環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第32講 「ミニミニアセスへの挑戦」
第31講 「アスベストのすべて」
H教授の環境行政時評第30講 「リサイクル戦線、浪高し」
第29講「目に青葉、山ホトトギス、MAY(迷)時評 ──水難事故、諫早干拓、レジ袋、フロン四題噺」
第28講「有機汚濁と水質総量規制」
メルマガ申し込み 会員登録 ヘルプ サイトマップ
国内ニュース 海外ニュース イベント情報 環境Q&A 機関情報 環境リンク集 環境用語集 ライブラリ 森づくり宣言
No. 第31講 「アスベストのすべて」
page 1/4 
1
234
Issued: 2005.07.28
H教授の環境行政時評 (第31講 その1)

Aさん―うー、暑い! センセイ、この時評は夏休みはないんですか。

H教授―たとえ100人でも、この時評を楽しみにしておられる読者がおられれば、休むわけにはいかないよ。

Aさん―100人ねえ、よくて10人じゃないかなあ。ま、仕方ないか。じゃ、前号の予告どおり、これまでの時評を振り返っての総括ですね。

H教授―バカ、最近の新聞を見てみろ。温暖化の話はほとんど出ていないけど、もう毎日、アスベストの記事でいっぱいだ。だから、今日はアスベスト特集で行こう。

Aさん―へえ、センセイ、アスベストは得意なんですか。あ、そうか今日はサボルけど、「明日、ベスト」を尽くすと言い続けた60年間だったですもんねえ。

H教授―そんなことを言ってるから、あるオオクチバス擁護派の人のブログで「ダジャレと噂話で講義をやってる」バカ教授などと罵倒されるんじゃないか。もうボロクソ、クソミソに言われてて、落ち込んじゃったよ。

Aさん―へえ、でも鋭い指摘じゃないですか。読んでみたいなあ。
アスベストの鉱物学

H教授―うるさい。さ、はじめるぞ。「アスベスト」って、そもそもなんだ。

Aさん―繊維状をなす鉱物の一種で、火に強く、曲げたりもできる工業用原料です。用途は幅広く3,000種もの製品に使用されています。建材のほか、絶縁材や水道管、ブレーキライニングにも使われています。消防服なんかにも使われてました。そのアスベストが、ものすごく細かい繊維というか針になって、空中に飛散して、それを吸うと肺に突き刺さって、健康に影響を及ぼします。たしか角閃石カクセンセキ系のものと蛇紋石ジャモンセキ系のものがあるんですよね。
どうです。たいしたものでしょう、エヘン。

H教授―そこまではよく新聞に出ているけど、角閃石ってなんだ、蛇紋石ってなんだ。

Aさん―...。
そうか、センセイは鉱物オタクだったんだ。じゃあ、アスベストの鉱物学はセンセイにお任せします。
H教授―鉱物の種類は4,000種以上もあるが、地上の岩石を形作っている鉱物は基本的には石英セキエイ長石チョウセキ雲母ウンモ輝石キセキ角閃石カクセンセキ橄欖石カンランセキの6種類と考えていい。これを主要造岩鉱物という。石英以外はもっと細かく分類もできて、例えば角閃石というのは何十種類かのよく似た構造と成分を持つ鉱物の総称なんだ。
ま、それはともかくとして、地下のマグマが冷えて固まって火成岩ができるんだけど、マグマが地表にまで急上昇して固まるものを火山岩といい、地下深くで徐々に冷えて固まるのを深成岩という。

Aさん―そういえば中学校で習ったわ。

H教授―またマグマには珪酸分、つまり石英SiO2に富むものと乏しいものがある。前者は白っぽく、後者は黒っぽくなる。珪酸分の少なく黒っぽい深成岩の主成分は橄欖石という鉱物で、橄欖岩という。それが地殻変動により長い年月を経て地表近くにきたときに、橄欖石はたいていは水の作用で変質して蛇紋石という珪酸マグネシウムの鉱物に変わっている。蛇紋石でできた岩石を蛇紋岩という。

Aさん―そのなかにアスベストがあるのですね。

H教授―そりゃそうなんだけど、早合点せずにもう少し話を聴け。
蛇紋石にも厳密に言うと3つあって、クリソタイル、アンチゴライト、リザーダイトに分かれる。たいていの蛇紋岩はこの3つの組み合わせからなる。蛇紋岩は普通、緑色をした脂感のある美しい岩石で、工芸細工などにも使われる。蛇紋岩は非常に細かい粒の蛇紋石の集まりなんだけど、しばしば熱水の影響などで、緻密な蛇紋岩中に繊維状の蛇紋石の脈ができる。これが石綿で、クリソタイルは温石綿、アンチゴライトは板石綿とも呼ばれるんだけど、工業的に石綿として重要なのはクリソタイルのほうだ。白石綿ともいわれ、石綿全体の9割くらいを占めている。

Aさん―日本にも蛇紋岩地帯というのはあるんですか。

H教授―もちろんあるよ。主な構造線の周辺にはたいていあって、方々で石綿が産出する。江戸時代に平賀源内が秩父地方のクリソタイルで火浣布カカンプという燃えない布をつくったという話がある。もっとも、資源的な量がある場所は限られていて、大規模な鉱床は北海道にあるくらいだ。もうそれもとっくに閉山したけどね。だからカナダなどから輸入し、年間の輸入量は70年代から80年代は30万トン前後、世界の生産量の5%から1割近くまで達していた。

Aさん―クリソタイルは蛇紋石石綿ですね。角閃石石綿のほうは?

H教授―角閃石の中でも石綿状をする鉱物が何種類かある。直閃石(アンソフィライト)の石綿状のものをアモサイト、茶石綿【1】という。それからリーベック閃石(リーベッカイト)も石綿状をすることがあり、それをクロシドライト(青石綿)という。ほかにも透角閃石(トレモライト)や透緑閃石(アクチノライト)も石綿状をすることがある。いずれもMg、Fe、Caなどの含水珪酸塩鉱物で、鉱物標本としては日本の方々で産出する。ただ、資源的に重要なのはやはり蛇紋岩中に産することが多い。
つまり鉱物学的にはともかく、工業資源という観点からは青、白、茶石綿の3種類があって、日本にもあることはあるが、ここ数十年間はすべて輸入に頼っている。発がん性の強さは青>茶>白といわれている。

Aさん―ふうん、で、ほかに肺に突き刺さるような鉱物はないんですか?

H教授―硬い繊維状や針状の鉱物は山ほどあるけど、みんなが知っている石綿のような、独特の柔らかい繊維状(これを「石綿状」という)をして大量に産するのは他には知られていない。
珪灰石なんていう珪酸カルシウムの鉱物は、石綿状じゃない繊維状をしている工業原料だけど、細かい繊維として浮遊し、肺に突き刺さるということはないんだろうな。
ただモルデン沸石という鉱物は石綿状じゃないけど、細い針の結晶が肺に突き刺さる可能性があるそうで、その有害性を論じた文献もあったような気がするから、絶対ないとはいいきれない。それでも、資源としての利用量が違うから、まずは心配しなくていい。
また石綿の代替品として開発されたロックウール(岩綿)やグラスファイバー(ガラス繊維)も肺に刺さることはないようだ。
あと、タルク(滑石)という鉱物があり、粉にしてベビーパウダーや化粧品などで大量に利用されているけど、タルクは蛇紋岩と密接に関連がある鉱物で、石綿繊維が混入している可能性があるという話を聴いたことがある。

Aさん―やはり石の話になると結構ウンチクを傾けますね。ところでアスベストは石綿ですよね。これってセキメンと読むんですか、イシワタと読むんですか。

H教授―どっちでもいい。前か後につくコトバが音(オン)だったらやはり音でセキメンと読むのが普通だけど。

Aさん―ふうん、で、蛇紋岩地帯ではアスベスト濃度は高いんですか。

H教授―うん。昔やった調査では有意に高かったけど、疫学的に肺がんになる人が多いといった結果は聞いてないなあ。中皮腫になった人がいたという話はネットでみたけど。
市町村別死因統計があれば、蛇紋岩分布地域とオーバーレイしてみると、肺がんの有意差があるかどうかぐらいはわかるんじゃないかなあ。もしまだだったらやってみる価値はあると思う。
 ページトップ
page 1/4 
1
234
次のページへ

【1】 ILO(国際労働機関)の定義では、アモサイトとアンソフィライトは別物として扱っているが、キョージュの持っている鉱物辞典では、「直閃石や近縁の礬土直閃石の石綿状のものをアモサイトという」となっているので、直閃石と礬土直閃石(Gedrite)をまとめて直閃石(アンソフィライト)と表現し、その石綿状のものをアモサイトとした。
Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.