環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第28講「有機汚濁と水質総量規制」
第27講「道東周遊随想と愛知万博」
第26講 「国土計画と自然保護」
第25講 「エイリアンを巡って ─外来生物法雑感」
第24講 「2005 ─地方の時代のために」
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No. 第27講「道東周遊随想と愛知万博」
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Issued: 2005.04.07
H教授の環境行政時評 (第27講 その1)
道東周遊随想―世界遺産登録と海域保護

Aさん―センセイ、しばらく顔をみなかったですね。

H教授―うん、10数年ぶりに早春の道東を回ってきたんだ。網走国定公園、阿寒国立公園、釧路湿原国立公園などなどだ。

Aさん―へえ、マサカ研究で行ったわけじゃないですよね。研究に無縁なセンセイが。

H教授―(苦笑)あいかわらず減らず口だけは変わらないな。まあ、1週間キミの顔を見ずに済んでせいせいしたよ。

Aさん―ワタシもです! 珍しく意見が一致しましたね。ところで何しに行ったんですか。

H教授―道東の自然公園【1】を、一利用者としての立場から実感しようと思ったんだ。

Aさん―早い話が観光ですね。流氷は見られました?
【1】 自然公園
自然公園法(1957)に基づいて指定される、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園を総称して、「自然公園」と呼ぶ。自然景観の「保護」と、自然ふれあいの増進による「利用」を目的として管理される。

H教授―(渋い顔)ずうっと沖合いに流出したみたいで、せっかく砕氷船に乗ったのにカケラも見えなかった。で、その翌々日釧路に出て、レンタカーで釧路湿原を回り始めたら、季節外れの猛吹雪に遭遇。あっという間に10cmくらい積もってしまい、ほうほうの体でホテルに引き上げた。なごり雪なら風情もあるが、なごり吹雪じゃあなあ。

Aさん―ふふ、日頃の精進を物語ってますね。ところで誰と行かれたんですか。

H教授―人妻とだ。

Aさん―な、なぬー!?

H教授―バカ、誤解するな。最愛のミオを置いて、人間の方の妻と行ったという意味だ。

Aさん―ミオ? あー、例の太っちょメスネコですね。で、レンジャーとは会ったんですか?

H教授―うん、昔馴染みが地区自然保護事務所に赴任していて、何人かと飲みながらいろんな話を聞かせてもらった。ちょうど、知床の世界遺産【2】をめぐる地元の会議が終わったところでね。

Aさん―世界遺産の話題は以前取り上げましたよね【3】。たしか最近じゃ熊野古道が登録され、話題になったような...。

H教授世界遺産条約ってのがあって、自然遺産と文化遺産と、それらの複合遺産の3種類に分類される。熊野古道は文化遺産の方だ。
自然遺産としては、日本では屋久島と白神山地の2つが登録されている。ほかにも名乗りを挙げているところがいっぱいあって、政府としては候補地を3つにしぼったんだけど、最終的に推薦したのは知床だけだった。

Aさん―そうそう、思い出しました。保護のための管理体制がきちんとしているかどうかってことでしたよね。小笠原と沖縄・奄美はまだ体制が整っていないということで推薦から外されたんですね。でもまだ登録されてなかったんですか。

H教授―うん、政府が推薦したものをIUCNが諮問機関になって審査するんだけど、海域の保護体制に問題ありと指摘されたんだ。確かに欧米と違って日本では海域の保護規制は弱いからなあ。
【2】 世界遺産
世界遺産条約に基づき登録されるもの。世界遺産リストに登録される“遺産”には、自然遺産と文化遺産及びそれらの複合遺産がある。
【3】 世界遺産の話題
第10講その2

Aさん―どういうことですか。だって国立公園でしょう。

H教授―第7講でも言ったように日本の国立公園の問題はいろいろあるんだけど【4】、そのひとつに海域の保護規制が弱いことがあげられる。欧米ではエスチュアリー(Estuary)といって河口周辺の浅海域の保護に熱心なんだけど、日本の国立公園は景観保護からスタートしているうえ、各省の縦割り行政の中で、自然保護とか生態系保全の観点からの規制はほとんどできなかったんだ。国立公園の前面1kmの海域はおおむね国立公園にはなっているんだけど、ほとんどの場合、普通地域特別地域には指定できない。普通地域だと大規模な埋め立てなんかの開発についても届出を義務付けているだけなんだ。

Aさん―そんなのおかしいじゃないですか。環境省はそれでいいと思っているんですか!

H教授―思うわけないじゃないか。自然公園法では許可制の特別地域は陸域に限るってあって、厚生省時代からそれをなんとかしたいというのが念願だったんだ。だけど、関係各省が頑として言うことをきかなかったんだ。1970年になってようやく、陸域の特別保護地区に相当する海中公園地区っていう制度ができたけど、指定できたのはサンゴ礁の一部や、海藻群落の一部など、点みたいなものでね。

Aさん―じゃあ、その海中公園地区以外は環境省は関与できないんですか。
【4】 日本の国立公園制度の問題点
第7講
H教授―埋め立てなんかの場合、国立公園の前面海域は普通地域だけど、特別地域の陸に接する部分の改変にひっかけてなんとか規制しようとしたり、普通地域の届出に対しても自然公園法に規定する措置命令をちらつかせたりして歯止めをかけようとしてた。また、自然公園以外でも公有水面埋立法【5】アセスでいろいろ口出しはしてきたけどパンチがもうひとつねえ。

Aさん―じゃ、海域の保護はいわばノーズロだったんですか。

H教授―キミは若い割に古めかしい言葉を知っているな。さては年齢詐称か? それにしても品のない言葉だから無闇に使うものじゃない。

Aさんさん─この間、センセイが教えてくれたんじゃないですか。
意味はよくわからないんですけど、品がないんですか?

【5】 公有水面埋立法
公有水面埋立法

H教授─う...まあ、あまり使わない方がいいと思うよ(ごまかす)。
それはともかく、海域の保護といってもいろんな観点があって、水産資源保護の観点からは水産庁系列の規制があるんだ。水産資源保護法や、あるいは都道府県の漁業調整規則とかね。

Aさん―じゃ、それなりに規制はしてるんですね。環境省は関与できないだけで。

H教授―漁業を阻害するような行為に関してはね。ただ問題は、漁業のもたらす環境へのインパクトを誰がどうやってチェックするかだ。海中公園地区と自然環境保全地域海中特別地区以外は生態系保全の観点からの規制はないといってもいいんじゃないかな。
そこをIUCNは衝いてきたんだと思うよ。特に海棲哺乳動物の保護に関しては、クジラの例【6】をみてもわかるように欧米は異常に神経質なのに対して、知床ではトド漁なんてのもやってるからな。

Aさん―ふうん、具体的にはどういう指摘だったんですか。

H教授―前面1kmの海域について、漁業者、漁業団体の同意のもとで海域管理計画を5〜10年以内につくり、自主管理措置により保護するとしていたんだけど、それをもっと早く、もっと広くできないかということだったようだ。その回答期限が今月末で、そのための関係者による最終会議が開かれていたんだ。
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【6】 クジラの例
第15講その2
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