環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第26講 「国土計画と自然保護」
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No. 第26講 「国土計画と自然保護」
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Issued: 2005.03.10
H教授の環境行政時評 (第26講 その4)
自然環境保全地域等の蹉跌
Aさん―自然公園は確か国土の14%でしたよね。土地利用基本計画の自然保全地域というか自然環境保全法の3種類の保全地域というのはどれくらいなんですか。5地域区分のひとつになるくらいだから、やっぱりそれくらいあるんですか?

H教授―はは、コンマ以下だ。0.3%くらいかな? 実質的な規制がかかる特別地区だけに限定すると、0.1%だ。

Aさん―はあ? そんなバカな。

H教授―まあ、当時の環境庁が5地域区分のひとつにと押し込んだんだと思うんだけど、まさかこんなに指定が進まないなんて思ってなかったんだろうな。

Aさん―どうしてなんですか。

H教授―自然公園の場合は地方からの指定の陳情が絶えない時期もあったんだ。

Aさん―自然保護派の人たちですか。

H教授―いや、むしろ地元の自治体だ。観光による地域振興がねらいだろうな。観光地のステータスになるしね。
事実、公園利用という名目で、行き過ぎた観光開発があり、自然破壊を起こしたこともあった。で、そうしたことに対する反対運動が方々で起き、公害反対運動と相俟って環境庁設置に至ったんだ。
で、自然公園の許認可についても自然保護に、より留意するようになるとともに、指定の陳情は減ってきた。環境庁になってからは指定解除の陳情の方が多いくらいだ。そんな中で新たな保全地域制度を作ろうとしたんだ。

Aさん―それが自然環境保全法の原生自然環境保全地域自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域という3種類の保全地域──面倒だからまとめて自然環境保全地域等といいますよ──ですね。

H教授―そうそう、で、名前だけ見てもわかるように国立公園国定公園都道府県立自然公園という自然公園法の体系に似ているだろう。事実、規制そのものの強さは原生自然環境保全地域を除けば自然公園法と同等で、ほぼパラレルなんだ。

Aさん―じゃ、何が違うんですか。

H教授―目的から「利用」というのを排除した。でも、それは利用そのものを拒絶するというんじゃなくて、利用施設の整備を国が行ったり助成したりしないというだけの意味なんだ。だから原生自然環境保全地域以外の保全地域の、ほとんどの場所では許可基準さえ満たしていれば自治体が遊歩道や駐車場を作ったり、民間がホテルを作ったりという利用施設の設置を妨げるわけじゃないし、一定の規模以下であれば別荘や住宅だって許可されるんだ。

Aさん―じゃあ、なぜ指定が進まなかったんですか?

H教授―自然公園には施設整備などのアメがあるし、知名度も高まるから観光地の看板としての意味も大きい。
でも自然環境保全地域等のようにアメがなくてムチだけだと地元がまず陳情してこないし、観光開発の期待も出来ない規制だけがかかるような指定には地権者も難色を示す。
だから国有林などの国公有地中心の指定にとどまる。林野庁も最初のうちは将来とも伐採できそうにない地域の指定には同意してくれたけど、社会全体の環境熱が引くとともに非協力的になった。
ボクが県からの情報をもとに、林野庁に交渉に行っても、「ここは将来的には伐採する可能性もゼロではない」とか、「ここはわれわれが保全するから環境庁さんがわざわざ指定されなくても結構です」とか言って、けんもほろろだった...。

Aさん―センセイはその担当だったんですか。
H教授―うん、苦労したよ。で、法制上はさして強い規制でもないんだけど、実際に指定できたのは、将来とも開発の可能性のまったくない狭い地域ばかりで、その実績が自然環境保全地域=厳正保護のイメージを与えてしまい、よけいに指定を難しくした。
でもその代わり、白神山地【15】だとか、ふつうじゃ行けないようなところへも出張できた。マタギの人や地元山岳会の案内で1週間近くテント泊まりの出張だった。

Aさん―じゃあ、やっぱりなにかアメがないと指定は難しいんですか。

H教授―そうだと思う。白神山地の場合は、林道の整備とブナ林の保護をめぐって大きな問題になったし、その後国際的にも問題になり、例外的に広い面積の指定が可能になったけど、あとはホント、点みたいなものだもんな。
国際的にはWise Useとかエコツーリズムだとかしきりに言われている。そうしたものと連動させるような仕組みにしないといけないと思うな。

Aさん―うう〜ん、やっぱりその辺が地域制の限界ですかねえ。

H教授―うん、都市周辺では旧建設省が同じ頃、都市緑地保全法というのを作り、緑地保全地区という制度を創設した。やはり自然公園や自然環境保全地域等みたいな地域制なんだけど、自然環境保全地域等よりもはるかに悲惨な指定実績しかない。

Aさん―でも国有林や公有林に関しては赤字経営が続いているから、いっそのこと特別会計制度をやめて、ほとんどを自然公園や自然環境保全地域等にすることは考えられないんですか。で、林業の方も適地だけど採算が合わないようなところは、そのなかの自然体験地域とかにして体験林業の場にするとか...。

H教授―ほお、地域制というより日本型の営造物制の保全・体験地域というわけだね。なるほど、一考の余地はある。キミにしては珍しくいいことを言うじゃないか。そういう農林漁業の体験というのは重要だもん。
...キミなんか体験というと恋愛体験というか失恋体験ばっかりだけど。
【15】 白神山地
世界遺産「白神山地」(青森県)
日本の世界自然遺産「白神山地」(インターネット自然研究所)

Aさん―(憤然と)もう帰ります。
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環境庁小史
H教授―冗談、冗談、そう怒るな。
あ、そうそう。最後になったけど、ひとつだけPRさせてもらおう。共著だけどボクの論文が本になったぞ。

Aさん―前回もそう言ってましたよねえ。何ページ書いたんですかと聞いたら、「はじめに」の2ページだけだって。

H教授―ちがうちがう、今回は50ページ以上ある。タイトルは「日本の環境庁行政の総括・序説」、つまりボクの目から見た環境庁小史だ。

Aさん―センセイの失敗談とか裏話集ですね。私史ってわけだ。面白そう。

H教授―冗談じゃない。マトモな小史だ。

Aさん―よく十年史とかありますよねえ。あのたぐいですか。

H教授―うん、環境庁は約30年間の歴史を持っている。大部の十年史、二十年史は環境庁が作成してるんだけど、三十年史は出てないし、作成するという話も聞こえてこないから一足先にボクがそのエッセンスを書いたんだ。

Aさん―へえ、どうせ独断と偏見だらけなんでしょう。何という本なんですか。
H教授―「韓国社会と日本社会の変容 ──市民・市民運動・環境」。慶應義塾大学出版会から先月市販された【16】。本体3,800円。買う必要はないけど、図書館ででもみてもらえばうれしい。

Aさん―へえ、珍しく謙虚ですねえ。

H教授―売れたって印税が入るわけじゃないから...。

Aさん―ところで、なんで韓国と関係があるんですか。

H教授―じつは日韓共同研究フォーラムというのがあって、そこの社会学チームに環境問題をやる人がいないので、入ってくれないかというお誘いが人を介してあった。
ハングルができなくても、日本語だけで大丈夫、しかも韓国へ行けるからというので、入ったんだけど、はは、他の研究者はみんなハングルぺらぺらで、えらい恥を掻いた。
【16】 「日本の環境庁行政の総括・序説」
服部民夫・金文朝【編】、慶応義塾大学出版会(2005-02-15出版)

Aさん―ぷっ、ほんとにバカなセンセイですねえ、海外旅行に釣られるなんて。で、そのあとは?

H教授―2回韓国へ行ったけど、原稿を書くというオブリゲーションがあったんだ。

Aさん―それで日本環境庁小史なんですか。韓国と関係ないじゃないですか。

H教授―両国語に翻訳されて日本語版、ハングル版が同時出版されるという話だったから、主たる読者を韓国の識者に設定して、日本の環境行政を知ってもらい、韓国の環境行政を考える上での参考にしてもらおうと思ったんだ。だからちゃんと副題に「──韓国との対比のために」と付けてあるし、ごく簡単に韓国環境行政にも触れてある。こちらはそれこそ2ページあるかないかだけどね。

Aさん―...。
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平成16年3月4日執筆、3月9日編集
註:この時評の見解はEICおよび環境省の公的見解とはまったく関係ありません。
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