環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第32講 「ミニミニアセスへの挑戦」
第31講 「アスベストのすべて」
H教授の環境行政時評第30講 「リサイクル戦線、浪高し」
第29講「目に青葉、山ホトトギス、MAY(迷)時評 ──水難事故、諫早干拓、レジ袋、フロン四題噺」
第28講「有機汚濁と水質総量規制」
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No. 第31講 「アスベストのすべて」
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Issued: 2005.07.28
H教授の環境行政時評 (第31講 その2)
アスベストの健康影響

Aさん―ところでアスベストはどういう風に健康への悪影響があるんですか。中皮腫とか石綿肺とか肺がんとかいろいろ言われてますけど。

H教授―アスベスト自体は毒物ではない。だから水道管にアスベストが使われていても、飲む分にはすぐ排泄されるから気にすることはない。問題は吸入なんだ。
アスベストの粉塵を恒常的に大量に吸い込むと肺機能が低下する。別にアスベストに限らず、大量の粉塵を吸入すれば肺機能は低下する。これが「塵肺」で、鉱山や炭鉱などでは昔から知られている。石英の粉を大量に吸引してかかる塵肺を「珪肺」という。同じようにアスベストによる塵肺を「アスベスト肺」とか「石綿肺」といい、アスベスト鉱山やアスベスト工場で何の対策も講じていない場合にかかる職業病だ。まあ、われわれには、そしてアスベスト工場の労働者でも近年は対策が取られているはずだから勤務年数の短い人はそれほど気にしなくていい。

Aさん―でも私たちだって少量は吸入しているんでしょう?

H教授―うん、天然起源か、石綿製品起源かは別にして、大気中には微量ながら浮遊していて、現代人の死体を解剖すると肺にはたいていアスベストの繊維があるらしい。ただ、肺に入ったアスベストは身体の防御作用が働いて天婦羅のような衣でくるんでしまい、無害にしてしまう。これを石綿小体、あるいはアスベストボディというんだ。

Aさん―癌とは直接関係ないんですね。

H教授―そもそもなぜ癌になるのかという機序がわかってないんだけど、アスベストの吸入量に応じて肺がんになるリスクが高くなることだけは確かだ。特にアスベスト関連作業に従事している喫煙者は相加的でなく相乗的にリスクが高くなるそうだ。
アスベストに関係なく肺がんになる人もいっぱいいるから、アスベストが必ずしも原因とは言い切れないけど、アスベスト関連作業従事者が肺がんになった場合は労災認定されると思うよ。
もっとも肺がんは20〜25年くらいの潜伏期間があるとされている。労災認定は5年で時効らしいから、5年以上前にアスベスト関連作業をやめていればダメらしいんだけど、これはただちに見直して労災認定すべきだね。

Aさん―やはりアスベストが肺に突き刺さるという物理的なことが原因なんですか?

H教授―物理的な刺激が原因だろうといわれているけど、発ガンの機序自体が100%解明されていないからねえ。石綿には若干のニッケルNiが含まれていて、それが関係しているという説もあったなあ。

Aさん―あと「中皮腫チュウヒシュ」というコトバをよく聞きますけど。

H教授―胸膜や腹膜の中皮にできる癌を悪性中皮腫、略して中皮腫という。ごく稀にアスベストと関係なく発病する人もいるらしいけど、アスベスト暴露に特有の癌だといっていいんじゃないかな。
20年ほど前は、極めて珍しい癌だといわれていたけど、新聞で見ると、いまや何百、何千人という単位で発見されていてびっくりした。それとアスベスト肺や肺がんは長期間のアスベスト暴露の結果らしいけど、中皮腫はときに短期間の暴露でも長い潜伏期間のあと発症するなることがあるそうだ。いずれにせよ中皮腫は潜伏期間が40年と長いらしく、未規制の時代のものが、今頃になって出てきたんだねえ。悲惨な話だ。

Aさん―いま新聞で報道されている被害者数は氷山の一角かもしれないんですね。

H教授―アスベスト鉱山やアスベスト工場に勤めていたり、アスベスト関連作業に従事していた人だけでなく、その家族や周辺住民が肺がんや中皮腫になる可能性もある。だけど、アスベストとの関連を医師も本人も疑わなければただの肺がんということで片付けられてしまいかねない。
あと中皮腫なんだけど、病理解剖でもしない限り、ふつうのお医者さんは肺がんの一種だって片付けてしまう場合だってあるかもしれない。そういう意味では氷山の一角だという可能性は否定しきれない。
そして潜伏期間の長さからして、中皮腫はこれから10年か、20年くらいは発症者が相次ぐだろう。石綿関連の死者は2000年から2039年までに10万人に達すると予測している学者もいる。

Aさん―ヒッドーイ、なんでそんなことに。
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アスベスト規制前史

H教授―一言で言えば、リスクの過小評価だ。
アスベストは耐火性や絶縁性がよく、加工しやすいので、欧米では戦前から使われていた。「魔法の鉱物」「奇跡の鉱物」「天然の贈り物」といわれていたくらいだ。いまじゃ「静かな時限爆弾」っていわれているけど。
戦前にもすでにイギリスではアスベスト肺の健康被害が疑われていて、作業環境では規制も行われてきたらしいけど、実効性のないおざなりなものだったようだ。
50年代から60年代になって、アスベスト肺の被害者がどんどん出てきて、発がん性も疑われるようになったし、60年前後には中皮腫のことも知られるようになり、70年頃職場環境、作業環境での規制が世界各国で行われるようになったが、管理して使えば大丈夫だという妄信で、規制値もアスベスト肺の防止という観点から定められ、発ガンのことは考慮してなかったみたいだ。まだまだ「静かな時限爆弾」は発火していなかったんだ。
70年代に入ってから、時限爆弾だということが確からしくなり、アスベストの吹きつけを禁止したり、とくに有害性が高いといわれていた青石綿の使用禁止だとかの措置が徐々に取られるようになってきた。

Aさん―それは欧米の話ですね。日本では?

H教授―日本で建材などにアスベストが本格的に使われ出したのは、高度経済成長時代からで、使用量もどんどん増えていった。
日本でも1971年には労働省が労働安全衛生法に基づく特化則(特定化学物質障害予防規則、今年に入って石綿障害予防規則も定められた)でアスベストの除外設備の設置や防塵マスクの着用などを義務付け、作業環境での濃度のガイドラインを決めたし、1975年にはアスベストの吹きつけを禁止したりしている。
大体欧米に追随した規制だったけど、特に日本だけが遅れたわけじゃない【2】

Aさん―除外設備って工場内のアスベスト濃度を減らすために室外にただ出すだけのところもあったって中西準子先生が書いておられましたけど。だとすれば周辺住民への影響も大きいんじゃ?

H教授―ボクらが大小問わず何箇所ものアスベスト工場の調査に行った82〜83年の頃はそんなことはなかった。バグフィルターで捕集して、捕集したものはまた原料ラインに戻していた。だからバグフィルターの捕集効率だとか原料ラインに戻す過程での飛散の可能性とかを議論していたんだ。

Aさん―一般環境中への排出規制はなかったんですか。
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【2】 石綿に係る法規制
社団法人 日本石綿協会 PDF
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