環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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H教授の環境行政時評第30講 「リサイクル戦線、浪高し」
第29講「目に青葉、山ホトトギス、MAY(迷)時評 ──水難事故、諫早干拓、レジ袋、フロン四題噺」
第28講「有機汚濁と水質総量規制」
第27講「道東周遊随想と愛知万博」
第26講 「国土計画と自然保護」
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No. 第29講「目に青葉、山ホトトギス、MAY(迷)時評 ──水難事故、諫早干拓、レジ袋、フロン四題噺」
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Issued: 2005.06.02
H教授の環境行政時評 (第29講 その3)
読者の声
Aさん―ところで前講へのお便りです。
はじめまして、瀬戸内海、播磨灘で海苔養殖を営んでいる漁師です。私の海はとんでもない事になっています。一般には干潟が無くなっているから海が壊れていると言っていますが、大きな誤解です。干潟に生息する水生生物を残留塩素によって殺している事を隠しているのをご存知ですか?終末下水処理場と電力会社の温排水には驚くほどの残留塩素が検出されています。参考に成るリポートをご覧ください。http://poseidn77.com ご意見をお願いします。
──というものですがどうですか。

H教授―リポートも見せていただいた。有明海でもそうだったけど、確かに播磨灘での海苔が色落ちして問題になっている。行政や大企業の対応に不審と怒りをもたれた漁業者の方が独力でこれだけのデータを集められたということに驚いた。ボクも知り合いの何人かの専門家の方に聞いてみたんだけど、皆一様に驚いておられたし、行政や大企業の対応にも問題があるんじゃなかろうかというご意見だった。

Aさん―で、内容的にはどうなんですか。
H教授―うーん、ボクはキミも知っているように研究者じゃないからよくわからない。
塩素が用いられていることは事実だし、放流先水面などでは残留塩素が悪影響を与えている可能性もあると思うけど、それが海苔の色落ちの直接的な原因かどうかボクにはわからないし、専門家の方も色落ちはたぶん複合的な原因で特定は難しいだろうとのご意見だった。
下水処理場では殺菌のために塩素処理がされるらしいんだけど、中環審の部会でも塩素処理をやめて紫外線処理に転換すべきだという意見を述べた委員もいるらしい。明石のO下水処理場では殺菌のため紫外線処理しているという話だ。ただ塩素処理をしないとアンモニア態チッソが増えるため、そのための脱窒処理もしているらしい。
いずれにしても大企業や都市化が海を壊し、貧しくしたことは疑いようがないんだし、その被害をもろに受けられたのは漁民の方々なんだから、疑いを招くような塩素処理は考え直した方がいいかもしれない。
とにかく海苔の色落ち被害が出ていることは事実なんだから、まずは第三者的な専門家を入れたオープンな情報開示と調査、議論の場が必要だと思ったね。

Aさん―残留塩素には水質環境基準は決められていないんですよね。

H教授―うん、水質環境基準は亜鉛をとっかかりに水生生物保全という観点も入ってきた【5】。残留塩素についても、そういう基準を考えるべきかもしれない。
それと、この方は富栄養化対策としてのチッソ削減などすべきでないというご意見なんだ。確かに適度の栄養塩は必要だし、特に海苔の養殖なんかでは相当量の栄養塩が必要らしい。ただ、一方じゃ赤潮貧酸素水塊などに対してN、Pの削減といった富栄養化対策も必要なことは間違いないし、海苔などの養殖については密度と量の問題だって出てくるかもしれない。
ボクの信頼している専門家は、「海域によって富栄養化の基準となるレベルを見直すことが必要だし、海水の流動と酸素供給という環境容量を勘案し、貧酸素化を起こさない程度の富栄養化にとどめることが大切」であり、「漁師たちの実感につながる環境レベルとしては、海底の底質が改善され、貝類(アサリなど)が生息できる状況というのが目安になるだろう」とおっしゃっている。
あと、現在の「環境基準」というのはおおまかな健全性の指標にはちがいないけど、それがオールマイティではないということだ。

Aさん―どういうことですか。

H教授―広域レベルでの水域の健全性の指標としては、アバウトには「環境基準」でいいのかも知れないけど、個別具体的な水域ではもっと掘り下げた議論が必要だということだ。
ひとくちにNといったって、アンモニアもあれば硝酸、亜硝酸もあるし、各種の有機態チッソもあるしねえ。N-P比や鉄、マンガンといった微量元素の問題もあるし、微量化学物質の生態系影響だって解明されたとはいえない。
これらの問題は環境基準だけ、総論だけで割り切れないと思うよ。真実は細部に宿るっていうからね。
環境基準をクリアしているからといって、現に漁業だとか生態系に被害が出ていれば、放置しておいていいわけがないじゃないか。
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【5】 亜鉛の水質環境基準と水生生物保全の観点
第7講 その1
フロン・マニフェストとオゾン層破壊

Aさん―ところで環境省がフロン回収・破壊法を改正して、産廃と同じようなマニフェスト(管理票)制【6】を導入して回収率をアップさせる方針を定めたって新聞に出ていましたね。

H教授―うん、現在の冷媒用フロンの回収率は3割弱にしかすぎない。フロンは、一方では強い温室効果ガスでもあるから、回収率を6割に上げることを目指しているらしい。今年の3月にフロン回収推進方策検討会の報告書が出されていて、先日(5月20日)記者発表された【7】
じゃ、今日はちょっとフロンとオゾン層の話をしようか。知っていることを話してごらん。

Aさん―えーと、大気中にはオゾン(O3が常に一定程度の量で存在していますが、成層圏になると大気自体が希薄になるので相対的に濃度が増します。もっとも濃度の高い、地上15〜35キロあたりの成層圏がオゾン層と呼ばれています。
オゾンは紫外線を吸収するので、生物に有害な宇宙からの紫外線を相当程度カットします。このオゾン濃度が極端に薄い“オゾンホール”が極地上空の成層圏にできていることがわかり、大問題になりました。
地表に届く紫外線の量が増えると、皮膚ガンが増加するそうです。
そうしたオゾン層を破壊する原因がフロンガスだとわかりました。

H教授―まあ、皮膚ガンは白人に多く、われわれ黄色人種はそれほど気にしなくてもいいということだ。
詳しくは知らないけど問題は紫外線の増加が生物や生態系に与える悪影響だと思う。先を続けて。

Aさん―フロンは長い間、安定で無害な物質と思われてきましたが、成層圏まで上ると、オゾンを分解することがわかってきました。
で、1985年にはオゾン層を保護するためウィーン条約が採択され、88年に発効しています。日本も同年加盟しました。また同条約に基づき、より具体的な規制の内容を決めたモントリオール議定書が87年に採択、89年に発効していますし、日本では国内法も整備されました。
それが1989年に制定されたオゾン層保護法です。フロンなどのオゾン層破壊物質が製造禁止されるなど規制が進展しています。一方、フロンは冷媒などに広く用いられてきたので、廃棄時にそれを回収・破壊しなければならないということで、2000年にフロン回収・破壊法が制定されています。で、今回は、その回収と破壊がより確実に行えるように改正するというわけです。
【6】 マニフェスト制度
第4講 その2
【7】 フロン回収推進方策検討会
フロン回収推進方策検討会 報告書(H17.3 環境省)
フロン回収推進方策検討会報告書「フロン類回収を推進するために考えられる方策と検討課題について」の公表について(平成17年5月20日 環境省報道発表資料)

H教授―ま、そんなところかな。地球環境問題の解決は口で言うのは簡単だが、実際は難しい。そんな中でオゾン層保護は例外的にうまくいったといっていいだろう。96年以降、フロンなどのオゾン層破壊物質が次々と製造禁止されたり製造禁止の年限が示されたりしており、大気中のフロン濃度は減少に転じた。タイムラグがあるからまだ十年やそこらはオゾン層の破壊は止まらないかもしれないけれど、基本的には解決の方向に向かっている。
もちろんまだまだ課題は多いけど。
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