえいれば大恋愛だってできるぞ。ま、キミだけはごめんだけどな。

Aさん―へん、それはこっちのセリフですよおだ。第一相手ができるはずないじゃないですか。なんの取柄もない白髪の爺さんが。

H教授―シ、シッケイな。「蓼食う虫も好き好き」というじゃないか。

Aさん―センセイ、それ英語でいえますか。

H教授―ん?

Aさん―情けない。Love is blindに決まってるじゃないですか。

H教授―うーん、恋は盲目か、こりゃあ一本とられたな。
さ、はじめるぞ。昨年の環境関連トピックスで最大のものはなんだと思う。

Aさん―やっぱり酷暑、最多台風、豪雨、地震とつづいた天災ですよねえ。それにツキノワグマ騒動なんかもありましたし。

H教授―うん、去年を象徴する漢字として選ばれたのは「災」だった。「災」ってホント、こわいものなあ。(小さく)「妻」もこわいけど。
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COP10 ─コップの中の嵐

Aさん―それと温暖化問題ですよねえ。ロシアがついに批准して京都議定書発効が決まりましたもの【1】。でも先日開催されたCOP10【2】では、第二約束期間に向けての枠組み作りもほとんど進展がなかったですねえ。

H教授―そうだよね。COP10ではEUと米国、それに途上国が三つ巴で、COP3の二の舞。歴史は繰り返す、一度目は悲劇、二度目は茶番劇として...。

Aさん―マルクスの『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』ですね。ヘーゲルはどこかでこういっている、というやつですね。

H教授―(ギクッ)なんだ、知ってたのか。

Aさん―(冷笑して)センセイのオハコは大体覚えましたから。

H教授―チェッ、尊敬のまなざしで見てくれるかと思ってたのに。で、第二約束期間については日本は経産省サイドと環境省サイドで思いっきり足並みが乱れたなんてことが新聞に出ていた。

Aさん―でも米国は京都議定書を離脱したんでしょう。なんでのこのこと会議に出てくるんですか。

H教授―COPは気候変動枠組条約加盟国会議。米国は条約加盟国だもの。今年11月に開催予定のCOP11では議定書批准国会議(MOP)も併催されるそうだ【3】

Aさん―で、COP10ではなにが決まったんですか?

H教授―途上国の関心が高い温暖化による洪水、干ばつなどへの「適応」のための「5カ年行動計画」(ブエノスアイレス作業計画)【4】を策定することが決まった。また来月には京都で議定書発効を祝うイベントが開催される。でも本命の第二約束期間については討議にすら入れず、5月にそのための「政府専門家セミナー」を開くそうなんだけど、これも米国の横槍で、COP11には直接反映させない単なる勉強会となったそうだ。

Aさん―ふうん、前途多難ですね。第二約束期間に向けての日本の考えは?

H教授―なにも決まっちゃいない。環境省は京都議定書の延長線上でさらなる厳しい数値目標を目指しているみたいだけど、経産省や産業界は米国と歩調を合わせて、数値目標は補助的なものとし、メインを技術援助と技術開発に持っていきたいようだ。

Aさん―センセイはどう思われるんですか?
【1】 ロシアの京都議定書批准と、発効の確定
京都議定書は、(1)55ヶ国以上の批准、(2)批准した附属書I締約国の1990年のCO2排出量が附属書I締約国全体の55%以上 ──という2つの発効条件を満たした後、90日後に発行することとなっている。
2004年11月18日に、ロシア連邦が京都議定書批准書を国連に寄託したことによって、同議定書は2005年2月16日に正式発効する。
なお、京都議定書の批准をすませた国は128ヶ国(2004年11月18日現在)。うち、批准手続きを済ませた附属書I締約国は日本を含めて36ヶ国で、その1990年のCO2排出量は附属書I締約国全体の61.6%を占める。
【参考】京都議定書
第23講「時評1 京都議定書発効確定と炭素税の行方」
【2】 第10回気候変動枠組条約締約国会議(COP10)
国連気候変動条約事務局(UNFCCC)COP10のページ
EICネット>国内ニュース「COP10が閉幕 適応策に関する行動計画など採択」
COP10概要(環境省報道発表資料)
全国地球温暖化防止活動推進センター
持続可能社会超長期ビジョンの必要性・可能性

H教授―もちろん経産省や米国はけしからんと思うけど、第二約束期間云々以前に数十年単位、例えば2050年を目標とした持続可能な国家のビジョンを作らなければいけないとしみじみと思った。
EU諸国ではそうしたものをつくっていて、英国は2050年までに排出量を現状より60%カット、フランスは75%カット、ドイツは2020年までに対'90年比40%カットを国家プランとして定めているそうだ。そして、環境税(炭素税、温暖化対策税)やEU域内の企業間排出権取引の制度も動き出している。

Aさん―日本でも一昨年、環境省が白書で循環型社会の3つのシナリオっていうのを発表しましたよ。技術開発推進型、ライフスタイル見直し型、環境産業発展型って【5】

H教授―あれは目先の変わった普及啓発の一手段に過ぎない。超長期の目標年次のビジョンを定め、それに向けてのシナリオとプログラムを考える...。そういう計画手法が日本には今までなかったもんなあ。そして持続可能、つまりエネルギー・資源抑制型社会の未来像を描かなければいけない。もちろん、そのときに経済や社会、雇用や交通体系などもろもろのことがどう変わっているか、変えなきゃいけないかを示すことが必要だ。

Aさん―2050年っていったら、技術開発だって大幅に進んでいるでしょうから、作りようがないんじゃないですか。未知のエネルギー源も実用化されているかもしれないじゃないですか。

H教授―もちろん5年、10年ごとの見直しは必要だし、その時点で実用化したものについては取り込んでいかなきゃならないけど、現時点で実用化のメドがたたないもの、例えば核融合だとか、高速増殖炉だとか、メタンハイドレードだとか、CO2の固定・廃棄だとかいった超楽観的な技術要素【6】をそうしたビジョンに入れることは厳禁だ。

Aさん―一応、将来構想だったら、各自治体でも総合計画みたいなものを作っているじゃないですか【7】

H教授―もっとも基礎的なデータである人口見通しですら願望が入り混じってデタラメだ。
ぼくの住んでいる市では一時期人口が急増し、総合計画では2010年の想定人口を20万人とした。最近になって、これは難しそうだというので、下方修正して13万人にしたんだけど、残念ながら11万人でストップ。多分、今後は減り続ける一方だよ。

Aさん―ますます少子高齢化が進んでいきますものねえ。でもそうしたビジョン作りは難しそうですねえ。

H教授―定量的なものじゃないけど、国連大学の安井先生の書かれた「シナリオ・低エミッション都市」(http://www.yasuienv.net/LowEmissionCity.htm)は参考になるよ【8】

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【3】 COP11とCOP/MOP1
気候変動枠組条約の次回会合である第11回締約国会議(COP11)は、2005年11月7日〜18日に開催される。開催地は未定で、2005年前半にホスト国を募ることになっており、申し出のない場合はドイツ・ボンでの開催となる。同期間に、京都議定書の批准国で開く第1回締約国会合(MOP1)が併催される。
COPとCOP/MOPは国際法的に異なったアジェンダだが、COPの補助機関会合(SB)が京都議定書のSBとしても機能する。暫定的アジェンダはCOP11とCOP/MOP1で別々に準備されるが、SBでは1つの暫定的アジェンダが準備され、条約と議定書の両方の内容が入る。条約と議定書の区別は、アジェンダの中で明確にされる。COPとCOP/MOPの会議は別々に行われるが、関連した議題があれば、締約国の合意のもとに合同で会議を開くこともできる。また、閣僚級会合(ハイレベルセグメント)は合同で開かれる。
【4】 ブエノスアイレス作業計画
温暖化への適応(=洪水、干ばつ、海面上昇に伴う堤防建設など気候変動による影響への対応策)に関する5か年行動計画「適応策と対応措置に関するブエノスアイレス作業計画」のこと。
Buenos Aires programme of work on adaptation and response measures (409 kB)
【5】 循環型社会に向けた3つのシナリオ
平成14年版 循環型社会白書
【6】 超楽観的な技術要素について
核融合炉
高速増殖炉
メタンハイドレード
大増税時代と環境税

Aさん―で、環境税は結局、見送りになったんですね。

H教授―うん、先日決まった与党の税制改正大綱【9】では来年度から定率減税の段階的廃止が決まったし、諸般の情勢からは、2〜3年後の消費税アップはまちがいなさそうだ。大増税時代に入りそうなんだけど...。

Aさん―(遮って)やだ、増税反対!

H教授―だれだって増税はいやだよ。環境税だって朝日新聞の世論調査では反対が賛成を上回ったくらいだ。
環境税の話は別にするとしても、日本は800兆円もの借金を未来の世代に抱えているんだもん、ある程度の増税は仕方ないと思うよ。もっとも歳出の方ももっと落とさないとダメだよね。とくに公共事業なんてのは、数年間凍結するくらいの覚悟がなきゃダメだよ。でも、そっちは相変わらずの大盤振る舞いだもんね。

Aさん―そんな増税時代だというのに、環境税導入は見送りになったんですね。どうしてかしら。

H教授―ま、なんだかんだいっても2〜3年後には導入必至だと思うけど、基礎産業界が徹底して反対の音頭をとったからなあ。

Aさん―反対の論理は?

H教授―税率が低すぎてCO2抑制にならないというのがひとつ。これは前講でも言った【10】からパスしよう。

Aさん―バカバカしくて反論する気にもならないですね。マサカそれだけじゃないでしょう?

H教授―いくら税率が低くてもエネルギー多消費産業の鉄鋼などの基礎産業界には負担が大きく、国際競争に負けて、その分、中国などでの生産量が増える。中国などでの排出抑制技術、つまり省エネ技術はまだまだ低いので、中国での二酸化炭素排出量が急増し、結果的に全地球での排出量が増えてしまうというものだ。

Aさん―そうなんですか?
【7】 【参考】各自治体の総合計画等について
知恵の環 地域環境行政支援情報システム
【8】 市民のための環境学ガイド(時事編:2004年版)
シナリオ・低エミッション都市
【9】 平成17年度税制改正大綱(平成16年12月15日)
自民党HPより
【10】 炭素税(環境税)論争に対するキョージュの見解
第22講「時評1 京都議定書発効確定と炭素税の行方」

H教授―うん、それはそうだと思うよ。前出の安井先生がHPでみごとな反論を展開されてるけど、付加価値の小さいものの製造は人件費がより低い国に流れるのは当たり前で、そうなれば排出量が増えるのは仕方がなく、だからこそ先進国での排出削減とCDMが重要になってくるんだ。
途上国がある程度豊かになるまで削減数値目標を押し付けることはできないとボクも思うよ。つまり全球的な温暖化対策がはじまって、功を奏するようになるのは数十年先ってことだ。うまくいったとしてね。

Aさん―つまり先進国から排出抑制しなくっちゃいけないってことですね。でも米国って先進国中の先進国じゃないですか。

H教授―それは錯覚で、安井先生はじつは米国は超巨大な途上国だといわれる。だから日本の第二約束期間へのスタンスは先進国へ向かうか、巨大な途上国へ向かうかの岐路ということになる。

Aさん―センセイもそう思われるんですか。

H教授―ま、一種のレトリックだろうけど、イラク侵攻などと併せ考えると、言いえて妙だと思うよ。第二約束期間での日本の温暖化対策は環境税とCDMが中心で、外国との排出権取引はあてにせず、むしろ国内で実施するのが急務だと思うよ。

Aさん―どうしてですか。排出権取引がメインになるのかと思ってたけど。

H教授―どっから排出権を買うんだ。ロシアや旧東欧圏だって、ぼちぼち経済復興がはじまるだろう。ホットエアーなんてあてにならないし、しちゃいけないよ。
でも排出権取引は国内では有効だと思うよ。そのためには発生源に排出上限を割り当てることが必須になるけど、また経産省や産業界が反対するだろう。これを突破できるかどうかだな。
来年度政府予算案では、環境省の新規予算で自主参加型排出権取引制度の試行が決まった。これへの産業界の対応が試金石だな。
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