環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第26講 「国土計画と自然保護」
第25講 「エイリアンを巡って ─外来生物法雑感」
第24講 「2005 ─地方の時代のために」
第23講 「二つの山場と三位一体改革」
第22講 「環境戦線異状あり」
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No. 第25講 「エイリアンを巡って ─外来生物法雑感」
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Issued: 2005.02.10
H教授の環境行政時評 (第25講 その4)
バスに乗り遅れるな ──特定外来生物ドタバタ劇
Aさん―ところで、オオクチバスがどうとかで新聞に出てましたね。

H教授―ああ、外来生物法【9】の話だな。
ブラックバスの一種のオオクチバスは、「特定外来生物」【10】の指定の第一陣には入れない方向で調整していた。ところが、最終段階になって大臣が記者会見で、突然入れるって話をしたことから、急転直下、指定されるってことになった──ってやつのことだろう。
ボクは霞ヶ関官僚の高等戦術かと、一瞬思ったんだけど、本当のところはよく判らない。でも、ま、いいことじゃないかな。
【9】 外来生物法
環境省>自然環境局>外来生物法HOME
【10】 特定外来生物
特定外来生物等の選定について

Aさん―ちょ、ちょっと、センセイ。もう少し順序立てて話さないとダメですよ。読者に不親切じゃないですか。

H教授―読者じゃなくて、キミが無知なだけだろう。ま、いいか。じゃ、その話をちょっとしよう。
そもそも話は1992年に遡る。それ以前から「生物多様性の保全」ということがしきりにいわれるようになってたんだけど、この年、気候変動防止枠組条約だけでなく生物多様性条約が採択されて日本も加盟し、翌年には発効した。そのなかでエイリアン、つまり外来種(移入種、侵入種)の導入の防止や制御が謳われていたんだ。

Aさん―そういえば地球サミットリオ宣言にもそんなのがありましたね。でもなんで?

H教授―生態系の破壊を防ぐってことだね。長年かけて形作られた地域固有の生態系を人為によって、安易に破壊しちゃいけないってことだ。
地球環境問題の解決には、物理・化学的な技術対策だけではダメで、森林の保全など生態系保全との両輪でやらなければうまくいかないって認識が、ようやく定着したんだ。

Aさん―でも、おコメだってネコだって、そういう意味では外来種じゃないですか。

H教授―ネコをバカにするな。近縁のイリオモテヤマネコツシマヤマネコは固有種だ。
ま、それはともかくとして、イネのように田んぼや畠で栽培するもので、自然の山野に生育する恐れのないものは自然の生態系に悪影響を与えないので、外来種とはいっても目くじらを立てる必要はない。また、自然の生態系に入りこんだものでも、歴史的にすっかり定着してしまったものは、今さらどうしようもないよ。
でも、これからは生態系を破壊するおそれのあるような外来種は、「侵入の予防」「初期段階での発見と対応」「定着した生物の駆除・管理」という3段階のアプローチで対応しようということになった。
そして、この条約を踏まえて、生物多様性国家戦略というものがつくられた。
最初の国家戦略は、各省の既存施策を羅列しただけのものだったけど、2002年に改定された現行の国家戦略では、三つの危機、即ち「開発による破壊」と「管理の減少による自然の質の変化」──つまり里山保全だよね──、そして第3の危機として、この外来種問題を挙げているんだ。

Aさん―なにかきっかけとなる事件でもあったんですか。

H教授―ブラックバスやブルーギルの問題、それにタイワンザルとニホンザルの混血問題なんかが世間を賑わせていたよ。メダカまでが、外来種にニッチ(生態的地位)【11】を奪われそうになって、レッドデータブック絶滅危惧種として記載されたってことで騒がれた。
その頃から規制方法が検討されてきて、ようやく去年の6月に外来生物法、正式名称「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が公布されたんだ。

Aさん―ところで、日本には外来種ってどれほどいるんですか。

H教授―環境省がつくったリストでは、2,200種ほど挙げているって話だ。

Aさん―コメやムギやサツマイモなんかもそれに入っているんですか?

H教授―ん? さあ、どうだろう。暫定的なリストなら、環境省のホームページでも公表されているから、自分で調べてみてごらん【12】
ところで、キミの知っている外来種で、近年に入ってからたちまち日本全土に広がったものを挙げてごらん

Aさん―えーと、アメリカザリガニ、ウシガエル、セイタカアワダチソウセイヨウタンポポ... 外来生物法はそうしたものを片っ端から駆除しようというのですか。

H教授―いや、キミがいま挙げたものなんかは、それなりに定着してしまったから、現時点ではこれ以上の大きな影響が生じることはないと思われているし、そこら中に蔓延しているので駆逐は不可能だ。
問題なのは、現時点で大きな影響を与えているもの、あるいは今後そうなる恐れのありそうなもので、それらを「特定外来生物」として政令で指定し、規制しようとしているんだ。

Aさん―すべての外来生物が規制の対象になるわけじゃないんですね。
【11】 ニッチ(生態的地位)
動物であれば、餌となる植物や他の動物、隠れ家など、また、植物であれば、光合成に必要な太陽光や根を張るための土壌など、生物が自然の生態系内で生きていくために不可欠なもの(環境)がある。生物種が生態系内でこれらを巡る種間の争奪競争に勝つか、耐え抜いて、得た地位が生態的地位(ニッチ)である。ニッチを獲得できた生物種だけが生態系内で安定した生存が可能となる。
一般に、生物種は様々な生物の相互関係の中で適応して、ニッチを獲得しやすい特有の形態や習性を持つようになる(進化する)ので、生態系内には多様な生物種が複雑な相互関係の中で存在する。安定した生態系は、ニッチを持った多くの種で成り立っており、通常、空いているニッチはない。また、一般的には、ひとつのニッチを異なる種が占める(獲得する)ことはできないので、安定した生態系に新たな生物が侵入する余地はほとんどない。人為的要因などで生態系が撹乱された場合には、ニッチが混乱するため、様々な種が侵入し、新たなニッチを獲得するための種間競合が起る。この競合は、ニッチが安定するまで続けられる。
なお、外来種が定着するのは、島嶼等で生態系を構成する種数が少ないため、空いているニッチがある場合や人為的な生態系の撹乱などでニッチが混乱している場合など、何らかの要因でニッチが空いていた場合に多い。また、ニッチを持っていた在来種との競合に勝ってニッチを獲得し、定着する場合もある。

H教授―外来生物法の対象になるのは、「我が国の生態系、人の生命若しくは身体又は農林水産業に被害を及ぼし、または及ぼすおそれ」があるものに限定されている。野外に侵入・定着するおそれのないものまで闇雲に規制することはできないし、農作物やペットなどで有用なものもたくさんあるからね。
だから専門家の意見を踏まえて、とりあえず6月の法施行に合わせた第一次指定で40種ほど選定する運びになっている。

Aさん―はーん、それにオオクチバスを入れるかどうかが大問題になったんですね。

H教授―そうそう、ほかにもセイヨウオオマルハナバチ【13】なども論争の対象になっているみたいだ。

Aさん―オオクチバス論争というのは、釣り人や釣業界と、自然保護派の争いなんですね。

H教授―自然保護派以上に内水面の漁業者にとっての死活問題みたいだ。だから、条例でキャッチアンドリリース禁止などを決めた例もあるほどだ【14】。一方、釣業界にとっては、バスフィッシングは救いの女神みたいなものだったらしいし、何百万といる釣人の抵抗も強くて、とりあえず、第一次指定は先送りになりそうだったんだけど、最後にひっくりかえっちゃって、第一次指定に間に合うことになったってわけだ。
バスに乗り遅れるなってことかな(笑―自分だけ)。

Aさん―センセイはどう思われるんです?

H教授―ボクは魚釣りをやらないからからかもしれないけど、断固指定すべき派だ。
もっとも、魚以外の陸釣りなら得意だけど。
【12】 日本の外来種リスト
「移入種(外来種)への対応方針について」(環境省 野生生物保護対策検討会移入種問題分科会(移入種検討会)、平成14年8月)
【13】 セイヨウオオマルハナバチ
環境省特定外来生物等分類群専門家グループ会合「セイヨウオオマルハナバチ小グループ会合」
環境省パブリックコメントに対する意見の概要「セイヨウオオマルハナバチ」(27種)

Aさん―は? 魚以外の釣り??

H教授―いや、なんでもない(苦笑)。
ところで、このオオクチバスってのはすごく貪欲らしくって、ふつうだったら、ある程度のところでいろんな他の魚などエサとなる生物の数と均衡して安定するんだけど、こいつらは片っ端から食べ尽し、最後は自分の稚魚まで食ってしまうという話もあるみたいだ。だとしたら、やっぱり第一次指定は当然じゃないかな。

Aさん―ふうん。ところで特定外来生物に指定されたら、完全駆除までやっちゃうんですか。

H教授―うーん、種類にもよると思うけど、ある程度定着してしまったものは、実際問題としてムリじゃないかな。当面は国立公園の中核部だとかの地域に限定して駆除するのが精一杯だと思うよ。むしろこの外来生物法によって安易に外来生物を持ち込んじゃいけないって精神をPRできることの効果の方が大きいと思う。

Aさん―厳格な保護派の人は同じ在来の生物でも、水系のちがうところに放しちゃいけないなんて言いますよね。外来生物法では、そこには触れていないんですか。

H教授―うん、それは将来の課題として積み残しになったようだ。ま、そういう研究者の主張は主張としてわかるし、発光間隔の違う西日本のホタルと東日本のホタルを混在させてしまうのは問題だけど、「ホタルの復活」なんて考えているところで、近くの水系に生息する同種のホタルを持ってくるのまで規制するということになると、ちょっとどうかと思うなあ。

Aさん―どうしてですか。

H教授―あまり厳格厳密になりすぎると、かえって人と生き物との距離を大きくしてしまうことになる。過ぎたるはなんとやらとか、角を矯めてなんとやらと言うじゃないか。
まあ、富士には月見草──あ、これも外来種だけど──が似合うなんていうけど、キミには厳格とか厳密とかいうコトバはおよそ似合わないな。

Aさん―し、失礼な。いつもいい加減なセンセイにだけは言われたくないですよぉだ。
【14】 キャッチアンドリリース禁止条例
「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」(琵琶湖ルール)が制定され、2003年4月1日より施行開始している。
主な内容は、以下の3点。
  • ブルーギルやブラックバスなど外来魚のリリース禁止
  • プレジャーボートの航行規制水域での航行禁止
  • 従来型2サイクルエンジンの使用禁止(2006年4月施行)

詳しくは、
滋賀県の同条例のポータルサイト


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(平成17年2月3日執筆、同7日編集了)
参考:環境行政ウオッチング(南九研時報第49号、平成17年2月予定)。
なお、本稿の見解は環境省およびEICの公的見解とはまったく関係ありません。
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