環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第29講「目に青葉、山ホトトギス、MAY(迷)時評 ──水難事故、諫早干拓、レジ袋、フロン四題噺」
第28講「有機汚濁と水質総量規制」
第27講「道東周遊随想と愛知万博」
第26講 「国土計画と自然保護」
第25講 「エイリアンを巡って ─外来生物法雑感」
[an error occurred while processing this directive]
No. 第28講「有機汚濁と水質総量規制」
page 2/4  1
2
34
Issued: 2005.05.06
H教授の環境行政時評 (第28講 その2)
水質総量規制とは?
H教授―新聞には出てなかったようだが、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海を対象とする第六次水質総量規制についての中環審小委員会報告案が出された。環境省のホームページに全文が出ているから読んでごらん。先日、パブリックコメントの募集があって、来月中にもこの報告案をベースに中環審答申が出されるはずだ【4】
【4】 第六次水質総量規制について
(環境省パブリックコメント募集について)

Aさん―その前にわかりやすく説明してください。総量規制ってなんですか?

H教授―総量規制という仕組みは大気にもあるけど、今日は水質総量規制の話に絞るよ。
もう30年以上前になるけど、急激な高度経済成長の負の遺産として、日本の空も水も汚れに汚れてしまった。

Aさん―それで大きな反対運動が津々浦々に起きて、公害対策基本法ができたり、環境省の前身の環境庁ができたんですね。

H教授―そうそう、そして政府も大気汚染や水質汚濁に本格的に取り組みだしたんだ。水質汚濁に関しては水質汚濁防止法に基づいてBOD(生物化学的酸素要求量)COD(化学的酸素要求量)の厳しい規制を開始したり、下水道整備をはじめたりして、急速に汚濁状態は改善されたんだけど、汚濁が改善されなかった水域もあった。ひとつは前回言った都市近郊の湖沼だし、もうひとつは東京湾や大阪湾を含む瀬戸内海などの内海、内湾だ。このふたつは共通しているところがある。何だかわかるか。

Aさん閉鎖性水域で、水の交換が悪いということでしょう。

H教授―うん、しかも都市に近接しているから負荷量も大きく、植物プランクトンの栄養になるN(窒素)P(燐)が底泥から溶出したり、外部からの流入量も多いから、プランクトンも増殖しやすく、それがさらにCODを押し上げる。

Aさん―いわゆる内部生産CODですね。

H教授―そう。そこで東京湾、伊勢湾、瀬戸内海に関してはもっと大胆な規制を行うことにした。瀬戸内海ではすでに瀬戸内法に基づいて大規模発生源のCOD負荷量を半減させるという荒療治を行ったんだ【5】。それまでの規制は、どんなに厳しくても濃度規制だったから薄めて大量に流せばOKだったんだけど、はじめて量規制を行った。その延長線上にこの3つの内海、内湾を対象にした水質総量規制制度が、水質汚濁防止法および瀬戸内法を改正して昭和53年にスタートしたんだ。

Aさん―つまり、これらの閉鎖性海域に流入するCODの総量を規制するってわけですね。
【5】 瀬戸内法による規制導入の経緯と先見性
第10講

H教授―流入するCOD総量については内海、内湾ごとに、5年後の都府県別・発生源種類別の削減目標を決めた。これを総量削減基本方針という。そして規制対象となる事業場については総量規制基準という厳しい量規制の排水基準を決めた。第五次総量規制からはCODのみならず、内部生産CODの元であり富栄養化の原因となるN、Pもその対象とした。
第五次総量規制は平成16年度を目標年度としていたので、いよいよ平成21年度を目標年度とする第六次総量規制を始めようとするものだ。

Aさん―じゃ、エンドレスに規制強化が続くわけですか?

H教授環境基準が100%達成できれば、強化の必要性はなくなるんだけど...。

Aさん―依然として達成していないんだ。

H教授―うん、水域ごとにいえば、ある程度の汚濁はやむをえないという水域──これをC類型というんだけど、ここで定められている環境基準は100%達成されているけど、もっとも清浄なレベルであるA類型の水域の環境基準は依然として達成率がよくないんだ。

Aさん―でも、CODやN、Pの濃度レベルは下がっているんじゃないですか?

H教授―東京湾、大阪湾では下がっているが、あとのところはそれほど明瞭ではない。

Aさん―じゃ削減目標を決めたけど、あくまで目標にすぎなくて、現実には目標どおり削減できてはいないんだ。

H教授―そうじゃない。削減目標というのは技術的に削減可能な、実現性のあるものとして設定されるものだ。目標は達成しても、それがすぐに環境基準を達成するようにリンクさせているわけじゃないんだ。

Aさん―着実に削減されているとしたら、にもかかわらず濃度レベルが低減していない水域があるのはどうしてなんですか?

H教授―東京湾や大阪湾では改善してるけど、他の水域では水域面積当たりの負荷量はもともと小さい上、削減量はごくわずかなんだ。それにもともとそういう水域ではCOD濃度は低いから、そういう意味ではCODの中身だとか、指標性──つまりCODが現実の水環境の何を表しているのかということも、議論の対象になりそうだ。

回想・水質総量規制
Aさん―ところでセンセイはこの水質総量規制にタッチしたことはあるんですか。

H教授―第三次総量規制立ち上げのときの担当課長だった。

Aさん―じゃ、結構詳しいんだ。

H教授―いや、実は課内に総量規制室っていう半独立の組織があって、そこに全部まかせっきりだったから...。

Aさん―じゃ、センセイはまったく汗を流さなかったんですか。

H教授―いや、一度だけ汗を流した、といっても冷や汗だけど。

Aさん―へえ、どんな?

H教授―水域ごとに現地で関係都府県の担当者を集めてブロック会議を開くんだ。で、ときの上司が瀬戸内海のブロック会議にオレも出席するからゴールデンウィークのど真ん中にセットしろって総量規制室に命じた。

Aさん―なんでまた。

H教授―自分が瀬戸内海出身だから故郷に錦を飾りたかったんだろう。里帰りの旅費節約にもなるし。

Aさん―くっだらない。で、どうなったんですか。

H教授―総量規制室から話を聞いて、もう怒り心頭さ。眦を決して上司のところに乗り込んだ。さすがにひざが震え、冷や汗を流したけど、ようやく撤回させた。だって、関係府県の担当者の恨みを買いたくないもの。

Aさん―ホントに、それだけが理由だったんですか。

H教授―...いや、こっちだってゴールデンウィークぐらいのんびりしたかったから...。

Aさん―やっぱり自分のためだったんですね!

H教授―おかげでその上司からはすっかり嫌われちゃった。

Aさん―はーん、それが新規補助金立ち上げに非協力的だったり【6】、製紙工場からのダイオキシン排水騒ぎをセンセイのマッチポンプだといいふらしたり【7】っていう、伏線になっているわけか。
オトナの世界って複雑かと思ったけど、意外にコドモっぽいんだ。
 ページトップ
page 2/4  1
2
34
前のページへ 次のページへ

【6】 新規補助金立ち上げ裏話
第12講(その3)
【7】 製紙工場からのダイオキシン排水騒ぎ
第19講(その4)
Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.