環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第29講「目に青葉、山ホトトギス、MAY(迷)時評 ──水難事故、諫早干拓、レジ袋、フロン四題噺」
第28講「有機汚濁と水質総量規制」
第27講「道東周遊随想と愛知万博」
第26講 「国土計画と自然保護」
第25講 「エイリアンを巡って ─外来生物法雑感」
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No. 第28講「有機汚濁と水質総量規制」
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Issued: 2005.05.06
H教授の環境行政時評 (第28講 その3)
有機汚濁指標―COD、BOD
Aさん―センセイ、ところで水質に関連して、前から疑問に思ってることがいくつかあるんですけど。

H教授―お、なんだ。

Aさん―水質総量規制の主目的はCODの改善ですよねえ。
水質環境基準が決まってますけど、生活環境項目の代表的な指標が河川ではBOD、海域と湖沼ではCOD。なぜ河川がBODで海域と湖沼はCODなんですか。

H教授―おいおい、いきなり剛速球だな。

Aさん―え? そうなんですか?

H教授―うん、ぼくが県の公害規制課長になり、はじめて水環境関係にも携わったんだが、レクチャーで最初にした質問がそれだった。

Aさん―で、どうだったんですか?

H教授―一応の説明らしきものがあったけど、あまり説得力がないような気がした。環境庁に戻って水質保全局にいたときも、何度か同じ質問をして、そのときは納得したような気がしたけど、もうひとつぴんと来なかったなあ。つまり一応の理屈付けはあるらしいんだけど、もう忘れちゃった【編註】

Aさん―なんだ、センセイも知らないのか。じゃ、河川水でCODも測れるし、海水や湖沼の水でBODも測れるんですね。

H教授―そりゃそうだよ。

Aさん―じゃ、BODとCODの数値間の関係はどうなってるんですか。一応の換算式みたいなものはあるんですか?

H教授―測ってるものが別だから、換算などできるわけがない。もちろん、ある水域でずうっと長期的に両方を計測して統計解析すれば換算式はできるかも知れないが、イコールオールジャパンでの換算式にはならない。
第一、そんな換算式があるのならどちらか一方で測ればすむことだ。

Aさん―なるほど、そりゃそうですね。でもどちらも有機汚濁の指標なんでしょう。

H教授―そもそも有機汚濁ってなんなんだ?

Aさん―えーと、有機物が多いと水は濁ります。

H教授―じゃ有機物って?

Aさん―えーと、炭素化合物の総称じゃなかったですか。

H教授―じゃ、CO2は有機物か?
【編註】 CODとBODの違い(EICネット>環境Q&Aより)
・「BODとCODの違い」
・「BODとCODについてです。」
・「BOD・CODについて」
・「BODとCODの適用場所について」

Aさん―いい加減にしてください! 質問してるのはワタシです!

H教授―いやあ、どんどん質問していくと結構わかっているようで、わからないことがいっぱい出てくる。それを確認したかったんだ。

Aさん―特にセンセイみたいな耳学問オンリーの人はね。

H教授―うるさい。有機物というのは、そもそもは生体起源や生体を構成しているものすべてを指してたんだけど、同じものを無機的に、つまり生命活動を介さなくてもできることもあることがわかってきたから、有機物とか有機化合物というのを科学的にぎりぎり定義することはムリがある。

Aさん―じゃ意味がないということですか。

H教授―そんなことはない。一般的、常識的な使い方をすれば十分に意味がある。つまり生体起源や生体を構成している炭素化合物で、種類はいっぱいあって、主たる構成元素は炭素、水素、酸素ぐらいに理解しておけばいいだろう。そして水中での有機物の相当部分はプランクトンなど微生物とその死骸が占めているって。
で、有機物は自然の循環の中で分解されるという特徴がある。

Aさん―なかなかBOD、CODにいかないですね。

H教授―もう少し我慢しろ。つまり水中に溶けている酸素が豊富なところでは、バクテリアが酸素を用いて分解する。主たる最終生成物は炭酸ガス(CO2)と水(H2O)。

Aさん―それが好気性分解ですね。

H教授―酸素がほとんどないようなところでは別のバクテリアが分解してくれる。この場合の最終生成物はメタン(CH4)と炭酸ガス。これを嫌気性分解という。

Aさん―陸上でも有機物は分解するんですか。

H教授―もちろんだよ。物が腐るということは分解途上にあるということだ。これが一瞬に起これば、燃える──つまり燃焼ということになる。

Aさん―有機物って、いっぱい種類があるでしょう。全部必ず分解するんですか。

H教授―簡単に分解するものと、分解しづらいものがある。紙や木は分解しにくいし、石炭なんかもっと分解しにくくて、人間の歴史程度のタームでいえば永久に分解しないといえるかもしれないけど、地球史的視点に立てば分解する。
それが自然の循環ということの意味だ。

Aさん―あーあ(欠伸)。

H教授―で、水中に酸素の多い条件下で有機物は酸化分解するという特徴を生かして、水中の有機物の量を間接的に測る指標がBODやCODなんだ。

Aさん―そんな面倒なことをしないで、直接、有機物の量を測ることはできないんですか。

H教授―今はTOC(総有機炭素量)の測定法もあるけれど、昔はそれほど一般的じゃなかった。
で、BODというのは実際にバクテリアに分解させて消費された酸素の量のことで、有機物の量を間接的に表してるわけだ。

Aさん―確か、5日間、20℃という条件でしたよね?

H教授―そう。だから5日以内に分解される有機物の量を間接的に表す指標になる。

Aさん―CODは?

H教授―CODはバクテリアではなく、酸化剤を用いて減った酸素の量を測るわけだ。
だから用いる酸化剤によってその数値は変わる。外国では重クロム酸ソーダ(Na2Cr2O7)を使うのが一般的だが、日本では昔クロム公害というのがあったから忌避されて過マンガン酸カリ(KMnO4)を使っている。だから諸外国のCODと日本のCODは測るものが違っていて、そもそも比較は不可能だ。

Aさん―BODとCODは測定法としては、どちらが優れているんですか。

H教授―一概にいえない。現実に起きている自浄作用を再現しているという意味ではBODだが、測定に5日間もかかるという難点がある。あと、N-BODの問題がある。

Aさん―N-BOD?

H教授―アンモニアの影響だ。アンモニア(NH3)は生体起源のものが多いが、炭素化合物でないから無機物とされる。ところがアンモニアは、ある種のバクテリアの働きで水中の酸素を消費して亜硝酸イオン(NO2-)や硝酸イオン(NO3-)に酸化される。これを硝化というんだけど、このとき消費された酸素量もBODの一部にカウントされてしまう。有機物の量を間接的に測るだけではなくなってしまうんだ。

Aさん―つまり何を測ってるのかよくわからないということですね。では、CODは?

H教授―CODは過マンガン酸カリで酸化分解される有機物の量を間接的に測ってるだけだから、現実のバクテリアが分解している易分解性有機物の量を直接的に表すわけではない。かといって、難分解性のものもひっくるめた総有機物量とも必ずしも相関するわけではなく、現実の環境中のいったい何を反映して測っているのかよくわからないという批判がある。

Aさん―つまり両方ともなにを測ってるのかよくわからないというわけですね。

H教授―だから専門家の間ではBOD、CODとも評判はよくない。

Aさん―じゃあ、さっさと変えればいいんじゃないですか。

H教授―そうはいかない。だって今までのデータはすべてBOD、CODだから、過去との関連が断ち切られてしまうのは、行政的にはきわめてまずい。

Aさん―過ちを改むるに憚るなといいますよ。

H教授―でもねえ、微視的にみれば、あるいは厳密にアカデミックな立場からすると、何を測ってるのかわからないと言えるのかもしれないけど、今までのBOD、CODの数字が工場排水や現実の汚濁水域の汚染度・汚濁度を、例外はあるにせよ、おおむね反映しているのも事実だと思うよ。研究論文じゃないんだから、それほど厳密でなくてもいいじゃないかというのもひとつの考え方だ。
ただ低濃度水域でのBOD、CODは現実での汚染度・汚濁度をどの程度反映しているか、どの程度信頼性があるかといった問題があるのは事実だし、BODにしても5日間じゃなく3日間で測る国もあって、国際比較が困難という問題がある。

Aさん―なるほどねえ。ところでBODとCODの換算式はないにせよ、BODが高ければCODも高く、BODが低ければCODも低いと一般的に言えるんですか。

H教授―例外はあるだろうが、そう言ってもいいんじゃないかな。もっとも、その例外がどの程度かは知らないけれど。
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